書きたいものを書くべきか、人気あるものを書くべきか
むかしむかし、あるところに、ある小説家がおりました
もとは小説家ではなかったのですが、暇つぶしにいくつか短編を書いて、投稿しておりました。
あるとき、ある作品が人気が出ました。それまでが嘘のように、感想が次々と届きます。
シリーズ化し、次々と短編を発表しました。
でも、彼が本当に書きたいものは、別のジャンルでした。
そちらも書いていたものの、いまいち人気が出ません。
だんだんと彼は、自分の人気作が疎ましくなりました。
とうとう、彼は主人公を滝つぼに落として、シリーズを完結してしまいました。
それを投稿し、ほっと一息。
その後しばらく、仕事が忙しく、小説を書くヒマがありませんでした。
久しぶりに書こうと思ったところ、ものすごい数の感想が。
「やめないで」「続けて」etc.
とりあえず、生前の番外編を書きます。
しかし読者は、それだけでは許してくれません。
やむを得ず、死んだ主人公が、実は死んでおらず、武術チートで滝つぼから生還したことにしました。
多少の設定の齟齬は出たものの、設定オタはそれすらネタにして「こういう裏設定があるとすれば矛盾がないはず」みたいな裏設定を作ります。
その後、書きたい分野でも渾身の自信作を出しますが、いまいち人気はぱっとしません。
結局、両方書くという選択をして、人気作は内心嫌々書いていました。
一方、人気作の方では。
熱心なファンは、作品の舞台となった現地に手紙を送ったり、聖地巡礼します。
キャラを勝手に使われる作品が出るほどの人気です。
その作風は世界中でパクられ、多くのフォロワーを生み、テンプレとなりました。
彼は晩年に「嫌々でも人気作をつづけて良かった」と述懐しています。
その作家は「アーサー・コナン・ドイル」。
人気作を「シャーロック・ホームズ」。
テンプレを「名探偵モノ」といいます。
本当に書きたいのは歴史小説でした。
かように、作者の思惑と読者の思惑は合わないものです。
もし彼が書きたいものだけを書いて、気に入らないものを削除(出版停止)していたら。
そういう歴史if を考えてみるのも、面白いかもしれません。
ホームズオタには常識ですが、根拠として
Wikipedia: アーサー・コナン・ドイル
おまけの解説
>実は死んでおらず、武術チートで滝つぼから生還したことにしました。
この時、生き返らせるための後付けチート
>しかし掲載時に、そのハシラに
実際は掲載時でなく、完結後に再開を望むファンレターに負けて。
>多少の設定の齟齬は出たものの、設定オタはそれすらネタにして「こういう裏設定があるとすれば矛盾がないはず」みたいな裏設定を作ります。
>熱心なファンは、作品の舞台となった現地を聖地巡礼します。
>キャラを勝手に使われる作品が出るほどの人気です。
怪盗vs名探偵、それが新たなテンプレとなり、日本では 「怪人20面相 vs 明智小五郎 with 少年探偵団」(江戸川乱歩)となり...
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改稿前:マンガ連載風
その原稿を渡し、ほっと一息。
しかし掲載時に、そのハシラに
「どうなる、主人公! まて次号!!」
編集部と読者は辞めさせてくれませんでした。
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特別付録:(↓にリンクあり)
コンプリート・シャーロック・ホームズ[全訳] 無料で読める私家訳。間違いなくシャーロキアンのシワザ。
https://221b.jp/
ドイル アーサー・コナン (青空文庫)
https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person9.html
コナン・ドイルが作中でホームズを滝に落としたら、脅しのような手紙が大量に届いた挙句ホームズの葬列が毎週行われた
”ホームズを求めるファンにうんざりして『最後の冒険』で滝に落としたら
「お前の選択肢はホームズの生還か貴様の死かだ」といった内容の手紙が山ほど届く” (私はウラ取ってない)
https://togetter.com/li/1198096