私の彼はユーチューバー 16
我が家の正月には恒例行事がもう一つある。
三が日の最終日に祖母の家へ行くことだ。
子供の頃はよく行っていたけれど、最近はお盆と正月にしか行かなくなった。
私達が住む都心の外れから、車で一時間程行った場所に祖母の家はある。
漁業が盛んな海沿いの町で、車を降りると風が潮の香りを運んでくる。
とくに冬の風は冷たくて、強い。大きな一軒家だけれど、
潮風を真っ向から浴び続けているため、訪ずれる度に劣化を感じてしまう。
瓦屋根は表面が茶色く錆びて、モルタルの壁には所々亀裂が生じている。
中に住む祖母も例外ではない。
以前はピンと伸びた背筋が年齢よりも若さを象徴していたけれど、
ここ数年でこうべを垂れるように曲がってきた。
今日にいたっては立ち上がるのがしんどいのか、
チャイムを鳴らしても出なかった。
小学生の頃は、玄関の前で待ってくれていたことを思い出す。
その時は父の転勤で遠く離れた大阪に住んでいたため、
夏休みなると祖母の家に泊りがけで行くのが普通だった。
今か今かと待っていた祖母は、よく来たねと私を毎回笑顔で出迎えていた。
母が勝手に玄関扉を開けて中に入ると、
祖母は炬燵に入りながら、首を上下にゆっくりと舟を漕いでいた。
母「もう、お母さん。そんなところで寝てると風邪ひくよ」
母の呼びかけに祖母は豆鉄砲をくらったように目を丸くさせ、
丸い背中も一瞬だけ真っ直ぐになった。
祖母「ああ、びっくりした。突然やってきて殺す気か。もっと年寄りをいたわれ」
と不服そうな顔で母へ言い放った後、すぐに私へ優しいトーンで話しかけてきた。
祖母「おお、おお、さっちゃん。長いこと会ってなかったね。元気しとった?」
私「ふふっ。おばあちゃん。明けましておめでとう」
祖母「おめでとうございます。今年も宜しくお願いね」
私は着ていた厚手のコートを脱いで、後ろからそっと祖母の肩へかける。
頬を撫でると、祖母は刻まれた顔の皺をさらに強調させるかのように笑った。