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97.混乱の終息

今回も開いてくれてありがとうございますヽ(´▽`)/

 お菓子作りイベント前日に外からやって来た参加希望者が生み出した混乱も収まり今はモールの隣に新設された多目的広場の簡易宿泊施設にある食堂に人が集まっていた。


 元々モールに宿泊するだけの余裕も無い人たちも多く馬車で寝泊まりするのを前提に食料を持参している家族がかなり居るのだが折角自分達の為に用意してある食事があると言うのならそれを食べないなんて勿体無いと値段を確認しながら列に並んでいたりする。


 初めて食べる料理に口を揃えて美味いと言っているのが聞こえるのだが店の外まで用意されたテーブルも満席であるにも関わらずまだ口に出来ない人の方が圧倒的に多かった。

 そして椅子に座れない客は皿を持ったまま立ち食いしたり中央の一段高い広場の縁に腰を下ろしてその味を堪能している。

 注文を受けた零司は調理する事無くその場で無限倉庫からコピーして取り出すだけの『実在する何処かの一分もしない内にラーメンを提供する店』の様なスピードで応答しているのだが最後尾まで到達するのはいつになるのか見通しが付かない。


 理由は家長が最初にひとつ頼んでそれを家族で分けて食べたら美味しくて次の料理を食べる為に直ぐにまた並ぶと言うのを繰り返しているからである。

 人々の治療が終わったネコは零司の命令で皿の片付け(回収)に回っていたが人々はネコが近付くと皆深く頭を下げて感謝の意を示したりする。


「モールより()()が来ました。如何致しましょうか」

 エルはイーノが寄越したメモを受け取りそれを零司に読み上げる。

 ホテルからやって来た従業員がネコを見つけてイーノの所に誘導したらしい。

 窓口で零司の名前を出すと、パニックか全員で礼拝の姿勢になり動かなくなる可能性があるのでメモで伝えて来たのだ。

「そっちの扉から連れて来てくれ」

「畏まりました」

 護衛と言う職業柄上司に対して姿勢を正して答えるエル。

 馴染むのはまだ時間が掛かるかなと零司は考える。


連れ(連行し)て参りました」

「二人ともよく来てくれた」

「良かった……」

 零司の姿と声を聞いた二人はその場にへたり込みそうになっている。

 二人は見た事の無い厳しい目付きの女性に睨まれて恐ろしかったのだ。


「何があったかは分からんがまあ座って楽にしてくれ」

 零司の隣で椅子に座るラナが二人を不思議そうに見上げている。

 二人は零司の横で自分達に対して面と向かって座るラナの事は気になるが今は仕事で零司の話が優先だとチラッとひと目見ただけで零司に目線を戻す。


「お前たちには今晩だけここの二階にある宿泊施設の面倒を見て貰いたい。ここは簡易宿泊施設で寝るだけの部屋しかないから一度上に行って一通り確認してからここに戻ってくれ。細かい話はそれからだな」

 説明しながらも注文の料理を次々と用意する零司は二階への鍵を無限倉庫から取り出して渡した。

 二人は入って来た扉から出るとその隣にあるドアを開けて階段を登って行った。



「うーん、ホテルとは大分違うんだな、それに街中(まちなか)にある『ホテル』よりも余裕が無いな」

「こっちは簡易宿泊施設だって言ってたしもしかしたらサービスは何も無いんじゃないか?」

「部屋も二種類でベッドのサイズと部屋の大きさが違うだけだから単純に人数が違うだけだな」

「そう言えば無料で貸し出す『ばんがろー』があるって言ってたけどそっちはどうなんだ? どんな違いがあるのか調べてからじゃないとどんなサービスが必要か判らないな」

「よし、こっちは分かったからその『ばんがろー』へ行ってみよう」


「こっちの方が良くないか?」

「部屋も広いし家具を持ち込めば普通に生活出来るな」

「何でこっちが無料で向こうが有料なんだ?」

「違いがあるとすればベッドがあるか無いかだろうな」

「あー確かに。こっちだと建物以外は全て自前で向こうならきちんとしたベッドがあるって言うのが外から来る客に対してのサービスになるって事だな。だけどだったら何故こっちにもベッドを置いて少し高めの価格にしないんだ」

「それは聞いてみないとわからないな」



「戻りました」

「ご苦労。ここの料金設定やサービス内容についてでも何でも意見を言ってくれ」

 ラナが座る席の向かいに座り料理を次々と出す零司を相手に話が進む。


「向こうが無料なのは今回集まった人たちはお菓子作りが目的で余りお金を持ってないのと利用者自身が持ち込むのを前提としてるからだ。こっちはきちんと休みたい人用だからそれなりの寝具になってるが寝具だけだから料金も据え置きで将来的には原価と維持管理、建て替えまたは解体費用が出れば良いくらいにしか考えてないな。それに……」

「それに?」

 ラナも一緒に声に出ていた。

「夏にはここにでかいプールを創るつもりだし金を取るならそっちの利用料だろうな。ははっ」

 二人は学校の一期生なので去年夏に水泳の授業をしている。

 その際に学校にある小さなプールを使ったのでプールが何なのかは知っていた。


「それじゃ今回こちらの広場では儲けは考えて無いんですね?」

「概ねその通りだ。将来的にはわからないがな」


 そんな感じで簡易宿泊施設の部屋に関してはホテルの普通グレードのファーリナクラスと無料のバンガローの間をとった価格になり、安過ぎて人が溢れる状態になるのを避けるとした。

 サービス内容は部屋の手入れとクレーム対処はもちろんだがそれ以外は精々敷地内説明だけで良いのではないだろうかと言う訳でホテルから派遣されて来た二人は零司から広場内の説明を聞きながらメモを取っている。


「それでは開店に向けて準備してきます」

「頼んだぞ」

 零司は二階へ向かう二人を見送ると作業を続けた。



◻ 大口商取引窓口


「こちらのお客様が最後になります」

「商品も何とか足りたようですね」

「手続きが終わり次第倉庫に行きましょうか」

 窓口で対応していた二人の事務員と後ろで状況を見ていたサーラは手続き終了と共に受付窓を閉めて倉庫へと向かった。


「ハスラさん、こちらは無事終了しました」

「お疲れ様サーラさん。こっちはまだ積込みが三台ばかりあるけど特に問題は無さそうだね」

「そうですか、それは良かった。こんなに順調な滑り出しが出来たのは皆さんの協力のお陰です。本当に有り難う御座いました」

「ははは、サーラさんが頑張ってくれたからさ、俺たちだってそれに応えたいからね。これからもよろしく頼むよ」

「はい、こちらこそお願いします」


 そして最後の馬車の荷積みが終わると従業員と積込場に残って話をしていた商人たちを呼んで休憩に入った。

 モール終業時間を前に始まる休憩は簡素なテーブルと椅子、甘い和菓子のようなお菓子とお茶があった。

 それはサーラが事前に用意した物であり外の人間である商人の目の前で取り出したりなどしない。


 お菓子は花の形をしていたり丸い形をしているが作ったのはもちろん楓だ。

 その出来映えは一流品でありこちらの世界では和菓子の様な繊細な作業を伴う菓子職人など存在しないので一般にはまだ出回っていないのだから驚かれるのも当然だ。

 お茶は零司がこちらの世界で見つけた茶葉で作った物で今のところ大量生産まではしておらず商品化は出来ていないが質が良い日本のお茶と変わらずサーラも気に入っていた。


「本日は最後までお付き合い戴き有り難う御座いました。ささやかなお礼ですがどうぞお召し上がり下さい」

 商人たちは突然のプレゼントに喜んでおりサーラの真似で茶を口に運び、爽やかな後に残らない上品な味と香りを楽しむ。

 次にお菓子とは思えない花形の鮮やかな色合いの和菓子を竹製の小さなナイフで切り取り口へ運んだ。

「なっ!?」

 商人たちは今まで口にした事の無い甘味に目を剥いた。


 次に花形のお菓子の隣にある丸い形をした薄黄色い焼き菓子にナイフを入れると薄い皮の様な層の中に空間がありそこに薄黄色いクリームが見えた。

 これは何だろうと四分の一に切り取って口に運ぶとこれは表面がサクサクの軽い生地で中のクリームは濃厚な旨味を持った甘い物であった。


 茶菓子の乗った小皿を持ち上げまじまじと見つめる商人たち。

「如何ですか? お茶は零司(ご主人)様が葉を探して作られたもの。茶菓子は楓様自らお作りになられたものです」

 サーラは本心から嬉しくて笑顔を見せる。

 その笑顔は純真であり商人たちには可愛い娘や孫を思わせた。


「これは素晴らしい、さすが神々が作られたものですね。こちらの花の形をしたお菓子はナシャの花でしょう? 僅かに香るこの匂いが心を(くすぐ)りますね、女性に出したらきっと大喜びでしょう。そしてこちらは純粋に甘くて美味しい。口にした人を一瞬で幸せにしてしまいます。これは商品なのですか?」

「丸いお菓子はもう直ぐレストランに並ぶ予定のお菓子で名前をシュークリームと言います。お茶と花形のお菓子は今のところ量産出来るまで行ってませんので今はここでしか口に出来ません」


 商人たちと世間話や商売の話などをしていると終業のメロディが流れ取引窓口も店仕舞いになる。

 商人たちは良い土産話が出来たと感謝して今後のお付き合いが良い物に成ります様にと願い両手で握手して解散した。


「美味しかった~」

「本当だよね、あんなに美味しいお菓子を普通に食べられるなんてサーラさんが羨ましい」

「ふふ、良ければ毎日でもお出ししますよ」

「「ホントに!?」」

「ええ、でも毎日だとあっという間に太ってしまうらしいですが」

「「そんなー!」」

 扉を締め切った倉庫内に響く女子二人の声に微笑ましく笑っている男性スタッフたちの姿にサーラは安堵していた。


 自分は決して人付き合いが上手な方では無いのを知っているし言葉が硬く普通の女の子の会話が苦手だ。

 五人の兄を叱咤し続け近隣の年配の方々に優しくして貰い感謝を正しい言葉遣いで返せる様にと言葉には殊更気を使って来た。

 同世代の女子は近所におらず馴れ合った会話自体が良く解っていなかったのだ。

 そんな自分が零司の願いを叶える為とは言えこうしてひとつの部門を任されてチーフとして他人に指示を出すまでなら良い。

 明るいローゼの様に信頼されるチーフになれるか心配だった。

 だがふたを開けてみれば皆気の良い人ばかりで心配していたのが馬鹿馬鹿しいと感じられる程だ。


 まあ心配すべきは周りからの自分に対する心象よりも如何にこの場所をきちんと動かすかであり目を行き届かせて問題があればそれを解決するために力を注ぐ事が求められていると理解してる。

 元々このショッピングモールがファーリナの街を救う為に建てられた事を思えば自分がここですべき事も人々の為であり零司もそれを求めているのだ。


「それでは皆さん後片付けを済ませて今日は終りにしましょう」

「「はい!」」


 明日は日曜日、授業が無いので丸一日営業するかと思えば精々半日営業するだけの商品しか確保出来ないのでそれは無い。

 これはこの先も恐らく変わる事は無いだろう。

 何故なら広大な果樹園ですら半日持たせるだけの商品しか確保出来ないのだから。

 それに利益還元事業により数年後には他の街も果物の出荷が始まるのだから余り大量に販売してもうねりが大きくなるだけなので程々にするのが肝要だろう。


 それに需要が高いとは言っても商人が用意出来る金額などこの世界を基準に考えれば高が知れているのだ。

 いずれは王都の方からファーリナに近い街まで輸送限界距離が短い果物を食べにやって来る客の増加により多くの資金も得られるだろうが商人に渡る数は変わらない。

 平等の概念が普通に通じる人々だからこそ平和だった世界でありこの窓口も極力一件辺りの取引数を平均化している。

 最終的な客(消費者)も奪い合いをしないので店頭価格が跳ね上がるなんて事も起き難い。

 今日は初日と言う事もあり通常よりは商人が多かった筈と言うのもあるのだが出荷量は足りなくても分け合う事が出来るので今後は大体今日と同じ程度で充分足りると見込んでいる。


 ただしここ、ファーリナの学生はいろんな意味で零司(魔王)に毒されているので将来に亘って同じ平和が続くとは言い切れない。

 その証拠に夏のプール開設が穏便で済む筈が無いのだから。

さーて、どんな企みだろうか。グフフ

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