王国は意外と脆い~国王として勇者を使って魔王を倒すのはムリゲーだろ~
~1回目~
「国王陛下、今おたs…ぐは!」
「無駄無駄ぁ!てめぇらが王国でのんびり過ごしていた間に俺は魔王を倒しに行かされたんだぞ!衛兵ごときが勇者である俺を止められると思うなよ!」
また一人、わしの目の前で衛兵が殺され、物も言わぬ骸になってしまった。
「勇者よ、一体何があったというのだ!ようやく魔王が倒され、平和の世界になったというのに、なぜこのような暴挙を犯すのだ!」
「はっ、知らねぇとは言わせねぇぜ。俺の故郷の村をよくも焼いてくれたな。襲ってた兵士から聞いたぞ。俺の力を恐れる貴様の指示だってな!」
「な!?そのようなことは女神さまに誓ってしておらぬ!勇者よ、其方は騙されておるのだ」
多分これは帝国の仕業だろう。当初魔王が復活した時、世界中の国々が勇者を積極的に取り込もうとしたが、故郷の村があるこの王国が一番だとして、我が国にとどまってくれていた。
だがその村は帝国領に近く、勇者が魔王討伐に忙しかった時に帝国は手段問わずにその村を手に入れようとした。魔王が倒されるまで何とか凌ぎ、勇者が村に戻ってからはもうちょっかいは出されないと思っていた。しかしこれは罠だったのだろう。
「誰がてめぇの言う事を信じるんだよ!村長の仇だ!死ねぇぇぇぇ!」
勇者は帝国の言う事をまんまと信じてしまい、わしを殺そうとしている。
あぁ、女神様よ、折角魔王を倒しても王国は滅亡してしまうのですね。
そう祈りながら、わしは勇者の振るった剣により死んでしまった。
勇者の暴挙によって混乱状態に陥った王国は、後に帝国に吸収されたと云う。
~2回目~
ん?気が付いたら執務室の中にいた。目の前には30年ほど前に署名した覚えがある書類が。勇者の捜索を指示した書類だ。あの憎き勇者はこの捜索によって捜し出された奴だ。教会の勇者診断の水晶玉借り受け、王国各地に部隊を派遣した結果見つけたのだ。
まさか30年前に戻ったというのか!?とりあえず召使を部屋の中に呼び寄せ日にちを確認した。
~確認中~
どうやら本当に戻ったらしい。もしかすると死ぬ直前に女神様に願ったおかげかもしれない。
女神様、本当にありがとうございます。
さて、どうしたものか…また同じように捜索し、同じ勇者を見つけてもいいし、他の手段を探すのもいいかもしれないが…魔王がちゃんと倒せるかが問題だ。
よし、同じ奴を勇者にしよう。そして勇者が魔王を倒した後に開催される魔王討伐祝賀会で毒を盛ろう。戦争等に勇者が使えなくなってしまうが、まぁいつも通りだと考えればいい。こうすれば勇者の脅威に怯えずに済む。
そうと決まれば、この書類に署名して、毒殺の準備をしなければ!
~30年後~
同じ勇者がまた魔王討伐に成功し、今魔王討伐祝賀会を開いている。このまま毒殺しようとした時、突然勇者に怒鳴られた。
「王様よぉ、一口飲んでわかったぜぇ!?このワインに毒が入ってのわよぉ!入れたメイドから聞いたぜぇ!?俺にそそぐワインに毒を入れろって、てめぇが命令したってなぁ!」
最悪だ。勇者に一口でも飲んだら死亡する猛毒を盛ったはずなのに効かないとは…しかも召使にわしが命令したとバラされるのは予想外だ。
「それは誤解だ、勇者よ。そもそも毒を盛られたは気のせいではないか?」
「んなわけねぇだろ。やられたらやり返すってのが魔王討伐ん時にわかった事なんだしこの毒入りのワイン飲んでみろや!もしてめぇが死ななかったら俺の勘違いで毒は無かったという事だな」
よかった。暗殺対策のために装備している状態異常無効の指輪があるから大丈夫だ。
「よいだろう。その毒が入っているとやらワインを飲んで見せよう。それで誤解が解けるのであればな。」
勇者から毒入りのワインを受け取って一気に飲み干した瞬間、勇者がわしの指輪をとってしまった。
「おっとこの状態異常無効の指輪を見逃すわけにはいけないなぁ。この指輪を装備したままだったら毒入りだとしょうめいできねぇからな。」
くそ、勇者暗殺に失敗したばかりか、誤魔化すことさえ失敗するとは、わしも運が無い…
あぁ、女神様よ、折角魔王を倒しても王国は滅亡してしまうのですね。
そう祈りながら、わしは勇者に飲みさせられた毒入りのワインにより死んでしまった。
勇者の毒殺により王がなくなったと認識した貴族らにより、王国騎士団や貴族の私立軍が勇者討伐の為に派遣されたが、返り討ち。軍隊が少なくなった王国は周囲の国々に攻め滅ぼされてしまった。
~3回目~
また死んで、30年前のこの勇者捜索の書類の前に来てしまったか。さて今度はどうしようものか…
一度目は憎き勇者をそっとしておこうとしたが、帝国の策略によって裏切られた。二度目はそもそも脅威にならないように謀殺しようとしたが、魔王討伐によって蓄えられた力で失敗してしまった。
うーむ、正直勇者は憎いがしょうがない。今度は懐柔してみようではないか。とりあえず娘の王女を娶らせて公爵にでも封ずるか。
よし、また同じように捜索し、魔王討伐をサポートして今度は懐柔してやり過ごそうではないか。
~30年後~
「勇者よ、魔王討伐の成功に感謝する。其方によってこの世界の平穏は持たされた。褒美として王国1の美女として評判の第6王女を娶らせてやろう。さらに、王女と結婚式を挙げた後、其方を公爵に封ずる。」
「国王陛下、折角の褒美感謝いたします。しかし、私の故郷には私と結婚の約束をした幼馴染が持っておりますゆえ、王女殿下を娶らせていただくのは断らさせていただきます。」
「幼馴染とな?所詮平民であろう。勇者よ、第6王女との結婚を命ずる。別に妾として幼馴染とやらを一緒に娶っても構わんぞ?ただ、絶対に第6王女と結婚して公爵になるように。」
「はぁ、わかりました…」
よし、渋々でも勇者に王女との結婚を認めさせたぞ。これで勇者を懐柔できたはずだ!
~3年後~
「糞が、てめぇが王女との結婚を命令したせいで托卵されたじゃねぇか!しかも俺と結婚を約束した幼馴染まで寝取りやがって!てめぇのせいだ、死ねぇぇぇぇ!!!」
「は!?ちょ、まっ…ぐはっ!」
勇者が突然わしの寝室に現れたと思ったら、また殺されてしまった。どうやらわしの王女に対しての教育が失敗したのか分らないが、不義の子を孕んでしまったようだ。しかし、正直言って幼馴染の寝取られはわしとは一切関係ないように思えるが、勇者には関係ないのだろう。ただわしが憎いようで、今回もまた、殺されてしまった。
あぁ、女神様よ、折角魔王を倒しても王国は滅亡してしまうのですね。
そう祈りながら、わしは勇者の凶器に切られて死んでしまった。
何者かの暗殺によって空いた王位を巡り、王位継承の争いが勃発してしまった。醜い身内争いに巻き込まれ、嫌気が差してしまったのか、勇者は王国すべての王族を討ち、新たな王家が王国に誕生した。
~4回目~
また勇者捜索直前のこの時に戻ってきてしまったか…さすがに慣れてしまったな。
勇者による殺害を防ぐ方法は無いのか考えたが大体の手段はもう試した…が、もしかしたら大まかな方針はあっていたのかもしれない。ただ細かいところの間違いが積みあがってしまい、結果的に国王弑逆という最悪の結果に陥ってしまったのかもしれない。
よし、もう一回最初のように村に帰そう。そして今度は油断せずに帝国の策略に注意しよう!
そうと決まれば、勇者捜索を命じよう!
~31年後~
「女神さまに仇なす不徳者め!教皇様の命により、貴様に正義の鉄槌を下してやる!」
は~、失敗した。油断せずに帝国の策略に気を付けて勇者の村を襲う帝国軍を発見し撃破することもできたのに、今度は教会の魔の手に気づけず、勇者に正義の鉄槌という名の只の斬撃に殺されてしまった。
あぁ、女神様よ、折角魔王を倒しても王国は滅亡してしまうのですね。
そう祈りながら、わしは教会に染められた勇者の剣に切られて死んでしまった。
教会に操られて王様を倒した勇者はその後、教会に言われるがままに敵を倒し、最終的には教皇がトップとなる神国が王国跡地に爆誕した。
~5から20回目~
わしはそれでも信じ続けた。何らかの方法で勇者がわしの事を殺さなくなることを。しかしいくら気を付けようとも、最終的には勇者はわしの敵となりわしを殺し続けた。
19回目までわしは諦める気は全くなかった。1回の繰り返しのたびに30年以上経過している為、変える事ができる箇所が非常に多いからいくらでも試すつもりだったのだ。
しかし20回目でついにわしの心を折る事件が起きる。今度はまた勇者の懐柔を目指し、細心の注意を払いつつ勇者のすばらしさを教育した第六王女との結婚は見事勇者との円満な結婚生活に漕ぎ着ける事に成功した。勇者と王女の仲がいい様子にすっかり安心し、今までで一番長生きした時間が戻ってから35年が経過したその時、勇者によってほだされてしまった王女による謀反が起きてしまったのだ。
正直言うと、王太子の教育よりもさらに力を入れて教育したのが勇者を懐柔するための第六王女だったため、わしは絶望してしまった。わしが勇者によって打たれる前、なぜ謀反を起こしたのか第六王女に聞くことに成功した。すると、魔王討伐という素晴らしい名声を上げたにもかかわらず、冷遇するわしに愛想をつかしたとの事。また、勇者との間に生まれた子供を王位につかせる方法がこの謀反しかないと、見事勇者に懐柔されてしまった事を見せつけられてしまった。
絶望を感じながら、わしはまた死んでしまった。
~21回目~
また勇者捜索の直前に現れたわしは決意した。もうあの勇者は選ばないと。
実はいうと、勇者には二種類あるのだ。一つがあの勇者と同じく、勇者診断の水晶玉を使ったこの世界の勇者である。もう一つの方法が、王家の秘儀として代々伝わる勇者召喚の儀だ。もともとは魔王が復活しても勇者が全然見つからない場合のみ使用する追い詰められた時の最終手段としての儀式なのだが、わしはもう追い詰められたと判断した。
その為、目の前にある勇者捜索はもうしない。その代わり、勇者召喚の儀の為の準備をわしは命じた。しかし、捜索には10年ほどかかったが、勇者召喚の儀は莫大の生贄をささげなければいけないため、15年ほどかかってしまった。奴隷や敵対国の国民、孤児やスラム街の住人等をかき集めた結果、なんとか召喚に成功した。
召喚陣の上に現れたのが髪や瞳の色が黒く、肌も黄色で顔の掘り立ちが妙に浅い一人の異世界人だった。とりあえず、魔王を討伐させるために召喚したと説明したのだが、戦った経験はなく、早く帰りたいと言われた。しかし、なんとか説得し、1ヵ月ほど訓練させ、一般的な兵士よりかは強くなった時、魔王の軍勢の圧力がさらに高まり、時間の余裕がなくなってしまった。訓練不足でも、いくらかは戦力の足しにはなるため勇者として魔王軍の迎撃に向かわせたが、死亡がすぐに確認されてしまった。
絶望を感じる時間もなく、魔王軍はすぐに嘔吐へ到達。多くの国民が脱出を図る中、わしは王城にとどまり続けた。そして、最終的には魔物に全身を嚙まれながらまた死んでしまった。
~22回目~
また戻ってきてしまい、リベンジとしてとりあえず15年かけて召喚するところまでは漕ぎ着けた。しかし、今回は以前と違い、何が必要なのかは大体把握している為、前回よりかは勇者の戦力は向上するだろう。
しかし、勇者召喚の儀は世界の壁を跨ぐせいなのか、前回とは違う結果で召喚された。今回は、なんと二人の異世界人が現れてしまった。とりあえず召使に勇者診断の水晶玉を教会から借りてもらい、一人づつ試してもらう。すると、どちらもおなじ妙に顔が浅い種族でもどちらかというと格好いいほうの人が勇者として診断されたようだ。念のためもう一人追加で来た方も診断してみたが、結果として勇者ではなかったようだ。
今回も召喚に15年ほどかかってしまったため、戦力の余裕もさほどないため、勇者かどうかは関わらずにどちらも訓練してもらった。
勇者はさすがに兵士よりも圧倒的に強い騎士と同格かそれ以上にまで強くなったが、もう一人の方はどうも落ちこぼれの様で、一般的な徴兵されたばかりの兵士よりも弱く、なかなか強くならない。
前回魔王討伐にそもそも失敗した上に、勇者召喚の儀の為に集められた生贄の代金が嵩んでいる為、わしは弱い異世界人を放逐して経費削減をし、異世界勇者の訓練に力を入れることにした。最初は同胞でもある弱い異世界人の事を気にしていた様子だが、毎晩夜這いさせていたメイドに陥落して以降、気にせず訓練をするようになった。
魔王軍の圧力も前回と同じころに急上昇し、軍全体の撤退の危機に直面したころ、異世界勇者に魔王軍との戦線に参加するよう命じた。前回よりも戦闘力が高いため、当初は戦線を押し返すことができた。しかし、魔王軍の司令官と戦っている最中に弱い異世界人が突如現れ、ざまぁと言いながら異世界勇者を退け、王城まで来たという。
とりあえず、放逐したことを謝りつつもしょうがないことだったと言おうとしたものの、またざまぁと言いながらわしをナイフで切りつけた。
あぁ、また失敗してしまいました、女神様。
そう祈りながら、わしはまた死んでしまった。