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私の彼はユーチューバー  作者: 八田ガナ
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私の彼はユーチューバー 18

 年季の入った手から繰り出されたのは、正月にふさわしいお雑煮だった。

角切り餅が見えなくなるほど、お椀の表面が鰹節で覆われていた。

山盛りの鰹節を箸で汁に浸しかき混ぜると、中から大根や小松菜、

かまぼこなどの具材が次から次に顔を出した。

かつおを効かせた濃い目の汁で、大根は短時間で作ったにもかかわらず蕩けるほど柔らかかった。

「東京の人には合うかどうか分からんけど」と祖母は言いつつ、

テレビ画面と私達家族が食するのを交互に見ていた。


私「相変わらずいい仕事するね、おばあちゃんは。

こんな美味しいお雑煮初めて食べたかも。今度作り方教えてよ」


祖母「うーん、そりゃあ良かった。あんたのお母さんはこんな正月っぽい料理作ってくれんやろ。手取り足とり美香に教えたんだけどね」


母「今は一から作らなくても、スーパーでお雑煮セットとか売ってるから。それにうちはちゃんと手作りの年越しそばを食べたしね。ねー早紀」

 祖母の言葉に母が言い返す。父は黙々と餅を食べていた。


祖母「おばあちゃんが生まれたこの地域は、よく獲れる鰹節を山盛りにするのが普通なのよ。スーパーで売っているものは、お雑煮とは言わないね。今ね、おばあちゃんはすることがなくて、一日中暇でボケーッとしてるだけだから。さっちゃんが暇な時においでよ。仕事で忙しいだろうけどいつでも教えてあげる」


私「それならいつでも大丈夫だよ。私も暇だから。ばあちゃんには言ってなかったけど、」


 次を言いかけた瞬間に、突き刺すような鋭い視線を感じて口を閉じた。

母が眉間に皺を寄せながら下唇を噛んで私を睨んでいた。


私「土曜日と日曜日が休みだから、ドライブがてら来るよ」

祖母「そりゃ、楽しみやね。二日休みやったらたまには泊まって行きなさいよ」

私「うん」

祖母「いつなら来れるね」

私「おばあちゃんは気が早いね。そのうち行くよ」

祖母「だって、今日はもう夜には帰るんやろ。たまにはひとりでおいでよ。ねー」

私「分かった」

祖母「約束だからねー」

 差し出してきた祖母の小指に、私の小指を重ねる。祖母は何かを思いついたように、目と口を大きく開けた。

祖母「さっちゃんは、正月休みはいつまでね?」

私「えっ。暦どおりだから、四日?、五日が仕事始めじゃなかったかな?」

 急いで片手で携帯を開いて、カレンダーをタッチする。

私「あ、今年は四日が月曜日だから、四日からだ」

祖母「四日ね。明日やね。そりゃ残念やね」


 祖父の遺影が飾られた仏壇に手を合わせ、帰る時に再度「じゃあ、休みの日においで。泊りがけでね」と強く念を押された。「うん」と首を縦に振りながらも、たぶん私が今度この家を訪れるのは、蝉がけたたましく鳴いているお盆だろうなと思った。その頃までには、何とかなっているはず。


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