私の彼はユーチューバー 12
私「なんか、すみません。でもいつまでも仕事しないわけにはいかないじゃないですか。このままなのも辛くないですか?」
男「あんた、ほんまにハローワークの人みたいやな。さも正論みたいなことゆうて。俺が間違ってんのか? はい、はい、まちごうてますよ。あなたのおっしゃる通りです。働くなり何かしてお金を稼がなきゃ、人は生きていけませんよ。そんなのは分かってますよ。でもこんな嘘の求人票に吸い寄せられて働かされる身にもなってみい。いい子の振りした企業に騙されて、いざ付き合ってみると、化粧落としたら別人で、おまけに整形してるわ、性格悪くてこき使われるわ、なーんにもいいことあらへん。お互い気分が悪ーなって別れるだけや。だーれも得せえーへん。騙されて、ましてや自分を騙してまで働くぐらいなら、のたれ死んだ方がよっぽどまし。あんたも騙されないように気をつけた方がいいですよ」
私「そうですか」
私は頭の中で溜まっていく言葉を押さえ込むように呟いた。
男は何も返さず、伸ばした両手を頭上で重ね、大きな欠伸をしている。
まだまだ言い足りないことがあるようにも、もうあんたとは話したくないという態度にも思えた。
嘘だと言い張る求人票が、ひっそり間に置かれたままになった。
「では、失礼します」と言うために残りのコーヒーを口に含む。
男「そんな逃げるように、急いで飲まなくても。話聞いてもらって、すみませんというかなんというか、ありがとうございました。たまにハローワークに行くと思うんで、もし会ってしまったら無視してください。お姉さんはたぶんまともなので、すぐ見つかると思いますけど。では」
と言って男の方が早くこの場を去って行った。
飲みかけのコーヒーとトレーを持って席を移動したのだ。
そう言われなくても無視するわ、と思いながら私は足早に店を出た。