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罪人アクアリウム  作者: 空波宥氷
6/16

高等部

主な登場人物


・反町友香(ソリマチ ユウカ

中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。

ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。

茉莉花茶が好き。



・青山清花(アオヤマ サヤカ

神奈川県警の警部補。友香の姉的存在。

英国人と日本人のハーフ。

灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。

愛車はナナマル(JZA-70)。



・九重優衣(ココノエ ユイ

友香のクラスメイトであり、親友。

活発な金髪サイドテールの少女。

一度身体を使ったことなら忘れない才能がある。

機械仕掛けの身体を持つ。



・生天目 響(ナマタメ ヒビキ

友香、優衣のクラスメイトで、親友。

黒髪ロングをハーフアップにした少女。

天才ハッカー。バニラアイスが好物。



・江川鈴音(エガワ スズネ

神奈川県警嘱託の監察医。

黒髪のショートヘアと泣きぼくろが特徴。

若干17歳で数々の功績を挙げている、気づきの天才。


6 高等部


 高等部棟の駐車場に車を停め、友香と清花は校舎内へと足を踏み入れた。

 エレベーターに乗って、二年生の階へと向かう。この時間なら専攻関係なく全二年生がこのフロアにいるはずだ。

 歩いていると、よく見知った顔がいた。



「鈴音さん……?」



 清花が驚いたような声を出す。

 そこには、日頃清花が世話になっている、検死官、江川鈴音えがわすずねの姿があったのだ。彼女は、いつもの白衣姿とは違い、学生服をまとっていた。

 彼女も清花に気づいたようでこちらを振り向く。



「清花さん……!」

「鈴音さん、そういえばここの学生でしたね」

「知り合い?」

「ええ、こちら検死官の江川鈴音さんです。こちら華ノ探偵の反町友香です」



 清花が二人を紹介する。



「こんにちは」

「あなたが、横浜を救った華ノ探偵……!」



 笑みを浮かべ、挨拶をする友香。そんな彼女を見て、彼女が目を見開く。

 鈴音は警察関係者である。そのため、友香が中華街での爆破事件を未然に防いだことを知っていたのだ。

 ※『彼岸の聖者』「導火線」参照


 緋梅学園は、優秀な人材を育成し、未成年のうちから各関係省庁へ人材を試験的に派遣しているのである。彼らの開花した才能を活かすために。



「救っただなんて大げさよ。私は守りたいものを守っただけ」

「謙遜しないでください。私、あなたのファンなんですから……ところで、今日はどんな御用で?」

「ええ、このフロアでちょっと聞きたいことがあって」



 一通り挨拶を終えたところで、鈴音が尋ねた。

 それに答える友香。続けて少女は、彼女に問いかけた。



「織田貴人さんについてなんだけど、彼、誰かに恨まれるようなことはあったかしら?」



 その質問に、彼女は驚き、少し逡巡したあと、



「……それは……彼だけじゃありませんよ」

「どういうことかしら?」

「私の口からはあまり言いたくないことです……といえばわかってくれますか……?」



 ぼやかして話す鈴音。

 友香は、彼女が何を思っているのか、何があったのか想像ついた。



(緋梅学園の気づきの天才……どんなことも敏感に物事を捉える……捉えてしまう……か)



 江川鈴音は、気づきの天才である。

 微妙な空気や、人間感情に機敏に感じてしまうのである。

 それを理解していた友香は、



「ええ、わかったわ。でもちゃんと詳しく聞きたいわね。快く言ってくれる人はないかしら?」



 あたりを見渡した。

 すると、今度は清花の次に友香の番だった。



「あれ?友香?」

「優衣……!」



 そこに、見知った顔である九重優衣の姿があったのだ。

 彼女がこちらに駆け寄って来る。



「どうしたんだよこんなところで」

「私はちょっと用があってね、優衣の方こそどうしたの?」

「いやぁ、私もちょっと人に会いに来て……」



 少し苦笑を浮かべ、はははと笑う優衣。

 その背後から人影が現れた。



「優衣」

「あ!志希にぃ!」



 優衣は振り返り、その人物の顔を見るとパッと顔を輝かせた。

 志希にぃとよばれた男は、変わった風貌をしていた。この暑い季節にマフラーを首に巻いているのだ。高い身長も相まって異様とも取れる容姿だった。

 友香を一瞥すると、



「何じゃ、優衣の知り合いか?」

「ああ、友達の反町友香、名探偵なんだぜ!」

「あの、そちらは?」



 友香が優衣に尋ねる。



「ああ、私の…なんだろう……兄貴?」

「儂は優衣の兄貴であり、近侍の山城志希やましろしきじゃ」



 優衣が困りつつ紹介する。

 そしてそれを補足する志希。

 話し方も時代劇の登場人物のようなもので、変わっていた。それが彼の個性なのだろう。



「そうなの、よろしく」

「ああ、こちらこそ」



 笑みを浮かべる友香。

 目を閉じ、頷く志希。

 少女はなんとなく、この男がいつも世話になっている茶屋の店主と雰囲気が似ていると思った。



「あなたにも聞きたいわ。織田貴人さんについて。彼、何か人に恨まれるようなことをしていたかしら?」

「イジメ……と言えば伝わるか?」

「イジメ……?」



 さらっと答えられ、虚を突かれる友香。

 また、訝しむように顔をしかめた。

 その理由は、いじめを可能性の一つとしては考えていたが、最も低いものだと思っていたからだ。

 というのも、



「こんな開かれた、閉鎖的でないクラスなのに?」



 緋梅学園では、通常の中学高校とは違い、クラスに固執することなく、常に流動的な講義スタイルを採用している。大学の講義を思い浮かべてもらえれば、それが一番近いものだろう。



「人間という生き物はどこに行ってもコミュニティを作る生き物じゃ。そして、そのコミュニティ内では自然とパワーバランスが決定される。コミュニティを維持するために攻撃する、共通の敵というやつを作るわけじゃな」

「高校生になってまでそんなことやってるの?天下の緋梅学園が聞いて呆れるわ」



 不快そうに鼻で笑う友香。



「表面化させないだけでどこの世界でもある話じゃ。それが今回は何かのきっかけで表面化してしまった」

「そのきっかけって?」

「さあ、些細なことじゃろう。それも聞いたら下らないと思えるほどの。信頼のない人間関係なんてそんなものじゃよ」



 悲しそうに目を細める志希。

 友香も視線を落とす。



「随分悲観的なのね……」

「そっか、そんな風に考える人もいるのか……私は違うと思いたいな……」



 話を黙って聞いていた優衣がつぶやいた。



「大丈夫、人間、そんな捨てたものじゃないわよ。ちなみにそのイジメを受けてた被害者はどこに?」

「死んだ。一ヶ月前にな。名前は、氷川かなた。織田貴人と同じ法学科の生徒じゃった。自殺だったそうじゃ」



 淡々と、でもどこか寂しそうに彼は言う。



「そう……ありがとう、有意義な話が聞けたわ」

「いや、余計な話をしてしまった。また何かあれば力になろう。優衣の友達じゃからな」

「ありがとう」

「な、なぁ……!もしかして何かの事件を追ってるのか!?だったらさ、私にも手伝わせてくれよ!!」



 志希と話していたところ、横から優衣が割って話に入ってきた。

 優しい彼女は、きっと居ても立ってもいられなかったのだろう。



「そうね……」

「頼むよ友香!私、友香の力になりたいんだ……!」



 加えて、いつも世話になっているという意識もあるのだろう。

 真剣な瞳で見つめてくる優衣。

 その熱意に押され、友香は、



「ふぅ、わかったわ。それじゃあ、学園の、主に高等部にある監視カメラの映像データを集めてもらえるかしら?」

「カメラ?わかった!すぐ集めてくる!!じゃあ志希にぃ、またな!!」

「気をつけてな」



 頼みごとを任された優衣は、パッと顔を輝かせると、ダダダ!と嵐のように走り去っていった。



「あ!清花さんこんにちは!!」

「え、ええ、こんにちは……」



 清花の横を通り過ぎ、駆けていく。

 少女は、その小さくなっていく後ろ姿を少し心配そうに、困ったように笑みを浮かべ見つめていた。

 そして、彼女を見送ると板電話を取り出すと電話をかけた。



「もしもし響?ええ、私だけど今大丈夫?ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……ええ、ええ……あ、あとモカも呼んでもらえるかしら?」



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