肉まん
テレビの前のこたつに入って、お茶を片手にドラマをチェック。
陰影がくっきりした画面はいかにも海外ドラマといったおもむきで、少女は耳をそばだてながら字幕を注視している。
「あいふぁうんぐっとれいだー」
「あいあすく……こんさるてーしょん……」
英語以前に日本語字幕の意味も解っているのかあやしい感じのひらがな発音ではあるが、本人は楽しんでいるようで、口元がひよこライクなひし形になっている。
それを同じこたつに入りながら眺めていた初老の紳士が、流暢な英語で孫である少女に話しかけた。
「?」
何を言われたか解らない少女は、くきっと首を傾げる。紳士が日本語で言い直した。
「そろそろ晩ごはんの買い物に行こうか?」
「行かないー。たくさん欲しくなるもの」
「もうちょっとは多めに食べてもいいのに」
体重を気にしているらしく、明らかに食事の量が減っている少女に、紳士は何度か気遣いの言葉をかけているが、彼女は知らんぷりしていた。ここは最終兵器が必要かと、彼が胸ポケットからスマホを取り出す。数秒の操作で目的の画面を表示させると、彼女の目の前に掲げた。
「…………」
画面を見るうち、徐々に少女の顔が血色がよくなっていく。というか、赤い。
ぺた。と右の頬に自分の手を当てる。もう片方の手も、反対の頬に、ぺたり。
続いて、にー。と手のひらの下の顔を盛大に緩めた。
「行く」
舌の根も乾かぬうちに方針を切り替えた彼女は、こたつから出てコートを着込むと、早く早くと紳士を急かした。数分後、美味しそうに巨大な肉まんを頬張る少女の姿が目撃されたという。