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騙されたのはアナタ  作者: たかを
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公爵令嬢ルイーゼの話

初投稿ですが、よろしくお願いします!

 

  

 

 

  

 

 




  とある王国の第二王子と公爵令嬢は、王国全土の誰もが羨む仲睦まじい婚約者同士である。

  

  何処に行くにしてもいつも寄り添い、互いの友人達にはいかに自分の婚約者が素晴らしいかを自慢する。

  とりわけ、この二人は絶世の美男美女ということもあり人々の関心を集めて止まなかった。

  

  ——と言うのは今より三年前の頃の話であった。

  

  

  * * * * * * * *

  

  ルーデン王国の有力貴族、カックス公爵王都別邸の庭で、今二人のうら若きご令嬢が、

 お茶会を楽しんでいた。

  

  その令嬢の一人は、私ことカックス公爵家次女ルイーゼ・カックスである。

  

  本日のお茶会の為に誂えた青いドレスは肩が少し見えてはいるものの、派手過ぎず地味過ぎずに上品な花の刺繍がされ、胸元の白いフリルが一層華やかな雰囲気に見せていた。

  金髪翠眼(すいがん)の私にしっくりくる。

  

  そんな私の目の前にいるのは我が国最有力貴族のトゥールタ大公家爵の末娘リベルタ・トゥールタ大公爵令嬢。

  爵位は我が家よりも上だが、私の大親友である。

  

  本日のドレスは先日私がプレゼントした今日の私の装いと色違いのエメラルドグリーンドレスを着てきてくれていた。

  彼女は銀髪碧眼の魅惑的な美女なので、そのドレスが予想以上に似合っている。

  

  白い手袋を嵌めた指で優雅にティーカップを傾ける姿の何とも絵になることだろうか。

  そう思いながら、ティーテーブルに並べられた小さいカップケーキに手を伸ばした時、不意に話しかけられた。

  

「で、噂のルイーゼの婚約者様とは最近どうなのかしら」

  

  思わず手が止まってしまったが、気にせずにカップケーキを手に取った。

  

「…そう、相変わらずなのね?」

「別に何も言ってないじゃない」

  

  静かにソーサーにカップを戻したリベルタは鼻を鳴らした。

  令嬢らしからぬ反応である。

  

「大親友のあなたのことだもの。それぐらい分かるわ」

「リベルタ…」

「まあ、大体は我が家の影に調べさせたのだけれどもね」

「リベルタ…」

 

  令嬢なのに何をしているのか。

  そんな気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。

  リベルタはクッキーを一つ摘む。

  アーモンドプードルが効いた香ばしいクッキーは私の大好物だ。

  それを当然知っている彼女は、こちらに差し出してきた。

  

  カップケーキを食べ終えたばかりの私に、ちょっとどうかと思う。

  だが一番どうかと思うのは、それを食べてしまう私だ。

  

  クッキーを差し出したリベルタの表情が、あまりにも美しくて優しかったものだから致し方ない。

  

  しかも彼女はこの表情に私が逆らえないことを分かっていてやっているの

  だから、本当にずるいと思う。

  

  大人しくクッキーを味わっていると、話を元に戻してきた。

  

「ルイーゼが心配だったから、つい素行調査しちゃった。それにしてもあの王子クズは、急に出てきた女にコロッといっちゃうなんてねぇ。いい女が婚約者だというのに、本当に馬鹿な男だこと」

「リベルタ。怒ってくれるのは嬉しいのだけれど、不敬罪であなたが捕まってしまうのは嫌よ」

「ルイーゼは本当にいい子ねっ!でもご心配には及ばないわ。何せ大公爵家の末娘だし。それにこの場にいるのは私たち二人と、アルバートだけじゃない。大丈夫よ。—–ねえ?アルバート」

 

  

  私の後ろに立っている従者のアルバートに、リベルタは同意を求める。

  五年前から公爵家に仕えてくれている現在22歳のアルバートは、とても優秀でいつも優しい笑顔でいることから、多くの女性を虜にしているなんとも罪作りな美男子である。

  

  今日も今日とて優しく微笑みを浮かべ、リベルタに頷き返した。

  

  

「はい、もちろんでございます。リベルタ嬢」

「と言うことだから、安心して愚痴でも何でも吐き出しちゃいなさい」

「…リベルタ、アルバート。ありがとう」

 

  心の底から二人にお礼を告げると、各々頷いてくれた。

  

  

  私の婚約者であるルーデン王国第二王子エリオット・ルーデンは、私とリベルタと同い年の現在19歳の青年だ。

  現国王陛下の第三側妃様から生まれたエリオット殿下は、当時一つ違いの王妃陛下から生まれた王太子殿下がいらっしゃった為に、非常に微妙な立場であった。

  

  第三側妃のアンナ様は元子爵家の御令嬢だった。

  元子爵家というのは、当時子爵家の借金が膨らみ、爵位が保てなくなった為にやむ無く爵位を国に返上した。

  子爵家の借金と言ったが、別にアンナ様子爵家が身の丈に合わない贅沢をした訳ではなく、自然災害に見舞われた子爵家領地を復興しようとした結果だった。

  

  当時17歳だったアンナ様は、少しでも借金を返済しようと兄と二人で王都まで遥々出稼ぎにやってきた。

  子爵は人柄が良かったことが幸いして、二人とも王宮で働けた。

  その際に既に即位されていた現国王陛下に見初められ、第三側妃様になったのだとか。

  

  爵位もなく、第三側妃で何の後ろ盾もない女性が、次期国王継承権第二位を獲得したエリオット殿下を生んだ為に王宮内はかなり混乱した。

  

  

  父であり現カックス公爵フレデリック・カックスは宰相でもある。

  宰相という立場と国王陛下の友人の立場だったので、国王陛下直々にエリオット殿下とアンナ様のご相談を受けた。

  

  

  その際に登場するのが私である。

  

  

  宰相の娘と継承権第二位の王子が婚約を結べば、大抵の貴族を黙らせることが出来る。

  そういう大人の事情が諸々絡んだ為、私が生まれて二ヶ月後には私は婚約を果たした。

  

  

  政略的な婚約だったが、幼馴染みであり身内以外で共に長く時間を共有してきた為、私たちは自然と互いに惹かれ合っていった。

  周囲には理想のカップルとまで言われたほどだ。

  

  しかし、それはある少女が現れてから、瞬く間に変わってしまう。

  三年前、新たにとある男爵家に一人の少女が迎え入れられた。

  

  名をマリア・パーシェル男爵令嬢。

  年齢は私たちより二つ下で、淡い茶髪の柔らかな癖毛と大きな赤い瞳が特徴的な少女だ。

  このマリア嬢は元々パーシェル男爵の姪で、若き頃に前当主から勘当された、今は亡き妹の一人娘であった。

  実の両親は幼少期に死別し、男爵に発見されるまでは平民街の近所の老夫婦に育てられたのだそうだ。

  

  男爵家には娘がいなかったので、とても大切にされているらしい。ちなみにこれは、リベルタ情報である。

  

  元の性格は天真爛漫で、社交界デビューした途端に、リベルタの次に人気者となった。

  

  エリオット殿下と彼女が出会ったのは、社交界デビューして初めての夜会だった。

  

  当然その夜会には、エリオット殿下の婚約者である私もいた。

  

  白銀の髪の間から覗く青い瞳が、マリア嬢を捕らえた瞬間に、獲物を見つけた猛獣の様な煌めきを放ったのが隣でわかった。

  

  それを間近で目撃してしまっては、もう諦めるしかなかった。

  

(…これはもう諦めるしかないわね)

  

  

  人の気持ちや考えを覆すことほど、難しいものはない。

  

  

  そんなことがあり、現在殿下とお会いする機会は社交界のイベント以外はなく、代わりに大好きな大親友との予定が増えてきて嬉しい限りだ。

  

  さらば婚約者、ようこそ大親友。

  

  

「昨日は、城下町をお忍びデートしたらしいわよ」

「あなたにバレている時点で、もうお忍びでも何でもないわよ」

「ちなみに健全なお付き合いをされていて、キスはまだしていないわね」

「そんな情報はいらないわよっ」

  

  浮気男と浮気相手の交際履歴など教えてくれなくていい。

  

  

 その後、私たちはリベルタの時間が許す限り、とりとめのない話に花を咲かせた。

  

  玄関まで見送りに行った際にリベルタは私を抱きしめて一言。

  

  

「–––ルー。つらいだろうけど、私がいるからね。何かあったら私に頼って欲しいわ」

「…ありがとう、リベルタ。そうさせて頂くわ」

 

  

  小さい声で囁かれた言葉は、力強くて密かに不安だった私の心を解かしてくれる。

  

  女性にしてはかなり長身な彼女は、私から身体を離すと顔を覗き込んできた。

  

「本日は素敵なドレスとお茶会を本当にありがとう。今回の新作も素晴らしい出来栄えだったわ!ルイーゼが作ったドレスは毎回どれも素晴らしいから、いつも楽しみにしているの」

「こちらこそ、いつも楽しみしてくれているリベルタがいるから制作意欲が湧いてくるのよ。現在も新しいドレスを製作中なの。出来上がったらまた着て欲しいわ」

  

  そう告げた途端、リベルタの瞳が輝き出した。

  彼女は昔から私が作ったドレスを、毎度楽しみに着てくれているので、こちらとしても作り甲斐がある。

  

  最後に「出来上がったら必ず着させて頂戴ね」と言い残し、彼女は我が家を後にした。

  

  


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