89.異世界ハイキング9 △文明と謎かけ
開いてくれてありがとうございます。
今回も楽しんでもらえたら嬉しいです。ヽ(´▽`)/
今回は歴史に関わる話ですが適当なので、あれ?と思ってもスルーを推奨致します。
零司たちは空調の効いたシュガードーナツ号に乗り込み南海の白い砂浜を後にする。
焼けた肌に大胆で清楚な衣装を纏い僅かに微笑んでいる楓は明ら様に浮いていた。
しかしそれはサーラが感じた様に他の女たちにも素敵な女性に見えているのである。
ベンチシートに座っていると言う事もありさすがに大きな麦わら帽子は仕舞ってあるがシンプルなデザインでありながら凝った造りの衣装は女性の目を釘付けにしている。
これにリリも女神のヒラヒラ衣装で対抗するが楓の目新しさには叶わなかった様だ。
零司もプロポーズしたばかりと言う事もあり楓のその姿を初めて見た時は誉めて抱き締めながらついキスをしてしまった。
楓だけでなく零司だって楓を思っているのだから結ばれたい気持ちは当然ある。
だから思いもしなかったこんなサプライズがあれば堅物に見える零司だって楓に手を出したくなってしまうのだ。
気を失っていた楓のツートーンの尻を思い出したからと言うのも少しはあるのかもしれないが。
楓はそんな反応をした零司にこれなら今夜は確実にイケると内心では嬉しさのあまり叫びたい衝動に駆られるがそれは夜まで確り抑えておかなければならないのをきちんと認識している。
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ここは毎度の地上六千キロメートルである。
「次は巨石文明でも見てみようと思う。向こうの世界では全く見られなかった様式だから面白いと思うぞ」
零司は昇降口の椅子の前に立って話し始める。
楓は『あー、あれね』と思うが口に出さず余裕のある笑顔で零司を見つめている。
「巨石文明とはなんでしょう?」
ラチェットが生徒の様に手を挙げて訊ねた。
「巨石文明とはその言葉のまんまだが、要は巨大な石を使って建てられた建造物や石像などを産み出した文明だ。今から数千年前から数百年前には既に途絶えた様式の文明と言えるな」
零司は腕を組んでラチェットに答えた。
「パッと思い付くだけでもエジプトのピラミッド、メキシコのマヤ文明、それにイギリスのストーンヘンジだな」
「イースター島のモアイ像は?」
「残念だがこの時代では見つからなかったから見学は出来ないな」
「そうなの……」
楓は意見として出してみたがモアイ像は先史文明だと思っていた様でその事実を知り少し残念そうだ。
「取り合えずひと目見れば解るから行ってみるぞ。最初はストーンヘンジだ」
◻
「なんだか丸っぽいのが見えますねぇ。それに細長い石が沢山あります」
ラチェットの最初の感想だ。
「最初から石が立った状態で見つかったんじゃないのね?」
「えっ、あの石が立つんですか?」
「俺たちの時代に近い頃に色々と調査したら元々は石が立ってた事が判ってな、元々あっただろうって場所に立て直したんだ」
巨石の目と鼻の先にまで近付いて周囲をぐるりと回ってみる。
「これはこちらの神が建てた物では無いんですよねぇ?」
「これは、と言うかこっちの世界の建造物は全て人間の手で建てられた物になるな。とは言ってもこの状態じゃどんな物かは解らないだろうから大体の形を見せようか」
零司はシュガードーナツ号の中でチューリップ形空気清浄機の少し上に無限倉庫にストックしてある資材を使いリアルなジオラマを創り出す。
「「「「おお……」」」」…
「見た通り丸くならんだ形状から環状列石とも呼ばれてる」
「れ、零司さん、どうやったら人の手であの大きな石をこんな形に持ち上げられるのでしょうか?」
ジオラマを見て上に乗っている横に長い梁状の石をどうやって乗せるのか見当がつかないラチェットの声が震える。
「も、もしかしてこの世界の住人は皆神様なのでは!?」
「さあな。それにこの遺跡は今から四千年近く前の物だが石はかなり遠くの山から運んでるそうだ。それにここはこの巨石程ではないがもっと簡単な物で今から九千年近く昔に作られたのが調査で判ってる。俺たちの時代から見たら一万年前だぞ、ははっ!」
ラチェットの世界の住人はサーラを含めて全員が驚きを隠せなかった。
「零司様、これは何の為に作られたのでしょうか?」
「それは判って無い。いま調べても良いが、それじゃロマンが無くなるから俺はやらん」
「何故判らないのでしょうか? 私たちの世界よりも進んでいると聞いているこちらの世界なら記録が残っているのではありませんか?」
サーラの質問に続いてルールミルが訊いてくる。
「それは向こうに比べて文字の利用が大分遅れたのと戦争などで多くの記録が失われた事が原因だろうな。向こうの世界では天使がお前たちに色々と教えて基本的な事はかなり古い時代から出来ていたし文字も変化していないのを知っているが、こちらにはどうやら神は居ないらしい。信仰上の神は『ある』が、俺がこちらで派手に色々やって呼び掛けても全く反応しないからまず間違いないだろう。ラチェット、俺たちが今日やった様な事を向こうでやったらお前たちには分かるか?」
「それは分かりますよ、少しくらいなら気が付かないかもしれませんがこれだけ動けば痕跡どころか天気を操作した時点で……なるほど。要するにこちらの世界はどう言う訳か神が居ない世界で、人間だけで自力で進歩してきたんですね?」
「そうなるな。全ての世界は最初は同じでそれぞれに神が居た筈だな?」
「そうです」
「だがこの世界には神が居ない。俺の予想では他の世界に様子を見に行って帰って来られなくなったんじゃないか? お前の所のスプロケットももしかしたら……」
「ひぃっ! そんな事! ……でもあの方ならあるかもしれませんね」
軽い調子の主神を思い出してラチェットは項垂れる。
「まあそれは冗談だが、こっちの神はどうも天使も創らず何処かへ行ってしまった様だな。だから初期文明からの言語や文化の一本化もないから立ち上がり自体は遅れたが沢山の文明が生まれては消えてダーウィンの進化論の様に淘汰が起きて俺たちの時代までそれは続いているしこれからもそうかもしれない。ある意味で神が居ると人類の文明は伸びないのかもしれないな」
「それってつまりこの世界には私たちしか神が居ないって事?」
「そうなるな、ははは。世界中に残る人形の神の伝承は結局のところ実在する人間を元に伝説的存在として持ち上げたに過ぎないただのおとぎ話だったって事だな」
「ははは……どうしたら良いのかしら」
楓は頭を抱えている。
「どうもしないさ。俺たちの時代まで何かする必要性があるとも思えないしな。原爆だって止めようと思えば止められるだろうが、それじゃ歴史を書き換えてしまうだろ? 俺たちが歴史に手を加えて良いのは俺たちが落ちたあの時からだ」
「それじゃあの人たちはどうするの? この世界に影響を与えたんじゃない?」
「エルたちか。彼女たちはこの後の歴史を少し調べたんだがあの街で伝染病が発生した事実が無かった。だが奴隷として売られていた彼女たちは伝染病であそこに集まってた見物人も既に感染してたからな。あのまま放置しておけば確実に死の街になっていただろうし実際ローマ帝国では何度か伝染病による大きな被害があったらしいが少なくともあの街では確認されてなかった。それはつまり……」
「彼女たちも含めて誰も感染源では無かった?」
「それは無い、イン……っその症状を直接確認したからな」
この時零司はうっかりインフォメーションチップの事を話してしまいそうになり焦った。
サーラに誰にも言うなと言っておいて自分がバラしてどうするのかと。
「つまり感染源がはっきりとしてて感染者が発生している場面に俺が居合わせた事が歴史的な事実になってたんだ。だからあれはあれで正解って事さ」
「うーん、それじゃ計画的に干渉するのは駄目だけど、突発的偶発的な事案ならオーケーって事?」
「それも難しいな。歴史的事実と矛盾する事態が目の前にあって、それを修正と言うか本来の歴史へと導けるのが自分達だけだと確定出来た時だけじゃないか?」
「それがさっきだったのね?」
「そうなるな」
楓はこのとき本当は『可愛い娘を見つけたから欲しくなっただけなんじゃないの?』と意地悪な質問をしてみたかったが正式な婚約の直後に流石にそれは無いと思い引っ込めていた。
今までの零司を見ていればまた勘違いや早とちりで零司を傷付けるなんて事は無しである。
「話が逸れたな。この世界で文字が使われるのはかなり遅くてしかも殆どの場合難しい複雑な文字だらけだったせいもあり一部の知識層が独占した形になっている。幾つもの言語が少ない利用者で受け継がれ僅かに残る碑文などで残されたりもしているが途中で情報が失われたりして全く解読出来てない物も多い。ただ場所によっては文字ではなく図などを使っていた物もある。こう言うのは大抵神殿や寺院で神話の一節や神の教えとか道徳に関する絵本のような役割を持ってるな」
「へー、どんなのか見てみたいわね。レージのお薦めってあるの?」
「午前中に行ったアヤソフィア大聖堂の絵画とかは正にそれだな。それにこれから向かう他の場所はアヤソフィアに比べると時代も古くて絵画とは呼べないが、彫刻で神話の物語を描いたり故人の逸話や功績を称える物もある。それじゃ他に何かあるか? 無ければ次行くぞ」
◻
シュガードーナツ号はエジプトのギザ上空へとやって来た。
「何ですかこの大きさは! ま、まさかこれも人が?」
ラチェットが戦慄く。
「そうだな。今から大体四千年前に二十年くらいで建てられたと言われてる。人よりずっと大きな石を二百万個以上も使ってるぞ」
「こんなに大きな物をどうやって……」
楓とネコ以外は全員が驚いているが零司にしてみれば計画通りだ。
「私も実物は初めてだけど本当に大きいわね。でもこれもどうやって建てたのかは判ってないのよね?」
「ああ、ただ建設に関わった人たちの記録が残ってるから人間が建てたのは確実だな。それに完成当時は階段状の表面が全面白い化粧石で覆われて平らで滑らかだったそうだぞ」
ゆっくりとヘリコプターで観光する様に三大ピラミッドを周遊しているとマルキウが訊いて来た。
「レージ、あれは何なの?」
マルキウが指差す先には人の頭の様な石像があった。
「あれはスフィンクスだな。人の頭とライオンと言う四足動物の体を持つ架空の生物で砂の下に体が隠れてる。それと世界的に有名な話でスフィンクスから人に出されたと言う謎かけがある」
「ああ、それって『朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足とは何だ』ってやつね」
「フーン、で、それは何なの?」
「ちょっと皆で考えてみて。まあ朝昼夕方は順番を言ってるだけだから実際の時間じゃないんだけど、どう?」
全員が考えている様に見えるがネコとリリはそうは見えない。
「うーん、朝は四本足? スフィンクスさんが昼には立って夜には片足だけ怪我してるとかですかねぇ??」
「残念だけど不正解。でも昼に立ち上がるって言うのは良い線行ってるわ」
「ふふふふ、それなら知ってる」
「リリさんが知ってるなんて意外だわ。それじゃ答えをどうぞ」
「朝は後背位、昼は立位、夜は交差位、つまり答えはセック(スパーン!)ぅぅ……(ガクッ)」
「きゃあ! リリちゃん!?」
「ふぅ、全く。リリは油断出来ないな」
「『せっく』何だったんですかぁ?」
「ほんと、どこで覚えたのかしら。あ、今のは不正解、気にしなくて良いわ。他に分かった人は居るかしら?」
「居ないみたいだな。答えは人間だ。朝、つまり生まれた時は四つん這いで、昼は二本足で歩き、夕方、つまり歳とってからは杖をつくから三本足って事だな」
「フーン、そういうので良いなら色々と『謎かけ』を作れそうね」
「俺が居た所は子供の遊びでそう言うのが結構あったから向こうの遊びに取り入れても良いかもしれないな」
「ケインの授業で使って貰うのも面白そうね」
「その辺は語学担当のお前たちに任せる。さて次に行くぞ、次は同じエジプト領のカルナック神殿だ」
何の反動も無く、三百六十度シアターを見ているようにササッとナイル川に沿って移動するシュガードーナツ号が到着したのは巨大な列柱が立ち並ぶ神殿だった。
柱が立ち並ぶ神殿と言うとギリシャのパルテノン神殿を思い起こすがこちらは屋根が無く大量の列柱の他に一部窓が空いている巨大な台形の建物があるだけだ。
しかしその列柱に近寄ると縦に細長い長円と絵が整然と幾つも描かれて非常に美しい仕上がりが見て取れる。
「零司様が言っていた絵とはこれでしょうか?」
「これはヒエログリフと呼ばれる象形文字だな。実際に存在する物を絵文字として簡略化した物でここでは王族の名前があの丸の中に書かれているがあの絵文字は固有名になるな。そして向こうの世界の文字は発音に対応する表音文字だ。俺の故郷の文字はこのどちらも取り込まれた世界最高水準の複雑さを持ち自由な表現が出来る。サーラはそれを手に入れたんだ、誇って良いぞ」
サーラは零司に誉められ嬉しくて頬を染めた。
「はい!」
「はっ!」
サーラの元気な返事に目を覚ましたリリはマリーの膝枕から跳ねる様に起き上がる。
「ここは? 四本足……?」
「カルナック神殿だ」
「うーん」
真剣に思い出そうとしているらしいが答えは出ない。
「どうした、何か夢でも見てたのか?」
白々しいが苦笑いするだけで口を挟まない女たち。
「何か大切な事を言おうとしていた気がする」
「そうか、それじゃ次行くぞ」
「魔王様が冷たい」
「私が居ますよ!」
隣に座るマリーがリリを抱き抱えるとあっという間に機嫌が直り、さっきまで思い出そうとしていた事などすっかり忘れている。
零司たちはこのあと幾つもの神殿や形が違うピラミッドを見学した後で朝を迎えている中南米へ向かい、既に遺跡となっているティオティワカンやマヤ文明を見学して夕方が迫る納屋へと帰路につく。
本当はマヤ文明とかもとかやりたかったけど流石に長くなりすぎなので割愛しました。




