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私の彼はユーチューバー 5
長い髪をセンター分けにした男が
覗き込むように見ていた。
思わず「えっ」と聞き返す。
阿保な考えで現実逃避していたので、
慌てふためき我に返った。
背もたれから背中を離して、手櫛で髪を整える。
男「この求人票をプリントアウトしたくて」
男はもう一度声を発し、
目の前のパソコン画面を指差した。
私「右下に出力ボタンがありますので、そこを押せばいいですよ」
画面を指差しながら答えると、
男は「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。
無造作に肩まで伸びた髪が垂れ下がる。
無精髭を生やし、上下グレーのスウェットを着ていた。
この場所に居なくても
ろくに働いていませんと感じ取れたかもしれない。
だが顔立ちは幼く、浮浪者というより大学生のように見えた。
男が出力ボタンを人差し指で押すと
パソコンの上棚に置かれたプリンターが音をたてる。
オフィスチェアーがゴロゴロと威勢良く床を滑り、
男は突然立ち上がった。
「なんでやねん。ほんま腹たつわ」と言いながら。
懐かしい、