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罪人アクアリウム  作者: 空波宥氷
9/16

真相はどこに

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の警部補。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・橘秋音(タチバナ アキネ

緋梅学園の学園長にして、創設者。

肩まであると思われる白髪を、髪留めで留めている。

幼い頃の友香を知る人物。

御歳46歳。

9-1 真相はどこに


 優衣、響と別れた友香は、清花とともに学園長室にいた。



「イジメがあったのね。なぜ教えてくれなかったのかしら?」



 友香は真剣な表情をして、秋音に尋ねる。



「被害者の名前は、氷川かなた。織田貴人と同じ法学科の生徒だったわ。そして、罪人アクアリウムの目撃者は彼の母親だった」



 モカがつけたオマケ……保護者の写真の中に、車の中で清花に見せてもらった顔があった。それが、氷川かなたの母親だった。


 友香は口を閉じ、彼女の背中を見つめた。

 少しの間があって、彼女が振り向き少女と真っ直ぐに対峙する。



「フッ、気がついたか。カメラには映っていなかったはずだぞ?」



 秋音は一つも悪びれる様子もなく、むしろ少女を試すかのように、口元に笑みを浮かべた。



「ええ、カメラに姿は映っていなかったわ。でも、暴力を振るう影は映っていた」



 少女の言葉に秋音が目を細め、顎をあげる。



「その影を解析してもらったところ、陽の当たり方、影の伸び率から、織田貴人のものとほぼ一致したわ。それから、一緒になって暴行を働いていた数名も特定している」



 そして一呼吸おいて、問いかけた。



「もう一度聞くけど、なぜ教えてくれなかったのかしら?まさか、隠蔽しようとしたんじゃないでしょうね?」



 2人がじっと見つめ合う。

 お互いの思考を読み取ろうとしているのか、はたまた威嚇なのかわからない。だが、明らかに仲が良いもの同士の視線ではなかった。


 いや、むしろ仲が良いからこその挑発的な視線だったのかもしれない。

 秋音が少しの間の後、鼻で笑った。



「フッ、敢えて教えなかったのだ。友香ならそんな事実には簡単にたどり着くと思ってな」

「私に先入観を抱かせないため……ということかしら?」

「それもあるが、自分でたどり着くことに意味がある、そう思ってな。そうじゃないか?」



 友香が一瞬、顔をしかめた。

 だが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべると、



「そうね、その通りだわ」



 そして、言葉を続ける友香。



「で、自ら真相にたどり着いた私にどうしろと?まさか、穏便に済ませだなんて言わないでしょうね?」



 友香が挑発的な笑みを浮かべた。

 秋音は、少女の双眸を真っ直ぐ見つめ、



「当然だ。なにせこの私が依頼したのだからな。徹底的にやれ」



 肩をすくめ、少女は答えた。



「ふふ、初めからそのつもりよ」






9-2


「と、言っても難しいですよね」



 学園長室を後にした2人は車の中にいた。

 清花が、マークXを運転しつつ感想を述べる。



「すでに真実はわかっているのですから……それとも、徹底的に糾弾しろという意味なのでしょうか?」



 友香に意見を求める清花。

 しばしの沈黙の後、友香がトーンを落として答えた。



「いえ、そんな簡単なものじゃないわ」

「たしかに少年法がありますからね」

「そうじゃないわ」

「え?」



 視線だけ動かして、一瞬だけ助手席の友香を見やる。



「この事件は、そんな簡単なものじゃないわよ」



 友香が前を向いたまま、険しい顔をした。



「どういうことですか……?」

「清花、急いで調べてもらいたいことがあるんだけど……って言いたいところだけど、お腹空いちゃったわ」



 苦笑しながら、自らのお腹を撫でる友香。

 その様子には、いつも不敵に事件を解決する探偵少女とは思えないほどの茶目っ気があった。

 彼女はまだ中学生なのだ。こういう可愛げもあるところが、本当にズルイと清花は思った。



「もうそんな時間ですか」



 車内の時計を確認する清花。



「どこかのコンビニに寄って欲しいんだけど……」



 少し申し訳なさそうに頼む友香。



「いえ、折角なのでレストランに行きませんか?学食でも構いませんよ」

「そうね……折角だし、そうしようかしら?」

「では、お金を下ろしたいので銀行に寄らせてください」



 学園内にはいくつかの銀行があり、その一つである横浜蒼海よこはまそうかい銀行が目の前に現れた。



「では、少しお待ちください」



 車を路肩につけ、シートベルトを外す清花。

 彼女は、車から降りると駆け足で銀行へと向かって行った。


 車の中で、友香はその後ろ姿を見送る。

 そして、少女は視線を移し、ぼんやりとその銀行名が書かれた看板を見つめていた。


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