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92.ファーリナに帰る

お待たせしました。

そしてブックマークありがとうございますヽ(´▽`)/

 お祝いの食事も終わる頃、既に夜九時を過ぎていた。

 零司が後の面倒を見てくれるからと好き放題食べてはお腹の膨らみを回復で戻している異世界組、ただし巫女組除く。

 まるで妖怪の様な食べっぷりに少し引いていたエルたちもサーラがお腹をへこませると納得してまた食べ始めたが流石に気持ちの上でも満腹になったのかその手を止めてお喋りが中心になっていた。



「確かにベッドまで運んでやると言ったが……全く」

 しょうがないなと言った感じで溜め息を吐くと撤収を伝える。

 既に寝てるのかそれとも寝た振りなのか判らないがインフォメーションチップで調べるのも無粋と、そのまま寝てしまっている者たちを浮かせて緩めに毛布で包む。

 それからシュガードーナツ号に運ぶとシートに座らせ、狼はマリーの前に座り込んだ。

 その間にサーラはパーティーの後始末を済ませて残りの全員が満足そうに立っていた。

「ラナたち以外は先に乗っててくれ、俺は納屋を片付ける」

 言われた通りゾロゾロとシュガードーナツ号へ乗り込むジーナ(巫女)たち。


 零司はエルたちに馬を頼むとラナの従者二人が二頭を連れて出て来た。

「ありがとう、助かる」

 まさかこんな事で感謝されるとは思っていなかったのか従者たちは逆に恐縮してしまう。

「ん? 随分綺麗になってるな」

 連れて来た馬を良く見てみれば本当に毛並みが良く手入れされていた。

 従者が裸で馬の手入れをしていたのは多分服を汚さない様にと気を使ったのだろうが、ここまでされていたとは正直驚きだった。

 恐縮していた従者たちも自分達の仕事が認められた事は嬉しかった様だ。

「これはお前たちに俺からの感謝の気持ちだ。受け取ってくれ」

 零司は畳まれた布を取り出す。

 それは厚手のハンカチだった。

 誰が馬の世話をしてくれたのかは知っているが、裸で作業していたのを見ていたなどとは知られない様に全員に二つ一組で渡す。

 裸での作業はそうと知ってて見た訳では無いので不可抗力ではあるのだが黙って居た方が摩擦は少ないだろうと判断した。

 彼女たちはとても綺麗に織り上げられた不思議な柔らかさのあるそのハンカチを嬉しそうに確かめている。

 そして感謝の言葉を伝えようとした一人の従者が零司に目を向けると零司はすでに撤収作業へと戻っていた。


 馬を向こうの世界に連れて帰る為に照明付きのコンテナが現れて二頭を後ろ向きで入れる。

 鼻の頭を優しく撫でてからゆっくりと扉を閉めた。

 そして納屋を丸ごと回収するとそこは焚き火と壁だけになる。

「良し、それじゃ行こうか」

 エルたちに向かって微笑むと彼女たちも釣られて嬉しくなってしまう。

 これから向かう先の幸せな生活に期待して。


 零司を先頭に五人が続いてシュガードーナツ号に乗り込む。

 中央が透明ではあるが夜と言う事もあり反射して見えるのでとりあえずはエルたちも零司に倣い真ん中に立っている。

 階段を変形させて椅子を出し昇降口を密封すると椅子にラナを座らせた。

 そして中央に居る五人と椅子に座る乗員が掴まり易いその中間を分ける様にO型の手摺を創る。

 まだ燃え続ける焚き火を墨ごと消し去り土をひっくり返しておく。

 最後に壁を消して帰還準備が出来た。

「手摺に掴まれ、出発する」


 ホワイトドーナツ号はゆっくりと浮き上がる。

 白亜の館で出発する時そうだった様に、エルたちも驚いた。

「大丈夫、俺を信じろ」

 固定箇所の無い宙に浮いているだけの手摺りの輪に確りと掴まるエルたち。

 その手摺は大きな岩の様に全く動じる事も無く彼女たちを支える。


 ゆっくりと三メートルくらいまで浮き上がるホワイトドーナツ号に、ラナは椅子の外に向かって正座する様に座り直して嬉しそうにその状況を見ている。

 そして馬を格納したコンテナの上に移動すると合体してそのまま宙に浮いた。


 ゆっくりと、そして段々と速度を上げて当たり前の様に毎度の地上六千キロメートルに上昇すると沈んだ筈の太陽が西から昇った。

 絶句するエルたち。

 ホワイトドーナツ号を九十度傾けて地球が見える様にすると更に驚く。

「あれがお前たちが住んでいた地球だ。確りと心に刻んでおけ」

 エルたちは零司が言った通りにその光景を確りと目に焼き付ける。


「そろそろ行くか。俺たちの家へ」

「はい、零司(ご主人)様」

 次の瞬間、太陽は見えなくなりただの暗闇になるが次の瞬間縦一筋の真っ白な光が見えてそれは段々幅が広くなる。

 それは異世界転移門の格納庫だった。

 開かれる扉の内側は純白であり、その中央にある門にはレリーフが刻まれている。

 その門を潜るとさっきの扉が閉じた。


 浄化を終えて目の前の扉が開く。

 今回は寝ている者も居るので演出無しで静かに進み館正面に到着する。

「着いたぞ」

 納屋があった場所から十分も掛からずやって来た白亜の館。

 コンテナを降ろしてから着地するシュガードーナツ号。

「サーラ、先にエルたちをリビングに連れて行ってくれ。こっちが終わったらエルたちの部屋を用意する」


 昇降口が開き階段が出来ると最初にサーラが降りた。

 続いてエルたちが出ると白亜の館を見上げ、続いてスラゴーの天幕に目が行く。

 夜空を見るだけでそこが別世界だと一目で判った。

 エルたちは異世界だと確認したのを確かめるとサーラに呼ばれ白亜の館に消えた。

 その後ジーナたちが降りて両脇に別れて整列し、零司が通過するのを待っている。

 最後に零司と眠る女たちが宙に浮いたまま列を成して出て来た。

「手伝ってくれ」

「はい」

 笑顔で答えるジーナたち。


 

 毛布が取り除かれベッドへ降ろされる楓たち四人。

 リリとマリーたちは先に部屋に寄ってベッドへ寝かせて今はこちらへ来ている。

 下ろされた四人は浴衣に着替えさせるので零司は後をジーナたちに任せて部屋を出た。


「さて、部屋を用意するか」

 向こうの世界で夕食前に考えていたままそれを再現するだけの簡単な仕事だ。

「部屋は三つ繋げてトイレとシャワーに洗面台っと、後は家具を適当に……こんなもんか」

 一番奥の部屋にラナ用の部屋とその手前に従者用、入り口の部屋はリビング兼応接室だな。

 エルがどんな立場なのかは判らないのでベッドはサーラに任せて向こうで判断して貰おう。


「待たせたな」

 エルたちはサーラが用意したお茶を飲みながら白亜の館での生活について大まかな事を教わっている最中だった。

「話が終わるまで待とう。続けてくれ」


 彼女たちをいきなり何かに従事させたりはせずに館内で休養を取って貰いながらその間に今までの生活や文化などを聞いてこちらでの生活に合わせて行こうと言うものだった。

 ただ今のところは神待宮従事者回復事業が始まったばかりで人手に余裕が無くマルキウくらいしか回せないのが現状だ。 

 明日朝にその辺りの話が必要だなと考えているが話の感じからサーラもそれに気付いているだろう。


 零司はサーラたちを見ながら自分で出した茶を啜る。

 忘れ物は無いかエルたちの部屋を思い出しながらチェックしていくが後は服やタオルなど消耗品ばかりだろうからそれはサーラに任せる。


零司(ご主人)様こちらの話は終わりました。後は部屋で案内した方が分かり易いと思います」

「行こうか」

 茶を仕舞ってさっきの部屋へ向かう零司とそれに続くエルたち。

 最後にサーラが着いて来る。


「ここがお前たちに用意した部屋だ、自由に使え。奥にあと二部屋と家具類があるだけだからサーラに身の回りの物を用意して貰え。使い難かったり要望があれば言ってくれれば改善しよう。それじゃサーラ、後を頼む。終わったら休んで良い、俺は馬を預けに行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」

 おやすみ代わりの深い挨拶をするサーラにエルたちも真似をした。



 正面玄関前にあるシュガードーナツ号を回収してその向こうにあるコンテナを開く。

 馬たちは移動でも全く揺れなかったので何事も無く静かに待っていた。

「待たせたな」

 優しくスキンシップして外へ連れ出すとコンテナも浄化して回収する。

 二頭を引き連れてモールの厩舎へ向かった。



 厩舎は暗く管理小屋に明かりがあるだけだ。

「デンク爺さん居るか?」

 コンテナハウスの倍くらいの幅がある平屋の扉を開き中に入るが明かりが点いているだけで人気は無い。

 いつもの所かと検討をつけて馬を厩舎に入れて撫でてやる。

「今日はご苦労様、ゆっくり休め」

 馬たちは言ってる事が解るのか零司に頭を擦り付けた。


 厩舎を後にした零司は通路を通りモール正面入り口から入ると二階へ続く階段へ向かう。

 階段下まで来ると二階のバーから楽しそうに会話する宿泊客たちの声が聞こえて来る。

 階段を上がるとホテル受付カウンターに居た男が頭を下げたので軽く手を挙げて挨拶しながら向きを変えてバーのカウンターへ向かった。

 幾つものテーブルの間を抜けてテーブル席よりも一段高いバーカウンターの席に座る。


「お疲れさん、今日は楽しかったかい」

 腰掛けた目の前にバンがやって来て早速声を掛けられた。

 十時過ぎのこの時間帯になると客も大分減っている。

「予定とは多少違ったが概ね良かったんじゃないか。いつもの頼む」

 零司は銅貨三枚をカウンターに出した。


「今日はもうこっちで?」

「ああ、久し振りに少し休むよ」

 隣に座っているのは厩舎のチーフをしているデンク爺さんだ。

 デンクは独り身と言う事もあり殆ど家に帰らず管理小屋で生活している。

 動物の面倒を見るのが好きで夜間に見回りなどもしてくれている結構重要な人物だ。

 楽しみと言えば馬に接する事と若者を育てる事、そしてほぼ日課になっているバー通いだろう。

 食事や身の回りは全てモール内で無料だから金は貯まる一方でありバーで少し使うくらいのものだ。


「はいよ!」

 零司が頼んだのは地元ファーリナ産の安酒だ。

 銅貨ー枚が大体百円くらいなので誰でも気軽に楽しめる、そんな酒だった。

 そして隣に座るデンクもまた昔からバンの店に通っていた常連であり同じ安酒を楽しむ一人である。


「それと馬二頭を向こうから連れて来た。厩舎に入れておいたから面倒見てくれないか?」

「そりゃ構わんよ」

「どの馬かは見れば判る」

「ほう、それは楽しみだわい」


「それで、肝心の『はいきんぐ』はどうだったんだ?」

「あー、まあ楽しめただろう。あいつらも何だかんだ言いながら結構楽しかったんじゃないか?」

「そうかい、それなら良かったな」

「後はあれだな……事情があって向こうから五人連れて来たからその内顔見せするだろう。それと向こうの動物、狼って言うんだがそれも親子二頭連れて来たから会ってみると良いぞ爺さん。食材卸してるマリーって娘が居るだろ、あの娘に懐いてるから安心して良いぞ」

「安心して? どう言うこった」

「あいつらは肉食だから本来は集団で他の動物を襲って食べる習性がある」

 エールとは別にゴクリと息を飲むデンク。


「それって人も食べるって事かい? 兄ちゃん」

「ああそうだ。ただマリーの配下になってるから余程ちょっかいでも出さない限りは大丈夫じゃないか?」

「大丈夫じゃないかって、随分いい加減だな」

「済まん、大丈夫だろ」

「大して変わってねーぞ、ははっ」


「あいつらは人間と同じで社会性を持ってる。誰が上で従うべき相手かはちゃんと解ってるよ」

「つまり問題無いって事か」

「リーダーがマリーだからな、あの娘は山で狩りや山菜採りしてるから丁度良い相棒になるだろ」

「狩りの手伝いするのか、そいつはスゲーな。でもマリーってお花畑の姉ちゃんだよな?」

「だな」

「あの娘の言う事を聞く動物と言われてもポワポワしたのしか思い付かんな、どんな動物なんじゃ?」

「こんなのだ」


 零司はマリーと狼が戯れている写真と、図鑑にある様な幾つかのイラストを創ってカウンターテーブルに広げた。

「相変わらずスゲーな」

「ほほう、随分ちっこいのも居るんじゃな」

「生まれて日が浅いと思うぞ。マリーたちの話だと他の動物に襲われて瀕死だったのを助けたから尚更懐いてるんだろ」

「この動物より強い相手が居るって事か」

「あー、狼は大人一匹で子連れの所に三頭来たらしいからな。ひとたまりも無かったんだろ」

「向こうの世界はホントに過激だな」

「多分それは逆さ、この世界が平和なんだよ。俺はこっちの世界を奪い合う社会にするつもりは無い。競争はしてもそれで今のこの世界の良い所を潰すなんて馬鹿げてるからな」

「ありがたいこった」


「それに向こうの世界を見て貰ってるのも将来取引するのかきちんと見極める為に連れて行ってるんだ、今回も結構深く考えてたみたいだがまだまだこんなもんじゃない。俺たちの世界が如何に……済まん、この話はまだ早いな」

「構わないさ、兄ちゃんが言うんだ。俺たちは信じてるぜ、なあデンクの爺さん」

「そうとも、こんなに良い思いをさせて貰ってるんじゃ。皆信じておるよ」

「そう言って貰えると俺も勇気が出る。たまに本当にこれで良いのかって思う事もあるしな」

「兄ちゃんも俺たちと同じ人間ってこったな」

「ああ」


 それから朝まで世間話で飲み明かした零司たち。

 そして零司の部屋で独り、夜を明かした楓だった。

不可抗力とはいえまたしても楓はすっぽかされてしまった。

次回の零司は大丈夫だろうか。 (-人-)ナムナム



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