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うねる波は激しく、漆黒の底知れぬ闇を持つ。
闇の中では不気味な雰囲気が漂い来るものを死の国へと誘う。
怪物にも見えるそれはまるで今までの恨みを吐き出すかのように、怒りと哀しみに包まれていたーーー
もう俺はここには居られない。お別れだ。
もう、会えないの、、、?イヤよ、私を捨てないで、、、
ーーあの日、私は運命の人に出会ったの。
初めて見るその人は誰よりも輝いて見えて、一瞬で恋に落ちてしまった。彼を見ていると胸が高鳴って、顔が熱く火照ってしまう。誰よりもかっこよくて、優しくて。私は彼がだいすきになってしまった。彼も私のことを好きになってくれないかしら、、、。そうなったらもう死んでもいい。
ーー俺は、仕事のはずだった。憂鬱な筈だったのに、いつのまにか毎日差し入れをくれる彼女に会うのが楽しみで。でも俺には妻も子供もいる。好きになるわけには、いかないんだ。いけなかったんだ、、、。
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「新鮮な魚が入ったよー!どうだいこの艶!」
「焼き立てだよ!寄って行きな!」
「そこの旅人さん!ちょっと一休みして行きなね!」
ここは佐渡。旅人が行き交う盛んな漁師町である。俺がこの街にはるばるきた理由はある大仕事を頼まれたからだった。
カンッカンッーー
木と木がぶつかり合う音が辺りに響く。
「やぁ。久しぶりだな」
組まれた足組の上で木槌を振るう大将に声をかける。
「おぉ来たか!待ってたぞー!早速なんだがそこの竜骨見てくれないか?」
「あぁ、分かった」
早速仕事である。
竜骨とは船底の造材の一つであり、造船の要となる重要な部分だ。
「こりゃまたでけえな、、、よくこんな木材手に入ったな」
「すげえだろ。こないだ市場の大一番で売られててよー。これだと思ってな」
竜骨は一本の木から削り出すのでなかなか大きい船は作れないのだが、これはまた滅多にお目にかかれないほどの上物だった。
そう、俺は船大工として仕事を頼まれはるばる向かいの柏崎からやってきたのだ。
「しっかしよー大将、これはどこに納品するんだ?」
こんな巨船を買うところなんてそうそうないものだが、、、
「あー、将軍様だ。」
「将軍様!?そりゃすげえや、大仕事だな」
「おう。しっかり頼むぞ!」
そんなこんなで俺の大仕事は始まったのだった。ーーーーーー
俺の家は海を挟んで向かいの柏崎にある。だからここでの仕事は長期滞在となる。女房も子も置いてきたので寂しいことこの上なかった。そんなある日のこと。
「大将さん!差し入れ持ってきましたよ!」
「おう!いつもすまねえなあ。おいてめえら!お弁ちゃんが差し入れ持ってきてくれたぞ!作業は中止して昼飯だ!」
近くに住む漁師の娘のお弁が差し入れを持ってきてくれたのだった。
俺はその娘に目を奪われた。なんて美しい娘なんだろう、と。
それから俺は、時たま差し入れに来るその娘に会うのを楽しみに仕事に励んでいた。
あの日、私は父に頼まれて造船所に差し入れを持って行ったの。そしたら初めて見る男の人がいた。すっとした顔立ちで、少し不思議な雰囲気の人で。私は見た途端に心を奪われたのが分かった。その人と話しているととてもドキドキしてしまって、、、。
「ね、ねえ、藤吉さん。今度一緒に、あの、どこかへ出かけませんか?その、ふ、2人で、、、」
そう誘うのにさほど時間はかからなかった。OKの返事をもらった時はほんとに嬉しくて、もう死んでもいいと思った。
それから私と藤吉さんはちょくちょく二人で出かけるようになった。だんだんと出かける回数が増えて、一緒にいる時間も増えていった。どこから見ても恋人同士。でも実は、私はまだ気持ちを伝えられていなかった。
「ねえ、藤吉さん。」
「なんだい?」
「あ、その、、、、。やっぱりなんでもないわ」
「?そうかい?あ!お弁さん、こないだのさあ、、、」
どうしても言い出せなかった。だって彼は結婚していて、子供もいたから。私のこの想いは叶えてはいけないものなんだって分かっていた。
そんなある日のこと。
「お弁さん、俺、あなたの事が好きだ」
信じられなかった。私のことを、好き、、、?もしかして私がそれを望みすぎたから幻覚を見ているのかしら。
「、、、ほん、とうですか、、、?」
そういうので精一杯だった。
「本当です。俺はお弁さんが好きだ。」
待ちに待った言葉だった。絶対に聞けない言葉だと思っていた。
涙が溢れ出て止まらない。もう気持ちを抑える事ができなかった。
「私も!藤吉さんの事が好きです!好きで、好きで、たまらないんです、、、!」
その夜。私と藤吉さんは結ばれた。とても幸せだった。でも、その幸せは長く続かなかったーーー
去年のアンサンブル曲の書きかけアナリーゼがあったので投稿してみました。
短くなると思いますがお願いしますm(_ _)m