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カワイイ姉妹

 さて。

 わたしたち二人はロリータ服のお店の前にもう一度やってきた。

「な、なんでここに来たの?」

 と、口では言っているものの、実際すごくうれしそうなのが目に見えてわかる。頬は真っ赤だし、口元が緩み切ってる。犬だったらたぶん尻尾を全力で振ってる。

 本当はおねえちゃんだってかわいい。それを本人に知らしめるにはこの方法しかない。

 ふふ、とわたしは不敵な笑みを浮かべて。

「いらっしゃいま……あら、さっきのお嬢さん! 着てきてくれたの!?」

「うん! さっきは、ありがとーございます!」

 駆けてきた店員さんに丁寧に頭を下げて、ついでにスカートのすそをつまんで、なんかのアニメで見たちょっとお上品なご挨拶を真似てみる。様には……きっとなってないけど。

 そして、頭を上げて、満面の笑みで一言。

「おねえちゃんもかわいくしてください!」

「はい喜んで」

「えっ」

 店員さんの凄まじくうれしそうな笑顔。ノータイムでの返事。一拍遅れておねえちゃんの困惑する声。時すでに遅し。

 ふふ、計画通り。

「えっ!? いやいや、私、かわいくなんてっ――」

 店員さんに引っ張られ、慌てふためくおねえちゃんに、わたしは一言。


「ぐっどらっく」

「にゃ、にゃあぁぁぁぁぁ!?」


 わたしは親指を立てながら、試着室に連れ込まれるおねえちゃんを見送った。


**********


「ど、どうかな」

 試着室のカーテンが開く。その姿に、わたしは息を呑む。

 わたしの時よりも少し長めの時間。たぶんお色直しでもしていたのだろう。頬の色が少し変わって、明るく少しだけ幼い印象になったように見える。

 そして、その可愛らしさを引き立たせるようなメイクのおかげなのだろうか。彼女は驚くほどに、その可愛らしいロリータ服を着こなしていた。

 俗にいう双子コーデ、いわゆるわたしとおそろいの色違い。薄いブルー、サックスと言われるようなその色のジャンパースカート。純白のフリルブラウスと相まって、その姿は絵画に出てくるような美少女そのもの。

「……に、似合ってない、よね」

 震えた声で俯くその美少女に、わたしは頬を染めて、最大の賛辞を贈った。

「おねえちゃん……すごい……すごい、かわいい……っ!!」

 思った通り。いや、思った以上。悶絶してしまうほどに、おねえちゃんはかわいかった。

 並みの男なら一瞬で落ちてしまうだろう。現に、心臓はバクバクと早鐘を打って、息苦しくなって、頬は真っ赤に染まっていた。

 (わたし)は改めて、彼女に恋をした。

 前を向いた彼女の瞳。信じられない、とつぶやくその声。ツーサイドアップに結ばれた髪。夢が叶ったその姿。ああ、そのすべてが愛おしい。

「でしょ!? あーもうこんなに緊張したの久々だわー。お姉さんめちゃくちゃ美人だったから……」

 また敬語を忘れため息を吐く店員さん。しかしその顔は非常に誇らしげだった。もういっそロリータ体験みたいな企画でもやったらどうだろう。明らかにそういう才能を持ってる。

「美人だなんてそんな……」

 否定しようとするおねえちゃん。しかし、店員さんは少しだけむっとした表情で。

「そーやって否定しないほうがいいっすよ、お姉さん。この美しさとか可愛さとか、うらやまだわーって人もいるんですから」

 ……漫画とかで見たことあるけど、人によっては「うらやまだわー」では済まないこともあるんだそうな。女の子って怖い。というのはともかく。

「だそうだよ、おねえちゃん」

 と笑って見せると、言われたほうは苦笑して。

「……本当に可愛くなれたかな」

 冗談めかしているような軽い口調で――しかし声を震わせながら、僕に問いかける。普段とは違う、あたかも捨てられて雨に凍える子猫のように。

 そんな彼女に、僕は本心から、もう恥も外聞も気にしないで言った。

「うん。……かわいいよ。すっごくかわいい。すき。だいすき。……あいしてる」

 自分を偽ってなどいられなかった。すこしだけ声が低くなっていることすら気が付かなかった。

 いや、もはや最初から偽ってなんていなかったのかもしれない。可愛いものが大好きな女児である「わたし」も、普通の男子大学生である「僕」も、どっちも自分自身であることは確かなのだから。

「おねえちゃん、かわいい。もう、おねえちゃんのことしか考えられないくらい、かわいくて。すき。だいすき。もうおかしくなっちゃいそう」

 すき。すき。だいすき。

 あふれた心は言葉に姿を変えて、口から流れ出す。しまっておけなどしない。

 すき。すき。あいしてる。

 どこかおかしくなっていた。熱に浮かされたように。

 すき。すき。かわいい。

 姉妹は抱きしめあう。愛をささやきあって。

 すき。すき。

 だいすきだよ。

 戯れる天使を幻視させる。

 その光景はあたかも絵画のようで、美しく。

 ふたりだけの世界は、ただかわいいに支配されていた。

 綺麗だった――可愛くないと嘆いていた少女はここにはいない。

 かわいい。その一言がふたりを至福に誘い。

「おねえちゃん、かわいい」

「ハルカも……かわいい!」

 ただ、合言葉のように唱えあっては、愛し合うのだった。


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