84.異世界ハイキング4 街へ
今回も見てくれて有り難う御座います。ヽ(´▽`)/
楽しんでもらえたら嬉しいです。
「それで、レージはさっき何て言おうとしてたの?」
マルキウはヘッドバットされる前に零司が言っていた言葉を思い出す。
『そうだな。その頃にはサーラも卒業するし、卒業生の中から成績の良い者や面倒見の良い者を教員として採用すれば、俺たちの時間も他に回せるしで今よりももっと色んな事が出来る様になる。ただ……』
この言葉の直後にマルキウの悲劇が起きたのだ。
「あれか。まあ、来年サーラが卒業してモールを全部任せられる様になってからだな。元の時間に、あの家に帰って……それからどうする、楓」
「え? えっと婚約したのを報告するわよ、ね?」
零司に任せて後を着いて行けば良いと思っていた楓はまさかの質問を受けた。
「ああ、それはうちの親にも報告するし、おじさんとおばさんにも挨拶に行く。そこは大丈夫だ」
この言葉に楓はホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ何を聞きたいの?」
「その後だ」
「あと?」
「俺たちの生活をどうするか、だな。何も考え無しに帰る事は出来ないのは解るな?」
これには全員の真剣な眼差しが注がれた。
零司たちの選択次第で自分達の未来が大きく影響を受けるのだから当然である。
「あっちの世界に飛ばされた時は帰る事しか考えてなかったが、今は向こうに大切なものが沢山ある。それを話すのか?」
楓は言葉に詰まる。
実際に帰れるのがほぼ確実になった今、漠然とした『帰る』から、どうやって元の生活に戻るか、そうでなければどこまで打ち明けるのか。
それをきちんとしてからでなければ帰る事など出来ない程にあの世界に深く関わっているのだ。
そして関わりを続けて行くのならばそれを秘密にするのか、それとも打ち明けるのか。
打ち明けるとしてどこまでにするのか、だ。
「まあ、まだやり残してる事や帰るタイミングとか色々ある。皆が一番良い方法で帰れる様にしないとな、って事だ」
「確かにそうね。私たちが帰るにしてもあの高さから転落して消えた筈だし、不都合の無い帰り方も考えないといけないのよね……」
「ああ。大体二年後までには帰れるだろうとは考えてるが、俺としてはあの世界と関わり続けたいと思ってる」
「うん、それは私も一緒よ。折角知り合えたんだもの、これからも仲良くしたいわ」
「まあそれは規定路線だけどな、ははっ!」
規定路線の意味が分かったのは楓とネコ、サーラだけだったが、零司の笑顔はそれ以外の者を安心させるには充分なものだった。
◻
零司はシュガードーナツ号の高度を地球半個分の六千キロメートルまで下げて高速で地球を周回し始めた。
本来なら釣り合いの取れない高速周回による遠心力も、解釈をねじ曲げて問題なく地上を眺めて楽しんでいる。
「こちらの世界は本当に陸地が多いのですね」
地球を一周十分くらいで周回する横倒しになったシュガードーナツ号から地上を眺める。
その全ての角度で陸地が見えるこの地球をサーラはただじっと見て呟いた。
「そうですね。私も零司さんに見せて貰うまで世界がこんなに丸いなんて知りませんでした。そして如何に私たちの住む土地が狭いのかも……」
ラチェットはしんみりとした感じで言葉を繋いでいく。
「それなら向こうに帰ったら陸地を創ってみるか?」
「ちょっと、零司。そんな事したら地殻変動や海抜に影響を与えて大変な事になるわよ!?」
「そ、それはダメですぅ!」
突然海底を隆起させて陸地なんてつくればその分の海水が他へ移動して海水面が上昇する事になるだけでなく気候変動や自転周期にも影響が出るだろう。
「それなら大丈夫だろう、良い案があるぞ? ふふふ」
腕を組み、少し悪い顔つきになる零司。
「本当ですか!?」
ラチェットにしてみれば人が住める陸地は広ければ広いほど良かった。
沢山の人口を支えるには食料を確保するための広大な土地が必要だからだ。
今の状態でも余裕はあるのだがギリギリまで使いきる必要は無く、他にも土地が確保できるならそれに越した事は無かった。
それに零司と楓の様な神をも凌ぐ知識と力を持つ元普通の人間を産み出す世界の良いところだけでも真似したいとは思っている。
零司たちの世界はラチェットの世界とは違い『暴力的』を通り過ぎて『地獄』に等しい戦争や、日常でも人殺しや略奪が起きていると聞いているのでそう言った事まで持ち込みたいとは思っていない。
これに関しては零司と楓も同様に、態々汚す事を望んではいないのだ。
「ああ、帰ったら早速取り掛かる。期待してると良い」
不適な笑みを浮かべる様はまるで魔王。
「魔王様、凛々しい」
「ネコも手伝うにゃ!」
「そうだな、ネコにも手伝って貰おう」
「零司様、私にもお手伝いさせて下さい」
「わかった。サーラにも頼もう」
「有り難う御座います」
幸せそうに微笑むサーラ。
「本当に大丈夫かしら」
「楓も来るか?」
「私はいいわ、こっちは今でも手一杯よ」
「そうか。それじゃネコとサーラは夜に俺の部屋に来てくれ」
「わかったにゃっ!」
「はい!」
夜の地上を眺める楓は神だからこそ昼の様に見える暗視能力を使いある一点に目を凝らす。
楓は立ち上がり胸元で両手を組んでそれを見た。
「日本……」
衛星軌道から見る日本は千年程度では殆ど海岸線に変化など無く緑豊かな島だった。
「あれが零司様たちが居た国でしょうか?」
小さなサーラも立ち上がり、陸地の中でも小さな島を見つめた。
正確ではないが夜間教育で零司が書いた世界地図を見て知っていたサーラにはそれが日本だと直ぐに判った。
「ああ、あの小さな島国が俺たちの故郷、日本だ」
その日本の姿に郷愁を覚える楓は零司に寄り添い、流れて行くままに目で追った。
そして日本の姿は見えなくなり、楓も大きく息を吐いて零司の胸に顔を埋める。
「早く帰りたい……」
故郷の日本を目にしてもそれは千年前の日本である以上、我が家には帰れない。
両親を想い寂しさを訴える楓を零司は優しく抱き締める。
「あと少しだ。必ず一緒に帰るぞ」
「うん」
やがて地平に陽が登り、シュガードーナツ号の乗員を眩しく照らし出す。
楓も落ち着き零司と顔を会わせて少しだけ照れ臭そうにして席へと戻ると零司が告げる。
「ヨーロッパも天候が回復したみたいだしそろそろ街へ行くぞ!」
◻
晴れ上がった空を降りて来たシュガードーナツ号は、リリの不可視を使って都市の近くにある山の中に降りた。
小屋の前に降り立ったそこは平らな広場のようで、木々で囲まれて見通しが効ず、草丈の低い小さな原っぱだった。
「マリー、手伝ってくれ」
「あ、はーい」
何故マリーだけが呼ばれたのか不思議に思うが誰もそれを口にはしないのは、零司がする事だからきちんとした理由があるのだろうと分かっているからだ。
「私も行く」
マリーが居なくなると何となく寂しいリリも着いて来た。
シュガードーナツ号の外に出た三人は雨に濡れた草を踏み、原っぱの真ん中にやって来た。
そこは木々から離れ、朝でも充分に日が射す場所だ。
マリーが何かに感付いた様に見ているそこに零司が軽く手を翳すと陽炎が揺らいだ様に転移門の格納庫の様な純白の倉庫が現れた。
「これは……」
マリーが見ていたのはこれだったのだ。
その建物は南面の壁に窓らしきものがあり、零司たちが立っている東面の壁は既に上へと回転しながら持ち上がり天井と一体化する車庫のシャッターの様だった。
開いた入り口からは馬車と厩舎が見える。
「これに乗って街へ行くぞ」
◻
日が昇ってまだ一時間と少し。
だがこの都市はもう動き始めている。
零司は全員を馬車に乗せてその馬車を丸ごと都市まで浮かせて移動した。
幾ら都市に近いとは言っても、そんな距離を馬車で移動するのは時間の無駄なのでリリの不可視化で姿を消して馬に目隠しをしてから空を飛んだ。
そして適当な人の居ない物影から当たり前の様に姿を現している。
当然御者はマリーで零司と並んで座っているのだが、二十人が乗る馬車と言うのはかなり大きく二頭立ての馬車だった。
当然荷台も位置が高く、荷台に座っても街行く人々よりもかなり視点が高い。
周りを見るのにとても都合が良いので特に問題は無いだろう。
そんな馬車をマップを見ながら街の中央付近へと進める零司たち。
「何だか中世前期って感じね」
「そうだ、正にその通り、東ローマ帝国領らしいな。この時代を見る限り個人で旅行する時代でもないらしいから別の街へ避難途中って事にしよう」
零司たちの衣装はサーラの強制感応によりおかしいと感じない様にしているので目立つ事も無いだろう。
街行く人を見る限りあまり明るい雰囲気は無く、どちらかと言えば仕方なくやっていると言ったものを強く感じる。
朝市を荷台の上から眺める巫女たちは見た事の無い食材や知らない言葉を聞きながらも隣り合うパートナーと話し合っている。
周りを見ても良い顔はされず、寧ろ警戒の様なものを感じている。
「こ、怖いです零司さん」
「大丈夫だ、俺が居るから心配するな」
零司が暴虐神リジカーネスを追い返したのは有名な話でありマリーもそれを知っていたので確かに零司が居ればとは思うものの、敵意を持った野性動物の群れに囲まれているかの様なこの雰囲気はマリーには堪えるものがあるらしい。
沢山の民族が大量に流入して来たこの時代は暗黒時代とも呼ばれた。
そんな時代に観光で旅をする者など無く、旅行者として見られるならそれは敵意にも似た感情になるのは仕方無いだろう。
だが零司はそんな時代を選んで連れて来ている。
それは零司たちの時代へと到る多くの時間が破壊と略奪により成立しているのを知って欲しいからだ。
それは今後もこの世界にやって来る度にハードになるだろうが、事実として知った上で彼女たちにも判断して欲しい事があった。
零司の予想ではそれは却下されるだろうと分かりきっている事ではあるがきちんと知っている方が良いだろうと考えた。
その上で自らの意思で『零司たちの世界とは取引しない』と答えて欲しいと思っている。
ルールミルたちと巫女たちには悪いが折角平和で居られる世界にこの世界の暴力的な略奪思想を持ち込ませない為にも、気分を悪くしてでもきちんと見て貰うのだ。
その一方でネコとリリ、マルキウは全く気にしていない。
見た事が無い様式の街並みや衣装、食物などに気を引かれている。
特にリリに至っては街の雰囲気など彼女が生まれた世界に比べたら子供の遊びみたいなものである。
殺戮が蔓延した世界の戦の女神のメンタルは伊達ではないのだ。
ただひとつ、ベタ惚れの零司を除いては。
◻
ガタガタと揺れながら街並みを見ていると何やら槍を持った五人の兵士が集団でこちらに向かって来ると横に広がり道を塞いだ。
「止まれ!」
隊長らしき兵士が前に出て命令する。
マリーは零司の指示を待つまでも無く命令に従い馬車を止めた。
「どーすんのよ」
人間サイズのマルキウが零司の後ろで囁く。
「なるようになれ、かしら。はぁっ」
溜め息を吐いて楓は既に諦め模様だ。
ただし捕まるとかでは無く、ここで観光も終わりと思ったのと相手が可哀想と言う方向でだが。
「魔王様、私が行「くなよ?」……」
リリが出たら絶対歴史に残る事件が起きてしまうと零司は反射的に言葉を遮る。
「何を言ってる! 貴様ら異国の者か!」
零司たち神は勝手に言葉が解るのだがこちらの異世界語は当然向こうの兵士には分かる筈が無い。
「これは申し訳ありません、女たちが驚いた様でして」
零司はこの集団のリーダーとして現地語で答える。
「ふん、言葉は通じるか。それで貴様は何者だ。何しにこの街へやって来た。それにその女たちは何だ」
零司は事前に考えてあった返事をしてみる。
「こちらの方々は田舎の修道院に居りましたが、例の民族の侵攻で住む場所を失いまして、知り合いの教会まで送る途中なのです。私はそのお手伝いを致しております」
隊長らしき人物は顎に手を遣って考え込んだ。
「ふむ、そう言う事なら構わんだろう。道を開けろ」
納得した兵士に楓は胸元に手をあてホッと息を吐く。
零司がマリーに出発の合図をしたその時だった。
「待て!!」
再び止められるが今度は零司に矛先を向けている。
明らかに警戒している掛け声とその態勢に、命令で道を開ける為に一ヶ所へ固まりつつあった四人の部下たちも急いで馬車を取り巻き槍を構えた。
「ひぃぃ!」
ラチェットが悲鳴を上げ楓に抱き着く。
部下が構えたのを確認すると隊長らしき兵士は楓に矛先を向ける。
「そこの女がしている指輪を見せろ」
楓の左薬指に嵌めた指輪を見つけて確認を要求して来た。
その要求に対して楓は隊長の目を見て反抗の意思を示す。
当然零司も目が座り、冷徹な目付きで兵士を見下ろす。
「貴様らっ! 逆らうと言うのか!」
隊長らしい兵士と二人の兵士が零司に対して槍を構え、残りの二人の兵士は楓に矛先を変えて近付く。
この時代に街中に警ら隊って居たのかは知りません。
あと大雨直後の街に露店が大量に並ぶと言うことも無いだろうなーと思いつつ、普通の晴れた朝のような露店の通りをイメージしていますw




