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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

新型ウイルスの脅威

作者: 鶴野 オト

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

それと、句点が打たれてないのは単に面倒だったからです。

書き慣れていないのでちょっとした誤字脱字とか言葉の使い間違えは許してください。

もし見つけたらコメントで教えていただきたいです。





俺は気づかなければ良かった

人が知らないことに気付いてしまったから、

そして、それを隠そうとなんて思ったから、こんな悲劇が起こったんだ

俺は気づかなければ良かったんだ

そうすればこうはならなかった

な、そうだろ、花…

俺は大音量で流れるニュースを耳で聴きながら最愛の妹の薄く笑った顔を見つめた




とある春の日、雨に打たれながらバイトから帰った俺は家の扉を開けた

扉が開く音が誰もいない、居るはずのない空間に響いた

俺の両親は俺がまだ幼い頃に亡くなった

母は妹の出産中に亡くなり、父はその話を聞いて慌てて病院へと向かおうとして交通事故を起こして…

そして、唯一残った妹は近頃突然流行り始めた新型ゴロナウイルスに感染して、5日前に息を引き取った

俺は静かにため息をつくと、濡れた傘を振るって、誰もいないボロ家に「ただいま」と声をかけた


「あっおかえりー」


能天気な声とともに現れたのは死んだはずの妹だった


「なんだよ、これ、幻覚でも見てんのか?」


「兄ちゃんなんなんだよー、私が寝てるうちに私の体死んだ人みたいにして遊んでただろー

頭の横に箸刺したご飯置いたりさー」


ニコッと妹、花が顔をほころばせる

コイツは幻覚じゃない、紛れもなく花だ


俺たちは花が用意してくれていた夕飯を食べた

人と食事をしたのは花が病気で倒れて以来だ

花は食事を終えると、緑茶を入れてくれた

俺は出された変に濃い緑茶で軽く喉を湿らすと、本題に移った


「そういえば、花、今日の日付は分かるか?」


「ん?えっと、4月15日じゃないっけ?」


「20日だよ、4月20日」


花は口を尖らせて不服そうに言う

「なんだよ兄ちゃん、意地悪だなあ、知ってたのにわざわざ訊いたのか?」


俺は花の不平を無視して続ける

「なあ、花、じゃあお前は15日には何をしていた?」


花はしばらく「何だったかなあ」と考え込んでいたが、ふと何かに気づいたようにみるみる顔色が悪くなってきた


「なあ、兄ちゃん、私って少し入院して、そのあと…」


「ああ、亡くなった」


「じゃあ、何で…」


「俺もよく分からん、新型ゴロナは遺体からの感染はないからってお前の遺体を引き取ってきて、家に連れてきていたんだ

集団感染が続いた影響で葬儀屋さんが見つからなくてな」


花は今にも泣いてしまいそうな顔をしている


「もしかしたら、私…」


そう、もし早く葬儀の人が来ていたならば彼女は燃やされて墓の下に埋められていただろう


俺は花の側に寄って彼女の腕をさすった

昔から落ち着かせるのにやっていた動きだ

生意気だが、まだ中学一年生の花にはこの話は酷だろう

花は落ち着いたようでゆっくりと考えて口を開く

「でも何で私は生き返ったの?」


俺は少ない知識をかき集めて応える

「なあ、ネムユスリカって虫を知ってるか?そいつは仮死状態って言って酸素も食料も摂取しない状態になることができるんだ

そしてそいつは条件を満たせば復活してまた元のように動き出す

もしかしたら、今回のウイルスは人間を仮死状態にするものなんじゃないか?」


花は口をつぐんでしまった

まあ、花も危なかった所だが、既に亡くなったと思われて火葬された人も多くいるだろう


俺は一つ気がかりなことに気づいて電話をかける

相手はバイト先の先輩、藤田さんだ

確か彼女の母親がゴロナで亡くなったって聞いたのだ


結果、もう遅かった

藤田さんの母親は既に火葬されていた

しかし、話の流れで翌日一緒に食事をすることになった


「ごめんねー、今レストランとか自粛しちゃってやってなくってさ」

まるで言い訳でもするかのように藤田さんは軽く微笑む

ここは藤田さんの家だった

お母さんとは離れて一人暮らししていたようだった


「いえ、あの、お母さんのことは何というか…」


「あ、良ければ手合わせてあげてくれない?」

藤田さんは仏壇を指して言った


俺は言われるままに仏壇に線香を刺して手を合わせた

この人も花と同じように死んだと思いながら仮死状態に移ったのだろうか

それとも、仮死状態でも人によっては意識はあるものなのだろうか

もしそうなら死人として焼かれるのはどれほどまでの苦痛だろうか


「お母さんね、病院で死んじゃう時には感染しちゃダメだからって近づかせてもらえなかったんだけど、お葬式の前の日、遺体と会わせてもらった時に少し笑ったような気がしたんだ」


手を合わせているうちに藤田さんは俺の後ろで正座していた


「きっと藤田さんが来てくれて嬉しかったんですよ」

俺は無理やり笑顔を作って答えた

もしかしたらそれは見間違いなんかではなく本人の意思で動いたのかもしれない可能性は言わなかった


その後、俺はお母さんとの話を聞いて、バイト先の愚痴や大学でのことを話して別れた


帰る道すがら、俺はゴロナウイルスと仮死状態について他に気がついている人がいないかとネットで調べていた

その結果、一人いた

そいつはターシャという名前で仮死状態から復活した自分の生活を記していた

ネット上ではコイツの話を信じている者はほとんどいなかったが、妹の様子を見ている俺には分かった、コイツは本物だ


「兄ちゃんおかえり」

気付いたら家の前まで帰ってきていた


「おう、ただいま

お前外で何やってんだ?」


「さっき葬儀屋さんが来てたんだよー

でも本当のこと言っていいか分からないから適当にごまかして今帰った所なの」


「なるほどな」

確かにコレからどうしていくか考えなければならない

花の死亡診断書が出ている以上、花は戸籍上死んでいる

彼女は今後生きていくことは可能なんだろうか

中学に通うこともできなければバイトだってできないだろう

じゃあ政府に言うか?

いや、一人が言っただけではまともに取り合ってくれないだろう

じゃあマスコミか?

いや、それでは面白半分に取り上げられるし

もしそうなれば藤田さんのような仮死した人の家族や葬儀の仕事の人が傷つきかねない

悪気の有無に関わらず、人を殺してしまった事実は彼らを蝕むだろう


二人で夕食を食べた

花は仮死状態になった時記憶がなかったせいか、かなり落ち着いていた

夕食の後、俺はターシャに連絡を取ってみることにした

『はじめまして、ターシャさん

私は仮死状態から生還した妹を持つ者です』

返事はすぐに来た

『やあ、はじめまして

キミもこのウイルスの真実を知ったようだね』


『ええ、このウイルスは何なのでしょうか』


『さあね、諸外国が作り出した生物兵器かも知れないし、人間の新たな進化かも知れないし、そのどちらでも無いかもしれない

私からしたらそんなことには興味がない』


『ターシャさんが目覚めた経緯を訊いてもいいですか?』


ターシャは飄々と答える

『今から丁度一週間前のことだった

私は数日前から体調が悪かった

もちろんゴロナウイルスの可能性も頭をよぎったが、それが発覚すれば身の自由がなくなるだろう

だから私は自宅で仕事をしていたんだが、急に苦しくなって倒れた

あっけないものだったよ

そのとき私の心臓は鼓動をやめた

私が目を覚ましたのはその十数分後

起きた時にしたのは鼻につくガソリンの匂いと耳障りな雨音だ

全身を打ったのか体全体が痛かったが、私は力を振り絞って周りの状況を見渡した

そこには二台の車が横転していた

一台は見知らぬ車

もう一台は見慣れた私の車だった

その後私は痛みから再び意識を失ってしまい、目を覚ましたら病院のベッドの上だった

その後聞いた話によると私が倒れたことで気が動転した妻が車を飛ばして病院へ向かい、その途中で事故が起きたらしい』

ここでターシャからの返事は切れていた


『今はどうしているんですか?』


『怪我は打撲しかしていなかったから大したことはなかった

今は妻もいない家で一人仕事をしているよ』


『大変でしたね』


『君の妹のことも聞かせてくれ』


俺は花のことを出来るだけ細かくターシャに伝え、その日の会話は終わった


翌日、俺は花を連れて近くの大きな公園へと向かった

花が死んだと聞かされた時に一番最初に思い出した記憶だ

花がもう少し小さい時にはよく二人で散歩したなって

何気ないことだったけど、案外人を亡くしたときに思い出すのはそんな何気ないことなのかもしれない

「ねえ、兄ちゃん

兄ちゃんは私が死んだって聞いた時どう思った?」

花が少し真剣そうな声で言う

彼女も彼女で不安なのかもしれない


「悲しかったよ、すごく」

俺は出来るだけ心を込めてそう答え、花の頭を撫ぜた

花は子供扱いを嫌がるかのように仏頂面をしていたが、やがて静かに笑った


花との久しぶりの散歩は楽しく、時間を忘れて歩いていた

気づけば辺りは暗くなっていた

俺たちは談笑しながら夕陽に照らされる道を歩いていたが、その会話は背後から聞こえてくる声によって遮られた


「花…ちゃん?」


振り返ると、花と同じくらいの歳の女の子がいた

花はビックリしたような顔をしていたが、すぐに嬉しそうな顔になって女の子に駆け寄ろうとした

しかし


「来ないで!!」


あたりに響くような大声で女の子は花を拒絶した

その声と顔は恐怖に満ちていた

そして女の子は走り去っていき、その場には静まり返り、夕陽と俺と悲しそうな顔をした花だけが残された


そこからどうにか花を慰めて家に帰り、俺は自室でそっとため息をついた

女の子が怖がった理由はわかってる

花が死んだと伝えられていたからだ

花はもう、この社会では生きていけない

そう強く実感した

もう一度ため息をついてパソコンを眺める

今朝ターシャに送ったメールの返信はまだ来ていない

この間はあんなに早く返信が来たのに…

ふと、窓の外を見ると、雨が降り出していた

俺は慌てて立ち上がり、リビングへと向かった

俺たちの家はかなり古い建物で、雨が降ると雨漏りが酷いのだ

俺は出来る限りの器を用意すると、雨水が落ちてくるところに置いた

特にやることもない俺はそのまま床に座った

そういえばここは遺体だと思っていた花を置いていた場所だ

俺はふと、なぜ花とターシャは仮死状態から復活したのかという疑問に駆られた

ターシャから聞いた復活の状態と花の場合を比較すると、共通点はほとんどない

強いて言えば雨が降っていた、ということぐらいか

それにしても花は室内にいたし、ターシャは外にいた

俺は落ちてくる水の玉を見て一つ思い当たる

もしかして、水に触れることなのではないのか?

本来遺体は腐敗を防ぐために水をかけたりはしない

しかし、ターシャは事故で、花は雨漏りでそれぞれ水に触れた

他に遺体に水をつけるのは葬儀前に遺体を綺麗に見えるように整えるときだ

復活に必要な程ではなくても多少ならそれでも動くかも知れない

そう考えると、藤田さんのお母さんの口元が動いたように見えたことにも納得がいく

それに、花に仮死について説明したときに喋ったネムユスリカも復活の条件は水だったはずだ

このことを世間に伝えるべきではないだろうか

いや、それこそ藤田さんのような遺族が苦しむだけだ

自分の家族を自分たちで殺してしまったようなものなのだから

俺はやるせない気持ちに包まれた

どうしようもない

誰が悪いわけでもないのに今も多くの人が死んだと思われ、本当に殺されている

どうしようもない

俺がリビングで沈んだ気持ちになっていると花の部屋から変な物音が聞こえた

家具が倒れたような不自然な物音

俺は花の部屋をノックする

返事はなかった


「入るぞ」

一声かけて室内に入り、俺は言葉を失った

そこで花は首を吊っていた

俺は必死になって花を降ろした

幸い、早めに気づいたから喉に傷がついたくらいで済んでいる


「なんでこんなことをしたんだ!!」

俺は怒声をあげる

花の目には大粒の涙があった

「私だって死にたくなんてなかったよ…」


「だったら死ななければ良いだろ!」


「うるさい!もう私は死んでるんだよ!さっきの子の反応でわかったでしょ!確かに体は生きてるけど、もうみんなの中では私は死んでるんだよ!!」

俺はそこでとっさに声が出なかった

花の言う通り彼女は既に社会的には亡くなっている

花は幼児のように泣き喚き、そのまま眠ってしまった

俺は花を布団に寝かせると、自室に戻った

そして心労からか、倒れるようにして眠った


翌日、昨晩のことを忘れたように動いている花を見て安心しつつも、その存在が朧げになっているように感じた

昼過ぎ、俺のパソコンに一つのメールが届いた

『はじめまして、このサイトでターシャと名乗っていたものの母です

息子の妄言のような言葉に親身になってくださってありがとうございました

息子は、昨日死にました

自殺です

警察の話では昨日の朝方死んだようです

彼は私たちにすら遺書を残してなかったので、なぜ亡くなったか問われてもわたしにも答えることはできません

息子と仲良くしてくださって本当にありがとうございました

それでは』


ターシャが死んだ

俺はその事実に押し潰されそうになった

なぜ復活したターシャが死なねばならなかった

俺の脳裏に昨晩の花の姿が浮かぶ

もしかしてターシャと名乗っていた彼にも社会的な死による弊害があったのだろうか

俺はそのメールに返信する気力もなく、椅子に沈み込んだ

窓は昨晩から降り続く雨に打ち付けられてぱちぱち音を立てていた

その小さな音すら俺にはうるさく感じて耳を塞いだ

その時、パソコンの画面が更新された

別のメールが届いたようだ

その差出人の欄には『ターシャ』と書いてあった

俺は慌ててメールを開く

『やあ、このメールを君が読む頃には私はもう死んでいるだろう、なんて書くとまるで小説のようで面白いかな

このメールは時間指定をして送っているんだ

私は自殺をすることにした

君が私の話を聞いてくれて同志となってくれたこと、本当に嬉しかったんだ

でもね、気づいちゃったんだよ

やっぱり私はあのときに死んでおくべきだったんだとね

私はもう一度死ぬことにするよ

さようなら』


ターシャからのメールは度が過ぎるほど簡潔で、なぜ死ぬことになったとか大切な情報すら書かれていなかった

でも、俺はその文章を何度も何度も読み返した

気付いたら泣いていた

大粒の涙が止めどなく流れていた

それを止める術もなく、俺は子どものように椅子の上に体育座りになって泣いた


しかし、ずっと泣いてもいられない

俺には花がいる

俺が花を守らなきゃ

俺は轟々と吹き付ける風と雨の音を聞きながらリビングへと向かう

リビングに近づくと大きな音量のテレビの音が聞こえてきた

また花が無駄に大きくしているんだろう

耳が悪くなるからダメと言っているのに…

俺は花に注意しようとリビングの扉を勢いよく開けた

そこにあった光景はまるで昨晩のものの複製のようだった

大きな照明に糸が複雑に絡み付いていて、その糸は花の首へと繋がっている

花の足元には椅子が倒れていた

花は首の糸を押さえながら苦しそうに上を向いていたが、俺に気付いて俺の目をじっと見つめた

俺はとっさに降ろそうとした

『やっぱり私はあのときに死んでおくべきだったんだ』

ターシャの最期の言葉が俺の脳裏をかけた

俺は足を止めた

花はそれを見て安心したように薄く笑った

しかし、依然として苦しそうな花を見て、俺はキッチンから包丁を持ち出した

それを見て全てを察したように笑顔を作る花の心臓に俺は包丁を突き立てた

花の体は一瞬大きくうねり、そのまますぐに力が抜けたように動きを止めた

花の死顔はとても安らかだった

想定通り、あまり苦しませずに殺すことには成功したようだった

これで良かった

もしかしたら復活についての証明をすれば花は社会で生きていけたかも知れないが、それは多くの人を傷つける

それなら、これで良かったんだ

花だってきっと大多数の人を傷つけたくなかったのだ

だから、自分が傷つく方法を選んだ

俺はそのことを少し誇りに思った

その後、俺は何をして良いか分からず、ぼんやりと花の死体を眺めていたが、やがて慌てたようなニュースリポーターの声が俺の耳に飛び込んできた

うるさいな

きっと花が昨晩のように椅子を倒した音で俺に気取られないように大きな音量にしておいたのだろう

俺は興味はなかったが何の気もなくその画面を眺めた

「速報です、先ほどお伝えした豪雨による病院の浸水に関してですが、何故か浸水のあった病院にて保管されていた新型ゴロナウイルス感染によって亡くなったと思われていた複数の遺体が次々と意識を取り戻したとの話です

現状死亡鑑定を受けた人間が何故意識を取り戻したかは不明ですが、今後新型ゴロナウイルスの影響を打ち消す可能性としてこの豪雨がひと段落したのちに、多くの医療関係者が検証に向かう予定だということです

次のニュースです………」


俺は言葉を失った

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