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95.取引窓口の準備と新部門

今回も開いてくれてありがとうございます。(*´∀`*)

 サーラは忙しい毎日を送っていた。

 それは僅か十三歳の少女の生活とは思えない程の忙しさだ。

 しかしサーラにとっては自ら定めた主が望んだ事であり必要とされる事自体が幸せになっていたと言える。

 だがそれを現代日本から見たら誰であっても、例えば極悪なブラック企業の経営者から見てもやり過ぎだろうと思える仕事量であった。

 そんな日々を送るサーラにとってはよりハードな仕事をこなす零司と言う絶対的な存在からすればまだまだ甘く、将来は嫁として迎え入れると約束してくれた主に対してもっと尽くしたいとすら思っている。


 午前中は学校、午後はモール、夜は朝まで自習に近い勉強が通常の日課のところへお風呂の後には新しくやって来た五人の教育を任されていた。

 異世界から連れて来られた彼女たちは一人の少女を除いて十歳程度歳上の者たちばかりではあるが王に対しても堂々と接していた事からも分かるように特に物怖じしたりはしない。

 それは豪快だった母親の影響かそれとも異世界の神の僕であると言う意識からか落ち着いて仕事をきちんとこなして来たという事実に裏打ちされた自信が生み出すものだった。


 もう直ぐ大口商取引窓口を始めるに当たり人員確保や専用書類の作成、取り扱い商品の選定に配置や取引の一連の流れのシミュレートをしたりと零司と一緒に歩き考えるのはとても勉強になり何より幸せだった。

 この事業を絶対に成功させると心に誓い今把握出来る全ての項目をチェックする毎日が続いていた。


 そして今は風呂上がりの異世界組五人を多目的ルームに集めて暇を持て余した住人たちに見守られながら教育を開始したが、零司は街の人たちと新しい技術の導入を進めているのでここには居ない。


 最初の課題は礼儀だろう。

 そう思ってこの館で最も礼儀に詳しい神待宮組に教えを乞うたのは失敗であった。

 最初の日常的な挨拶ですら王宮以上の神を奉るスタイルであり、八歳の子供が居るのに具体的な夜のお世話にまで話が行ってしまい楓が差し止める事態になったが神待宮の育成施設では普通の事だったので分からなかったらしい。

 そういった教育だけで歳を重ね外の文化に触れず生きて来た彼女たちと先日から始まった回復事業で文字通り若返った彼女たちの教育もしなければならないのを思い出して領主のシエルではないがスウッと血の気が引いた楓だった。

 当然ながら礼儀はサーラのスタイルを上限として教育をする事になり休憩を入れながら大体二時間行われ十時を目処に初日の教育を終えた。



 サーラは異世界組の教育が終るとそのままモールへと向かう。

 行き先はもう直ぐ開業する商取引窓口だ。


 モールの事務室から直通のスタッフ用通路を抜けて商取引窓口へ入るサーラ。

 ドアの横にあるスイッチを押すと天井に幾つも設置された小さな照明がスッと光量を上げて自然な感じで明るくなった。

 神になったサーラにしてみれば照明を点けなくても見えるのだが人としての習慣は重要な事だと零司に言われているのできちんとそれを実践している。

 これは人間との間に齟齬が起き難い様にと考えての事で日常生活に於て人智を越える力を使い続ければ感覚が麻痺して人間を見下してしまうようになりかねないと危機感を持っているからだ。

 元々人間のサーラならその傾向は少ないだろうが出来るだけその芽は出ない様にするに越した事は無い。


 サーラは責任者用の大きな机に向かい椅子に座る。

 長時間座る事になるだろうその椅子と机は零司が時間を掛けて創り上げた物で小柄なサーラに対する愛情が籠められていた。

 愛情とは言ってもそれは家族として妹を想う様なものではあったがサーラの零司に対する気持ちを知っている零司には大切な家族として出来るだけの事はしてやりたいと思っているのだ。


 机と椅子は木製で零司が時間を掛けて素材から吟味して組み上げた(・・・・・)物でそれこそ神レベルの精密な仕上がりと滑らかな表面は白亜の館の奥の食堂で使われたテーブルや椅子の様に濡れているかの様な光沢を持っている。

 装飾は最小限に抑えられたそれらは日常的な手入れを人の手で行うのを前提とした造りになっていた。

 それはサーラが神の力を使う事無く維持出来る環境でないと引き継ぎした後が大変になってしまい仕事に支障が出るかもしれないのでそういった所も含めて白亜の館以外では出来るだけ人と同じ生活をさせているのだがサーラは零司を見て力の行使の範囲を学んでいたのであまり心配は要らなかったと言うのが現実である。

 今までサーラが各部署を回っていても客が来たら専属の様に対応していたスラゴーグレードの新しい担当者が一番問題になるだろう食事の運び込みは一階から三階まで各階に繋がる従業員専用エレベーターを設置しているので問題は無い。



 窓口開業の六月まであと僅か。

 倉庫の前に立つサーラは楓の葉とユリの花の焼き印が付いた木箱の山を見上げる。

 商取引の主力商品、異世界の果物を入れる回収前提の箱は当然空であり綺麗な外観をしている。

 これだけの箱を揃えるのにファーリナの職人だけでなく隣街のリーデルにも発注した。

 ここにある箱も外に運び出されたらあっという間に無くなってしまうのは当たり前の様に予見出来る事であり果樹園の倉庫に収まらなかった分がこちらに置いてあるだけだ。

 窓口が開く当日朝にはこの倉庫に次々と商品が運び込まれて空箱が果樹園に運ばれる事で空間を無駄に使わずに済む様にしている。

 取引が始まれば箱が外に持ち出され返って来るまで数日以上掛かるし中には戻って来ない物もあるだろう。

 いまモールにある箱だけでは数日しか持たないと言うのが零司との共通認識だが箱の生産は一日当たりの取引数には全く及ばないので箱の循環が安定するまではサーラの無限倉庫にある百個ひと纏めの箱をコピーして対処するしかない。


 次にサーラは倉庫から積込場を見下ろす。

 そこは屋根しかなく吹きさらしだが地面は荷車が乗る部分だけ枕木(油が浸み込んだ角材)が敷き詰められている。

 そして倉庫は荷車に積み込み易い様に現代物流と同じく荷車と同じ高さになる方式を採用している。

 馬車の荷台は通常一メートル以上の高さがあるので地面から持ち上げるのは結構きつい作業だがこうしてやれば一人で積み込みも出来る様になる。

 ただし荷車は大体同じ高さと言うだけで規格化されていないので平均的な高さなのと調整用の踏み台を用意した。

 

 倉庫と積込場を眺めるサーラの目には商人と従業員が行き交い荷物を積み降ろししている風景が映る。

 他の街の人たちもここの美味しい果物が食べられる様にと零司が望んで創られたこの窓口から世界へ広がるその情景を思い浮かべサーラの心を満たして行く。


 零司の予想では数年はここからの出荷は続くが還元事業による各街で生産された果物の販売が始まればそれなりに取り扱い量も落ち込むだろうと言われ、その頃には他の街にも建てられているだろうこのモールのスタイルを継承した商業施設の出現によるモール自体の客員減少も確実にやって来ると予測している。

 だがそれはこの街に極端な資金集中が起きない様にする為であり絶対に必要なのだと聞かされている。


 それは街の人たちも零司と直接関わりを持つ人々から知らせされている事であり、モールの従業員は恐らくこの世界でかなりの高所得者になっている筈であり所謂バブル成金だ。

 もちろん零司の方でモール独自の所得税と言う形で天引きされてそのまま領主に納められている分があるのだが、それも王への献金と言う形で殆どが流れていた。

 王に渡る資金は国の為に使われるので還元と言う形にはなっているし従業員も充分過ぎる待遇の職場で独自の所得税が街や国の役に立ち、それでも高給である事を思えば感謝する者しか居ない。

 ただ数年後にはバブル崩壊までは行かないが経済の低下がやって来るのでその時までに学校で職人を育て新しい産業を創り上げるのだ。


 そしてモールの経営者としての立場にある零司は実質無給である。

 個人資産は自ら創り出せるので態々この世界の人々から巻き上げる様な利益を求めたりする必要が無いし金が必要ならラチェットが用意すると言っていたので給与を考えていないのは楓やネコも同じだ。

 ただしリリやマルキウ、サーラの様な者にはきちんと給与が発生しているのだがマルキウは今まで金銭を持った事が無く持ち運ぶ必要も無かったので積立てする形で預かっていたのだが先日のポーチを与えた事でその積立ても渡してあった。

 リリとサーラは使い(みち)が無いので貯まる一方である。


 話は戻り、サーラは積込場の下へ階段を伝って降りると足場や柱などを見て回り、造りを確かめて行く。

 ロータリー側に寄った時にモール中央の二階から漏れる明かりを確認する。

 夕方の空より幾分か明るめのその明かりは柔らかく暖かみのあるもので零司もよく利用しているのを知っているが零司は今バーではなくファーリナの中央広場からかなり離れた工房に行っているらしいのが何となく分かる。

 そう、何となく分かるのだ。


 これは零司の眷族であるネコも同じであり今朝の零司の激しい感情はサーラにも伝わっていたので大変な思いをしていた。

 零司はこれについてのコントロールを身に付けるどころかそれが必要なのを知らないので現状では昂った感情は筒抜けである。

 それはつまり肉体的な感覚を伴わない純粋な感情だけを受け取るサーラとネコにとっては……。


 さて、一回り確認を終えたサーラは今回も幾つかの不備を発見した。

 それを一つ一つ解消する策を考えて穴を埋めると実際の流れに沿って思考を繰り返し実際に行動で確認する。

 無理無くスムーズに出来たらノートに書き留めて商取引窓口に採用した従業員と打ち合わせ出来る様にしておく。

 ノートに並んだこうした情報をもう一度全体を通して検証して行くが今回は矛盾や不備は発見出来なかったので今回はここまでにした。



 サーラは自室に戻りシャワーを浴びて浴衣に着替えると今日も日本語の勉強を始める。

 人間であった頃に零司から毎晩朝まで習っていたサーラはきちんと学べる様にと零司から度々回復を受けてほぼ眠る事の無い生活を続けて来た。

 零司が出す課題も眷属化してからは非常に覚えも良くなり理解力も向上して学習速度も上がって来た。

 漢字と言うパズルや間違い探しの様な複雑な文字と単語に文章も読み解く事が楽しくもある。

 この言語の更に奥深い所に短歌と言う非常に高度な最小限の言葉に込められた豊かな表現を知った。


 ひとつの言葉が幾重にも揺らぎ広がり膨大な意味を持って表現される漢字に慣れ親しむサーラの願いはやはり零司の国へ行ってそれを一緒に理解したいと言うこれに尽きる。

 そして叶うならその世界でも零司の役に立ちたいと願っている。

 今のサーラの全ては零司の為、零司に望まれ愛される為にあり、それはあの時の願いのまま『零司が滅びるなら共に』在りたいのだ。 

 そうして今夜も昨日と同じ様に夜明け前から始まった零司の感情の昂りを感じながら朝を迎えた。



 登校すると学校中で女子は婚約指輪の話で持ちきりだった。

「あ、サーラさんおはよう!」

「おはようございます」

 サーラと同じ商業科の女子は少なくサーラを含めて三人しか居ない。


「サーラさんのその指輪って婚約指輪だったんだね」

「はい。でも頂いた時は鍵として渡されましたので正式に婚約指輪として頂いた訳では無く、私たちが婚約指輪代わりに薬指に着けていると言うのが正しいです。今回の本当の婚約指輪は楓様へ贈られた物だけですね」

「へぇ~そうなんだ」

「私にもだれか婚約指輪くれる人いないかな~(ちらっ)」

 どうやらこのクラスには居ないらしい。

「ねえ少しで良いから見せて貰えないかな」

「構いませんが……どうぞ」

 指から外して手渡すサーラ。


「ありがとう! 綺麗だなあ……光ってるね。って言う事は神光石なの!?」

「おお、小いさいけど確かに光ってるね」

「以前使っていた首飾りの鍵と能力は変わらないそうで実際はもっと大きな物を小さくしたと言われました」

「さすが零司先生、何でも出来るね」

 サーラは零司が誉められて嬉しくなるが顔には出さない。



 授業に入る前の連絡でプリントが配られた。

 そこには卒業後の選択肢がひとつ増えると書かれている。



【高度研究開発部門の新設と部員募集のおしらせ】


 突然の選択肢増加にざわつく生徒たち。

「これから説明するから静かに聞く様に」

 各教室で説明が始まった。

今回は繋ぎの確認的な話になってしまいましたが今回静かだった分、次は忙しい回になるかもしれないですね。

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