同族嫌悪
放課後、あかねが以前聞いた約束の時間と場所を頼りに、屋上テラスへと向かう。
今の時代に口約束、しかも私が承諾しなかった場合、待ちぼうけする羽目になるのに、よく二人共約束したもんだと呆れつつも、目的地に到着する。
ーーーギィ。
重い音を立ててドアが開かれる。
真夏の日差しが眩しくて、少し目を細めた。
視界が戻ってくると、目前に一人の男子生徒が映る。
「あなたが、例のあかねに傘を貸してくれた人、ですか?」
背を向けていて顔までは見えないので、こっちから声を掛ける。
「え?」
振り向いた男子生徒は、屋上に吹く風に髪をなびかせて、こちらに振り向いた。刈り上げでショート、少し茶色の髪は、パーマでもかかってるのか柔らかそうに揺らいでいた。
一度目線を逸し、ため息をついた彼が、身を翻し近づいてきた。
彼の瞳が、その爽やかな雰囲気とは反対に、黒く暗く映って見えた。
「センパイの痣、妹のあんた?」
反射的に言葉に詰まった。
「だから、お前の義理の兄貴だよ。わかんだろ?」
今度は、完全に思考が停止する。
「ちょっと前から、一ヶ月とかそこら?センパイの首とか、手首とか、長袖で隠してるみてぇだけど、なんか縛られた跡みたいなのがあんだよね。先週まで手首に痣なんかなかったのにな。土日挟んだこの休み中にできたことを考えたら、妹のお前しかいないよね。
なぁ、なにしてんの、センパイと。」
彼は、なんて、答えてほしい?
冷静に対応しないと、足元を掬われる。
「どうして、お兄ちゃんのことが気になるんですか?
それを聞かないことには、お話できません。」
「あは、冷静で強気。いいね、好きだよ、そういう子。」
相手の感情が、分からない。
「知りたい?」
こくりと頷く。
「あは、かぁーわいい。こんなに、可愛くて、女の子っぽくて、なのに、やることエグいって想像したら、会ってみたくなったんだよ。センパイの妹に♡」
思考が、どこか遠くに飛んだ気がした、
「は、えっ?」
「だから、運動部で主将張ってるような兄貴を、こんな可愛い妹が嬲ってるって思ったら、会いたくなったんだって。
運良くいつも一緒にいる女のコ見かけて、ちょっと会わせてーって言ったら、実現しちゃうんだもん。運命だよね。」
はーっと、深いため息をついたあと、彼は更に距離を詰めてきた。
「あの厳ついセンパイがマゾなのか、それとも妹ちゃんが単にサディスティックなのか、そこはもうどうでもよくてさ。俺、Sっぽい女を泣かせるの、好きなんだよね。」
そう言いながら、彼の指が私の顎を掴む。
「ねぇ、泣かせていい?」
ぞわぞわと、背中に悪寒が走った。