おむつろりぃた
「おねえちゃん、とってもかわいいのに」
何気なく言ったわたしの言葉に、おねえちゃんは顔を真っ赤にして固まった。
……僕が惚れたのはそういうところなんだけどなぁ。ギャップ、というか。とにかく。
「かわいいよ、おねえちゃん」
「い、いいからっ! 早く脱ぎなさい!」
頭の沸騰してるおねえちゃんにキャミソール以外の全部の服を剥かれる。
「し、下はいいから!!」
「だめ! 風邪をひいたらどうするの」
いやそれでも一線というものがありましてですね!? とツッコもうと思ったけどもう手遅れだった。
「ふふ、相変わらずちっちゃい」
「うぅ……やめてぇ……」
そういえば、はじめての時に見られてたんだった……。
あの時から変わらないサイズの、悲しいことに下着の上からだとほとんど目立つことのない愚息を手で隠しつつ。
「早く代わりのぱんつ……」
いや、そう都合よく用意されてるものでもあるまい。そう思い至ったのもつかの間。
「はい」
あるんかい。でもよかった……。
しかし、手渡されたのは小さめの黒いビニール袋。ガサガサした感触が薄いポリエチレン越しに伝わる。なんだか嫌な予感。
果たして、その予感は的中した。
ビニール袋から出てきたものは、パジャマを着た小さな女の子が寝転がっているパッケージ。お試し、二枚入り、といった文字。そして、そのパッケージ越しに見えるのはピンク色の、おそらく紙製のふわふわしたなにか。そして、ど真ん中にでっかく書かれた商品名は。
「『オヤスミパンツ』……。これおむつじゃないですか!?」
一瞬、正気に戻った。
オヤスミパンツ。いわゆる夜用の紙おむつである。しかも、ピンク色。子供用。女の子用。
「うん。これしかなかったんだけど……」
「な、なんで……。わたし、もうしょ……だ、大学生だよ?」
「でも、さっきおもらししちゃったじゃないの」
またおもらししちゃったらどうするの? そんな風に言外の圧。うう、ごもっとも。
意を決してパッケージのビニールを破り、一枚取り出す。
「わ、かわいい!」
パステルピンクの可愛らしい地色。まるで絵画の額縁のような可愛らしい枠の中にはプリンセスのシルエット。前にも似たような柄がプリントされていて、大きめに「まえ」と描かれているのが幼稚さを際立たせる。そして、パンツのクロッチに値する部分は普通のパンツよりももこもことして分厚く広く、その広々とした部分にレースのような模様が描かれていた。
ドキドキしながら見ていると、別の方向からも視線が。
「……おねえちゃん、こういうのが好きなんだ?」
聞いてみると図星だったみたいで、顔が真っ赤になって口をパクパクさせている。でも口元のゆるみは隠しきれてない辺り、本当にこういう「幼い」ものが好きだったんだろう。
でも、残念ながらおねえちゃんには小さすぎる。小柄な僕でも少しきつそうなくらいだから、それより頭数個分背が高くて腰も大きめ、有体に言ってしまえばボンキュッボンな感じの彼女には(似合うか似合わないかはおいておくとして)まず入らないだろうというのが明白だった。
それを残念に思いつつ。
「はい、右足上げてー」
穿かせてもらう。子ども扱いされてるようでちょっと嫌だけど。
腰までそれを引き上げられて、ふわふわな感触が腰を覆ったとき、おねえちゃんの、奇声にも似たような甲高い声が耳を打った。
「か、かわいい……」
おむつで膨らんだお尻を見て漏らしたその声。紛れもなく、この幼い姿のわたしに向けられたそれに、わたしは少しだけ笑った。
「ば、バレないかなぁ」
「大丈夫! ちょっとお尻が大きいくらいであとは普通だって。しかもスカートだからラインも気にならないし!」
さっき――とはいってもだいぶ時間が経った後なのだが――試着させてもらった服、ピンク色のカジュアル目なロリータを着て。
「というか、これ買ったの?」
「うん。……非常事態だったし」
「……このおむつも?」
「下まで行って買ってきた」
ひらっとめくったその中にあった下着は、紛れもなく子供用のおむつのまま。こうして立ってみても、もこもこしてて違和感しかない。
「でもよかった。だってこんなに可愛いんだもん」
こちらこそ。こんなにキラキラした笑顔が見れるだなんて、思ってもいなかったです。だからと言っておもらしはしたくなかったし、もうしたくもないけど!
それにしても。
「……おねえちゃんもかわいいよ?」
「そんなことないってば……」
どうやら、おねえちゃんは自分が「かわいくない」と思い込んでいるみたい。
確かに「かわいい」というより「綺麗」な顔立ちで、さらに起伏に富んだ身体。普通に考えれば今わたしが着ているような、ガーリーなロリータなど似合うはずもない。
しかも、身長もほどほどに高いので、そもそも大きさ的にも着れるかどうかもわからない、と考えているのだろう。それこそ、さっきのおむつみたいに。
でも、わたしは知っている。時折見せる、彼女の「かわいい」面を。
かわいいものが好きで、誰よりも「かわいい」に憧れていることを。可愛いものを見た時の、花が咲くような「かわいい」笑顔を。
だからこそ。
「じゃあ……さっきのお店、もっかい見て行こうよっ!」
わたしは笑顔で告げた。