78.サプライズ
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既にバレバレですが今回はマリーが何の女神だったのかが判明。
そして遅れて申し訳ありません。
最初の授業参観から丸一週間、神待宮の面々もその生活に馴れてきて明日は帰りというその夜。
いつもなら食事をしてから少し時間を置いて風呂へ向かっていたが、今日は先に風呂を済ませてから食事になった。
風呂上がりではあるが今回は正装である。
集まったのは裏の正門から転移門へと続く白い通路脇に用意した芝生のパーティー会場で、マリーがリリを抱き上げてくるくると回っていた場所だ。
そこは立食形式のテーブルの上にオードブルと新酒などが所狭しと並び、巫女のお付きたちが自らメイド役として待機している。
ここには白亜の館の住人と神待宮からの客人に加えてモールのチーフクラスと教師のケイン、領主夫妻も招待してあった。
ただし厩舎のチーフは辞退して代わりに次期チーフとして期待されているサーラの兄、バローを寄越している。
今まで白亜の館でこんな催しをした事は無いが今回はその方が良いだろうと正式に招いたのだ。
その目的は、最終日になってしまったがアーレたちとの正式な対面ともうひとつあるがそちらの方が本命と言える。
「あー、今夜は突然の招待に集まってくれた事に感謝する」
ライトアップされた純白の転移門格納庫をバックに零司が挨拶を始めた。
それを花に囲まれた芝生の真ん中で見ている人々の表情は明るい。
「集まって貰ったのは二つの理由がある。ひとつは神待宮からやって来た四人の客人との顔合わせだ。これは今後神待宮との往来が多くなりモールにも密接に関係が出てくるからだ」
この話を聞いた人々はついに零司も神待宮を利用するのだろうかとの憶測が人々の中に広がる。
だが今までの零司を知っているファーリナの住人にしてみれば沢山の美女と美少女に慕われ囲まれながらも楓一筋な零司に対してそれは早計な考えだと直ぐに気が付いた。
楓は零司を信じていると何でも無い風を装っては居るのだが事前に聞いていなければ惨事が起きていたかもしれない。
その一方で神待宮の者にしてみれば出来る事なら他の候補たちも全て零司に付かせても良いとすら思っている。
それは契約書に書かれた今後提供される異世界の情報だけでなく、既に約束された冬季の利益還元事業講習会、そしてモールでの新しい食料開発や学校での高度な教育と生活スタイルなど、数え上げれば限りが無いのだ。
これだけの功績を僅か一年程度で成し遂げてしまった零司にならこれくらいしても誰も文句など言わないだろう。
「そして二つ目だ。ここ、白亜の館と神待宮を転移門で繋いだ報告と来賓客の紹介だ」
零司の言葉に目を丸くする三二五期担当と作法担当、そしてマリー。
アーレは事前に転移門を設置する場所について相談を受けていたので当然知っていた。
驚く三人を見るアーレの表情は優しい。
「アーレは知っていたのかしら?」
作法担当は落ち着いてアーレに訊ねた。
「ああ、零司様から相談されていたからね。何て言ったか……『さぷらいず』とか言ってたね。驚いたかい?」
「当然ですアーレ様。これで驚かない者など居ましょうか」
三二五期担当は軽く溜め息を吐いて呆れている。
アーレはマリーを愛しい孫を見る様に優しい笑顔で見た。
「これでいつでもリリ様に会いに来られるね」
「はいっ!」
そう言ったアーレは零司から転移門の相談を受けた時にマリーにも知らされていない本当の姿や身の上を内緒で伝えられていた。
マリーが居るべき場所は白亜の館なのだとアーレは思うが、その反面でいつまでも傍に居て欲しいとも思う。
両方の気持ちと折り合いが付けられる転移門設置案はアーレにとって正に天恵だった。
後は零司に任せれば安心してスラゴーへ旅立つ日を待つ事が出来ると考えている。
もうひとつの懸案であった忌紋定着施術者についても授業参観で後継者となる者を育てる目処が付いたのである。
学校で行われていた神術の授業の受講資格検定の形式に則り館内の巫女とお付きたちに検査をしたところ、クーリスに適正が認められたのだ。
これによりクーリスはサーラから神術を学び、将来は神待宮の最高責任者補佐の席が用意されている。
最高責任者は当然ジーナだ。
他の巫女たちが経験していない酷い神を相手に学んだ術や、今後零司の元で学ぶ高度な教育を受ける事が確定している館のお付きたちも将来は神待宮へと帰り、後進を育てる重要な柱となって行くのだ。
アーレは今回の件でそう遠くない未来、神待宮はその役目を終えるかもしれないと思っている。
零司からの説明によれば、学校教育が思っていたよりも順調に進んでいるらしく、将来の教師もそう遠からず育つだろうとの事だ。
それが齎す未来は人の一生の間に世界が様変わりするだろうと言っていた。
元より人々の暮らしを向上させる為の情報収集が神待宮の役目である。
その役目はこの世界の人々が技術を手に入れて自ら進み、新しいものを作り出して行く力を身に付け始めた今、この時代の境目にある今この時に終わりを告げているのかもしれない。
だが神待宮の役割は神の接待だけではない。
今後は減ると予想されるが、貧しい家庭で育てるのが困難となった子供たちを引き取り、養育して生活する術を身に付けさせなければならないのだ。
しかしそれさえも今回の転移門設置で神待宮の者がこちらの白亜の館で教育を受けたり、仕事や食料の援助を受ける算段が付いているのである。
こうして生きる為に天使の要請で始まった神待宮の事業もアーレの中では終わりが見えていたし、アーレ自身が最高責任者になってからずっと望んでいた神待宮を必要としない世界と言うその夢が正夢になろうとしていた。
アーレは魔王零司に、ただただ心の底から感謝しているし、アーレを救ってくれた可哀想な『幸運の女神マリー』に幸あれと願わずに居られない。
さて、話は戻って『来賓客の紹介』だ。
転移門を神待宮に設置するに当たり、協力した者が他にも居る。
神待宮と言えば王都に在る。
王都と言えば王が住む都、その土地にいくら神とは言えど無断で転移門を置くのは日本人としては配慮に欠けるだろうと事前に連絡を取ってあった。
もちろん取り次いだのはルールミル以外あり得ない。
許可を取り付けた上でアーレに相談して設置したのだ。
「それではお越し願おう、国王ウィゼル・ル・ホウシランと王妃ウィゼル・ミラ・トリーノ、こちらへ」
転移門の格納扉が開き、二人が並んで現れた。
国王は白髪で既に歳を召してはいるがそれなりに確りとしている。
しかし以前ルールミルが国王は挨拶に伺えない的な事を言っていたがさすがに往復十日の旅はその身にはきついのだろう。
王妃は少し小柄でまだ若く三十代前半くらいだろうか。
ややもすればルールミルと歳が離れた姉妹ではないかと思わせる若さがある。
現王妃の前に二人の妃が居たのだが、どちらも世継ぎを残せず他界していた。
王族はル家とミラ家の二つだけで成り立つ近親婚が続いている為に、子を残す事に苦労している家系でもある。
そんな王族の登場に会場からは一瞬のどよめきが起き、直ぐに静寂が戻ると二人は後ろに居たルールミルとイーノの案内を受けて司会の零司と楓にゆっくりと歩み寄る。
「零司殿、楓殿、またお会い出来て光栄です」
「こちらこそ、良く来てくれました。心から歓迎します」
笑顔で手を差し出す国王ホウシランに零司も手を伸ばして歩み寄り、確りと両手で握手を交わす。
その隣で楓と王妃トリーノも握手して挨拶を交わしている。
四人の握手に会場からは歓迎の柔らかい拍手が響く。
しかし普通は王との接見で握手などあり得ない。
それは国王が零司に合わせただけだった。
正装ではあるものの砕けた会話が出来るのは、既に王城で会談をしていたからであり、零司と楓それぞれにルールミルを頼むと言われていた。
その席で国王は娘が零司の子を欲しがっているとそれとなく話に織り交ぜてありそれは零司にも伝わっていたが、実際には国王がルールミルに命じた事である。
それでもルールミルが乗り気だったので嘘ではないのだが、今は当のルールミルが楓を想う気持ちを優先させていた。
そして若い王妃もまた楓に娘を側室にと推薦している。
いくら王妃であっても女神に押し付ける様な真似は出来ないので楓も当たり障りが無い範囲の返事をしている。
挨拶を終えると横一列に並び会場の人々に向けて説明を始めた。
「今回の転移門設置にあたって国王と神待宮の両方の許可と意見を貰って決めた約束事があるのでそれを伝える」
要約するとこうだ。
一、利用者は限定されて一般の流通には利用しない。
一般に対して必要以上の利便性向上はしない方針だ。
二、神待宮への協力。
ファーリナの住人のようにモールと学校ではなく白亜の館で仕事と教育の両方を請け負う。
幸いにも広大な果樹園があり、更に果樹園とは別に畑を用意したので野菜類も大量に作る事が出来る。
教育は学校の卒業生の中から教師として採用する事にしたので来年度から始める予定だ。
三、治療を行う。
一般的な病気怪我の治療に加え、神待宮で巫女とお付きの役を終えた者たちの通常生活への復帰支援が含まれる。
「この三つを柱に転移門を使うが、それ以外でもここに居る者であれば必要に応じて利用を許可する。判断はルールミルとジーナに条件を伝えた上で二人に任せる」
この言葉にルールミルとは誰なのかと疑問を持つ者が居るのを確認した零司はそれに応えた。
「ルールミルとはルーミルの本名だ。彼女は第一王女だからな」
零司に紹介されたルールミルは零司と国王たちの後ろに控えていたが横に移動して軽く会釈した。
ローゼはサーラからルールミルが第一王女がお忍びで来ていると聞かされていたので、帰りにでもここに居るモールのメンバーに口止めしておこうかと思う。
そして零司に手招きされるジーナは無言で軽く首肯する。
巫女の様式に則りクーリスに支えられ、不安定な芝生の地面を踏みしめる。
ハイヒールでゆっくりと歩を進めるジーナはやがて零司の前に到着すると振り返りお辞儀した。
「この二人だ、覚えておいてくれ。とは言っても二人ともほとんどこっちに居るからサーラとローゼも付け加えておこう、何かあれば相談する様に。それと向こう側は神待宮の責任者アーレと食材卸売り業者のマリーにやってもらう」
そう言って懐から神光石製の鍵を二つ取り出す。
「アーレ、マリー、こっちに来てくれ」
呼ばれたアーレは信じられないといった風に驚いているマリーの手を引き、静かな歩き方で確りと進み出て零司の前まで移動する。
マリーがオドオドとして居るが零司の前に並んだアーレに首飾りを掛けて握手した。
「よろしくお願いします」
零司がアーレと握手すると楓が拍手して周りもつられて喝采が起きる。
マリーにも首飾りを掛けると握手した。
「ここはお前が居て良い場所だ、食材卸しもだがリリの事も頼んだぞ」
首から下がった神光石の輝きを放つ鍵を見つめていたマリーだが零司から声を掛けられると顔を上げ目を向けた。
笑顔でマリーを見る零司と楓。
「はいっ!」
マリーは花が咲きそうな笑顔だ。
授与が終わるとマリーは振り返り、その目の先にはリリが居る。
「ん」
目が合ったリリはサムアップして見せる。
「行ってきなさい」
アーレが優しく後押しした。
「ありがとうアーレ様」
マリーは早足でリリの元へと向かい抱き着いている。
その様子を見る人々も事情はわからなくても幸せ一杯なそんな二人を見ればやはり嬉しかった。
「とりあえず話はそれで終わりだ。質問があればいつでも来てくれて良いぞ。 と言う訳で楓が作った料理を頂こうか、楽しんで行ってくれ」
アーレも元の位置に戻り落ち着くと、零司の声でやっと食事が始まった。
「どうぞこちらへ」
楓が王妃トリーノを誘ってテーブルへと向かう。
零司も楓に倣い国王ホウシランを誘った。
テーブルにあるのは綺麗に盛り付けられたカナッペとピンチョスだ。
「まあ! 可愛いわね」
お付きたちがテーブルの向こうで飲み物の準備をしている。
「頂いたワインはとても美味しかったわ、こちらでも頂けるのかしら?」
「ええ、お好きなだけ召し上がって下さい、造った皆も喜びます」
楓たちは好調に滑り出した様だ。
一方で零司と国王は別のテーブルでグラスを片手に声を潜めて話している。
「うちの娘を押し付ける様な形になってしまい申し訳ないとは思っている。だが私も国王である前に一人の父親だ。娘が幸せになってくれるならそれほど嬉しい事は無い。どうか娘を、出来る事なら願いを叶えてやって欲しい」
「ルールミルはもううちの家族ですから。願いの方は何とも言えませんが善処はしましょう。ただし他言無用に願います」
その後ろにはルールミルとイーノが静かに耳を傾けていたが、ルールミルは今にも爆発してしまいそうなくらいに顔を真っ赤にしている。
そのルールミルを抱いて静かに離れるイーノはまるで忍者が姫を拐うかの様にルールミルの口を塞いで抱え込みその場を離脱した。
マリーはそういう女神だったと。
しかも隠し属性付きです。
修正 2019/0925 『の』の筈が『に』になっていた。
気を付けていてもスマホ入力なので発生し易い。
修正 2024/07/15 『ローゼはルーミルが王女だと知らなかった』のを本来の知っている状態に修正。
その他細かい部分を修正。物語の流れには変更ありません。




