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おにたちの記憶

おにたちの記憶

作者: さるた

月明かりだけが頼りの静まり返る鬼ヶ城の中で


。。。はぁ、はぁ、はぁ、はぁ


荒い息が薄暗い建物の中で響く。


ギシリ、ギシリ。。。


建物の軋む音が大きく感じ鼓動が跳ねる。戦いの跡が残る邸の中でいくつもの甲を纏った体が重なっている。奥、更に奥へと足を進めるカラダも指も脚も震える。


見つける。。。


短い丈の着物の袖を絞り、袴の裾も縛った姿に腰には短い大刀をまとい小走りに進んでいく。


必ず一番に見つける。。。


辺りには血の匂いがたち始めている。奥の戸を押し開けようとすると弾き飛ばされた。扉に手をかざすと目を閉じて念じる。


導きの神サルタヒコよ

閉ざしし護りを解き放ち

和を迎え入れよ


カシャン。。。


小さな音とともに扉が動く。慎重に扉に手をかけると、奥の気配を伺う。生き物が動いている様子はない。


ドクン!


鼓動は大きく跳ね上げる。ユルユルと開けた扉の向こうで、大きな体が2つ折り重なっていた。月明かりがその姿を妙にはっきりと眼に伝えた。膝が震えるのを堪えて、二人に近づいた。一人は金髪の中に牛のような立派な角が2本の鬼。もう一人は赤い髪に同じような角が3本の鬼。まるで眠っているかのように、静かに目を閉じている。二人の胸には血の跡が広がり、いつも持ち歩いていた刀がお互いの手に握られていた。主の死を悲しむようにその刃はヒヤリとした輝きを血の色と共に放っている。


現実とは思えない、まるで何かの絵のような気持ちで、恋人の亡骸を見つめた。顔にそっと手を当てるとまだ少し温かい。


「見つけたよ、帰ろう。。。」


三つの角の鬼の唇に自分の唇を重ねた。ほんのりと温かい唇はまだ唾液で湿っていて、最後の口づけに胸の奥が痛む。額に口づけを落とした後、そっと恋人の体から離れ、もう一人の幼馴染に近寄り腰を屈め額に口づけした。


静けさの中で、よく聞き慣れた一人の男が声が耳に届く。


「ミツ。。。

ウラノスケとクロノスケは。。。」

「セイスケ兄」


ミツの後ろに二人が重なり合っている姿を目にしたのか、荒い息遣いがはっと息を呑む様子に変わる。


「。。。なんで、こうなるんだ」


目頭を片手で押さえ、声を抑え、気持ちを落ち着けようと深く息をするのを感じる。


。。。わかっていても、実際に目をするのとは違う


二人の死は二人の口から告げられてわかっていたし、その後のことも聞いていた。だから、次に起こることもわかっている。


「よう!お二人さん」

「待ってたよ!二人とも」


何もなかったかのように、気軽に声が掛かる。

鬼の体はそのまま足元に倒れたままだが、体と同じ姿の半透明のものが浮かび上がる。

「時間内に来てくれてよかった」

金髪で優しげな目の大柄の鬼、クロノスケが言う。セイスケはハラハラと涙を流したまま、そのままへたり込んだ。

「オイオイ!コレが若とは、この先心配だなあ」

苦笑いをして、赤髪の鬼、ウラノスケが大きな目をギラリと光らせた。セイスケはからかわれ、少しキツめの目尻を釣り上げ答える。

「仕方ないだろ!幼馴染の死だぞ」

眉を寄せたミツは

「死ではない、旅立ちの別れだ。。。」

と、呟く。そう考えなければ、気がふれそうだった。共に野山を駆け回った二人の肉体は冷たくなったのだ。

魂は元の星へ帰るという。

赤や青のフワフワとしたカタチを作れない魂が、ウラノスケとクロノスケの前に集まってくる。

どうやら約束の時間が近づいているようである。ウラノスケは腕を組むと

「一組、役者が揃わんなぁ」

やれやれといった具合に片目をつぶった。

外からバサバサと翼の音をさせ、一人の間者が大きな鳥の背からヒラリと舞い降りる。膝をついた姿勢のまま

「ウラノスケ殿、クロノスケ殿。ミトロカエシお疲れさまでした。桃太郎殿はミトロカエシの後、こちらへ向かっております」

と、告げると

「キジのご苦労さま」

クロノスケは優しく答えた。ミトロカエシは、その場の魂を全て体から離す術で、今回、二人が星へ帰るためにどうしてもしなければならない仕事だった。体から引き離された魂は、健在のまま磐船に乗り星へ帰るという。

体ごと磐船に乗ろうとすれば、地球クニタマが離そうとせずに魂が壊れるという。

バタバタと大きな足音が近づいてくる。セイスケはため息を付き

「犬飼の。。。」

と呟く。顔を見せた途端に

「騒がしい!」

と、男3人にギロリと睨まれ、丸い目を大きくし飛び上がった。その後ろで

「ふふふ。遅くなったの」

と、雅な風合いで羽織を着た涼し気な目の若者が笑った。

「太郎。待っていた」

クロノスケは笑っていう。

桃太郎はウラノスケとクロノスケの二人の前に行くと、両膝を着いて頭を下げた。

「この神託がなければ、俺たちはずっと親戚のまま同時代に生きていられた。。。たとえ姿カタチが違っても!どうして、去って行くお前らの方が笑っているのだ」

ケタケタと笑う二人を桃太郎は悔しげに涙目になりながら睨みつけた。

「間違いないのはさ、時代の狭間でまた出会えるということさ」

ウラノスケは手を軽く振り払いながら答える。クロノスケは、

「さぁ、時間が近づく。手順の確認をしようか。まず、磐船が現れたら確実に鬼一族が全員乗り込むために俺が時の軸を止める。その間に魂は乗り込む。」

犬飼が

「なるほど、時置師トキオカシの力か。。。」

と頷く。

「それから、体に残る力は太郎が封印しておくれ」

クロノスケの願いに、桃太郎は、わかった、と頷く。

「まぁ、力は今の方が万倍強いけどな!」

ウラノスケの自慢に

「その自慢要らないから」

と、セイスケと犬飼が言う。ニヤリと皆の口元が笑う。


上空にザワザワとした空気が漂い始めた。襖から外へ目をやると空に大きな磐船がゆっくりと近づいてくる。

「。。。ミツ、おいで」

ウラノスケは、お別れの時だ。と、言う。ミツは、

「うん。元気でね。。。ウラノスケの角もらっていい?お守りにする」

「ああ」

「髪の毛もほしい」

「ああ」

優しく答えるウラノスケの声に

「。。。全部」

と、ミツは言う

「それは、ちょっと。。。」

苦笑いをしながら、鋭い大きな目が照れ隠しも笑う。

「元気なややを産んでくれ。双子だよ。。。ミツなら育てられると信じてる」

「。。。うん。大好きだよ、ウラノスケ」

目を潤ませて聞くウラノスケに、ミツは優しく笑いかけた。

「さぁ、時間だ」

クロノスケが魂を一纏めにするとしんと辺りは静かになった。時の軸が止まったのだ。

フワリと纏まった魂が天井で消える。

「いざさらば」

そして、手を振った二人も消えた。

磐船のザワザワとした音が戻り、その姿を追うように外に出たが、とてつもない速さで空を掛けるとすっと姿が消えた。

何事もなかったような、夢だったような、だが、確実に彼らがいなくなった証拠に二人の体はもう決して動かなかった。桃太郎は、自分の刀で呪いをかけながら鬼の角を切る。ウラノスケの角をミツ、キジ、犬飼に、クロノスケの角をセイスケに渡し、1つは自分の懐へ入れた。

ミツは、ウラノスケの髪の長目の部分を一房の短い三つ編みにする。静かに見守られる中で、ほつれないように上から何回か紐で巻き付け根元で切った。桃太郎は、二人の体を封印。見事な狛犬の頭だけの状態の置物になった。

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