76.マリー
開いてくれてありがとうございます。楽しんで貰えたら嬉しいです。
今回は痛い方で刺激が強すぎる部分があります。
刺激に弱い方は ◼◼◼ から次の ◼◼◼ までの文章をとばして下さい。
マリーが抱えていた苦しみとは、以前の記憶が無い事では無い。
初めて自分を認識した時、既に今とほぼ変わらない姿で何故か自分が手にするべき物とその扱い方を知っていた。
服も自然の材料を集めて加工し手製で作る事が出来た。
狩りをする為の道具作りも自分でやっている。
主な道具は足に縄を引っかけ吊り上げるトラップだが、強力な弓も扱える。
ただし弓と矢は良質な材料を必要とし、労力と成功率を時間辺りで考えた場合トラップの方が能率が良い。
何故なら弓は一人で獲物を追い掛けるか待ち伏せしていなければならず、来たとしても弓を引き絞る時と矢を射出する際に音がするので逃げられる方が多い。
それに対して罠は複数仕掛けられるし追い回して罠に誘導すれば比較的簡単に捕らえられる。
それに罠にかかった獲物は吊るされているので後の処理が楽になる効果もあるのだ。
罠を仕掛けて移動狩りする事で更に能率は良くなるが捕り過ぎは厳禁だ。
そして最も基本的な道具のナイフは自然界で金属製の物など用意できる訳も無く、どこの歴史でもそうであった様に黒曜石などを中心に石を割って作っている。
これはどんな道具を作るのにも重要であり、生活する上でも必要不可欠だった。
◼◼◼
そしてここからだ。
狩猟で怪我をする事は良くあるが、その中で一度だけ獲物の追い込みに失敗して崖から転落した事があった。
落ちた場所は運悪くゴツゴツとした岩場で、崖の高さも到底人が生存できる様な甘い物では無かったのだ。
それは凄惨な死に様になっていただろう強烈な記憶が有り、目覚めた時には体のあちこちが破壊されたままで死の苦しみを味わい、そしてまた気を失った。
そんな地獄を数度繰り返してやっと意識を保てる程度に体が回復する。
しかし意識が跳ばないだけで、それは第二の地獄の始まりであり、マリーは数日間その苦しみを味わいながら徐々に回復する自らの体に恐怖してもいた。
落下から十日もした頃には歩く程度なら何とかなるレベルに回復して山を出たのだ。
それはマリーが自分の存在を認識してから百五十年ほど経った頃である。
◼◼◼
その百五十年の間、と言うか最初の五十年くらいは街へも出入りしいていたし、それなりに知り合いも居た。
当然怪我をしたり病を患ったり、知人が他界するなどといった事も経験している。
人がどの程度の損傷で死ぬのかなど話しでは聞いていた。
誰しも自分の死を経験するなどと言う事は無いのだから話でしか知らないのは当然である。
そして同時に老いて死んで行く知人を見送り続けた後に数十年経過しても成人したてくらいの見た目で全く変わらないマリーに対する色々な噂が立つ様になり、自分は普通ではないのだと強く意識する様になっていた。
悪意こそ無いものの奇異の目で見られるマリーは街を離れ、山の奥深くで生活している最中に今回の事故に遭ったのだ。
人の目を避けて約百年、マリーが向かった懐かしい街は、建物が一部変わっているくらいで変化と言えるものはほとんど無かった。
ただ、街の何処に行ってもマリーが知る人物を見付ける事は無く、同じ街で在りながら全く別の街へ来たかの様で『久し振りに友の家に顔を出したら別の家族が住んでいた』そんな感じの驚きと空虚な感覚を味わう。
幸いにもお金は以前のまま使う事が出来たので飲食店の主人に話し掛ければ、百年以上前と同じく初めて見る顔だとちょっとしたサービスを貰ったりもした。
そしてミテールヌ山脈の周辺では焔の魔神が現れ、危険だから近付くなと忠告されたりもしている。
こんな帰郷と言って良いのかどうかも判らない街に顔を出す生活がまた暫く続いた。
初めの内は仲良くしているし獲物を買い取って貰っていたりもしたのだが、やはり二十年も経つとマリーの容姿の不変さに気が付いて噂が立つ様になる。
前回の事もありマリーは敏感になっていたので直ぐに山へと引き籠った。
しかし人と触れ合いのある生活が恋しくなるのだが街へ行くのは躊躇われる。
そこで街を転々と渡り歩く生活が始まり、大体王都周辺で活動していたのだ。
心に空いた隙間と言うには大き過ぎるその空間を埋めるには足りないが、少なくともマリーは安心が出来た。
知り合いが結婚して子を産み育て、気の良い街の人々と交わす会話、沢山の人々と知り合い、いつまでも一緒に暮らしたいと思える。
しかしそれはマリーにとって心が痛みを伴う結果にしかならず、長ければ長いほどそれは加速度的に強くなる。
この安心と痛みのバランスの上に成り立つマリーはひとつの街に長期間依存する事が出来ないのだ。
転落事故から六百年以上の月日が流れ、神待宮に定住の場を与えてくれたアーレに心から感謝しては居るが、王都に来る前の街で親しかった若い女性を見る様になり、見つかってしまえばここでの生活ももう終わりなのかとそろそろ移住を考えていた所にアーレからファーリナへの案内を依頼されたのだ。
ファーリナと言えば焔の魔神が眠りに就いているとされた禁足の地に一番近い最果ての街で最も話題に上がる四神の住まう街でもある。
噂話でファーリナの事は聞いていたが、まさか自分が行く事になるとは思いもしなかった。
だが炎の魔神が倒されたのであればミテールヌ山脈と言う広大な土地に接する数々の街ならば、まるで怪物の様な自分でももう少し暮らし易くなるかもしれないと僅かな希望が生まれた。
しかしファーリナに近付くに従い街を結ぶ街道の交通量が増え、ここファーリナではひとつ手前のリーデルの街に次いで人の出入りが多い様に見える。
つまりファーリナは他の街から沢山の人がやって来るので、必然的に他の街の人々と顔を会わせる可能性が高く、知り合いと遭遇する可能性もそう低くは無かった。
お祭りは楽しく好意を持っているアーレと一緒に居る分には不安は無いが、もしも一人だったならマリーは山の中へと姿を消していたかもしれない。
そんな気持ちもリリとの出会いでまた幸せを感じたのも束の間、バルコニーでは零司の謎かけの様な質問に現実を思い出して口を噤んだ。
ここで自分が怪物だなんて知られてしまえば嫌われてしまうかも知れない。
もしそうなったらもう二度とこの地にも、アーレの所へも居られなくなるだろう。
だが零司はリリが千七百才以上だと本人しか知らない筈の年齢を言い当てた。
そしてマリーを見て歳なんか気にするな、困ったら頼れとまるでマリーが抱える苦しみを知っているかの様に笑顔で言ったのだ。
マリーは零司の人柄に関して特に感じる所はなかったが、その笑顔とマリーとの信頼関係に、この人なら話しても良いのではないかと思えた。
『助けて』
その言葉を発した時には堰を切った様に涙が止まらず、零司にしがみ着いていた。
◻
「さっきはごめんなさい」
白くなった肌を全身真っ赤にして恥ずかしそうに謝罪するマリーの胸元はポロリこそしてはいないもののかなり開いた状態であり、ややもすればさっきの様に直接零司を楽しませる事も出来る。
「魔王様、リリのも見る?」
リリは胸元に手を差し込みグッと開いて無い胸を曝し、零司に見せ付け迫る。
零司はリリに目を向けると立ち上がり、両手を差し出しリリを確りと掴まえると向きを百八十度回して背を向けさせた。
「なに?」
後ろから楽しむのだろうかと期待するリリの鼓動は高鳴る。
「マリー、良く見てろ」
零司がリリの紐を緩め浴衣を開いた時、マリーに二人の関係を見せ付けようとしているのだろうかと突然積極的になった零司に今日こそはといきなり到来した春に歓喜した。
しかし開かれた浴衣は淡々と着る時の手順で折り込まれ、紐もきちんと蝶結びされていた。
「こうすればきちんと着られるぞ」
真面目に講義する零司はマリーがきちんと出来るまでリリを教本代わりに何度も繰り返す。
「これでどうですか?」
繰り返した回数だけ問題点を確かめて着実に上手く出来る様になるマリー。
「ああ、それなら大丈夫だ」
マリーは浴衣マスターになっていた。
そして零司に教本扱いされたリリはぐったりしている。
「ありがとう、零司さん」
頬を染めるマリー。
「ついでだ、少し付き合え」
リリとマリーを掴まえて北極点オーロラ観測所二階へ転移した。
「ここは? きゃあ!」
空にはスラゴーの天幕が見えるのだがそれだけではなく、ゆらゆらとダイナミックに揺れる大きさ不明の光の波が、白夜が近づく明るくなってきた夜空を支配している。
驚いたマリーは確りと零司の胸元へ抱き着いていた。
軋む零司の肋骨は悲鳴を上げているが黙って我慢だ。
「あれはオーロラ、雲と同じで怖くない」
リリの説明にほっとして気が抜けるマリー。
「こっち」
マリーの手を掴まえてキングサイズのベッドへとダイブするリリは零司の仕打ちに脱力していたが直ぐに復帰して笑顔へと戻っていた。
寝転がる二人は手を繋いで空を見上げている。
そしてマリーはきちんと心に区切りを付けてから二人に身の上話をするのだった。
◻
マリーはオーロラを見上げたまま話し終わると、それまで抑えていた感情を解き放ち、リリに抱きついて咽び泣く。
そんなマリーをただ優しく抱き締めているリリ。
零司はインフォメーションチップからは得られない話を追加で知り、彼女の精神に影響を与えていた問題を把握した。
彼女は自分が神の力を持つ転生体だとは知らずに化け物の様な存在であると考えている事、人々と同じ人生を送れない事に深く悲しみと傷を負っている事が判った。
その悲しみの解消に、理由は分からないが以前の記憶が無い神の眷族であると伝えるのは少し軽率に思える。
今の状況でも苦しんでいるのにそれ以前の記憶を無くしたと言う傷まで背負わせるのは今の彼女では無理があるだろう。
零司は以前の事は分からないのだからとスッパリ切り捨て、マリーがこれから前を見て生きて行く為に、零司が神の眷族にしたと言う芝居を打つ事にした。
彼女が自分の存在に気付いた最初のその時から一度も神術を使っていなかった事から、術を使わせる事で零司の眷族になったと実感を持たせ、後ろ向きにならなくて済む様にしようと考える。
後はそれを何時にしようかと思案するがこれはきちんと周囲の関係者との繋がりを確認して不整合が無いかなどの目処が着くまでは容易に手出しする訳にはいかないのだ。
今後調査にどれだけ時間が掛かるか判らないのとリリが彼女を気に入ったらしいので神待宮の四人が帰るまでにあるプレゼントを用意する事にして二人をリリの部屋に送り届けたのである。
静かに眠るマリーをまるで小さな妹を寝かし付けている様に優しく髪を撫でるリリ。
マリーとは違っていても、人恋しさに長い時間悲しんだ思いは同じであり、それが自分と同じく零司に助けられる事になんだか不思議な繋がりを感じていた。
零司が助けると約束したこの少女を、今度は自分も一緒に助けてあげたいと心から願いながら二人の夜は更けて行く。
今回も悩んだけど結局仲間に引き入れる事になったりして。楓だけを想っているのに零司はどこまで増やすのか。
そう言えばローゼとはほとんど絡みは無いけど、父親のダリル的には零司に貰って欲しい気持ちもあったりします。本人的にも想いを寄せていますがそれはあくまでも夢の範囲であって零司が受け入れてくれるとは思ってはいない感じ。
あと、リリを教材に対面でマリーが着付け直しをしています。あとは、解るよね?
( ´∀`)ふふふ
まあお風呂で見てるから今更ですが、とか。注連縄さんに近付いているので気を付けよう。




