復讐の果てに
14 復讐の果てに
「被害者の名前は大谷雪乃、17歳。緋梅学園高等部、経済学科に所属する生徒でした。銀行マンの父と、投資家の母を持ち、自身も株取引きのエキスパートを名乗っていました」
清花が、首輪に入ってきた情報を読み上げる。
ここは、事件現場ではない。
取り調べ室の横、マジックミラー越しに清花と友香がその様子を見ていた。
犯人はすでに捕まっていたのである。
『では、あなたが大谷雪乃さんを刺したので間違いありませんね?ーー氷川奏さん』
『はい、間違いありません』
その犯人とは、氷川奏だった。
彼女は、赤レンガ倉庫を訪れていた大谷雪乃をその場で刺殺したのだった。
多くの観光客が訪れる時間と場所。
血を流し倒れる雪乃と、包丁を手に立ち尽くす奏。
それを取り囲むようにして、野次馬たちが様子を眺めていた。
まるで、見世物を見ているような。水族館の魚を見ているような。警察官がかけつけたときには、そんな不気味な雰囲気だったそうだ。
『なぜ、大谷雪乃さんを?』
足利警部が問いかける。
『彼女は、私の息子を死に追いやったんです……!罪を犯していたとはいえ、大事な、たった一人の家族だった……それをあの女たちは奪った!!それが許せなかった!!』
奏は怒りをぶちまけた。
彼女の絶叫が取り調べ室にこだまする。
『なのに、彼女は少年法で守られている……!人殺しがのうのうと生きている……!それが許せなかった……』
彼女は涙を流し、俯いた。
足利はなんて言葉をかけるべきか逡巡した。
そのとき、ガチャリと扉が開いた。そして、白くて紅い、少女が入ってきた。
「ゆ、友香ちゃん……」
足利が突然のことに驚く。
それを横目に友香は、奏を真っ直ぐに見つめ、
「あなたの言い分も理解はできる。この世の中には、救いようのない罪を犯した人間もいるわ」
「だからこそ、あなたがその、救いようのない人間になる必要はなかったのよ」
少女は悲しそうな顔をして、彼女を見つめた。
「……!!」
奏は目を見開く。
そして、
「う……あああああああああ!!!!」
机に顔を伏せ、叫んだ。
彼女の中には、おそらく悲しみとともに後悔が去来していたのだろう。
彼女は、許しを乞うがごとく涙を流し叫んだ。
事件は解決した。
誰も幸せになれない形で。
少女はいつも以上に、事件解決後の虚無感を感じていた。