技術革新
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の警部補。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
4 技術革新
学長室を後にした友香は、ロマンに教室に戻らない旨のメッセージを入れ、キャンパスを歩いていた。
水路を横目に、ねずみ色のタイルの上を歩く少女。
この時間帯には用はないが、学園の旗を下げた装飾街灯が等間隔に並んでおり、その下の青銅色のベンチでは学生たちが雑談に精を出していた。
なるべく日陰を選んで歩く少女。
7月も下旬。もう夏休み間近な季節なのである。昼過ぎの今、日差しもかなりキツイものになっていた。
秋音の言う「助っ人」を迎えるため、正門へと向かう友香。
警備室を通り過ぎ、門の外へ出ると、そこには黒いトヨタMARK X 250sが停まっていた。
その横には、心強い助っ人こと青山清花の姿があった。
「待たせたわね」
「いえ、私も今来たところです。どうぞ乗ってください」
友香が少し嬉しそうに微笑む。
清花は相も変わらず無表情で、挨拶を交わしながら少女に乗車を促した。
「やっぱり清花だったのね」
助手席に座った友香がシートベルトを装着する。
「ええ、私と友香はバディということになっていますから」
答えつつ清花が車を発進させた。
その彼女の発言に、友香は引っかかりを覚えた。
「どういうこと?」
少女が尋ねる。
「国選探偵は、権限を行使するために警察官を拠り所としていますが、その警察官が固定化されているということです。あくまで暗黙の了解です。もちろん法的根拠も拘束力もありません」
国選探偵は、国から命を受けて任務に従事しているが、その決定的な権利は警察官に依存している。つまり、警察官と連携していなければ逮捕権を行使できないのである。
しかし、友香は別な方向でモノを捉えていた。
「つまり、清花以外とも契りを結んでもいいというわけね」
「……そういうことになりますね」
嫉妬なのか何なのか、清花がムッとしたような気がした。
そこまで表情豊かではないため、友香にしか感じ取れない機微であったが。
「……誤解のないように言っておくけど、私は清花とだから国選探偵をやっているのよ。私は、あなたと肩を並べられている今が嬉しいんだから」
警察官の中には、国選探偵を目の敵にする人もいる。プライドが許さないのだろう。
そんな差別もせず、むしろリスペクトをしてくれる清花を友香は大切に思っていた。
と、同時に清花のことを尊敬していた。
「そうですか……ふふ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
それを察した清花が、口元に笑みを浮かべた。
「というか、今日はナナマルじゃないのね?どうしたの?」
思い出したように尋ねる友香。
ナナマルというのは、彼女の愛車である70スープラのことである。
清花といえば70スープラ。という印象が少女にはあった。清花がいつもそれに乗っていたため、それは当然といえば当然のことだった。
「はい、ちょっとした事情がありましてナナマルは休暇中です」
「ふーん……にしてもこの車はナナマルと違って静かね」
「ええ、滑り出しも滑らかですし、よく加速してブレーキの効きも安定しています」
トヨタマークX。
12代目クラウンをベースに、走行性能、静粛性を兼ね備えたこのシリーズは、スポーツセダンとして革新的だった。
名は体を表すと言うが、「無限の可能性をマークする」の名に相応しい車だと清花は思っていた。
「ふーん、これが四駆ってやつなのかしら?」
「いえ、この車もナナマルと同じFR……つまり後輪駆動方式ですよ」
「え、そうなの?」
車に関してはあまり明るくない友香が、意外そうな顔をする。
車には、大別して3つの駆動方式がある。
エンジンが全てのタイヤを回転させ走る4WD。前2つのタイヤのみを回転させるFF。そして、後ろ2つのタイヤのみを回転させるFRである。
「ええ、マークXは、トヨタがスポーツセダンと銘打って売り出した車ですから。スポーツカーといえば、後輪駆動のイメージと人気が根強いですからね」
「うーん、技術の発達ってすごいわね」
補足をしておくと、マークXには四輪駆動のものもある。
窓ルーフを撫でながら、友香が唸った。
「それが良いものか悪いものかは置いといてね。技術の発達っていうものは、すこし寂しくて危ない気もするわ」
そう言いつつ、少女は窓の外を見る。
流れる景色の中、彼女は、そびえ立つ緋梅学園のビル群を眺めていた。
おまけ
・A70スープラ 前期型
清花が河原で拾った車体を、走れるまでに修復したもの。
この車種自体、現在ではほぼ流通していないため、おそらく立体コピーによる複製品だと清花は推測している。しかし、複製品といえどもそのスペックは、オリジナルにも引けを取らないという。
外装はホワイトパールの塗装に、シルバーのサイドモールを差し色に使っている。
愛称、ナナマル。
・マークX 250s
清花が、神奈川県警から払い下げてもらった車。
ナナマルよりも遥か後に生産された車両であるが、警察で使用するには旧式だったため清花が修理しつつ乗っている。おそらくオリジナルだと推測される。
外装はプレシャスブラックパール色で、三連プロジェクター式ヘッドライトが採用されている。