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私の彼はユーチューバー  作者: 八田ガナ
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私の彼はユーチューバー 17

 祖父が創業したパン屋で働いていた祖母は、ずっと働きづめだった人だ。

二人の子育てが一段落したのも束の間、

祖父が死んでお店を引き継がなければならなくなった。

二名の従業員といつも喧嘩していると言いながらも、

店はお父さんが残してくれた贈り物と誇らしげに言っていたのを思い出す。


 祖母が言うには、祖父が経営していた頃より、

海の見える美味しいパン屋さんとして評判になったらしい。

七十五を手前にして、もういい加減ゆっくりしたいからと店を畳んだのは六年前。

家の半分が店舗だったため、埃の被ったがらんどうのショーケースとレジスターが

置かれたままになっている部屋が、お店だったということを無言で伝えてくれる。


 家庭料理とパン作りを休まずやってきた祖母は、

私たちが来ると必ず得意な料理でもてなしてくれる。

「はあ、どれどれ」と言いながら、膝に手をついて立ち上がった祖母は厨房へ向かった。

以前はパン生地をこねたり、焼いたりしていた場所だ。


 オーブンなどの主な機材は売り払い、今は狭い家庭科調理室といった感じがする。

何か手伝おうかと尋ねたけど、すぐできるからテレビでも見ときなさいね、と例年通り拒否された。

そして、例年通り料理するのをしばらく横で眺めた。


 祖母は「はあ、しんどいね」と文句を言いながらも、

業務用の冷蔵庫からみりんや醤油を取り出して準備を始めた。

その手は迷うことなく、言葉とは正反対に元気よく動いている。

どこに何があるのか全て分かっていて、ここで一日中働いていたんだよと言わんばかりに。


 手際のいい料理を横で見ると、小さな頃に撫でていた祖母の頬を思い出した。

焼き立てのパンのように柔らかくふっくらしていた。

手料理もいいけど、あの香ばしい匂いのするパンが食べたい。

もう食べることのできなくなった味。思えば働かなくなってから、

祖母の背中は丸くなったように思う。

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