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その兵器、異世界より来たりて 1/3

「状況を報告せよ」


 きらびやかな装飾が薄暗闇に映える。豪奢(ごうしゃ)な椅子に腰かけ、背筋を伸ばしたその人影が疲れたように鼻息を漏らした。

 黒く艶のある机に片肘を突いたその左手は、クセなのか深く刻み込まれた眉間の皺へ添えられている。


 青年と壮年の狭間に位置するような面立ちの男性だ。気品や風格というものだろうか、その雰囲気と仕草からは相当の立場にある事が察させられる。


 対面する影は、――シルエットは、「(おぞ)ましい」の一言に尽きるもので、それ以上に形容する事は難しい――困ったような仕草で全身を震わせた。


「一次報告にあった通りですな。忌まわしき『死病の群れ』共が……フゥー。頭が可笑しくなりそうな話ではありますが。ひ、ふ、み……あー、五十万、という見込みでございます」


「『死病の群れ』、か。『死病の根源』、『霧深き死の街』――“黒死街(こくしがい)”の奴輩(やつばら)めが……」


 努めて舌に包み隠していたであろう棘がついに隠しきれず言葉端に滲む。添えられていた左手はしなやかな指先に力がこもり、深く深くなっていく皺を懸命に(ほぐ)そうと躍起になっていた。


 険を含んだ言葉が溶け込んだ部屋内の空気は張り詰めたようにひりつく。


「――クソッ。クソクソクソクソ!」


 それまでは冷たささえ感じさせた声音は、瞬く間に()けきれんばかりの熱を帯びて吐き出される。

 いっそ壊れてしまえとばかりに激しく打ち付けられるその拳に、机が悲鳴をあげるかのように軋んだ。


 張り裂けんばかりの怒気と敵意を正面に見据え、しかし安易に相槌を打つような真似は決してしない。異形は全身を震わせるばかりで、それ以外は身動(みじろ)ぎひとつない。


 そうして、幾許(いくばく)かの沈黙が場を支配した。


 緊張した(とばり)を破ったのは、男でも、異形でも、どちらでもなかった。


「ハァイ」


 甘く、高く、柔らかな声音。

 男の低く硬質な声音や異形の漏らすひび割れた音とは対照的なそれは、酷く場違いなものだった。


「シュレー」


 声の主に対して、男は和らぐでも怒るでもなく、ただ短く名前を呼ぶ事で反応した。


 シュレー、と呼ばれた声の主はその声音に見合った、幼さを残した風貌の女性だった。

 金糸のように艶めく豊かな髪を三つ編みにして、長い睫毛とわずかに残ったそばかすが可憐なその面立ちは、今はかすかな笑みを浮かべている。


「さぁさぁ。準備が整いましたよ。“癇癪王(かんしゃくおう)”殿?」


 癇癪王、と呼ばれ、男の薄く開かれた眼が鋭さを増した。


「ストリゴイ様、と呼べ。ぶち殺すぞ下女め」


 女性は「おー怖い」と呟くと異形と視線を合わせて肩を(すく)めた。

 対して異形は、()もあらんとばかり、やれと首を振った。


「準備が出来ているのならばさっさとしろ。“救世(ぐぜ)御手(みて)”……貴様の使命であろうがよ」


 自らをストリゴイと名乗った男は、軽やかに立ち上がると、薄暗闇に映えるきらびやかな装飾の外套を翻して、シュレーへと向き直った。


「兵器を――アレを、すぐに喚び出せ」

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