75.マリーを想う人々
読んでくれてありがとうございます! (*゜∀゜*)
今回も楽しんで貰えたら嬉しいです。
バルコニーで今後の予定を確認していた零司だが、そこへ風呂上がりのリリとマリーが現れたので自分が飲んでいたワインを薦めて二人の飲みっぷりを見ていた。
リリはネコよりはマシだが、ごくごくと喉を鳴らしてまるでジュースの様に飲み干した。
マリーはワイルドとも取れる見た目とは裏腹にワインの香りに気付いて上品に飲んでいる。
その姿を見た零司は違和感からマリーを鑑定させて貰った。
結果、マリーは転生体だと知った。
彼女を見る限り以前の記憶があるようにも思えず、もし記憶があったなら『転生体』ではなく『転生者』になるのではないかと勝手に考えている。
そもそもインフォメーションチップ(鑑定)で表示されるのはその対象自身が持つ情報と、ネット上にあるデータ全体またはアカシックレコードの様に、この世界自体に蓄積された辞書的な情報とリンクして表示されている。
現在までにこのデータに接続したのは零司とサーラだけであり、零司は鑑定を手に入れた時に接続した。
それはまるでゲームに存在するデータをゲーム画面に表示する様に、本来は表示される仕様になっていないにも拘わらず、それを表示するパッチを当てる、つまりチートツールを組み込んだ状態にある。
事実上この世界と言うゲームのプログラムとデータを自由に書き換える権限を持ち、世界に対する認識が中二病の零司だからこそ出来たとも言える。
とは言っても、その根元はそれこそゲームや漫画、ラノベなどであって、零司オリジナルの部分はほぼ無いのだろうが。
それからリリがもう一杯と催促するので注いでやると、今度は香りを楽しんでいる。
順番が逆だろうと思うが特に口にしたりはしない。
「マリー、ここをどう思う? 素直な意見を聞かせてくれ」
零司はワインを楽しむマリーに訊ねた。
突然の質問に目を見開き数度瞬きすると、二階のバルコニーから正面玄関前の花壇を見回してからスラゴーを見上げ、そして白亜の館の外壁を見てから零司を見て答える。
「うーん、凄いと思います。それに可愛いです」
「可愛い?」
ちょっと理解が追い付かない零司。
「はい!」
マリーは優しい笑顔で返す。
今は髪を纏めていないので綺麗なストレートの髪の毛が風に靡いたその姿は、日焼けしていた肌も本来の白い肌になっている事もあり、確かに女神と呼べる美しさがそこにはあった。
残念なのは月の光であればその顔の起伏で陰影が出来て、見る側からすれば楽しめるのだがここはスラゴーの天幕の下にあり周りがほぼ一様に同じ光量で照らされるので陰影が発生せずのっぺりとした平面に見えなくもない。
夜は明確な影など存在せず、それがあるとしたら屋根の裏の様に直接光が届かない上にへこんだ部分だけだろう。
「この庭も、装飾も、それにリリ様も、皆さん可愛らしいと思います。んふふふ」
グラスを置いて両手で頬を押さえて嬉し恥ずかしと言った感じである。
「だそうだ」
そう言ってリリを見る零司。
「マリーも可愛い」
マリーを見てサムアップするリリにマリーもリリを見てサムアップを真似た。
「ん」
「あはは」
意気投合している様で何よりだと零司は素直に喜ぶ。
さて、それではどうするか。
マリーに対する違和感の原因は分かったが、これは伝えるべきなのだろうか。
まずはマリーにはこれを伏せて聞いてみるのが一番かと考えた。
「マリーはどんな生活をしているんだ? 良かったら聞かせてくれないか」
左手でディスプレイを左にずらして予定表を消し訊ねる。
「生活ですか?」
首を少し傾げて聞き返してくる。
「ああ」
リリもこの話には興味があるらしく、黙ってマリーを見つめながらワインを口にする。
「そうですねぇ、いつもは山で狩りや山菜採りしてアーレ様やお店に卸してますね」
お花畑のマリーが獲物を〆るところが全く思い浮かばないがインフォメーションチップにあったままの狩人だった。
「どこで生まれた?」
その質問にビクリと反応するマリー。
「どうした? 話したくないなら言わなくても良いぞ」
「いえ、話したくないんじゃなくて、分からないんです」
ちょっと申し訳なさそうな顔で返す。
「気が付いたらそこに居たんです。だからそれよりも前は分かりません」
更に悲しそうな笑顔で答えるマリー。
「そうか、大変だったな。それで今幾つなんだ?」
その質問には下を向いて目を逸らし口を噤んだが零司にはインフォメーションチップが表示されているので既に分かっていた。
それをマリーが自分の口から言ってくれるのなら、つまり零司を信じるのなら助けの手を差し伸べようと考えている。
「女性にそれ、ダメ」
ダメ出しされた零司はリリを見て笑顔で頭を撫でる。
リリは突然の事に戸惑うがそれを受け入れてリリもうれしそうだ。
「まあ、リリは千七百を越えてるけどな」
頭を撫でながら軽い口調で言ってみる。
「なっ! 誰にも言って無いのに! んー!!」
驚きに目と口を大きく開いているが直ぐに涙目になって両腕を振り回して零司を叩こうとする。
しかし撫でていた筈の零司の手はリリの頭を押さえ付け、これを予見していた零司の勝ちであった。
いきなり何を言い出すのかとマリーは目線を零司に戻す。
零司は空振りするばかりのリリから目を離すと今度はマリーを見て軽く笑い掛けた。
「と言う訳だ。マリーも気にする事無いぞ、ははっ」
マリーは零司が何故そんな事を言うのか解らなかったが二人の間に悪意は見て取れず、寧ろ嬉しそうな零司とあれほどの力を見せた戦の女神リリが零司に対して怒っては居てもまるで甘える子供の様だと思う。
マリーが何かを考えて自分を見ていると感じた零司は目線をリリに戻して頭を押さえた手を離す。
「あっ」
リリは突然離れた手に態勢が崩れ、両手を前に出して倒れない様にしたつもりだったがいつの間にか零司に抱かれていた。
「ほわっ!?」
「悪かったな。これはお詫びだ」
突然零司に包まれたリリは驚きで謝罪の言葉など耳に入っていない。
薄い生地の浴衣を通して伝わる零司の体温と匂いにリリは一瞬で熔け、その光景を間近で眺めるマリーもリリの心境を察して羨ましいと思った。
「ま、さっきの質問は気にしないでくれ。だが何か困った事があったらいつでも頼ってくれて良いぞ」
もう一度マリーを見て優しく微笑むその笑顔に、マリーは声も無く涙を流す。
マリーは零司を見つめて胸に手を置き席を立った。
「助けて」
掠れる様な小さな声で言うと、マリーは零司に抱き着く。
緩い帯とズレた浴衣がマリーの胸を曝して零司の顔を埋めてしまうが、マリーが心から頼っているこの状況で押し退ける事も出来ない零司は出来る事なら早目に沈静化しないかと願うばかりだ。
◻楓たちの部屋
さて、バルコニーとは家屋から突き出した部分な訳だが、当然楓たちの部屋からも良く見える。
「いーの? あれ」
窓に頬を貼り付けて状況観察しているマルキウは目線を上げて聞いてみる。
しかし楓はまた何か始まったと軽く溜め息を吐いて窓から離れた。
窓には屈んだマルキウとラチェットが浮いたまま貼り着いて、外から見れば間抜けな姿である。
「ふー。ネコ、紅茶をちょうだい」
ソファーに座り足を投げ出し天井を見上げる楓は神待宮の面々と顔合わせして疲れていた。
いくら家庭的な気軽さとは言っても限度があるのでそれなりに気疲れはあるのだ。
その神待宮の面々も今はジーナたちがホテルへ送って帰り道かな、と言う所だろう。
「出来たにゃ」
ネコは嬉しそうに報告する。
ローテーブルには四人分の紅茶とおしぼりにビスケットが綺麗に並んだ大きな皿が一枚と各種ジャムの瓶に小さなスプーンが置かれていた。
「貴女たちも一緒にどお?」
楓はマルキウたちを呼ぶと早速紅茶を口にする。
「ねーねー、楓は本当に良いの?」
二人ともソファに座って紅茶のカップを手に取り、ラチェットはマルキウに同意とばかりに首を縦に振って楓を見る。
しかしこれに事情も判らず『良いの!』なんて感情的に反応すれば、それこそマルキウの思う壺である。
ここは零司を信じるのが一番だと解ってはいるのだが、やっぱりあんな姿を見ては心が落ち着かないものだ。
紅茶を飲んで落ち着きたい楓には、マルキウの今の言葉は悪魔の囁きの様であり、小さなマルキウが悪魔の格好で楓を突っつく姿を想像してしまった。
「零司なら大丈夫よ」
将来の正妻としての見栄である。
「ホントに?」
即座に返すマルキウの魂胆は判っている。
「だからって零司に抱き着くのは許しません」
脚を組み、ティーカップ片手にどこの貴婦人ですかと言いたくなる笑顔で毅然と言い放つ。
「楓のけちんぼ!」
マルキウの言葉に楓は紅茶を吹き出しそうになり噎せる。
その間にマルキウはビスケットを大量に手元に集めて口に突っ込みバリバリと食べてしまう。
「私は女よ!」
楓は復帰すると思わす勢いで返してしまったが、マルキウとラチェットには意味が分からなかった。
◻ホテル スラゴーの部屋
「この世とは思えない素晴らしい所でし、たわね、あっ! そこっ、いいいいいっ!」
マッサージチェアで浴衣の上から背中をゴリゴリと揉み解されて声が震えているのは作法担当だ。
「もう少し感情を抑えられては如何でしょうか」
茶を啜る三二五期担当に嗜められるが作法担当の声は止まらない。
「マリーがリリ様のお部屋に呼ばれるとは。何とも恐れ多い事だが周りを幸せにしてくれる良い娘だからこれを期にマリーも幸せになって欲しいものだ」
マリーが神待宮に出入りする様になってまだ数年だが、マリーの笑顔とは裏腹に彼女の生活は決して良いものでは無かった。
衣装は彼女の仕事に便利な物を使っているとは言っても、そういう生活を心から望んでいる訳では無いのだ。
狩猟で生活を成り立たせているマリーは土地を持たず、簡単な身の回りの物だけを持ち歩く。
そんな生活をしているマリーに家など在る筈も無く、見かねたアーレが神待宮の片隅にある本当に簡素ではあるが小屋を与えて住まわせた。
入れ換えで出た古いベッドや調理器具、食器などを与えて普通の生活が出来る様にと家事も教えた。
神待宮は女性だけの施設であり教育は特殊なものではあるが、一般性の高い事だけを教える分にはマリーを教育するのにあまり手間は掛からなかったのだ。
そうしてアーレに良くして貰ったマリーはお花畑と言う事もありアーレに良く懐いた。
だが最近、アーレはマリーの様子がおかしいと感じている。
帰って来る時に極度に後ろを気にしていたり、出掛ける時も周囲を窺ってから慎重に歩み出す感じであり、やって来た時とは明らかに違っている。
あの衣装だから目立つと言うのはあるが、それだってマントをしたら見えるのは精々足下くらいのものだ。
話をしてみたがマリーは何でもないと言うだけだ。
理由は分からないがいつかマリーが居なくなってしまうのではないかと彼女が心配だった。
だからこそ今回の良い出会いがマリーに、アーレたち神待宮全てに幸運を運んでくれた様に、あの娘に幸せを与えて欲しいと願っているのだ。
◻白亜の館 リリの部屋
レースのカーテンを通してスラゴーの天幕からの柔らかな光が広がるリリの部屋。
ベッドの懸け布団には二つの膨らみが並んでいる。
布団の中で手を繋いで天蓋を見上げれば、そこには沢山の見た事も無い花が描かれていた。
「魔王様の世界の花」
「……綺麗」
とても楽しみにしていたお泊まりもそれきり会話も無く、ただ泣き疲れた幼児の様にマリーは眠りを迎える。
そんなマリーに寄り添い、彼女の寝顔を見つめて軽く髪を鋤いてあげるリリだった。
最近時間の感覚がおかしい気がする作者です。
文章入力してても1~2日遅れている様な妙な感覚。
ちょっと怖いw




