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90.異世界ハイキング10 選択肢と新たな家族

ブックマークありがとうございます。ヽ(´▽`)/

 もう直ぐ空が茜に染まろうとしている頃。

「そろそろ主が戻って来る。外で出迎えるぞ」

 エルが指示を出し従者三人が椅子から立ち上がると通路へと出て行く。

「ラナ様、我々も行きましょう」

 コップに入った水を一口飲んで椅子を降りるラナはエルの元へと走る。

「エル大好き」

 痩せ細っていたが元気を取り戻して護衛のエルにしがみ着くラナ。

 エルはラナを救ってくれた主に感謝した。


 エルと手を繋ぎ、ご機嫌のラナはエルを見上げてまた微笑む。

 さっき散歩した時、今までの辛い経験が嘘の様に感じられる平穏な空間に以前の平和だった頃のエルとの接し方に戻っていた。

 ラナは幼いその目で親しかった沢山の人々が死んで行く場面を見ていた筈だが、王族の血筋なのかエルが悲しまない様にと元気に振る舞っている。

 それは奴隷として売りに出された朝、もうこれで死んでしまうのだろうと思っていた病気で苦しむ自分を見たエルが涙を流していた時にどうか死ぬ前にエルの笑顔を見せて欲しい、エルが笑顔で居られる世界になって欲しいと神様にお祈りしたのだ。

 その願いを神が聞き入れたと言う訳では無いが偶然居合わせた零司によって救い出され、自分は元気になったとエルを安心させて笑顔で居て貰いたいのだ。

 そんなラナの笑顔で心が救われるエルはその笑顔を守りたいと新たな主のどんな要求も受け入れようと思っている。

 今まで見た事も無い異種族異国人ながら自分達を親身に想ってくれる女性たちと強い意思を持ちながら優しさに満ちている主の為に尽くしてラナを保護して貰えるならばエルは自分がどうなっても良かったのだ。

 エルは護衛でありラナの幸せこそが優先されていた。


 納屋を抜けて外に出ると三人の従者が並んでいる。

 その横に二人も並び十分ほど待っていると突然周囲に風が吹いて目の前の草がドーナツ状に倒れた。

 何故そんな倒れ方をしたのか解らないがきっと主の帰還と関係あるに違いない。

 そしてその考えは的中して目の前にシュガードーナツ号が姿を現す。

 エルたちは驚きの余り声も出ない。


「待たせたな」

 シュガードーナツ号の一部が変形して階段になり、こちらを立って見ていた零司が降りると続いて女たちも降りてくる。

「おかえりなさいませ主様」

 エルの声に合わせて一緒にお辞儀をする従者たち。

 零司はエルたちの出迎えを受け入れ頷くと驚きで見上げているだけだったラナの前にゆっくりと片膝を着く。

 ラナは思わずエルにしがみ着くが目は零司から離さなかった。

「大丈夫そうだな」

 微笑む零司に眠る前に見た人だと思い出した。

 何故か急に恥ずかしくなって顔を背けエルをぎゅっと抱き締める。


「振られたみたいね」

 楓が零司の隣にやって来た。

「私は楓よ。さっきは自己紹介もしなくてごめんなさいね」

「いえ、私たちこそ危ない所を助けて頂いただけでなく良くして貰い心から感謝しております」

 明らかに他の女性たちと雰囲気の異なる楓にこの中での高位の者だろうと感じてもう一度深く礼をするエルたち。

「私はエルと申します。こちらのラナ王女の護衛をしています」

「王女様だったのね」

 楓はこの時代が決して平和なものでは無いのを知っているので驚くと言うよりも哀れみを感じている。

 王女が奴隷だったと言う事は王や妃がどうなったかなど簡単に想像がつくからだ。

 彼女たちの国は失われ帰るべき場所は無いのだと察せられた。


 ラナに振られて立ち上がった零司はエルに訪ねる。

「それで今後の事なんだがお前たちには知り合いや何処か身を寄せられる場所はあるか?」

 既に零司の所有物になっている自分達にそんな事を訊いてどうするのかとは思うが質問には答えなければならない。

「いいえ、既に何の力も持たない我らを受け入れる所はどこにも無いでしょう」

「零司、どうする気?」

「ふむ……お前たちに二つの選択肢をやるから良く考えて答えろ。ひとつはこのまま解放して何処かで人並みに生活していけるだけの場所と資金を与えよう。もちろんお前たちを助けた事は気にしなくて良い。新しい土地で新しい生活を始める手助けをしてやる。もうひとつは俺の元で生きるかだ。どちらでもお前たちが良いと思う方を選べ」

 零司は敢えて向こうの世界で与えられる生活について触れなかった。

 可能な限り本来在るべき場所で生きるべきだと考えたからだ。

 


 休憩室では楓を中心としてラチェット、マルキウ、ルールミル、イーノ、サーラ、ジーナ(巫女)クーリス(お付き長)が集まり、建造物の数々や絵画、彫刻などの芸術と人の技術力について軽く話し合いが行われ、それ以外の一般的な人々の生活環境についてもかなり興味深い情報として扱われた。

 巨大な建築物は向こうの世界では到底再現不可能だしその意味も無いと本当に観光レベルの扱いで流されたが、そんな物を建てた人々の一般人の生活はといえば、あまり良いものでは無かったと結論が出た。

 それは暴力的であったり治安の悪さや今まで感じた事の無いギスギスとした人々の攻撃的で剥き出しな感情はその目線だけでも明らかに向こうの住人とは違うものであった。

 事前に零司が説明した様に彼らの意志は向こうの者にとっては決して良い影響を与えるものでは無く遮断する必要性と言うのも頷けるものだった。

 話し合いに参加した全員が建築物や芸術に関しては凄い物があると思いはするがやっぱり自分達の世界が良いと言う結果に落ち着く。

 そしてその世界の良い所を伸ばそうとしている零司に改めて感謝した。



 リリとマリーは山で姿を消して駆け回る。

 駆け回ると言ってもそれは色濃く繁る草木の中でそよ風が吹き抜けた程度の痕跡しか残さない静かさであり、野性動物が立ち止まり耳を立てても直ぐに警戒を解いてまた食べ物探しに戻ると言う程度の気配しかしないものだ。

 それはリリがマリーの姿も消してくれた事で姿が見えてしまう危険が無いと言うアドバンテージに由るもので、その速度は俊敏でありナイフで獣を狩るには充分な速度だと言える。

 いつもお花畑のマリーと言えど狩りともなればその目は真剣であり、耳も鼻も肌を撫でる空気や勘さえも研ぎ澄まされた感性を最大限に発揮して静かに移動している様はまるで俊敏なプレデターである。

 そして獣を見つけたマリーが一旦足を止めるとリリもそれに倣い着地する。


 足を止めたマリーが見ている先には三頭の猪と傷付いた子供の狼、それと親だろう大きな狼が対峙している。

「変わった獣」

 向こうの世界には居ない二種類の獣に目を奪われる二人。


 子狼を背にして動けない親狼に猪が一斉に突進した。

 いくら狼と言えど単独で三頭の猪に勝つ事など出来ず、子狼を庇いながら吹き飛ばされた。

 親狼はそのまま三頭に何度も踏みつけられたり突撃を受けて声がしなくなる。

 親狼を倒した三頭の猪はまるでチンピラが弱者に集るように子狼を小突き回して楽しんでいた。

 同じ狩り場で出くわしたライバルとなる狼を生かしておく訳が無い。


「リリちゃん、あの子を助けても良い?」

「マリーがしたいようにすれば良い。私はマリーの味方」

「ありがとう」


 マリーは木や茂みの影からわざと音を立てて急接近すると突然猪たちの前に飛び出して二頭の頭に蹴りを入れる。

 その二頭はマリーよりも体重があるにも関わらずもんどり打って木の根本にぶつかり気を失ったのか動かなくなった。

 残る一頭と対峙するマリーは通常の狩りの時は抑えている気を意図的に高めて燃え盛る様なその目で猪を射抜く。

 そこには猪が血を撒き散らしながら体がバラバラに解体されるイメージが含まれ、猪は恐怖に体が震え泣き叫びながら急いで去っていく。

 そして少し離れた所で震えた足がもつれて木に正面から激突した。


「やり過ぎた……かな?」

「ん」

 マリーは子狼に目を遣るが吠えられてしまう。

 親狼以外は全て敵でありマリーたちが助けたとしてもそれが分かる様な状態では無かった。 

 目を閉じて一生懸命に鳴き続ける子狼。

 とりあえず子狼は怪我をしているものの命に別状は無さそうなので親狼に近付いた。

 親狼は既に虫の息でマリーに目を向ける事すら出来ない。

 マリーはその親狼を抱えて子狼の元へ運ぶ。

 子狼の前に親狼の鼻先を置く様に静かに降ろすと親狼は泣き叫ぶ子狼を舐めた。

 目を開けられない子狼は親が居ると安心したのか親の元へ擦り寄ってその毛の中に鼻先を突っ込み一生懸命甘えている。


 マリーが周囲を見回してみれば他にも子狼が居たが、それは『あった』と呼ぶべき物になっていた。

 そして在る筈の三頭の猪は姿が無い。

 一瞬警戒するが、倒れた筈の場所には倒れた時の跡だけでそこから立ち上がった形跡は無い。

 振り返るマリーにリリは零司から貰ったポーチを軽く叩いて見せた。


 狼の元に戻るマリー。

「この子達を助けたい」

 普段の狩りの最中なら絶対にそんな事は言わないだろう。

 それに見た事も無い獣に感情移入しているのもあり得ない。

 しかしマリーは人よりも純粋な感情で生きている動物に接しているからこそこの親子の強い絆を感じとり助けたいと思ったのだ。

「わかった」

 次の瞬間、マリーたちは純白の納屋の前に居た。

 その直後にリリが消えて零司を連れて戻る。


「狼か」

「おおかみ……」

「零司さん、どうかこの子達を助けて下さい」

 零司はインフォメーションチップに目を遣って狼の状態を確認する。


「ひとつだけ条件がある」

「何でしょうか」

「マリーに回復して貰う」

「私がですか!?」


 零司はマリーの悩みを聞いた後、マリーが関わった沢山の歴史的事実を調査していた。

 その調査結果からマリーが神として再臨しても問題無いのを確認した。

 神では無いと思いながら神の技を使い苦悩するくらいならきちんと神であると認識した方が良い。

 ただ神だった事と記憶が無い事を考えてまた悩まれるのも在る意味で面倒なので零司が神の眷族にしたと言う形にするつもりだった。

 それをするのに丁度良いチャンスが訪れたのだから利用しない手は無い。


「そうだ、お前なら出来る筈だ。ただその為には神の眷族になって貰う必要がある」

 息を飲むマリー。

「なんだ、助けたくないのか?」

「助けたいです!」

 マリーの目からはいつ死んでもおかしくない親狼を心配して一瞬だけ目を遣る。

「ならやるしかないな」

「はい!」


「マリーには特別な力があるからそれを利用する。俺がお前に回復を掛けるからその感覚をそのままお前の力で狼に掛けるんだ」

「はい!」

 マリーは狼に触れるほど直ぐ近くで膝を地面に着いて座り、零司がその後ろからマリーの首筋に手をあて回復を掛ける。

 マリーが淡いみどりの膜に包まれる様にぼんやりと光り、体を包み込む零司の温かな感情にも似た優しい力を感じてそれを心に刻み込む。

 そして親狼の背中に手をあてて零司から貰ったのと同じ感覚で狼を温かく包み込む様に優しく力を分け与える様に願う。


 零司はマリーの潜在的な力は大きくない事を知っている。

 世界を改編するレベルの力は無いが天使のラチェットよりはずっと上だ。

 そのマリーが一生懸命に狼を想い零司が掛け続けているその感覚のままそれをコピーする様に自分の力を込めている。

 最初は筋肉に力を入れているだけだったのだがあるとき狼に向かって何かがスルリと流れ出した気がした。

 その瞬間、狼はマリーと同じく薄い緑の光に包まれていた。

「良いぞ、その感じだ」

「はい!」


 それから五秒ほど経つと狼は息が回復してゆっくりとだが立ち上がった。

「やった……」

 狼は助けて貰ったのが解ったのかマリーの頬っぺたを舐める。

「あはっ」

 感謝していると一生懸命にマリーの顔を舐め回した。

 そして気が済むと今度は傍に寝かされていた子狼をくわえてマリーの前に差し出す。

「そうだね、この子も治さないと」

 マリーはさっきの感覚を思い出して子狼に回復を掛ける。

 柔らかな光が子狼を回復させて本来の元気な姿を取り戻した。

 子狼は目を開けると親狼とマリーを交互に見上げて嬉しそうにその周りをじゃれ着きながら吠えて駆け回っている。


 親狼は子狼を助けてくれたマリーにもう一度感謝していると顔を舐め回した。

「きゃははは!」

 後ろに倒れて逃れようとするが今度は子狼にまで舐められている。

 暫く舐め回されてしっかりと感謝を受け取ったマリーは起き上がって二匹を優しく撫で回した。

 それを気持ち良さそうに目を閉じて受け入れている狼。

「良かったね」

 確かに二頭の狼は助かり幸運の女神の恩恵を受けたが猪にとっては単なる死神である。


「良くやったマリー、お前はもう神の眷族だ。後はきちんと自覚して神術を学ぶ様に」

 マリーのインフォメーションチップを見ると眷族に狼が二頭と表示されている。

 零司は慌てて狼のインフォメーションチップを見る。

「ほお。マリー、この狼はお前の眷族になった。それに神獣になってるぞ……マジか」

 リリは狼を両手に抱いているマリーを背中から抱いた。

「良かった」

「うん!」

 マリーはリリに浄化を教わり狼をきれいにしたので神獣と呼ぶに相応しい美しさになった。

 そして眷族であるが故にその純粋な感情も伝わり易く意思疏通が普通に出来るらしい。

 狩人のマリーには丁度良い相棒になりそうだ。


 その一連の出来事を外で相談していたエルたちは確りと見ていた。

次回は帰れるかな?

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