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私の彼はユーチューバー  作者: 八田ガナ
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私の彼はユーチューバー 13

 派手な衣装を身にまとったアイドル達が、髪を振り乱しながら歌い終えると

「ありがとうございました」と客席に向かって叫んだ。

肩を上下させながら苦しそうだけれど、曲が完全に止まるとすぐ笑顔になった。

次の歌い手である男が、舞台横でインタビューを受けている画面へ切り替わる。

司会の人へ「今年はデビューして、自分でも信じられないことが起こった年になりました」と、

たどたどしい口調ながら丁寧に答えていた。


 一年間活躍した人だけが出場できるらしい紅白歌合戦が始まった。

紙吹雪が舞う舞台の上が賑やかに映る。その歌の合間に、

審査員として呼ばれている今年話題の人たちが何度となくカットインしていた。

リモコンを触りたいけれど、先から母がずっと握りしめたまま、

「誰? これ。なんでこんな歌が流行るの?演歌だけにしてほしいわ」と

テレビ画面に向かって呟いている。

たしか去年も言っていたなという事を思い出す。


 父が茹でた蕎麦とうどんを炬燵テーブルの上に並べたところで、

ようやく今年も終わるなと感じた。

母と私は蕎麦を、蕎麦が苦手な父はうどんをすする。

テーブルの上にリモコンがほっぽり出されたのでチャンネルを回した。

毎年恒例のバラエティ番組で手を止めたけれど、

すぐに紅白の方にチャンネルを戻した。


 あったかい蕎麦の汁を一口すする。

この日だけ作る父の蕎麦はやっぱり美味しい。

父の食べているうどんの汁を横からレンゲですくった。

昔よく食べた関西特有の澄んだ薄い色。

この透明な汁のどこに旨味が隠れているのかわからないけど、

やっぱり美味しいと感じる。

「うん、美味しいよ」の後に、「でもうどんだから、今年もお父さんだけ年越せないね」と

喉まで出かかった言葉を抑えた。

言ってはいけない、今年は笑ってはいけないような気がしたからだ。


 蕎麦の感想を一切言わず、麺を黙々と口に運ぶ母が気になった。

それは案の定だった。母は早々と蕎麦を平らげると

「早紀ちゃん。今年はどんな年だった?」と、

まるで紅白の司会者のような質問を投げてきた。

テレビの中に映っている人達であれば、それはそれはいい質問だろうに。


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