82.異世界ハイキング2 門を抜けるとそこは
今回も見てくれてありがとうございます。(●´∀`●)
最近入力に使ってるタブレットがタッチ感度不良で酷いことになってますが頑張って描いてますw
さて今回はやっと元の世界へと……どうなるかな? フフフ
シュガードーナツ号が異世界転移門の格納庫に入ると白亜の館側の扉が自動で閉じる。
ここは果樹園のエアシャワー室と同じ機能を持っているが実際はそれだけでは足りないので零司が浄化する事で異世界間の無用な物を持ち込まない様にしている。
「一応はこっちと時間を合わせておいたから向こうも朝日が出た頃だろう」
向こうとは言っても既に転移門を通り抜けているので実質『こちら』なのだが扉が開いてないので心情的にはまだ『向こう』の世界である。
そして零司たちの世界の扉を前にシュガードーナツ号内を含めた格納庫内全体の浄化を済ませ、今度は零司が扉に手を翳すと同時に巨大な扉が薄青く輝き始めてその光を増してゆく。
「奇跡を越える奇跡、繋がりし二つの世界、その姿を我が前に現せ」
『プシュー』と空気が漏れる様な音と共にスチームパンクを思わせる大量の蒸気に隠れてどこから来たのか巨大な歯車たちが現れる。
シリンダー内に送り込まれた高圧の蒸気がピストンをスライドさせる。
コンロッドが大きく揺れて半径が人のサイズ程もあるクランクシャフトを力強く回す。
大きなフライホイールはその回転力を蓄えながら速度と稲光が走る輝きを増してゆく。
(ヒュゴォォォォォォォオォォォオォオオオオオオオ!!)
(バリッ! バリリッ! バチィィッ! バリッバチィィィ!!)
その稲光が連続して轟音とも咆哮とも取れる格納庫内に響き渡る音が最高潮に達し、それが合図になった。
「オープンザドアー!!」
(ガゴンッ!! シュゴォォォォ……)
ドッグクラッチがスライドして噛み合い、クランクの回転が巨大な歯車を回して重厚な扉を開いてゆく。
歯車の隙間から漏れるレーザーのような青い輝きが蒸気に当たって光り、フライホイールの稲光と相まって見える光景はまるで小さな雷が乱舞しているかの様だ。
ついでに演出の為の複雑な機械を無意味に動かしていたりする。
しかしそれはサーラの強制共感とは異なる幻影なのだが、扉の動きと連動するその様は現実にそこに在るとしか思えない。
そして何より派手だ。
当然だがこんなに騒々しく派手で慌ただしい演出に、静かな環境で暮らしてきた巫女たちやルールミルは耳を塞いで目を閉じている者も居た。
これにはさすがの零司もやり過ぎたかと思う。
理由の多くは赤く点滅する楓のステータスだ。
『零司と要相談/怒り』
零司は楓を目視確認するのはやめようと思った。
(ドゴーン)
扉が開ききる重厚な音が響くと、巨大な歯車たちはスチームの中に姿を消し、そのスチームも次第に消えた。
そして扉があったその先に異世界が広がっている……筈だった。
「あ?」
そこは明るい格納庫内のシュガードーナツ号の中から見る限りただの暗闇だ。
このとき異世界組は『これが零司たちの世界、魔王の故郷、暗黒の世界』と普通に受け入れてしまう。
その時、目の前で雷が炸裂した。
(ピシャッ! ドーン!!)
「きゃーーー!!」
楓を含めた殆どの乗員が悲鳴を上げた。
雷は遠くの方でも多数発生している様だ。
そして雷の光に照らし出された周囲の風景は険しい山岳地であり、とても人が住める土地とは思えなかった。
絵面だけで判断するなら正に魔王の世界である。
「こ、これが、楓さんのセ、カ、イ?」
ラチェットは零司の謁見室を思い出して青ざめる。
だがその恐怖感情が襲来するのを無理やり否定して思考を現実に戻してみても、すでに恐怖に支配されるラチェットの声が震える事に変わりは無い。
「零司、どう言う事なの!」
楓は自分が描いていた帰郷のイメージとかけ離れた状況に緊張し、まるで宇宙戦艦の艦長の様に零司に訊ねる。
◻
「どうやら外は豪雨みたいだな」
一人で外を見に行った零司はシュガードーナツ号に戻り、階段を昇りながら言った。
「ねえ、どーするの?」
ネコの頭上に居る小さなマルキウはもうやる気を失いだらけていた。
あれだけ派手な演出で期待させておいてこのザマである。
「まあ大丈夫だ」
また椅子を出して座る零司。
「あと一時間もしない内に快晴になる。それまで暇になるから今の内に宇宙へ出てラチェットたちの世界と比較してみるか」
「それが良いわね。私も本当に帰って来たのか早くこの目で確かめたいわ」
「ああ、しっかり確めてくれ。但しこの時代は千年くらい昔みたいだからな、文化レベルで見たら向こうと変わらないだろうが……」
「ううん、それでも自分が居た世界なら安心出来るわ。それじゃ零司、お願いね」
「それじゃ行くぞ」
零司は再び立ち上がり楓を背に格納庫の出口を見る。
シュガードーナツ号が僅かに浮かび上がりゆっくりと出口へと移動して外に出ると、緩く斜め上方へ移動した。
格納庫の扉が自動で閉まるとそこには存在しないかのようにその姿を消す。
そして格納庫からの明かりが無くなり暗さに馴れた目で周りを見れば、さっき見た絵面と同じくとても人が近付けるとは思えない険しい岩だらけの深い山奥だ。
「ふむ。変わりは無い様だな」
周囲に走査を掛けるが半径十キロ以内に人や人工物の類いは発見出来なかった。
登山と言うスポーツまたは学術調査が無いこの時代に、こんな場所で人に発見される可能性は無いに等しいが用心は必要だ。
冒険家や領地の調査を徹底する時代にはまだ数百年の猶予はあるが、今あるヨーロッパではいずれ発見される可能性も高いのだ。
最終的には最初にイメージした場所、零司の家の近くにある林にでも転移門を移動したいと考えていても狭い日本であの時代になるまでは危険過ぎて持ち込む事が出来ない。
そのうちまた別の場所を探して転移門の引っ越しを予定している。
零司は周囲の確認を終えて上昇すると伝え、シュガードーナツ号は雷雲渦巻く厚い雲に突入する。
当然薄暗いので天蓋近くに大きなリング状の照明を創り出した。
雨雲の中は見通しが悪くシールドも一時的に曇るがあっという間に大きな水滴に統合して流れ落ちて行く。
遠くなど見えない雨雲の中でシールドに張り付くその雨粒を眺める乗員たちはとても不思議そうにその様子を観察している。
やがて雨雲を突き抜け青い空が見えると同時に東の低い空に太陽が見えた。
突然の明るさに皆は小さな悲鳴と共に手で光を遮り目を瞑る。
眩しさに馴れてまた目を開いた時にはシールドに着いていた水滴は超震動により綺麗に落とされていたのでシールドすら存在していないかの様な透明感が回復していた。
シュガードーナツ号は順調に上昇し、あっという間に静止衛星高度の約三万六千キロメートルに到達した。
地球の直径が約一万二千キロメートルなので地表面から地球三個分の高度だ。
その高度で見る地球も宇宙も、ついさっきまで居た異世界とはまるで違っている。
同じ部分を探しても丸く青い地球と北極の氷の大地、それくらいだった。
「本当に私たちの世界に帰って来たのね」
ドーナツの穴からヨーロッパが中央に見える地球を覗きこむ楓は涙を流し、足元のシールドに涙が溜まってゆく。
「楓様、良かったのにゃ」
優しく楓の背中を抱くネコ。
「おめでとう楓!」
マルキウはネコの頭から離れて宙に浮きながら楓を祝福する。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
リリにラチェット、他の皆から祝福される楓はネコに抱き着き泣いた。
それをいつもとは逆にネコが楓を撫でてあげるのだった。
一方で巫女は零司たちを祝福する。
「おめでとうございます零司様、楓様。お二人の念願が叶った事を心よりお祝い申し上げます」
全員で頭を下げている巫女たちは家族と言うには堅い気もするが純粋な祝福にその言葉を素直に受け取った。
「ありがとう。だが元の時間に戻るにはまだ一年くらいは時間が掛かりそうだがな」
「ふーん、それじゃ利益還元事業が終わってまた来年の新入生が入ったころになるのね」
マルキウが飛んで来て零司の話に混じる。
「そうだな。その時にはサーラも卒業するし、卒業生の中から成績の良い者や面倒見の良い者を教員として採用すれば、俺たちの時間も他に回せるしで今よりももっと色んな事が出来る様になる。ただ……」
腕を組んで星空を見上げ何かを思う仕草をする零司に釣られてマルキウも見上げた。
暫く見上げていた零司は一旦目を閉じて深呼吸する。
考えがまとまり、ゆっくりと目を開いて顔を正面に向けると、零司の真後ろで一緒になって見上げていたマルキウにヘッドバットを喰らわせた。
「どほぉっ!」
事故とはいえ弾き飛ばされるマルキウは軽い全身打撲状態で反対側に居たリリにキャッチされた。
そのままシールドまで行ってたらもう一度痛い目に遇うところだ。
「痛いじゃない! ナニすんのよ! イタタ……」
リリの両手のひらの上で叫ぶと倒れた。
サーラは直ぐにマルキウに近寄って手を翳す。
特に詠唱などもせずマルキウは薄い緑の光に包まれた。
「ふぅ、痛みは引いたわ、ありがとサーラ」
大きく息を吐いて起き上がるマルキウ。
「いいえ、どういたしまして。それとリリ様も助けてらっしゃいましたので」
「ん? ああ、そうね。リリもありがと」
リリの手のひらに乗っているのを確認して感謝する。
「気にしなくて良い」
本当にそんな感じのリリ。
ボールが飛んできたので捕った、に近い感覚の様だ。
お礼が終わると零司の目の前まで飛んで行くマルキウは当然怒っている。
「ちょっとレージ、いきなりナニすんのよ! すっごく痛かったんだからね!」
憤慨しているマルキウは零司の額をペシペシと連続で叩く。
「済まなかった。まさかあんな目の前に居るとは思わなくてな。謝るだけと言うのもなんだし、この機会に前から試作してたこれをやろう」
零司は無限倉庫からベルト付きの革製ポーチと指輪を取り出す。
ポーチは綺麗に鞣した質の良い皮で出来ていて、女性の拳が入る程度の小さな物だった。
表面中央にはマルキウを意匠化した羽を持つ人形と、その周囲に草花の模様が刻印されている。
ポーチの裏側には楓とリリの印章である楓の葉とユリの花、そして中央には十字架の様に幅広の直剣が逆さに刻まれている。
指輪は銀色のシンプルな物で、小さな宝石がひとつ輝いていた。
宝石はいわゆるブリリアンカットされた代物で、神光石だとひと目で分かる虹色の輝きを発していた。
そんな物を目の前に出されたマルキウだが反応は冷静、いや、冷たい。
「で? それが何だって言うのよ」
マルキウの言葉は尤もだ。
何故なら小さな精霊のマルキウに人間サイズのアイテムを見せたのである。
ミテールヌ山脈の転移門群を利用するのに鍵を用意出来ず生体認証を採用した様に、サーラたちが持つ鍵の首飾りでは体のサイズが変わるマルキウではこういったアイテムは常備出来ない。
しかし今回のアイテムは違った。
「マルキウ」
零司は少し笑顔を見せマルキウを見詰める。
「何よ」
少し下がって零司を見下ろす位置で腕組みしている。
「ポーチの蓋の裏にあるポケットの中の石に触ってみろ」
零司はポーチの蓋を開いて、ポケットの口をマルキウに向けて差し出す。
いぶかしむマルキウだが零司の言う通りにポケットの中に固定されている小さな神光石に触れた。
ポケットから手を抜くとあっという間に小さくなってマルキウが装備するのに丁度良いサイズになった。
「ナニよコレ!」
それを見ていた周囲も呆気に取られている。
「それを持ったまま人間サイズになってみろ」
一瞬言葉を失っていたがワンテンポ遅れて返事を返す。
「う、うん。いーわよ」
両手で手のひらの上にポーチを置いて、見詰めたまま大きくなる。
光り輝き、人サイズになったマルキウの手の上にはマルキウから見ても自分が着ている衣装と同じく相対的な大きさで変化があった様には見えない。
「あとコレな」
零司は残った指輪も呆然とするマルキウの手のひらに置いた。
「それは鍵だ。そのポーチと同じでお前でも指にピッタリと合う様に作った」
零司の説明に泣いていた楓もネコを抱いたままその状況を見ている、と言うより全員が注目していた。
指輪を摘まんでじっと見詰めるマルキウはキラキラと七色に輝く、まるでダイヤの指輪の様なそれを天井近くにある照明に翳して眺めている。
「零司、私には?」
ぐずりながら指輪を要求する楓。
「魔王様、私も欲しい」
「ネコも欲しいにゃ!」
他の者たちも頬を染めて零司を見たり指を見たりしている。
「安心しろ、二つとも全員分ある」
零司は立ち上がり目の前のマルキウの両肩に手を置くと、マルキウは指輪を見ていた目を零司に移してじっとその目を見た。
その目は優しく頬を染めるが零司は少しマルキウを下がらせて右に移動する。
「これは各自自由に使えば良い。但し他の者には渡さない様に」
そう言うと指輪とポーチの二つワンセットで次々と渡して行く。
「楓、これはその、婚約指輪として受け取ってくれ」
順番に渡して行きながら楓の前に来た零司は、鍵の指輪以外にもうひとつ、中央に大きなダイヤと周りに幾つもの小さな神光石が嵌め込まれた少し幅広の指輪だった。
それを見た楓は泣き止んだ筈なのにまた涙をボロボロと溢している。
「本当はもっと雰囲気のある場所で渡したかったんだがな」
零司は泣いている楓の前に跪き、楓の顔に張り付いた左手を取る。
「楓、正式に婚約を申し込む。故郷の家に帰ったら俺と結婚してくれ」
感極まる楓は更に声を上げて泣き出し、零司に抱き着いた。
「れ、いじ、ありが、とう」
泣きながら一生懸命に返事した楓。
暫くそのままに二人だけの世界に浸る楓だったが、気持ちが落ち着いてみれば館の住人全員の目の前である。
今度は羞恥心で顔を赤らめ椅子に座り直す。
その時の零司は楓を優しく見詰めて準備が整うのを待っていた。
「改めて」
「うん」
零司の優しい笑顔に安心して言葉を受け入れる準備が出来た。
「楓、俺はずっとお前を守る。だから故郷に帰ったら結婚してくれ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
また一粒、涙を流して笑顔を見せる楓は幸せその物だ。
甘い空間に変貌したシュガードーナツ号と言う婚約発表会場は妙な熱気に包まれていた。
そして零司が持っていた自動調節機能の無い婚約指輪が楓の左手薬指にピッタリと嵌まる。
その瞬間をじっと見つめていた楓の瞳は潤み、一瞬も目を離したくないと目を閉じない様に堪えていた。
それも確りと嵌まった指を確認してからつい瞬きをしてしまうと涙が溢れて頬を伝う。
指輪を嵌め終わり、手を離した零司。
楓は指輪を右手で包み胸元へ、零司にきちんと愛されていると実感する。
同時に零司がきちんと自分を選んでくれた事に内心では歓喜と共に安堵するという、ちょっと極端な二つの感情が同時に存在した。
それは暴力的な自分よりも他の住人が魅力的な女性ばかりで、その女性たち全てが程度の差こそあれ零司に愛されたいと願っているのが当たり前の様に解ってしまう生活を送っていたからだ。
いくら零司にお前だけだと言われても、やはり証拠と言うか自分だけが零司の正式なパートナーだと言う何かが欲しかった。
それをその女性たちの中で、見ている目の前で宣言して正式にそれを交わしたのは楓の心の拠り所を守れたのだと言って良い。
楓はこの中の誰よりも零司に愛されていると、ここに勝利宣言するかの様に片膝を着いた零司に寄って首に両腕を回すと、至近距離で零司を見詰める。
「幸せにしてね?」
涙で濡れた瞳で精一杯の笑顔を零司に見せる。
「ああ、当たり前だ。お前をずっと幸せにしてやる」
楓を抱き締める零司。
そしていつもとは逆に零司を上から見下ろす楓は零司にキスした。
今までの積もりに積もった万感の思いを籠めて、二人はやっと心から結ばれたのだった。
遂に結ばれた二人は新たなるステージへ!
ってなるのかな? 分かりませんw




