戦地へ
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の警部補。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
5 戦地へ
「で、今回の事件はどんな内容なのかしら?私、何も知らされずに来ちゃったんだけど……」
こんな感傷に浸っている場合ではなかった。
どこかへとむかう車の中、友香が尋ねた。
よくよく考えてみれば、詳しいことは何も聞かされずに追い出されてしまったのだ。
「大丈夫です。橘学園長から説明を任されています。今から説明しますね」
ありがたいことに、説明が聞けるようだ。
清花は首輪を起動させ、視覚情報を友香に提示する。
「昨日未明、緋梅学園の生徒が意識不明の状態で発見されました。生徒の名前は織田貴人、17歳。織田財閥の跡取り息子で、学園高等部の法学科に所属しています」
友香の目の前で、被害者や事件現場、関係者の写真が踊る。
「彼の発見時、周囲は水浸し状態で、彼も皮膚がふやけるほどに濡れていました。近くには巨大な水槽が置いてあり、その水槽で溺死させられかけたのだと警察は見ています。目撃者がいたのですが、錯乱状態で話が未だに聞けていません」
「その水槽の底には、白いインクで「罪人アクアリウム」と書かれていました」
概要を述べた清花。
それに対し、友香は不可解そうな表情をしていた。
「ふむ……目撃者がいたと言っていたけど、椅子に縛り付けにされていたのよね?その理由は?」
「学園長から聞きましたか。彼女もそこが気になっていたようですが、なんとも。警察も意味不明だと頭を悩ませています」
「清花の見解は?」
友香の問いに、虚をつかれたように少しの間が空く。
そして清花が答えた。
「さぁ、犯人が見せたかった……見せしめ……あるいは証明したかった……とかでしょうか?」
「証明……?なんの?」
「それはわかりません、しかし、何にせよ犯人に意図があったはずです。でなければならそんなリスクを犯すことはないでしょうから」
「「罪人アクアリウム」……観客がいて初めて完成する……水族館……」
ぶつぶつと友香は考えを巡らせていたようだった。
「水槽や着衣から犯人の指紋は?」
「ありません」
「そう……」
少女が顔をしかめる。
そして、ハッとすると、
「ところでこれ、どこ向かってるの?」
「被害者、織田貴人が所属している高等部です」
「なるほど、聴き込みってわけね」
「はい。違うところがいいのでしたらそちらに向かいますが…」
「いえ、このままで構わないわ」
友香は、口元に笑みを浮かべた。