88.異世界ハイキング8 青空の星
ブックマークありがとうございます。(o´∀`o)
今回はぶっ飛びますw
楽しんでいただけたら嬉しいです。
海の家には似合わないディスプレイケースの前に並ぶ見たことのないメニューで女たちが最初に目を引かれたのはカレーライスである。
これは本当に食べ物なのかと先に来ていた巫女たちが固まって議論している。
そこへ楓たちがやって来て何を食べるのかを決めかねていた巫女たちはディスプレイ前を空けた。
「ありがと、何があるのかしら……って、まんま海の家ね」
零司は心の中でサムアップしている。
「カレーか……懐かしいわね。決めた、カツカレーを頂戴」
「へぃいらっしゃい! カツカレー一丁!」
「いらっしゃいませ、カツカレー一丁!」
突然の大声に一瞬だけ驚いたが威勢良く復唱されるメニューに何だか可笑しくなってクスクスと笑い出す面々は目尻に涙を溜めながら自分は何にするかを考える。
零司は横に重ねてあるトレーから皿を一枚を取り目の前に置くと、注文のカツカレーを無限倉庫からコピーしてスプーンと冷たい水入りのコップにおしぼりを添えて並べ、サーラにテーブルに座っている楓に持って行くようにと渡した。
教えようとしていた訳では無いが楓を見てシステムに納得した女たちは安心して先に進めそうだ。
そして零司が出しているのだから大丈夫だと分かってはいてもその見た目に躊躇していた巫女たちは実際に出て来たカツカレーの強烈な香辛料の香りに鼻腔を擽られお腹が鳴った。
「レージ、アタシは『おこのみやき』が良いわ!」
「肉抜きお好み焼き一丁!」
「ちゃーしゅーめん」
「チャーシュー一丁!」
「私もリリちゃんと同じが良いです!」
「チャーシュー追加!」
次々とトレーに載せられてテーブルに運ばれて行った。
一通り注文が終わってみると焼きそばだけが一品も出てなかったので自分用に焼きそばを出す。
サーラはカウンターで零司と並んで椅子に座りお好み焼きを出して食べている。
焼きそばを食べながら何がいけなかったのかを考えると、海の家とは言えどもお金を取っている訳では無いので同列に並べてしまうのは厳しかったのかも知れないと考える。
だが実際には細いミミズが大量に焼け縮れている様に見えたのが原因であった。
店内は賑やかに食事を楽しんでいて嬉しそうに笑顔が溢れている様子は正しく海の家だろうと零司は満足している。
食べ終わった者から今度はデザートの注文が入り始める。
最初にやって来たのはリリとマリーだ。
「いちごクレープ」
「私は『めろん』でお願いします!」
デザートはその場で渡したので二人仲良く手を繋いで席に戻り、マリーは一口食べて笑顔になりとても嬉しそうしている。
次に楓がやって来てかき氷のメロン、イチゴ、レモンの三種をトレーで運び、ネコとラチェットの三人で分け合って食べている。
巫女たちはシェイクが気に入った様だ。
ルールミルとイーノはお腹が一杯なのかバニラシェイクを二人で分け合っていた。
零司がこの後一時間ほど留まると告げると楓たちはバナナボートを抱えて海へと飛んで行く。
ルールミルたちは強い日射しに焼かれて懲りたのか座敷に上がって二人でお喋りをしている。
巫女たちは椅子に座ったまま会話を楽しんでいた。
「サーラ、少しここを頼む」
「何処かへ行かれるのですか?」
「いや、少し考えごとがあるだけだ」
「わかりました」
零司は目を瞑りエルたちが居る納屋を走査する。
遠く離れているがやってみれば当たり前の様に出来た。
目で見るのとは異なり3D画像のワイヤーフレームモデルの様に輪郭がくっきりと見えるだけの状態で周囲を含めて確認する。
パッと見で特に問題となる事案は発生していないし食事も済んでいる様だ。
ラナは目を覚ましてエルと一緒に外を散歩しているし従者たちは何故か裸で馬の世話をしてくれている。
何故ワイヤーフレーム表示で裸だと言えるのかはアウトラインに突起が確認出来たからだが、零司は馬の世話の対価に何かお礼をしようと思う。
今度は敷地だけでなく周囲を広範囲に調べてみると一番近い麓の街道を兵士たちが槍を抱えて列を成し進んでいた。
特に緊張している様にも見えずインフォメーションチップを確認する限りではさっきの街を経由して別の地域へと移動中らしい。
隊列は納屋付近へと続く分岐路を既に過ぎているのでこちらも問題は無いだろう。
納屋の確認を終えて他の見学予定地域へと目を移す零司は暫く戻りそうに無い。
◻
波打ち際から少し沖に出た人の背丈程の水深辺りで楓たちの声が響く。
六人が乗ったバナナボートはネコの力で軽快に海上を疾走する。
波打ち際から山を登るつづら折りの登山道の様に段々と沖へと進み、今は二メートル程の水深がある波のうねりも大きくなって来た辺りを走っていた。
そこでは大きな波が立っているお陰でジャンプを繰り返しながら派手な水飛沫を上げて大きく跳ね回っている。
先頭に乗る楓の後ろに運転手のネコ、ラチェット、マルキウ、リリ、マリーが縦一列に座って必死でロープにしがみ着いていた。
そして目の前には一際大きな人の背丈程もある三角波が立ちはだかる。
「あっははははは! 行っけー!!」
「行っくにゃぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっと! ちょぉぉぉっとおおお!!」
「……」
「きゃはははは!」
スピードが出過ぎて大きな波にめり込む様に突き進んだバナナボートは、大きな浮力の発生に波を突き抜ける前に大空へと向きを変えて飛翔する。
(ズバン!)
「んごっ!!」
その衝撃は凄まじく、全員が目の前の乗員に顔を打ち付けて鼻血を吹き出し遠退く意識の中で突き抜ける青空に煌めく星の様な水飛沫が舞う光景を見た。
空高く打ち上げられた楓たちは意識を失ったまま海面に落下する。
(どぼん! どぼん! どぼん! どぼん! パシー! どぼん!)
クラゲの様に浮き上がってくる五人と海面で瞬間的に止まった一人。
黄色い悲鳴が響いた海は一瞬で元の静かな波の音だけが支配していた。
「ゴボゴボ……ぶはぁ!」
最初に気が付いたのはマリーだ。
うつ伏せになっていたので息が続かず苦しくて目が覚めたらしい。
吸い込んだ海水を吐き出して咳き込むと、濡れた顔を手で拭って鼻が痛いのを疑問に思いながら何をしていたのか思い出す。
そして突然気を失ったのを思い出した。
記憶の最後はバナナボートの最後尾でリリの後ろに居たと思い浮かべると周りを見回した。
一番目立つ黄色く大きなバナナボートが後ろ五十メートル先くらいで波に揺れている。
幸いリリはマリーの直ぐ近くで見つかったので仰向けにすると、リリの顔から胸、お腹、腿に至るまで真っ赤で、鼻から血が一筋流れる。
焦るマリーはリリを揺すって声を掛けるが反応が無い。
どうしたら良いのか判らず泣き出しそうになるが今は泣いている場合ではないと気持ちを引き締めて涙目になりながらも自分に零司たちの様な力があればと思った。
そう、あの力があればと具体的に知っている力を望んだのだ。
リリを抱きながら砂浜へ向かって泳ぐマリーは自分では気付かない内にリリを回復させていた。
目を覚ますリリ。
「ん……」
「はっ!? リリちゃん!」
「んげほっ、けほっ」
リリは鼻から入った海水を吐き出す。
「良かった、どうしようかと思っちゃった、ぐすっ」
急いで浅瀬まで引っ張って来たが助かったと知ると一気に力が抜けた。
リリでも立てるくらいの浅瀬だったので起き上がり状況を確認すると他の四人はまだ浮いている。
取り合えず四人とも死ぬ事は無いのでリリは気にせず放置した。
「マリー、ありがと」
「うん、無事で良かった。ぐすっ……はっ! 他の人を助けないと!」
マリーはまた慌てて周囲を確認しようとしたが既にリリが見付けてあるのでそれを止める。
「大丈夫」
このまま零司のところに帰ろうと思ったがマリーがそう望むのなら仕方無いとリリは小さな体でマリーを背中から抱えて浮き上がりバナナボートまで移動した。
そして横転しているバナナボートをマリーに起こして貰い、ボートに座らせる。
「救出する」
それだけ言うと二人を乗せたボートはゆっくりと進み、波に揺れながらも四人を救出出来た。
ボートにうつ伏せに寝かされた四人だが楓は落ち方が悪かったのか留めが甘かったのかアンダーが無くなっていた。
しかし探すのも面倒なのでリリは気にせず放ってある。
まるで尻叩きでも待っているかの様な姿勢で運ばれた四人は海岸に到着するとそのまま放置された。
「バニラシェイク」
「バニラシェイク一丁!」
「あの、サーラさんちょっと良いですか」
海の家に戻ったリリは何事も無かったかの様にいつもと同じ調子で直ぐに喉を潤す事を考えた。
しかしマリーはあの四人を放って置いて良いとは思えず小さな声でサーラに相談する。
「こちらバニラシェイクです」
サーラもいつも通りに応対してマリーが焦っているのを気にしている様子もない。
「どうかなさいましたか?」
「皆さんがその、ボートで遊んでたら事故で、それで気を失ってて……」
それ以上どう説明して良いのか判らずアワアワとしている。
サーラはカウンターから顔を出してその方向を見るとインフォメーションチップで確認する。
「解りました。後はこちらにお任せ下さい」
状況を確認してから笑顔で応えるサーラに安心したマリーは手を引かれリリの隣に座って溜め息を吐くとテーブルに突っ伏した。
「飲む?」
リリの言葉に突っ伏したまま顔を向けるとリリが優しい笑顔でマリーを見ている。
起き上がったマリーは息を整えると置いて来た四人はサーラが任せろと言ってくれたし何よりリリが無事だったのが嬉しくて笑顔を取り戻した。
「うん!」
マリーは不思議な紙のコップに入ったバニラシェイクを冷えたガラス製のストローを使って吸い込む。
そのとても甘く柔らかな味と冷たさにリリの温かさを感じている。
リリもマリーの笑顔が嬉しくて少しだけ目を細め頬が赤くなっていた。
「零司様」
「ああ、聞こえてた。楓たちは何してたんだ?」
カウンターから店内に出て外へ向かう二人。
少し離れた波打ち際に座礁した船舶の様に打ち上げられたバナナボートが見える。
そこにはうつ伏せで寝かされた四人が居た。
いや、正確に言うなら四人の尻が見えた。
零司は打ち寄せる波に揺れるバナナボートの上で同じく揺れる四つの尻を眺め、楓のツートーンになったそれを見る。
『日焼け跡は正義。それに無いのも悪くない』
零司の感想である。
楓は水着に着替える前に転移前に見た記事で最近流行りだと言う全身永久脱毛をしてあった。
リリとマリーのマイクロビキニに負けないビキニをその場で創り上げ、どうせならとやったのだ。
もちろんそこには今夜の計画も含めた楓の思惑があったのだが、まさか実行前に見られる羽目になるとは思ってもいなかっただろう。
それは楓の黒歴史になるかならないかの瀬戸際であった。
そしてサーラは零司と楓の二人は既に肌を許し合っている関係だと認識しているので特に口を挟んだりはしない。
零司はタオルを四人の上に広げて出現させる。
「サーラ、後を頼んでも良いか?」
「はい、お任せ下さい零司様」
サーラはその場を離れる零司を礼で見送り救護にあたった。
◻
「ん、んー」
「楓様、大丈夫ですか?」
目が覚めた楓はサーラの問い掛けに何かあったのだろうかとボンヤリとした思考の中で考える。
「なぁに? どうしたの」
仰向けになって寝ていた楓が目を開けると目の前にはサーラの顔があった。
「サーラさん……ここは?」
サーラから目を離して周りを見ると白い壁と天井の部屋だった。
楓は白亜の館を思い浮かべるがそれにしては雨に似たノイズが聞こえ、開け放たれた窓から見える空は快晴で優しく吹き抜ける風が潮の香りを運んでくる。
「そうか……」
潮の香りに意識がはっきりとして記憶が甦る。
バナナボートで大きな波に挑んだところで途切れた記憶がその後を物語っている。
「私たちは負けてしまったのね。ふっ」
何かおかしなスイッチが入っているらしい。
「皆様ご無事ですからご安心下さい」
数人で遊んでいたのを思い出しても具体的に誰が居たかまでは思い出して無かった楓は考える。
そして唯一普通の人間だと思っているマリーがどうなったのかと気になったがサーラが皆無事だと言ったのを思い起こして安堵した。
「心配掛けたわね」
「いいえ、ご無事でしたら何も問題ありません」
柔らかいベッドから起き上がり自分の手を見ると日焼け跡になるだろう赤みが無くなっている。
恐らくサーラが回復を掛けたのだろうと思うが今夜の楽しみが減ってしまうとがっかりした。
「それでは私は他の方を見に行きますのでこれで失礼します」
「ありがとう」
「いえ、では」
部屋を出て行くサーラを目で追った後、掛けてあったタオルを退けて体を見れば、やはり元の白い肌になっていた。
態々小さな二等辺三角形の布に細いベルト状の紐で仕立てた白いビキニとの差があまり無い。
だがそれで諦める楓ではなかった。
今夜の合意で迎える前提の大切なイベント。
それは人生でたった一度だけしかない一生心に残る重要なイベントに向けて出来る限りの下準備をしておきたい楓には諦められる事ではなかったのだ。
水着の日焼け跡が男子の心を惹き付けると書いてあった記事を元に偶々(たまたま)偶然日焼けしただけと言えるこの機会を逃す訳には行かないのだ。
「時間はまだある! 諦めたらそこでお終いよ!」
一人で気勢を挙げる楓は即行動に移す。
まず透明のビーチチェアを用意します。
全身裏表同時に焼ける様にその下にレフ板を置きます。
全身が確り焼ける様に『焼けるオイル』を塗ります。
恥ずかしい所もきちんと焼ける姿勢で居られる様に囲いを創り、立ち入り禁止札を貼っておきます。
「これなら良いでしょ」
早速透明なビーチチェアに座り、まるでテーブルに足を乗せ横柄な客がふんぞり返った様な格好で日差しを受ける楓は本気だった。
「くっ、熱いわね。でも負けないわ!」
両面直で焼いているのだから熱くて当たり前だ。
流れる汗がレフ板に落ちて蒸発するそこは魚焼き器の様な一種の地獄である。
◻
壁の外からサーラの呼び声が聞こえる。
「直ぐ行くわ、少し待って」
朦朧とする楓は閉鎖された壁の内側を水で満たした。
「気持ちいい……」
酷い炎症にならない様にだけ気を付けていた楓はひんやりとする水で全身を一気に冷却した。
水を消して透明なビーチチェアやレフ板をどうするか考えたが要らないと消し去る。
代わりに壁全面を鏡張りにして水着を回収した。
「……うん、これならイケるっ!」
確信した楓は浄化して肌の手入れを手早く済ませてリゾートにマッチする荒い織り目で爽やかな膝丈の白のワンピとシースルーの風通しの良い上掛けを羽織り、粗めの麦わら帽子を創った。
小麦色と呼ぶには程遠いが日に焼けた跡がハッキリとするその肌に白のワンピは清楚なお嬢様が実は健康で活発な少女だったのかと思わせる、そんな大人の雰囲気と子供の悪戯っぽさが兼ね備えられた美しさを持っていた。
「完璧だわ」
本当に自分なのかと鏡の中の人物に惚れしまいそうになる。
最後にお気に入りの香水をつけておくがあくまでも控えめの物だ。
創り出した服以外を消し去りサーラの前に進む。
「待たせたわね。行きましょうか」
突然消えた壁の中から現れた楓の姿に見惚れるサーラは息を飲み、返事が遅れた。
「はっ、はい!」
白いハイヒールを両手に裸足で歩く楓の後をついて行くサーラは見違えた楓に零司とは違う別の恋心を抱いてしまうのだった。
楓の尊厳は守られたのだろうか?




