9.異世界初の食事
一年以上も空いてしまったのですっかり忘れられていると思いますが遅くても続けていきます。
「そろそろ日が落ちてきましたね」
「そうね、そういえばご飯食べてなかったわね」
そう、空から落ちてきたのが零司時計で午前10時頃。
それから全く食べ物を口にしていない。
まあ色々とあった事を考えればそれも仕方ないだろう。
それにラチェットによれば神の眷属はお腹が空かないらしく、それもあってか気付かなかったらしい。
しかし食習慣がある零司は楓に応えた。
「これなんかはどうだ?」
楓とラチェットは零司の声に目を向ける。
そこには二匹のウサギのような動物が居た。
しかも土から作ったと思える檻の中に。
「これどうしたの?」
「ああ、降りた時から周りに居たのを見てたからな、捕まえてみた」
「ネコも手伝ったにゃん!」
ネコが手を挙げて飛び跳ねる。
「え、ええ、ありがとう。
ラチェットさん、これって食べられるの?」
ラチェットに向き直りたずねる。
そこには目を輝かせて両手を頬に充て、涎を垂らしそうなラチェットが居た。
「そのウサギわはぁぁ」
ラチェットの様子がおかしい。
「天界でも極たまにしか食べられない幻のウサギ、ゴールデンラビットですぅ!」
「なんですって!」
「なんということにゃー!」
「ふむふむ」
本気で驚いている楓とノリでマネするネコ。
零司は情報としてしか聞いていない。
「これを食べたら寿命が一割伸びると言われる伝説級の食材なんですよ!」
「おぉー!」
死のない神の寿命一割って。
「しかも、つるすべのお肌に張りが出て、髪しっとり、全女性垂涎の的なんです!」
楓は張りのあるつるすべお肌に髪しっとりの自分の姿を思い浮かべる。
その隣には自分に見とれ、求愛してくる零司の姿が。
「きゃーきゃーにゃー!」
二人の目は金兎に釘付けになる。
女性の貪欲な希望の眼差しを一身に集める金兎は身震いした。
「早く逃げるのにゃ」
檻を壊すネコ。
「ぎゃー!」
あっという間に見えなくなる金兎。
その光景を目に焼き付けながらへたり込む二人。
二人で目を合わせると夕焼け迫る空を見上げる。
ほんのひと時の夢を噛みしめる様に気力のない声で笑っていた。
ウサギを捕まえてみたものの捌くとなれば可愛そうだから止めてと言い出すのだろうと思う零司は理不尽フラグを折るようにネコに命じたのだった。
□
そのあと零司は限界高度より下の木が育つ場所まで来ていた。
辺りを見ても木が生えているくらいしか分からない。
それでも何か食べられる物は無いかと探してみる。
『こんな時、あれが使えたらな』そう思った。
すると、零司の視界にゲーム画面と変わらないステータスや情報窓が開いた。
「おお、これが欲しかったんだ!」
続いて近くにある物を片っ端から鑑定してみる。
殆どは【高山の木】で、地面は【高山の草】と【高山の石】だらけだ。
鑑定のLvが低いのか大雑把な分類だが、その中に変わった物を見つけた。
【宝石の原石】
中に宝石の原石が入っている。
原石の大きさ:直径約10cm
原石の重さ:約5kg
宝石の種類:【神光石】
宝石の大きさ:直径約7cm
宝石の重さ:約4.7kg
さらに神光石を調べる。
【神光石】
神が地上へ降臨する際に稀に自然発生する。
神力を流し込むと光を発し、容易に加工できる。
透明度、硬度ともに非常に高い。
神力を保存可能で容量は大きさと品質が影響する。
力を込め過ぎると爆発するので注意を要する。
[下界情報]
名称:神の証
神が降りたとされる地で稀に見つかる非情に貴重な宝石。
神が降臨した際、光ったことからこの名が付いた。
非常に硬く同じ神光石でしか加工できないので原石のままの物が多い。
辺りを石に限定して見回すと、草陰に大小いくつか転がっているのが分かった。
「おいおい」
まあ、折角だし拾っておくか。
何かに使えるかもしれないしな。
ここでお約束のあれだ。
「無限倉庫」
目の前に窓と言うか、コインロッカーみたいな窓が表示された。
そこへ拾った石をひとつ放り込んでみる。
窓に石のアイコンが表示された。
丁寧なことに石のアイコンは形状がわかるようにゆっくり回っている。
目を合わせると説明が表示されて、タグ、メモ、固有名称まで付けられるようだ。
残りの石も放り込むと一覧になる。
全て神光石なのでまとめて箱に入れるようにしたら1つのブロックになった。
それを開くように考えると展開してひとつひとつを見ることができた。
「使い易そうだ」
肝心の食材探しに戻る。
食材そのものはウサギが居たのでこの辺りにもあるのだろう。
ただそれを見つけられないだけで。
ここは都合のいいキーワードが必要だな。
適当にそのままコマンドを出せばいいか。
「この辺りの食べ物か食材を探せ」
するとかなりの数が半透明のアイコン付きチップで表示された。
さっきの金兎が数匹、金兎が食べてるのだろう小さな実がそこら中にある。
ただその小さな実は人が集めて食べるには手間がかかりすぎる小さな物だ。
「これはまずいな」
この分だととてもではないが食料を手に入れるどころではない。
「今夜は我慢して明日街か村に行ってからにするか」
そう言って楓の下に帰ってみたのだが。
「零司、はいこれ。どこ行ってたの?」
楓が差し出したのは小分けの袋に入った飴だった。
おやつ用にでも持っていたのだろう。
「その辺に何か食材でもないかと探したがウサギ用の小さな実くらいしかないな」
「そう、それじゃ今晩は食事抜きかー、でも明日は人里に行かないとね。いくら食べなくても大丈夫になったって言われても、やっぱり何か食べたいしね」
「だな。ところでネコ、美味いか?」
ネコは目を閉じて一心不乱に口の中の飴を転がして舐めている。
「零司様お帰りなのにゃ! いまネコのお口が凄いことになってるにゃ!」
正面から嬉しそうに抱き着くネコを見て楓が蒼い顔で睨む。
見なかった振りをして適当に頭を撫でてやる零司。
「それは良かったな。それにラチェットも静かだな」
ネコを引き剥がし向きを変えて楓に送り出すと今度は楓に抱き着いている。
これで楓を封じることができた。
ラチェットは香り付きの飴を口にするのは初めてらしくゆっくりと堪能していた。
□
「さて、日も暮れてきましたのでそろそろ家で休みませんか?」
飴を舐め終わったラチェットが提案してきたが断る理由もないので承諾する。
すると楓は零司の横から袖をちょこんと摘まんで恥ずかしそうに零司から顔を背け自分が創り出した家の方へ軽く引いている。
零司は自作の屋敷がどんな住み心地なのかを確かめたいと思っていたのだが、普段見ることができないしおらしい楓の誘いに戸惑い、なし崩しに楓の家に行くことになった。
零司は初めて楓を可愛いと思ってしまったのだが、なぜ零司が暴力を受けながらも楓を護るのかと言えば、小学校に上がったばかりの頃の零司はひ弱で女子と一緒に帰るような奴と同級生に虐められたことがあった。
このとき男子よりも勝ち気な楓に助けられたのだ。
「これじゃどっちが男か分からないじゃない」
そんなことを言われた帰り道で小さいながら零司は宣言した。
「ぼ、僕は楓ちゃんをまもれる男になるよ!」
それから今に至るわけだが物理的に護ることしか頭になくヲタク文化に毒された中二病ができあがり頭を抱える楓に日々しごかれていた。
だから零司は楓の弱気な姿を見るのは今日が初めてで、ましてやそんな折りに自分から誘うなど、受け入れる以外の選択肢などある筈がないのだ。
零司が楓の誘いを受け入れて皆で楓の家に向かおうとしたその時、遠くで叫ぶ人の声が聞こえた。
注連縄さんをリメイク中。
いつか出せると願いつつ、こちらも続けたいと思います。