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81.異世界ハイキング1 比較対象の確認

大変遅くなりました。申し訳ありません。m(_ _)m


今回は異世界(零司たちの世界:ただし古代)へハイキングへ向かいます。


「全員準備は良いな」

 まだ日が昇っていない朝早く。

 異世界転移門をバックに零司の目の前に並ぶ白亜の館の住人たちとマリー。

 マリーは前日にモールへ食材の納品と、逆にモールから神待宮と王室向けに果物を買い付けていたのでリリが声を掛けて白亜の館にお泊まりしていた。


「大丈夫よ」

 楓が自信を持って答えると後ろに並んだ女たちが揃って首肯する。


 それを見た零司も首肯し、一拍置いて宣言する。

「これより、異世界ハイキングへ出発する!」

「「「おー!」」にゃ!」

「おー!」

 嬉しそうにネコ、リリ、マルキウが応え、遅れてリリと手を繋いでいるマリーも声を上げた。


 異世界転移門は実験中の『何が起こるか分からない』時とは違い、世界を繋いだまま移設されて白亜の館南棟の正面玄関から繋がる花壇で囲まれた一本道の先に在った。

 そして異世界転移門は当然格納庫の中であり今のところ正面玄関はそこだけにしか繋がってないが最初からこれを予定していた訳でも無い。

 正面玄関の前に格納庫と言うのも様にならないが移動なら直ぐ出来るので今はこれで良いと割り切っている。


「だがその前に、本当に異世界なのかを確認出来る様に少しばかり上から大地を見て貰おうと思う。これから浮き上がるが俺がやってるから安心しろ。それじゃ行くぞ!」

 全員が静かに腰の高さ位まで浮き上がる。

「きゃぁ!」

 足裏にはきちんと接地感はあるが透明のシールドなので足下が何も見えない事と、加速度が掛からずまるで地上が落ちたかの様に浮き上がる初めての浮遊に恐怖し、座り込んで目を閉じる者が居た。

 叫びの理由に即座に気付いた零司は一旦地上へと戻る。


「済まん、配慮が足りなかった様だ。少し変更する」

 リリとサーラの時は二人とも抱えていたのを思い出す。

 今は皆が自分で立っている状態だったのを失念していたのだ。


 そこで乗り物を創る事にした。

 一旦皆を転移門側に集めてさっきまで皆が居た通路に手を翳す。

 すると純白の通路に青く輝く二重の線で大きな円が引かれ、ドーナツ状の大きな白い石がせり上がる。


 直径五メーター、内径二メーター、厚さ五十センチの通路だった物が完全に地上から浮かび上がると、それが抜き取られた穴が底から持ち上がる様に通路とは継ぎ目や段差の無いフラットな状態へと変化を遂げる。

 浮かび上がった白くて角張った大きなドーナツ状の物体は再び地面へと静かに接地したかに見えて、その実一センチくらい浮いていた。

 その真ん中の穴は淡く黄色に光るとドーナツ上面と段差の無いフラットなシールドで塞がれる。

 そしてドーナツの上に中央側に向いた背凭れ付きのベンチシートをドーナツの外周に合わせてC字型に生成すると、C字の切れ目部分に乗り易い様に階段を用意した。


「こんなところか。皆この上に乗ってくれ」

 零司が最初に乗って中央のシールド部分まで進むと反射も無い透明だがそこが落ちたりしない安全な場所だと解る。

 まだ不安はあるものの皆零司を信じて次々と乗って行く。


「レージ、これに乗って『はいきんぐ』に行くの?」

 小さなマルキウがネコの頭の上で俯せに張り付いている。

「んー、そうだな、長距離はこれを使うか」

「フーン」

 納得した様なしてない様な曖昧な返事だ。


「それで、これは何て呼べば良いのかしら?」

 楓に訊かれる。


「ふむ……シュガードーナツ号、だな」

 シュガーと言っているが零司が思い浮かべたのは全体が白いホワイトチョコドーナツだった。

「零司が名付けしたにしては分かり易い名前ね」

「シュガードーナツ、とっても甘そうですね。ふふっ」

 珍しく発言したサーラは嬉しそうだ。

「そうだ。サーラはちゃんと解ってるな」

「はい、女性のお客様がデザートにと良く注文されていますので」

 誉められて頬が朱に染まりながらも零司を見つめているが、サーラが思い浮かべたのは濃厚な甘み塊、練乳が掛かったドーナツである。


 そんな話を聞きながらほぼ全員が帰ったらレストランに注文しようと考えていたが楓の発言でそれもキャンセルされた。

「皆でドーナツ作ってみるのも良いわね、んふふ」

 独り言の様に呟いた楓だが、周りはすっかりその気だった。

「楓、その話乗ったわ!」

 楓の隣に座るネコの頭上でマルキウが賛成表明すると周囲もそれに乗じる。

「ならば私もマリーと参加しよう」

「リリ様……」

 リリは隣のマリーにサムアップして見せると笑顔でマリーもサムアップを返した。

「ネコもにゃ!」

 楓の腕に抱き着くネコ。

「ちょっ! ネコ、ぐぅ……」

 頭を楓に擦り付けるネコの頭上に居たマルキウはネコと楓に挟まれている。

「まあ、帰ったら全員でやれば良いんじゃないか?」

 零司はネコを掴まえて楓から少し離してやるとマルキウが転げ落ちたので優しく浮かせて手で掬う様にして救助し回復を掛けた。

 まだ見ぬデザートを食べてみたいが言い出し難かった巫女たちは零司のお陰で参加出来る事になり、表情を平静に保っていたのだが口角がちょっと、ほんの少しだけだが上がってしまう。


「全員乗ったな」

 真ん中で見回す零司はシートに座って零司を囲む皆を確認した。

「よし、それじゃ周りを覆うからな」

 白いドーナツの外周から真っ直ぐ上に向けて円柱状のシールドが延びて天蓋は半球状になり完全に外界と遮断される。

「これを置いておくか」

 無限倉庫から手のひらサイズのデフォルメされた赤いチューリップが一本生えている鉢植えのオモチャを取り出して中央に置いた。


「なにそれ?」

 マルキウが訊ねる。

「これは酸欠防止と空気の浄化が出来る優れ物だ。密閉された狭い場所に長時間居ると酸素が足りなくなるからな。こいつは二酸化炭素を酸素に還元する能力がある」

 零司オリジナルのアイテムだ。

 そしてこの話が解るのは楓とネコ以外では二学年に上がっているサーラだけだろう。

 サーラが知っているのは一学年の生活科目にある保健の授業で教えるからだ。

「フーン」

 さっきとは違う、良く解っていないけどこれ以上聞いても仕方ないと割りきった返事だ。


 零司は説明が終わると階段の方を見て手を翳す。

 すると階段が無くなり、C字型で椅子が無いスペースに追加で椅子を出した。

 零司はそこに座るが両側にはお付きたちが居る。

 礼をしたまま固まるお付きの二人。

「そういうのはしなくても良いぞ。家族だと思ってくれ」

「「畏まり」ました。あっ」

「そうそう、レージなんて弟だと思えばいーのよ!」

「弟……それも良い。魔王君、これからはリリ姉様と呼んで」

「誰が弟だっ!」

「ふふっ、私だって零司よりは早く生まれてるんだから実質お姉さんだしね。零司よりも年上ばかりね」

 クスクスと軽い笑い声が広がる。


「まあ良い。弟と言うのは認めないがな! さてと、準備も出来たし行くぞ」

「行くのにゃ!」


 零司の声にゆっくりと上昇するシュガードーナツ号はさっきと同じで加速感など無くまるでビデオでも見る様に地上が見える。

 館全体、ファーリナや『禁足の地』跡地、それから加速度的に上昇速度は上がり続ける。

 そして真ん中の穴から地球全体が見える高度に達するとそこで止まった。


「これがいま俺たちが居る世界の地球だ」

 皆椅子から前に頭を突き出して穴を覗き込む。

 緑色の星雲に浮かぶ丸い物体。

 半分は暗く東が青い地球に白い雲が掛かり、大きな大陸がひとつだけ光と影の境目に見える。

 そして北極の氷の大地も見えた。


 どこまでも続く地平があると考えていた現地人たちは丸い水平線が見えた時、全く理解が出来なかった。

 事前に北極点オーロラ観測所へ行って零司の説明を受けていたのならそれは逆に当たり前として受け入れられたのだろうが。

 その直後に全体像が見えた丸い地球にも当然驚いている訳だ。


「上を見てみろ」

 言われるままに見上げるとそこは夜空があった。

 スラゴーの天幕の圧倒的な存在感は地上の比では無い。

 ただ地上で見るのとは何かが違い、それが何なのか判らなかったが零司の説明で判明する。

「地球の外で見る星はキラキラとは瞬かない。ここは空気が無いから陽炎の様に光を揺らす力が働かない。そしてこのシュガードーナツ号が無ければ、てか、きちんと対策をしていなければここでは人は直ぐに死んでしまうだろう」


 零司の言葉は科学知識を持たないこの世界の者には衝撃的だった。

 地球と零司が呼んだ人々が生きる『世界』の外は『死者の世界』でありスラゴーの天幕の概念と一致しているのだが、先祖たちは死者の世界では生者である自分たちに囁いて(瞬いて)はくれないのだ。

 自分の死後もスラゴーで先祖たちと対話が出来ないのか、それとも生者である今の自分たちがこの場所に居るから囁き掛けてくれないのかその答えは出ないが、事実としてここに居る者に先祖は何も語らないと残念に思う。


 だが零司はこれに答える。

「ここは本来今のお前たちが居るべき場所じゃない。だから地上に居る時とは違う事もあるだろう」

 シュガードーナツ号に乗り込んだ時から皆をモニタリングしていた零司は巫女たちが星の話を堺に急速に心が沈んで行くのを確認していたのだ。

 理由まで見てはいないがこれからハイキングへ向かうのだからこの雰囲気を元に戻したいと補足した。


 これに成る程と受け止めた者たちは、自らの内にある恐怖にも似た考えや感情に区切りを付けて不安に囚われない様に零司の言葉に心を寄せる。

 そして先祖の囁きの無いその空にもう一度目を遣って、今は無き人々を想い冥福を祈るのだ。

 

「さてと、これが今の所俺たちが居る世界だ。これから向こうに行って同じ事をするから良く地球を見ておけよ」

 シュガードーナツ号は昇った時と同じく垂直に自重しない速度で降下するが大気との摩擦熱などは発生していない。

 シュガードーナツ号はシールド製のチューブ内を真空にした空間を移動しているのだから当然であり、これは一種の軌道エレベーターになっていたのだ。

 一分足らずで白亜の館が見える所までやって来ると徐々にスピードを落として恐怖を感じない程度のゆっくりとした速度で着地する。

 その間迫る地上を見ていた者も椅子から振り返り、朝の筈なのに日が沈んで行く様に見える不思議に神秘性を感じていた。


 地上に戻ったシュガードーナツ号は異世界転移門の格納庫前まで少し移動してまた止まるが太陽は地平線から少し顔を出した辺りである。


「良し、今度こそ異世界へ行くぞ。サーラ、扉を開けろ」

 突然の振りだがネコの隣で零司を見ていたサーラは即座に応えた。


「はい零司(ご主人)様」

 サーラは立ち上がり神に祈る様にその薄い胸板に両手を組んで目を閉じる。


「我が主、魔王零司の名に於いて命ずる。その偉大なる叡智に満ちる輝かしき神々の地へと至る栄光の門よ、今こそ我らの前にその姿を見せるがいい」

 左手を左目に翳して中指と薬指の間から透かし見て、水平に刀で凪ぎ払う様に右手を振り扉に向け目を見開く。

「オープンザワールドゲート!」

 白亜の扉はキラキラと虹色の粒子の様な輝きを放ち、扉に描かれた日本を中心に見た世界地図と楓のレリーフが輪郭に添って光の筋を伸ばし全体に広がった。

 (ガチンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴ……)


 零司から学んだ演出が遺憾無く発揮されて乗員たちからの歓声と拍手で喜ばれるサーラ。

 だがこのスペル(詠唱)、誰も気付いてはいないがヴィジュアルエフェクトとしてサーラが認識しているからそうなっているだけで、もしサーラが異世界転移門を望んだ場合、それは成されてしまう可能性が非常に高かった。

 零司と同じ性質の力を持つが故に、この世界自体が零司の改変の力に馴染んでしまい、その力が行使し易くなってしまっているのである。


「いつ見てもサーラの開門術は美しい」

 リリからお誉めの言葉を頂くサーラは誇らしく、同時に気恥ずかしかった。


 ただ、零司はサーラが自分を『我が主』と呼んでいた事に楓の目線が気になり目を向けるがニコニコとしているだけである。

 しかしその笑顔は屈託の無いネコの笑顔とは大分違っている様ではあるが。

『零司、後で話があるからね』

 そう言っている様に見え、零司の中心線にある何かが『きゅっ』と縮み上がるのだった。


 そして開いた扉の奥にはモールへ繋がる転移門の格納庫と同じくもう一枚の扉があるので外は見えず真っ白な空間があるだけだ。


「ゴホッ、それじゃ異世界へ進むぞ」

 零司の言葉に緊張する巫女たち。

 それとは真逆に楽しそうにしているネコやリリたち。


「レージの世界ってどんな所か楽しみだわ」

 ネコの頭の上で俯せに両手で頬杖をついているマルキウ。


「ネコも楽しみにゃ!」

 実質こちらの世界で自我を持ち、生まれたに等しいネコは特性として現代日本の建築物を創り出す能力を持つが、日本での記憶は無いので里帰りと言うよりも親の故郷へ共に帰省する様な感覚だった。


「ネコさんはこちらの世界で生まれましたからどちらが故郷なんでしょうか?」

 ネコの生い立ちを知るラチェットは腕を組んで人差し指を顎にあて、クエスチョンマークを頭上に浮かべる様に思い付きを口にする。


「どっちもよね、ネコ」

 ネコを抱き寄せる楓、それに喜んで抱き着き返すネコは幸せで一杯である。


「早くマンガを読みたい」

 しかしまだその時では無い。

 マリーはリリが言う『マンガ』を知らないが、リリが求めている物を見てみたいとは思う。


「零司様の世界、どんな所かしら」

 ルールミルは個人的な期待感を持っては居るが、やはり王女としての目線も持ち合わせているだけにただの観光で済ませる積もりは無く、何かしら異世界の知識、またはお土産を持ち帰りたいと考えている。

 それはイーノや巫女たちも同じである。


 特に巫女たちは神の溢れ話などと言う抽象的で曖昧な情報よりも、白亜の館で過ごすように神の生活に直接触れる機会の方がずっと実入りがあるのだ。

 それが今は直接神の国、しかも人々が生活する街へ直接行くと言う話なのだからこれを有効な時間にしなければならないと緊張もしている。


 そんな彼女たちを一番年下のサーラは静かに眺めているが、そのサーラも零司と共にその世界へ行ける喜びを感じている。


 零司はサーラが感じている感情の一部を感じとっている。

 それは心の底からの幸せであり、零司の心に共にある幸せとして沁みてゆくのだった。

まだ門を抜けてない…。


作者的に予定していなかった新しい展開で頭の中で話が固まるまで今回同様に少し時間がかかるかもしれません。

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