復讐劇場
16 復讐劇場
「絶望って美しいですよねぇ」
電気もついていない教室、窓に寄りかかり女性が呟く。
空は青く広がっていて、白い雲とのコントラストを奏でていた。窓枠のお陰で、青い景色がまるで水槽のように見えた。
夏の暑さを忘れさせる涼風が、カーテンをふわふわと舞わせ、彼女の髪を撫でた。
「だって、その元々は希望なんですから。ルビーの希望。それが打ち砕かれ、バラバラになって散らばり、私たちに降り注ぐ」
彼女以外、誰もいない空間に向かって語りかけた。
「とっても美しいことだは思いませんか〜?」
すると、彼女の顔の前に、美しい白髪が舞った。
そして、頭の右上の方から綺麗な声が聞こえた。
「ええ、おっしゃる通り。薬子先生」
窓枠に立ち、髪をなびかせる少女。
紫色のオペラドレスを纏った彼女が、微笑む。
「アル、いたんですねぇ」
「ええ、もちろん」
頭の上にちょこんと乗った、カチューシャハットが揺れる。
「今回の舞台は楽しめましたか?」
「ええ、今までで最高のショーだったわ」
「そうですかぁ。よかったですね〜復讐劇場、アル・カンパーナ」
アルと呼ばれた少女は、少し驚きの表情を浮かべた。
「復讐の警鐘……ふふ、あなたもいいネーミングセンスしているわね。皮肉っぽくて」
「でしょう〜?」
クスクスと笑うアルと薬子。
「どうです?あなたの望み、叶えられそうですか?」
「さぁ、どうかしら?」
瞳を閉じ、再びゆっくりと開けるアル。
「それは、華ノ探偵次第ね」
彼女のアメジスト色の瞳が、煌めきを帯びた。
薬子が振り返り、窓の外を見やる。
その視線の先には、学園長室でキャンパスの様子を伺う少女の姿があった。
アルは微笑む。
この世の全ての憎しみに。
「レディースエーン、ジェントルメーン♪……なんて」
アルは全てを受け入れるかの如く、両手を教室の天井高くに掲げた。
さぁ、復讐劇場の幕開けよーー
ーー復讐劇場メートルディー・警鐘のアル