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17 騒がしくも賑やかな休日

 土曜の午後、いつものようにサークルの集会が俺の家で開かれた。

 今日は初期のサークルメンバー五人に加えて、新しく鈴木と古沢さんの二人が参加している。つまり合計で七人だ。

 いよいよ手狭になってきた感があるものの、何か特別なことをするわけでもないので支障はない。最近は何かを書いたり読んだりもするようになったけれど、結局はどうせ雑談するだけだ。基本的には親もいないので、どれだけ騒いでも近所迷惑にならない程度なら問題になることもない。

 そもそも律儀に毎週サークルの集会を開く意味があるのかどうかが最大の問題ではあるが……。


「ごめんごめん、ちょっと遅くなっちゃって……」


 一番最後に来て、少しだけ気まずそうにする古沢さん。今までの彼女なら約束の時間をちょっぴり過ぎたことなんて関係なく、ぐいぐいと来そうなものだけれど、遠慮というものを覚えたのだろう。

 きょろきょろと所在なく視線を惑わせる彼女を見て、くいくいっと手招いた美馬が自分の隣に座るように促す。


「私たちのサークルにようこそ。歓迎するわ」


「歓迎してくれるんだ?」


「するかしないかで言うと、今の私は大いに歓迎するわね。実際に書き始めて思ったんだけど、小説を書くってすごく孤独な作業なのよ。だから一緒に苦労してくれる仲間が増えると心強いというか、赤信号をみんなで渡る気分というか……。それに恋愛経験が豊富そうな茜がいると色々な話が聞けそうだから」


 いつの間にやら、知らないうちに古沢さんのことを茜と下の名前で呼び始めていた美馬である。正式にサークルの仲間になったので、自分のほうから距離を詰めに行ったのかもしれない。

 誘われるまま遠慮なく彼女の隣に座り、びしっと親指を立てる古沢さん。


「任せて。その辺は豊富だから」


「頼りがいがありそうね」


「ま、結局はうまくいってない恋ばかりだから、役に立つアドバイスにはならないかもしれないけど」


 つぶやくように言って、力なく自嘲気味に笑う古沢さん。

 そんな彼女をじーっと眺めるのは鈴木だ。

 右手を一瞬ぴくっと動かしただけで、眼鏡をくいっとしそうでしない。我慢しているのかもしれない。

 やや気まずそうにしていたが、たまたま目が合ったのを契機にして古沢さんに頭を下げる。


「すまん。最初に謝らせてくれ。悪かったな」


 いつもは流暢に早口でまくしたてる鈴木には珍しくカタコトだ。心がこもっていないというわけではなく、むしろ本当に謝っているからこそ言葉に詰まっているのだろう。

 珍しさもあるのか、古沢さんは不思議がる。


「何が?」


「この前のことだよ。昔馴染みだからって、さすがに言いすぎたと反省している」


「ああ、そのこと。だったら気にしてないわ。……というか、あんたは昔から何に対しても言いすぎるじゃない」


「確かに」


 すんなり納得するということは鈴木にも自覚があるのか。だったら少しくらいは反省して普段の行いを悔い改めてほしいところだが。

 でも意外とそういう我の強いタイプほど小説を書くのに向いているのかもしれない。独りよがりだと読者を置いてきぼりにしてしまう可能性が高いけれど、やはり何かを書きたいという強い衝動がなければ何十万字も文章を書くことは難しい。

 おしゃべりの能力と文章力がどこまで一致するのかはデータが足りなくて断言できないが。

 榎本と峰岸さんは隣に並んで座り、二人で一つのスマホを覗き込みながら何かを楽しそうにしゃべっている。

 美馬は難しい顔をして手帳を覗き込んでいる。

 そんな彼女たちの姿をぼんやり眺めていたら、赤松が俺の肩を叩いてきた。


「おい、今日は妄想大先生は来ないのか?」


「は?」


 妄想大先生?

 そんな奴いたっけと一瞬ほど思考が止まってしまったが、実にどうでもいい記憶を手繰り寄せていると思い出した。おそらく福富のことだろう。この前サークルを見学しに来たときは自分で妄想術のプロフェッショナルだと豪語していた。


「うん、そうみたい。姉さんは用事があるから今日の会合には参加しないよって言ったら、じゃあ行く意味がないから休むってさ」


「そんな理由で休むなんて志の低い奴だな」


 まったくけしからんと言わんばかりに首を振る赤松。

 やる気のない新入部員にため息をつく上級生みたいな顔をしているが、いつからモチベーションが高くなったのやら。


「そういうお前は本気で何か書く気になったのか? 結局どんなものを書くのか、具体的には何も決まらなかった気もするけど」


「よくぞ聞いてくれた。やはり俺が書きたいのは面白い作品だ! この前も言ったが、難しいことを考えるのはやめた!」


「うーん、でもそれすごく難しいぞ」


 挑戦してみればすぐにわかるだろうが。

 面白さというのには絶対的な基準がないから難しい。完成させた作品が面白くないと感じても、ではどこを直せば面白くなるのかというのを見つけ出すのは大変だ。頑張ったからといって面白さが保証されるわけでもない。努力を続ければ技術的には成長するだろうが、面白さというのは技術だけで成り立っているものでもない気がする。

 でも頑張れ。たとえ面白くなくても、書いてくれたものは途中で投げ出さずに最後まで読んでやるからな。

 他人にアドバイスができるほどの実力があるわけでもないが、話を聞くくらいならできるだろう。

 そう思ったので尋ねてみる。


「具体的には何か書きたい予定のものってあるのか?」


「具体的にと言われるとな……。ラブコメ、ファンタジー、バトルもの、部活ものに不条理ギャグとかいろいろあるけど、俺に書けそうなものってあるか?」


「書けそうなものって言われてもな」


 それは実際に何かを書いてみないことには判断をつけがたい。向き不向きは頭の中で考えるだけでなく、挑戦してみないとわからないものだ。

 ただ、初めて書き始めるならモチベーションは大事だ。


「そうだな、まずは書きたいものを書き始めてみるのがいいんじゃないか」


「ふーん。だけど書きたいものって言われてもな……」


 まあ、いきなり言われても難しいだろう。すでに書きたいものが自分の中にあり、それを具体化するための道筋が明確であったなら、こうして俺に問われるまでもなく書いているものだ。

 しかし、わからないならわからないなりに、わからぬまま書いているうちに段々とわかってくるものもある。

 ひとまず自分が読んでいて楽しいものを書いてみればいいんじゃないかと言おうとしたら、それより先に何か思いついたらしく、とびきりの名案が閃いたとばかりに赤松はポンと手を打った。


「あ、じゃあ最近ネット小説とかで人気の異世界転生ものとかどうだろう。ちゃんと読んだことはないんだが、数年前からアニメ化もたくさんされているからな。俺も好きで、どんな内容かは大体わかっている。すごいチートとかで主人公が最強な作品って読むのも書くのも気分がよさそうだ。どうせなら楽しくないとな!」


「まあ、書き手が楽しむことって大事だとは思うよ」


 俺にも書けそう、なんて言う人はたくさんいるけれど、実際に書き始めてみると意外と難しいものである。楽しむことよりも、悩んだり苦しんだりすることの方が多かったりする。

 だから楽しめるなら楽しんで書いたほうがいい。そうでなければ続かないからだ。とんでもない天才でもない限り、普通は続けなければ上手くもならない。才能が眠っていたとしても、それに気付く前に筆を折ってしまう。

 やはりどんな分野でも人気が出る人たちはすごい。

 書いている自分が楽しくて、それを読んでくれる人たちも楽しんでくれるならいいのだが、なかなかね……。

 そんなことを考えていたら、さっきまで美馬と仲良くしていた古沢さんが俺たちの話に入ってきた。


「私もオタク趣味があるから最近やってるアニメを見たことがあるけれど、ネットで人気が出た異世界転生ものとか俺ツエーものとかって、いかにも現実でうまくいっていない男性オタクが現実逃避してそうな作品じゃない? 別にそういうのが悪いって言いたいわけじゃないけれど……」


「あ、古沢さんもオタク趣味あるんだ? そういえばフィギュア持ってたもんね」


「うん、そうそう。乙終君も大好きな、可愛くてエッチな水着の奴ね。だからアニメや漫画の話ならついていけると思うよ」


 そして始まる楽しいオタク談義。

 そう思っていたら邪魔が入った。


「何がついていけると思うよ、だ! お前についているのは偏見だ!」


「……え?」


 と振り返った古沢さんの視線の先には一人の男子。

 俺は覚悟した。

 鈴木が来る!

 眼鏡に手をかけ、くいっとする!


「お前が持ってるネット小説への偏見、この俺がたださせてもらう!」


「いや……」


 誰も頼んでないけど。

 でもたぶん始まるんだろうな。

 そう思っていたら始まった。


「最近流行りのネット小説について、お前は『現実でうまくいっていない男性オタクが現実逃避してそうな作品』と言ったな?」


「違うの?」


「じゃあお前はそういう作品の読者全員と実際に顔を合わせて、それらを楽しんで読んでいる彼らがどんな人か確かめたことがあるのかね!」


「……ないわね」


「じゃあそれは印象論です! 都合よく切り取られたデータではなく、信頼性に足るデータを用意してください!」


 具体的なデータを提示できないのなら、確かにそれは印象論だ。

 ただし、世の中を印象で語ってそうなのは鈴木も同じだが。

 身を引いて傍観者に徹していたら、赤松が俺の肩をつっついてきた。


「お前が相手してやれよ。あんなのの相手を一人でさせられて、サークルに参加したばっかりなのに古沢がかわいそうだろ」


「それもそうだな。幼馴染だっていうから慣れているのかもしれないけど、やめられたら残念だ」


 そう思って鈴木に「おい」と声を掛けたら、まあ待てと言って話が続いた。

 視線は古沢さんから俺と赤松に移ってくれたが、どうせ声は部屋中に聞こえるので相手は誰でもいいようだ。


「だいたいな、ここ最近の言説ってものが俺はどうにも気に食わない。食べ物でもエンタメでもスラングでもそうだが、それを楽しんでいる人たちをひとまとめにして馬鹿にしたり、何が流行っているかで世間や時代を語ろうとするのは馬鹿のやることだ」


 馬鹿、という言葉に俺は少しだけ反応するが、ここは邪魔せず好きなだけ喋らせることを優先する。


「世間の大人やプロの作家たちが売れている作品の傾向だけを見て最近の若者をどうこう言うのって、物事の一面だけを都合よく見て自分とは違うものをわかった気になっているだけじゃんか。そういうゲームだのアニメだのが好きってだけで、こいつらは銃を撃ちたがってるとか、暴力衝動があるとか、リセットすればいいと思ってるとか、努力せずに報われたいとか、そういう欲望を抱えていると決めつけてすぐ馬鹿にする。そうじゃないという声は無視してな」


 ふむふむ。


「俺がオタクだからそう思うのかもしれないけど、好きな作品とかキャラクターがあったとして、そういうのってあくまでも作品として楽しんでるだけだろ。こうなりたい! 憧れてる! とか、そう考えてるわけじゃないだろ。そもそも好きで買ってる作品って一つじゃないからな。馬鹿みたいに都合のいいハーレムものも好きだが、胸がキュンキュンする少女漫画みたいな純愛ものも好きで、恋愛要素のない作品だって同じくらい好きだ。どれか一つだけを大げさに取り上げて恋愛観を決めつけられちゃあ、たまったもんじゃない」


「偉そうなことばっかり言っててむかつくけど、決めつけられたくないって部分には同感ね」


「さすが俺の幼馴染だ。でもオタクへの偏見は重罪な」


 お前みたいなオタクがそうやって偉そうに絡んでいくからオタク全体への偏見が生まれてしまうんじゃなかろうか……と思わなくもなかったが、この辺は難しい話なので黙っておこう。俺もオタクなのでオタクの味方はしたいけれど、SNSなどでアニメアイコンが非オタの一般人を相手に暴れているのを何度も目にしてしまうと、世間がオタクにネガティブなイメージを持ってしまうのも無理はないような気がしてくる。

 かといって偏見や中傷が許されるわけではないが。

 さて、と言って腕をまくる鈴木。


「テレビ全盛期のころもそうだったろうが、それにもましてネット時代のブームは目新しいものを次から次へと求めていく一過性のものが多く、娯楽はあくまでも娯楽であって、何がヒットしたからとて必ずしも時代性を語るものではない。それにさ、たいていの場合、こういった漠然とした分析なんて結論ありきでいくらでもこじつけられてしまうだろ」


 ここで右手をぐっと握る鈴木。いよいよ佳境に入ってきたようだ。


「つまり俺はこう言いたいわけだ。異世界に転生する作品がヒットしたからといって、『現代のオタクはみんなリアルな人生に不満があるから異世界への転生願望がある』と思い込むのはちょっと単純思考すぎやしないか、と。その昔、戦争を題材にしたロボットアニメがヒットした時代に『アニオタはみんな軍国主義者で心の底では戦争をしたがっているに違いない!』と騒いでいた大人たちに通じる偏見交じりの決めつけと同じようなもんだろ」


 えっと……。


「特定の分野で特定のジャンルが流行する場合、やはりその特定分野における流行の変遷やそのジャンルが普及する独特の事情というのがあるのだから、それをすっとばしていきなり世相と結びつけるのは厳しい。特にエンタメ業界の場合は作り手側から仕掛けるムーブメントもあり、流行り廃りのサイクルが早いこともあり、また単純に新しいものが面白がられる部分もあり、それらを現実の社会と比較対象しても仕方がない。何から何まで完全に無関係とまでは言わんが、表層的な分析で世間を語るのは脊髄反射で生きているようなものだろ」


 わからなくはないが、早口な上に話が長いので誰も真面目に聞いていない。

 だろだろ、だろだろ言って、無意識に自分の意見を押し付けてくるのも、一方的に自分の意見を語って聞かせたいだけで、最初から反論を求めていない感じだ。

 相手をしている俺と赤松もさっきから相槌がうまく打てていない。

 最初に会った時からいつもそうであるように、鈴木はフラストレーションがたまっているようだ。


「異世界転生については、やはり小説の書き手にとっては書きやすく、読み手にとっては読みやすいという事実があるのを無視してはならないだろう。日本のサブカル史において、一般的に『ファンタジー』といえばゲーム的または中世ヨーロッパ風な剣と魔法の世界が好まれてきたが、これを完全にオリジナルな世界観で再現しようとしても、作家一人で考えなければならないことが多すぎて設定やプロットに破綻なく本格的に書くのは難しい。だからといって現実の中世を舞台にするならストーリーを作る以前に様々な知識がいるし、現実はこうだったからと作品の内容が縛られてしまうし、何よりもネットの読者から重箱の隅をつつくような指摘や批判がたくさんくる」


 それはまあ、確かにな。


「そこで生まれてきたネット小説に特有の世界観っていうのは、ある種の巨大なシェアワールドなんだ。舞台や設定をある程度は共有できるから、書く側も読む側も気軽に挑戦できる。しかも転生ものとして現代人の知識や価値観を持った主人公を作ると、いろいろな面において物語が書きやすくなる。一般的に既視感があるものは批判されることも多いが、見慣れたものを下敷きにしているおかげで初めてその世界を眺めることになる読者にとっても話を理解しやすく、転生の場合は主人公への共感もしやすくなるという利点もある。……だろ?」


 俺と赤松はうっかり同意しそうになったが、納得しかねている古沢さんがツッコミを入れる。


「じゃあどうしてネットで馬鹿にされがちなのよ」


「そりゃお前、ネットなんて何かを馬鹿にするような人間が多いからだろ。特にオタク界隈なんてな」


 そうだろうか……と考えていたら、鈴木が胸を張って語り始めた。


異世界ネット転生ログインして匿名化チートを手に入れて、現地人よのなか相手かって無双ろんぱして俺最強みくだしているのって、まさしくネットユーザーそのものだからな。無能だと追放ひていされて、復讐さかうらみするのも。どうして叩かれながらも話題になるかと言えば、ネットの世界はそいつらが馬鹿にしているネット小説の世界と同じなんだよ。つまり彼らは転生予備軍なわけ。潜在読者なんだな、これが」


「お前がそうだからって、お前と違う他のネットユーザーやネット小説の世界までそうだと断言するのはどうかと思うが」


 それこそ印象論じゃないのか。何か信頼に足るデータはあるのか。

 やっぱりこいつSNSとかやったら炎上しそうだな。彼の言いようを真似するなら炎上予備軍だ。


「私はそういうの読んだことないんですけど、ネットの小説って私が楽しめそうなのもあるんですか?」


 そう尋ねてきたのは敬語モードの峰岸さん。鈴木の相手をするのに疲れてきたので彼女の相手をすることにする。

 話題になりやすく人気が出やすい作品の傾向はあるだろうが、ランキングにさえこだわらなければネットに公開されたコンテンツは小説に限らずジャンルもクオリティもピンキリなことが多いので、探せば一つくらいは楽しめるものがあるだろう。問題はそれを自力で見つけることの難しさだが、それを解消するために他人のおすすめやレビューを当てにするのも一つの手だ。

 あいにく俺はそんなに詳しくないので咄嗟に名前を上げることはできない。

 けれど「わかんないな」と答えて終わり、ではサークルの部長として頼りがいがなさすぎる。

 頼れるクラス委員長でもある彼女はネットに限らずサブカル自体に詳しくなさそうだけれど、それでも彼女が楽しめそうなのは何だろうかと思ったが、ひとまず思いつくものはある。


「女性が主人公の作品もたくさんあるから読んでみたら? ……その、なんていうのかな、女性同士の友情とか信頼関係とかを売りにしている作品とかもあるよ」


 いわゆる百合とかガールズラブとか。興味があるなら、そういうので検索するとたくさん出てくる。ちょくちょく検索結果に紛れ込んでくるTS系統の作品はちょっと特殊なので、峰岸さんが楽しめるかどうかわからないけど。


「なるほどぉ……。とりあえず時間があるときに覗いてみますね」


「うん。もし面白かった作品があったら俺にも教えてほしいな」


「はいはい、お任せください。他でもない乙終君ですからね」


 プロとアマチュアの作品はまた別だろうが、たとえ無名のアマチュアが書いたものだろうと面白い作品はやはり勉強になる。勉強にならずとも、単純に面白い作品はいくらでも読んでおきたい。やっぱり読書が趣味だからだ。

 それに、峰岸さんがどんな作品を面白いと感じるのかにも興味があって、それを知れたらいいなと思うわけである。

 話の腰を折られ、しばらく俺たちの会話を聞いていた鈴木が腕を組んで唸る。


「うーん。でもやっぱり俺は読むなら商業作品のほうがいいな」


「なんだよ。あんなに言っといて、あんまりネット小説は読まないのか?」


「読まないってわけじゃないが、やっぱ好きなのは出版された作品だな。なにしろイラストがあるからな!」


「ああ……」


 そういえばラブコメが好きだって話だったな。他のジャンルでもヒロインが重要だとか言っていたから、そりゃあまあイラストがあるほうが好きだろう。

 文芸サークルとしては認めるのも否定するのも難しい部分だが、小説におけるイラストや挿絵の魅力はやっぱり大きい。

 あんまり積極的に公言はしていないけど俺もオタクだから好きだしな……。


「自分でイラストは描かないの?」


 そう尋ねたのは古沢さんだ。問われた鈴木は難しそうな顔をする。


「そりゃ描けたほうがいいから描いてはいるけど、いくら描いても全く上達しないな。これだったら普通に働いて金を稼いでプロが描いた絵を買い集めたほうがいい。才能があるのかもわからない自分の努力に投資するよりも、自分が好きな絵を描いてくれそうな才能のある人間に投資したほうが俺も向こうもウィンウィンだ。今は気に入った絵描きに直接お金を支援できるサービスがたくさんあるからな」


「ふーん」


 と、あんまり興味ない感じで古沢さんは返事をした。

 クリエイターへの支援サービスに興味がないわけではなく、尋ねたこと以上にべらべらと喋り始める鈴木の話に興味がなかっただけだろう。鈴木にしても聞き手から反論が来ると熱心に再反論しがちだが、反応が薄いことは許せるらしく、そういう部分を知っている子供のころから付き合いのある幼馴染らしい対処法だ。

 などと考えていたら赤松が俺の肩をつっついてきた。声をかければいいのに何度目だ。


「結局は俺は何を書いたらいいと思う?」


 まだ悩んでいるらしい。

 ひとまず何でもいいから書いてみればいいじゃんと思うのだが、なかなか踏ん切りがつかないのだろう。挑戦するのが初めてなら無理もない。背を押してほしいのかもしれないので、ここは押しておく。


「好きなのを書いたらいいと思うけど、そうじゃないならラブコメを書いて鈴木に読ませてあげたら? 鈴木の意見が参考になるかは別としても、熱心に読んで感想をくれると思うよ」


「それもそうだな。全員に微妙な反応をされるくらいなら、一人くらいそれを好きでいてくれる奴がいるもんを書いたほうが楽しくはありそうだ」


「そうそう」


 適当に頷いた感じが出たけど適当に頷いたわけではない。

 何事にも例外と限度はあるけれど、全く反応がないよりはあったほうがいいし、楽しみに待ってくれている人が一人でもいたほうがやりがいもある。ラブストーリーの乙終だと馬鹿にされた中学時代のつらい記憶があるものの、少なくとも今の環境でなら何を書いても大丈夫だろう。喧嘩や言い争いが発生したとしても、過度なイジメはない気がする。

 こちらの話が聞こえていたのか、古沢さんの向こうにいた美馬が顔を上げて俺たちのほうを見た。


「あら、赤松はラブコメを書くつもりなの? だったら私にも読ませてほしいわね」


「え、読みたいの? お前が俺のを?」


「だって今は恋愛の勉強中だから、私。あなたが書いたラブコメが参考になるかは別としても、目は通しておきたいの」


「なるほどね。……よし、だったら最初はラブコメを書いてみるか!」


 美馬が読んでくれるとわかって、彼女に恋している赤松は俄然やる気が出て来たらしい。

 執筆に本気を出す動機として誇れるものなのかわからないが、あまり俺は言えた義理ではない。色々な目的があって恋愛小説を書くと決めた俺も、根本のところでは赤松と同じようなものだ。

 やはり俺たちは似た者同士の親友なのだな、と感じざるを得ない。

 よし、だったら俺もこの休日で何かを書いてみよう。

 そうやって前向きに執筆意欲が出てきたのも、こうしてたくさんの仲間たちがいてくれるからであろう。

 紆余曲折あったものの、鈴木と福富だけでなく、恋愛に悩める古沢さんもサークルに入ってくれた。

 だから、すべてが順調にいくとは限らないけれど、それでも、これからは今まで以上に、ますます楽しい思い出を作っていけるかもしれない。

 そう思いながら、俺はこの騒がしくも賑やかなサークル活動を楽しむのだった。

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