学園の統治者
主な登場人物
・反町友香(ソリマチ ユウカ
中華街に暮らす探偵少女。中学2年生。
ピンク味の帯びた白い髪に、赤い瞳を持つ。
茉莉花茶が好き。
・青山清花(アオヤマ サヤカ
神奈川県警の警部補。友香の姉的存在。
英国人と日本人のハーフ。
灰色の髪色に青い瞳という身体的特徴を持つ。
愛車はナナマル(JZA-70)。
3 学園の統治者
ロマンと別れた友香は、学長室の前にいた。
中学生棟から少し離れたところにある、ビルの12階。そこに友香はいた。
「失礼します」
ノックをして木目調の扉を開ける。
室内は広々としており、来客用の紅いソファと黒いローテーブルが置かれていた。奥には、学園長・橘秋音と書かれた黒いプレートが乗ったデスクがあり、仕事用のホログラムがその上で踊っていた。
その横で、後ろ手を組み、ガラス窓の外を眺める女性の姿があった。
「来たか、友香」
友香に声に彼女が振り返る。
橘秋音。緋梅学園の学園長にして、創設者であった。
御歳46歳の彼女は、一見、穏やかそうな顔をしていたが、その瞳には鋭い意志を感じさせる煌めきがあった。
肩まであると思われる髪を、髪留めでとめており、仕事ができそうな雰囲気を醸し出していた。
まぁ、最も、学園長というトップに君臨する者のオーラの方が勝っていたのだが。
「おはようございます、秋音さん……いえ、橘学園長」
「フッ、そう硬くなるな。昔と同じように秋音さんでいい」
「ふふ、わかったわ。こうしてお話するのは久しぶりかしら?」
「そうだな。まぁ、座ってくれ」
友香をソファへと促す秋音。
その後ろでカタカタと給仕ロボットが動き始めた。ロボットが、秋音の元に麦茶の入った2つのグラスを届ける。
礼を言いつつ彼女が受け取る。
「友香も飲むといい。麦茶だ、暑くなってきたからな。熱中症には気をつけるんだぞ」
「ありがとう。いただくわ」
彼女が、座った友香の前にグラスを置いた。
そして秋音もソファに腰掛ける。ちょうど友香と対面する形だ。
「で、私を呼んだのはなぜかしら?」
彼女が座ったのを見計らってから、友香が尋ねた。
「唐突な話ですまないな。友香は「罪人アクアリウム」を知っているか?」
「「罪人アクアリウム」……?」
全く聞き覚えのない言葉に、その不吉な語感に友香は眉をひそめる。
「ああ。実はな、昨晩、うちの生徒が襲われたんだ」
「……!」
その内容に、険しい顔をする友香。
「その生徒は、巨大な水槽に入れられ、危うく窒息するところだったそうだ。その水槽の底にだ、犯行声明とも取れる言葉があったのは」
「それが「罪人アクアリウム」……」
友香がグラスの底を覗き込む。
そこには、澄んだ琥珀色の液体があるだけだった。
「ああ、当事者に詳しく話を聞こうにも意識不明でな。その目撃者も、狂乱状態でとてもじゃないが何かを聞ける状況じゃあなかった」
首を横に降る秋音。
「かけつけた警察官によると、発見されたときには、椅子に縛り付けにされていたそうじゃないか」
「椅子に縛り付け…?何のために」
「さぁ?だが何か目的があったのだろう。でなければ、声明文じみた文字を残すようなマネはしないだろう」
「……ふーん」
友香は思考しているのか、ゆっくりと頷いていた。
そして、秋音の目を真っ直ぐに見つめると、
「で、私にその真相を究明してほしいと?」
「察しが良くて助かる」
秋音は立ち上がって、デスクに向かう。
その背中に、同じく立ち上がった友香が尋ねた。
「じゃあ、協力者を呼んでいいかしら?」
「もちろんだ。ああ、すでにこちらで心強い助っ人を呼んでおいた。後のことは頼んだぞ、中華街コンビ」
友香を振り返り、ニヤリと笑う秋音。
彼女の言いたいことを察した友香が、目を見開き笑みを浮かべた。
「そう……ふふ、ありがとう」
友香は、バックを手にすると、
「それじゃあ、何かわかったら報告するわ。お茶ご馳走さまでした」
「ああ、気をつけろよ」
探偵少女が部屋を後にする。
シンと静まり返った室内で、秋音が真剣な表情をして呟いた。
「楽園に、罪人はいらないからな」
・橘秋音(タチバナ アキネ
緋梅学園の学園長にして、創設者。
肩まであると思われる白髪を、髪留めで留めている。
幼い頃の友香を知る人物。
御歳46歳。