96.混乱の昼下がり
今回も開いてくれてありがとうございます。(*´∀`*)
零司と楓は婚約した次の朝から始めた事を毎朝楽しんでいた。
子作りするにはまだ早いので浄化で綺麗にしてはいるが回復を使うと日焼け跡が消えてしまうので別の場所の痛みは本来のまま実感として受け入れている。
ただこれから先に回復を必要とした時はどうなるのだろうかと考えてしまうがその時はまた零司に楓の初めてを楽しんで貰えば良いと思えるくらいには零司を求めているし毎晩零司のベッドで眠るのが当たり前で今まで抑えていた分だけ募った気持ちのたがが外れた今は凄い事になっているのだ。
それをコソコソと薄いカーテン越しに窓から覗きこむ複数の見えない影があるのだがこれ以上のリポートは避けようと思う。
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異世界ハイキング時のシュガードーナツ号で約束したドーナツ作りは、どうせならと領主のシエルに了解を取り街のイベントに仕立ててモールの門のスピーカーから昼の鐘の後に大々的に宣伝した。
【(ピンポンパンポーン!) 皆様にお知らせします。来月六月二日日曜日、午前九時から午後五時まで、楓様主催によるお菓子作り教室があります。どなたでも参加出来るので参加希望の方は当日学校までお越し下さい。参加に必要な物は全てこちらで用意されていますので持ち込みは何も必要ありません。繰り返します。来月六月二日……】
楓は街の人たちに教えるのに自分一人で出来るとは思っていないので学校の生徒たちに指導役の募集をしたところほぼ全員に近い生徒が参加してくれる事になった。
そして次の日曜日に零司に用意して貰った機材と材料を校庭に並べて指導員の教育を行った。
出来上がったドーナツはリングとボールの二種類で砂糖をまぶしたり練乳を掛けてみたりとレストランのドーナツ程では無いが参加者全員が笑顔になる程度には上手く出来た様だが、一部男子が棒状ドーナツの先に練乳掛けして女子に見せたら叩き落とされ踏みつけられると言う凄惨な場面もあったらしい。
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六月一日土曜日午後、モールの大口商取引窓口が開業する。
零司は開業直前の昼休みに取引窓口へ向かったのだがそこから見えた景色に唖然とした。
「どうしてこうなった」
モールのロータリーと門前の中央広場だけでなく街道沿いに馬車と人が溢れている。
その様は去年の戦の女神感謝祭(焔の魔神討伐記念日)の後日の様な有り様で窓口の様子見どころでは無い。
原因を知る為にデータベースを構築したところ明日の『神のお菓子作り』に参加する為だと判明した。
目的が判れば対処も決まるが実行は領主のシエルに相談してからだ。
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「済まん、まさかここまで人が集まるとは思わなかった」
「謝らないで下さい、それは私も同じです。しかしこれはどうしましょうか」
「一応の案は考えて来た」
「モールをもうひとつ建てるのですか?」
「いや、今回は広い場所と宿泊施設があれば良いだけだからモールの隣に場所を用意する。ついでに夏に予定してるアレの下地にしようと思う」
「アレですか」
「ああ、アレだ」
零司はモールの事務所へ転移すると事務仕事をしていたローゼに案内放送を頼んで次へ移動する。
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ここはモール上空三百メートル。
零司はそこから焼けて真っ黒な大地を見下ろす。
菓子作りイベントに参加する外来客に絞って構築したデータベースを確認して今回の方針を決める。
基本はキャンプ場の真ん中に広い空き地がある感じで創り上げる。
モールの西側隣に校庭の十倍の面積を持つ綺麗に整地された土地を用意すると真北に二階建ての簡単な宿泊施設と中央に一段上がった場所を用意して周囲を駐車場とした。
その外縁をモールの様に高さ一メートルの白い壁で囲んでその周辺に木々を配置してシールドで覆う。
中央段差の直ぐ外に木々を並べて配置し、その外側を馬車が抜ける通路とする。
更にその外側にも並木で取り巻いてその外側と白い壁の間に小さな一軒家くらいのバンガローを余裕を持って外周に並べてから適当に日陰が出来る様に木を配置する。
バンガローの隣には馬車の駐車場スペースと馬止め、バンガローの直ぐ裏にある白い壁に水路を組み込み壁から各家の横に水汲み場を設けて簡単な宿泊が出来る程度に調整して行く。
トイレはこの世界の一般的なものにしたので戸惑う事は無いだろう。
「今回はこんなもんだろ」
作業を始めてから五分もしない内に出来上がり、最後に予備的な二階建ての簡易宿泊施設の北とモールの厩舎横を抜ける通路を設置した。
馬車の流れはモールの門を抜けてロータリーに入ると直ぐに左の通路を進みモールの厩舎を右に見ながら奥へ行くと正面左に簡易宿泊施設兼食堂、そこから左の方へ奥に一段上がっただだっ広い広場が見えて、更に手前左の通路を進むとその先からずっと中央の広場に沿って通路とその両側に並木道、外周に避暑地にある様な余裕を持った空間にバンガローが建ち並び延々と続いて最後は広場を一周して簡易宿泊施設の裏を通り元の通路に戻る。
そして零司の作業が終わった頃に門から案内が流れる。
【(ピンポンパンポーン!) お菓子作りイベントに参加する皆様にお知らせ致します。繰り返します。お菓子作りイベントに参加する皆様にお知らせ致します。明日予定されていたお菓子作りイベントの会場は、来客が想定を大きく上回った為、会場を変更しました。新しい会場はショッピングモールの門を通り抜け、直ぐ左にある通路を抜けた先の多目的広場へ変更されました。そちらに駐車場と宿泊施設が用意されていますので今から順次移動をお願い致します。繰り返します。お菓子作りイベントに……】
案内が流れるとモールのロータリーで身動き出来なくなっていた馬車から順に新設されたばかりの通路を抜けて多目的広場へと進んで行く。
先頭の馬車は多目的広場へ入ると木造二階建ての大きな建物に小さな家が綺麗に建ち並ぶ空間を見て唖然としながらも後ろがつかえない様にと進んだ。
目の前で手招きしている変わった帽子を被った少女の誘導で最初に見えたその小さな家の横に馬車を進めると馬止めと水場が見えたのでここに止めるのだろう。
馭者席を降りて通路側を見に行くと後に続いていた馬車が後ろの通路を通り抜けて隣にある同じ家の横にも馬車が入っているのが見えた。
次々と同じ様にして姿を消して行く馬車を見てここが自分たちに与えられた場所なのだと解り、御者はこれでやっと休めると荷台から馬を外して馬止めに繋いでやると馬はのどが乾いていたのか早速水桶の水を飲み始めた。
荷台から降りて来る家族だろう人々は背伸びしたり座り込んだりしながら回りを見ていた。
その殆どが初めてファーリナの街を訪れた人ばかりで街中と違いあまりにも整然としたその造りに『さすが神に愛される街』と感心しながら一休みしている。
バンガロー内は窓ガラスを使っているので光が差し込み明るくリビングとキッチン、奥には寝室と明るいトイレがあったが全て簡単な造りであり長居する目的で建てられた物では無いのがひと目でわかった。
そして建物以外の全ては持ち込み品で賄うのが大前提の何も無い空間だったが馬車で寝起きするよりはずっとましである。
次々とやって来る馬車は同じ様にバンガロー横に停めていき、残り僅かな台数が多目的広場へ向かうのみとなったが未だにリーデルからファーリナへ向かう馬車はポツポツと続いている。
この時点で用意した駐車場の半分すら程遠い程度の数だがイベント当日にはもっと来る可能性もあるので油断は出来ない。
【(ピンポンパンポーン!) 多目的広場にお集まりの皆様、只今より利用に関する簡単な説明を致します。この多目的広場には宿泊施設が二種類ございますが、いま皆様がいらっしゃる小さ目の家『バンガロー』は利用無料とさせて頂いております。もうひとつ多目的広場に入って直ぐの二階建ての建物では安価な簡易宿泊と一階では夕方より簡単なお食事も用意致します。それ以上のサービスはショッピングモールでお求め頂きます様お願い致します。ただし大変な混雑が予想されますのでお時間には充分な余裕を持って行動頂きます様お願い致します。繰り返します。多目的広場にお集まりの……】
▲時間を少し戻す
零司はバンガローのコピー設置が終わった後でネコに馬車の案内をやらせている間に二階建ての簡易宿泊施設の整備を進めていた。
伽藍堂な二階に間仕切りをして半分には数人で使うのを前提とした大き目の簡易ベッドを据え付ける。
残りは二人が寝られる程度のベッドと着替えが出来る程度の広さがあるだけのカプセルホテルよりはましと言った程度の部屋を用意した。
そしてここもホテルと同じく階段を上がって直ぐの場所に小さいながらカウンターを設置してホテルから二人借りて臨時で対応して貰いその後は零司たちがやれば済むだろう。
次に開放型の一階に降りて食堂を準備する。
最初にカウンターと調理場を隅に用意してからテーブルセットを並べて建物の外にも並べた。
青空天井だがシールドがあるので雨と強風、気温変動の心配は無い。
販売するのは海の家で出したメニューから人気が無かった焼そばと明日の菓子作りの邪魔をしない様にデザートを外しておけば良いだろう。
ここの販売をするのはそのメニューを出せる零司がやる事にして手伝いとしてネコとルールミルたちにあの五人にも手伝って貰う事にした。
「ここもこれで良いな」
開店まではカウンターの窓口を全て閉めておいて地上三百メートルに転移し多目的広場を見渡しながら大きな問題は発生していないのを確認。
昼休みが終わらない内にサーラが居る大口商取引窓口へ転移した。
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「待たせたな」
「いいえ、零司様に対処して頂けなければ何も出来ませんでした。ありがとうございます」
サーラは授業を終えてモールに来た時に身動き出来ない程に馬車で一杯になっていたのを見て零司に相談しようとしたが零司は既に対処を始めたのを知り本来するべき仕事に専念していた。
「それで準備は良いのか?」
「はい、いつでも行けます!」
真剣な眼差しで零司を見上げ応える。
零司はまだ閉めてある倉庫の扉の前に並ぶスタッフに目を向けると全員が背筋を伸ばし自信を持って零司を見つめ返している。
この数日の間に確りと仕込まれたサーラが抜擢したスタッフなのだから当たり前だ。
サーラ直下の事務方は二人、どちらも女性で同じクラスのあの二人である。
荷運び担当は男三人でその内一人はサーラの兄であり妹を誇らしく思っているのが解り過ぎるくらいに胸を張っている。
それと果樹園のチーフのハスラもスタッフ二人を連れて実際の流れがどうなるのかを見学に来ているがサーラたちが仮想訓練を積んで来たとは言え実践で生じる初期のトラブルには人手が必要でありそんな時には手を貸す積もりでは居る。
そして午後一時の鐘が鳴り、倉庫の扉が放たれた。
先頭に立つサーラの目の前には整然と順番待ちで並んだ馬車と、その隙間にすし詰めになってこちらを見上げている商人たちが居た。
さっきまで雑然と話し合って居ただろう商人たちは先頭に立つ小柄な少女を見つめてそれがサーラである事を確認すると一斉に歓声と拍手で沸き立つ。
商人たちは既に何度か商店の方へ小口で買い付けていたし、商売人である以上モールの主要人物の人事もそれなりに情報を持っていた。
当然そんな話の中で注目されているのが『魔王零司に望まれ寵愛を受ける才女のサーラ』である。
このモールに出入りする商人でサーラを知らない者など居る筈が無いのだ。
サーラが深くお辞儀をすると商人たちは静かになる。
「本日は楓様とリリ様のショッピングモール大口商取引窓口の開店にお集まり戴き誠に有難う御座います。本日より当ショッピングモールで一般客向けにだけ取扱って参りました数々の商品の中から一部を業者向けに卸売価格で販売する事になりました。今まで頂いた数々のご要望を元に準備して参りましたがやっと安定して大量販売出来る目処が付きこうして皆様の前に商品を並べられた事に心より感謝致しております。これから末長くお付き合い頂けます様、スタッフ一同心よりお願い申し上げます」
もう一度深くお辞儀するサーラに続きスタッフも揃って深くお辞儀をした。
商人たちはダリルなどチーフクラスの人間からサーラが才女であるとは聞いていたのだが成人前の少女でありもう少し可愛気のある挨拶を予想していた。
しかし実際に目にしてみれば、凛々しく堂々としたその有り様に大店の商会主だと言われても納得してしまう程に素晴らしい挨拶であり、その辺の商会では太刀打ち出来ない存在だとこの挨拶だけでハッキリと解ってしまった。
将来このモールを任されると言うのは伊達では無いのである。
鳴り響く満場の拍手に確りと姿勢を維持するスタッフ一同。
拍手が一段落して初めて顔を上げたサーラ。
「盛大な拍手有難う御座います。それではこれより販売を開始致します」
もう一度お辞儀をして場が盛り上がった後にサーラはスタッフに倉庫を任せて事務方二人を連れて受け付け窓口まで戻って行く。
「カッコ良かったわよ」
「ありがとうございます」
笑顔で返すサーラは自分の執務室では無く二人が担当する取引窓口で見守る事にした。
何しろ初めての事なので予想していない事態はいつ起きてもおかしくないのだ。
そう思えば執務室でただ待っているなど出来る筈も無い。
零司はサーラが事務室へ戻って行くのを確認すると倉庫で待機している果樹園のチーフ、ハスラに後を頼んで多目的広場上空に転移する。
ネコは相変わらず一人で案内を続けているが問題があれば直接心で伝えろと言ってあるので大丈夫だろう。
学校に戻ると午後の授業に遅れて入るが講師が午前中の授業を覚えていたので代理として進めてくれていた。
「遅れて済みません、それに代理ありがとうございます」
「いえいえ、大丈夫ですよ。何か街の方が大変だったそうでそちらの対処をして居たと聞いてますので気になさらないで下さい」
「そう言って貰えると助かります。それじゃ授業を再開するぞ」
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午後の授業も終わり零司は職員室で昼の状況を詳しく説明する。
楓にはいつも通りに館の住人の食事の世話と明日の為にゆっくりしておいて欲しいと伝え、白亜の館の住人で手伝って貰う者の名前を告げてからモールの事務所に転移した。
歩いてホテルのカウンター裏に出るとバンに簡易宿泊施設の臨時職員について相談する。
「まあ兄ちゃんが回復してくれて臨時収入もあるんだから誰だってやるんじゃないのか?」
「必要なのは二人だ。そっちで決めて終業後に食事を摂らせてから現地へ向かわせてくれ」
多目的広場上空に転移した零司は地上を眺める。
さすがにこんな時間になると外から馬車が来る事も無く多目的広場でも馬車の動きは無い。
ただアナウンスがあった夕方からの食事の販売には興味がある様で簡易宿泊施設の一階には沢山の人が溢れていた。
そして零司は今までネコから連絡が無いので問題も無いのは判っているが今何をしてるのかまではわかっていない。
ネコを探して走査すると直ぐに見つかった。
簡易宿泊施設の一階、食堂で囲まれて人集りになっていた。
とりあえず問題は無さそうなので一旦白亜の館に戻るとルールミルとイーノ、エルたちを連れて簡易宿泊施設の食堂の厨房に転移した。
そして食堂の方から聞こえる感謝の言葉の数々。
何かと思いネコの方をカウンターを透かして見るとどうやら治療しているようだ。
殆どの年配者は体の何処かに故障を抱えているのは普通でそういった人々の治療をして感謝されている様だ。
向こうは大丈夫だと判って自分がすべき事に集中する零司。
「お前たちには俺の手伝いをして貰いたい」
その一言にエルたちは早速主の役に立てると内心で喜んでいる。
「仕事は食事の提供だ。イーノは注文受付け窓口で客の注文を紙に書いて注文書の空いた部分で割り符を作って相手に引換券として渡せ。料金は一律でメニューは『海の家』で出したカレーライス、チャーシューメン、お好み焼きの三つだ。注文書はエルたちに渡してエルたちは俺のところに紙を持って来たら俺が料理を出すからそれをルールミルが居る窓口に持って行け。注文の紙と料理を運ぶのがエルたちの仕事だ。料理を受け取ったルールミルは相手が持ってる割り符を確認して料理を渡して終わりだ。ただし今回ラナはまだ小さいから見学だけだ。俺の横に座って見ててくれ」
言われて零司の手を握って見上げているラナの左手薬指には指輪が嵌められていた。
ショーケースに海の家で使った三種類の料理のディスプレイを並べ早速皆で自分の位置を確かめながら簡単な練習をしてみる。
「良し、大丈夫だな。それじゃ少しばかり大変だがみんな頼むぞ。終わったら美味しいものを用意してやるから頑張ってくれ」
「はい!」×六
カウンターの窓が開いて沢山の客がやって来た。
「さあ、俺たちの戦いはこれからだ!」
※日本で言われるバンガローは日本でしか通用しない。他の国でバンガローと言うともっと大きなものになり、日本で言うバンガローはヒュッテ等と呼ばれる。
今回はちょっとお下劣でしたねw




