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おまけ 『新版・桃太郎』(乙終心枝)

※これは実践文芸サークルの活動で部長の乙終が書いてみせた小説という設定です。

※本文中に入れることができませんでしたが、おまけという形で投稿しました。

 昔々、どこぞの村に一組の老夫婦が――などと、とっくの昔に使い古されたテンプレに従って語り始めたいところではあるが、そんなありきたりな話をしたって今さら仕方がない。

 そこで最近の若者にも親しみやすいように、ちょいとライトな冒険譚を語ろう。

 さてさて舞台は日本海側にあるという某県の、少しばかり奥まったところ。

 今にも崩れ落ちてしまいそうな古臭くてたまらない廃屋じみた一軒家に、うら若き年頃の可愛い娘が一人と、それより一つ年長で冴えない風貌をした少年が二人で住んでおった。

 この男女二人は、まるで顔は似ていないが血のつながった実の兄妹である。どこにでもいる普通の兄妹ではなく、ボロボロの一軒家に暮らす彼らは聞くに忍びない不幸な身の上だ。なんでも幼いころに不運があって、二人を生んでくれた両親とは死別しているという。死んだ両親が当面の生活費となる遺産をちょっぴり残してくれたとはいえ、どちらもまだ十代。独り立ちするにはまだ早い。

 そのため今では日々の糊口ここうをしのぐので精一杯、たいへん貧しく質素な二人暮らしを送っているのだが、シリアスで陰鬱な空気を吹き飛ばすほど彼らは元気で明るかった。

 なにかというと常日頃からツンツンデレデレな、それはもう大変仲のよい兄妹である。


「もうお兄ちゃん、朝っぱらからパソコンばっかりやってないでよ! ちっとは働け、このニート野郎!」


「そこをなんとか許してくれ、桃姫! お兄ちゃんはいじめられると死んじゃうんだぞ!」


「バーカ、ばぁーか! 死ね死ね、死ねー!」


 ……とまぁ、歯に衣着せぬ物言いは親しい間柄だからこそ。

 この日も二人はいつものように楽しく会話を交わしていた。


「よし、俺は決めた! 引きこもりでも働けるよう、なんかパソコン使って仕事するわ。具体的には全く思いつかないけど明日から本気出す」


「私も決めた。……お兄ちゃんをしばく」


「は?」


「その腐った根性たたきなおしてあげるよ、お兄ちゃん! 今すぐ表に出てよね、しばいてあげるから!」


「ちょ、ちょちょ! ちょっと待てって、待ってくれってば!」


 妹の桃姫は怠惰な兄を引き連れて、山へしばきに行ったとさ。

 ちゃんちゃん。

 二人は末永く幸せに暮らすどころか兄の威厳はおしまいだ。

 ……はてさて、それから数刻たったころ。


「生か死か、それが問題だ」


 妹に折檻せっかんされた結果、プライド丸つぶれで生きているのが辛くなった兄は、流れの激しい川へと命の選択へ。そんなつもりもないくせに、足を滑らせて入水すれば本当に死んじゃう。

 厳しい妹の説教から逃げてきたはいいものの、何度も何度も平手で叩かれて痛む尻。このままでは我慢ならない。えいっとズボンを下げると、その場で腰を下ろした少年は涙目だ。

 おや、こんなところに露出狂?

 もちろん違う。彼は意外にも、まったくの考えなしではない。周辺に人っ子一人見当たらない田舎の山間に流れる小さな川では、大胆に服を脱いだって見せる相手もいないのだ。ヒリヒリ痛む真っ赤に腫れた尻を出して、冷たい川の水で痛みを和らげようと考えたのだろう。いや、それやっぱり頭おかしいな。

 下流に人がいれば間違っても川の水を飲まないことをお勧めしたい。逃げ場なき魚たちは頑張れ。

 とにかく彼が丸出しの尻を水面につけようと、かがんだときだった。


「あー。なんだか桃食いたくなってきたわ」


 なんか水面に映ったんですかね。やーね、お下品。妹にしばかれるのも納得。


「おわっ!」


 かがんで身をよじっていたのが悪かったのか、バランスを崩した彼は川に落っこちた。

 赤く腫れた尻だけ浮かせて川を流される。


「ど、どん、ぶはっ、こらぁ、くはっ! どーなんっ、ぶはっこぉ!」


 水を飲んで息も絶え絶え、彼は混乱しつつも溺れ流され、助けを求める。

 ちょうどいいし、流される彼を盛り上げるBGMは「どんぶらこ、どんぶらこ」でいいんじゃないかな。

 服も洗濯できるよ、やったね!


「死ぬかと思った」


 しかし死ななかった尻丸出しの桃太郎。

 ずっしり水分を含んで重くなったズボンを上げつつ、ほうぼうの体で流れ着いたのは、どこかと思えば村の広場に程近いほとりだった。

 ついでだからと、いつもお世話になっている村のばあさん宅へ挨拶に向かうことにした彼は前向きだ。全身が濡れているのはもう構わない。晴れていれば濡れた服も歩いているうちに乾くだろうし、不審者扱いなどいつものことだ。

 探していたばあさんの姿を畑に向かう途中の道端で発見すると、彼は挨拶もそこそこに話を切り出す。


「お腹すいたんで、なんかください。きび団子がいいです」


「無職にやる飯はないよ」


 なにを隠そう彼こそは、村でも知れた筋金入りのプー太郎。妹の態度も冷たければ、世間の目も冷たかった。

 ところが冷遇されるのも慣れたもので、肝いりニートの彼はへこたれない。


「じゃあ職をください」


 ばあさんは口を閉ざすと目をそらした。やる職もなかった。


「鬼でも退治しな!」


 そう言ったのは、偶然前を通りがかった村の子供だ。仮にも年上を相手に威勢のいい子供だが、当然ながら本気で言っているのではない。そんなことできるわけがないだろうとニートの少年を馬鹿にしてからかっているのだが、根っからの馬鹿にはそれが伝わらなかった。

 純粋ならざる子供の目を見て彼はふと考え、いい結論を導いた。


「村人には感謝されるし、財宝ざっくざく! それいいな!」


 いいと言っても、自分に都合がいいだけの妄想話。鬼の怖さも知らないくせに。

 あまりの楽観ぶりに怖くなったのか、少年をからかうだけのつもりだった子供は一目散に逃げ出した。暇を持て余している小人の酔狂に巻き込まれてなるものかと思ったに違いない。

 彼はきっと大成する。本物のバカには関わらないのが一番だ。


「お供を連れて行きたいです。村に手すきの若者はいませんか?」


「暇人はあんただけだよ」


 ばあさんに言われて少年、さて困った。鬼退治をするのはいいが、一人きりだと骨が折れる。

 それに聞くところによれば、村を苦しめる鬼はその辺の野山を根城にしているのではなく、海を渡った先にある鬼が島にいるという。今の季節、天候も崩れやすいだけじゃなく日本海は荒波だ。かなづちな少年は自力で舟をこぎたくなかったし、乗る舟もなかった。


「では財宝を分けるという条件で何人か同行者を募集しようかな」


「あんたが募集をかけて人間が集まるくらいなら、とっくに村は救われてるよ」


 それもそうだと少年は納得した。彼は昔から友達に恵まれず、この指に誰もとまらない子供時代を過ごした。

 ちょっと大きくなったくらいで人望は増えない。むしろ減っている。


「しょうがないね、これをあげるよ」


 ばあさんはそう言うと、農作業のおやつにと持ってきていた大豆を詰め込んだ袋を少年に渡した。節分なら投げるのにちょうどいいが、二月は先だし豆で鬼退治はさすがにちょっと難しい。

 ずっしり重いが、どれだけあっても大豆は大豆なのだ。鉄砲玉でもなんでもない。


「ありがとうございます。これで鬼にも勝てますか?」


「勝てるかどうかは全部お前の努力次第だよ。ものに頼っちゃだめだね」


「じゃあ自分の力で頑張ります。きっと勝てますね!」


 たった一袋の大豆をもらって大満足の様子だが、もしそれが本当に鬼に対して効果があったのなら、村人達は鬼を恐れることなく暮らしていたことだろう。いわしの頭も信心からということか。なんにせよ能天気は彼の得意技である。それで鬼もまいってくれるといいが。


「でもなんとかなるさ! 今までもなんとかなってきたからな!」


 向こう見ずで世間知らずの彼が意気揚々と村を出て数時間のこと。


「お、犬じゃん」


 とぼとぼと道を横切る野良犬を見つけた彼は、首を伸ばして少しばかりテンションを上げていた。

 ここまでの道中、草むらに見かけたキジとサルには投げ与えた大豆を食うだけ食われて逃げられた彼だったが、今度ばかりは上手くやりたい。やれなければ一人で鬼が島へと乗り込む羽目になる。それだけはごめん被りたいところだ。


「ほら大豆をあげるぞ、僕についてくるんだ」


「イヤデス」


「この犬喋った!」


 不思議に思って様子をうかがうと犬は犬でもペット型ロボットだ。

 飼われているのがいやになって、どこかの家庭から逃げ出したのだろう。


「でも考えようによってはすごく強いぞ」


「ワンワン」


 返事をするように犬が電子音声で鳴く。その従順ぶりに少年は大満足だ。

 所詮は単純なプログラムだが、日々寝て暮らすニートの日常も大差ない。一人より二人のほうがいいに決まっているし、連れて行けば鬼の気を引くくらいはできるだろう。


「それにこれなら大豆もやらなくてよさそうだし安上がり!」


「…………」


「……あれ、止まった」


 大豆はいらないが電池はいるのだ。どちらかといえば電池のほうが高くつく。

 無一文の彼は投げかかった大豆を片手に頷くと、ここでは何も見なかったことにして道を急いだ。

 と、すぐに足を止めてしまった彼は体力がない。

 すでに今日何度目かの休憩に汗を流す。大豆も全部食べた。


「お兄ちゃん待って!」


「誰かと思えば桃姫か!」


 なんと、驚くことに妹が追いかけてきたではないか。しかもなんだか、いつになく上機嫌に見える。

 まさか遠く旅立つ兄が恋しくて、着の身着のまま追いかけてくれたのだろうか。

 それは即座に否定しておいて、しばらく待ってと彼女はぜえぜえ荒れる息を整えてから言った。


「鬼さん仕事くれるって!」


「え、うそ、ほんとに?」


「警備の仕事! 立ってるだけでいいって!」


「なんて楽そうな仕事! 鬼が島万歳!」


 こうして彼は村に帰らなかったし、鬼が島の鬼を退治するどころか鬼が島の鬼に従事した。

 無論、根が無精者である彼の警備の仕事ぶりはお粗末で、本物の桃太郎が鬼が島に渡ったときには誰何すいかもせずに素通りさせたという。

 めでたしめでたし。







<作者コメント>

乙終:有名な昔話をテーマにした渾身の短編です。どーでしょうか。



<一言感想>

峰岸:結局これって現代話なのか昔話なのか……。ともかく、主人公を女の子にしたら完成度が高くなると思いますね。仲睦まじい姉妹。いいです。うん。


美馬:終わり方が強引ね。それに尽きるし、そこさえ変えてくれれば私は好き。


赤松:おい! 妹はやっぱりいいな!


榎本:この主人公の少年だけど、マゾっけあるよね? それって書き手のあなたもそうってことだよ。


乙終(姉):どうせなら姉を出そうよ。

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