私の彼はユーチューバー 14
私「うん、来年はいい年になると思う」。
質問の答えにはなっていないけど適当に返す。
音を立てながら思いっきり麺をすすった。
対する母は「そうねえ」と、爪楊枝で歯をつつきながら呟いた。
私もそそくさと蕎麦を平らげて、空いた三つの茶碗を台所へ運んだ。
母「せっかくね、お父さんが良い所を紹介してくれたのにね」
父「まあ、それはもう済んだことだから。早紀はなんかやりたい事があるんだろう」
母「やりたい事って、辞めてからずっとプラプラしてるじゃない」
父「まあ、まあ。受付や事務の仕事は退屈だったのかもな。早紀は小さい頃はじっとしてるの嫌いだったもんな。今は、バイトからでも何でも好きなことをしたらいいよ」
母「そんなゆっくりしてたら、駄目になる。仕事してない期間が長くなったら、行ける所も行けなくなるんだから。早く結婚もして子供も育てないといけないのに」
私「だから、今、探してるっていうてるやん」
私は台所から二人のいるリビングへ向かって叫んだ。
茶碗を洗いながら、勝手に始まった私の問題に対する討論に苛々が募り始めた。
突き立てた爪で引っ掻かれていくように、身体中が痒くなっていく。
耐えきれなくなって泡がついたままの茶碗を、シンクの中へ叩きつけて叫んだのだ。
茶碗がシンクの底から飛び出し、泡が顔にかかる。
蛇口を最大限にひねると、ステンレスを叩く音が気持ち良く聞こえた。
水をはじき返す轟音が私の代わりに叫んでくれているみたいで。
その水で残りの泡を洗い流した。
辺りに散った水滴や泡を布巾で拭き取ると、自分の部屋へ逃げ込んだ。
母が部屋をノックする音で目が覚めたのは夜の十一時半だった。
今年が終わるまで、来年が始まるまであと三十分。壁時計の針が指し示している。
扉の向こうで母が行くよーと声を張り上げていた。
眠気をたっぷり含んだ体は重く、軽い羽毛布団を剥ぐのさえ億劫だった。
行かないと言う前に部屋に入ってきた母は、
クローゼットからセーターと紺のダッフルコートを取り出し、ベットの横に畳んで置いた。
布団にくるまって顔を隠しながら見ている私を起こすわけでもなく、
母は黙って部屋を出て行った。
さっき怒らせてしまったという償いだろうか。こういう母の優しさがとても鬱陶しくなる時があった。
さらに、用意された服に着替えてしまう自分にも嫌気がさすのだ。
リビングで待っていた両親と黙って神社へ向かった。
真冬の夜風が冷たく、あったかいブルゾンを羽織れば良かったと後悔した。
最悪の幕切れと幕開けだ。