74.二人目
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「良いもの見せる。ここに居て」
その言葉の後、マリーにシールドを掛けて浴衣から戦闘装備に一瞬で着替える。
マリーの装備よりも更に軽そうな装備と丈夫そうな手足の保護材に動き易いのかがとても気になる。
と言うよりも保護材以外は動きを阻害する要素が全く無い様に見えた。
そしてついさっき、脱衣所でネコの回復を受けたマリーの日焼けした肌は本来の白い肌になりベルトの跡も綺麗に無くなっていた。
リリの白い肌と同じになっているマリーはリリを眺めながらあの装備と同じ物が欲しいと思ってしまう。
理由は単にお揃いが欲しいと言う純粋なものだが。
ただしリリほどでは無いが、マリーのベルトを外した姿はリリの戦闘装備に近いので、リリのマイクロビキニアーマーを装備してもベルトを巻くと結局今と大差はなかった。
そしてリリの方は素手のまま構えると、技名があれば最後まで言い切ってしまいそうな弧を描く高いジャンプと着地のキック。
小さな体で自由落下しただけなのに硬い一枚岩の様に見える着地点は何故か爆砕して大穴が空き、飛び散る大小の石片が見通しを悪くした瞬間、急に爆発音が連続して水平方向に光る何かが高速で移動しているのが見えた。
そう、マリーには『何かが移動している』のが見えている。
普通の人間なら粉塵で霞んだ向こう側で全体的に光っているのが見えるだけなのだが、狩人の資質なのかマリーには少なくとも動いている何かが見えているのだ。
ここで突然視界が真っ白になる。
人の身で直接この強力なエネルギーを持つ光と電磁波を至近距離で浴びたらきっと蒸発してしまうだろうが、きちんとシールドの属性で一定以上の光はカットしろと零司に言われている為、マリーはただ眩しかっただけで済んでいるのだ。
一瞬の白化に手を翳すマリー。
次の瞬間にはスラゴーの天幕を背景にキラキラと虹色に輝く何かが風に吹かれてスノードームのように宙を舞っていた。
マリーの元に転移して戻るリリ。
「どう?」
「凄く綺麗……」
マリーは両手を胸に置いて宙を見上げている。
しばらくその光景を眺めていると宙を舞うキラキラは地面を覆い尽くして最高のステージになるが、演者も居ないのでショーは静かに終わった。
「ブルーワールド!」
リリの声に応え、マリーを守るシールドの外は青白い炎に包まれて、キラキラと輝いていた粉塵もあっという間に溶解し、滑らかな地面へと還る。
その仄かに赤く光る地面を見ているマリーはとても不思議な、綺麗な風景だと思う。
だが現実は焔の魔神と呼ばれたリリの力を見ているのだ。
リリもその力で人々を恐怖させるよりも寧ろこうして喜んで貰える方がずっと嬉しく、焔の魔神と言う姿を借りた根本的な理由である『仲間作り』の方法が間違っていたのと、零司と楓の関係は特殊なものだったのだと今更ながらに気付かされていた。
「今日はこれで終わり。帰ろ」
「うん、凄く綺麗だった。ありがとう」
リリは浄化を掛けてから戦闘装備を浴衣に戻すと、マリーを連れて南国ビーチ風露天風呂とへやって来る。
「運動の後はお風呂で汗を洗い流すって零司が言ってた」
実際は汗などかいてもいないし浄化を使ったのだからその必要も無いのだが、石鹸やシャンプーの香りがあるのと無いのでは違うのだ。
それに運動後に汗を洗い流すのは零司の推奨だ。
それで『たまたま、偶然、気付かずに』零司と同じ湯に入ってしまうのは仕方の無い事故である。
そんな算段を組み立てて零司とご対面……なんて事は今まで無かった。
忙しい零司は食事にすら来ない事も多いのだから。
ほとんどただの夢に近い願望でそんな事を続けているリリだが今日は違った。
マリーと手を繋いで流し場に向かおうと分厚いガラス越しのそこで零司が体を洗っていたのだ。
慌てて隠れる様にその場でしゃがみこむリリと追従するマリー。
木々を模したオブジェの陰まで静かに移動すると隠れて零司を見詰めた。
リリは神なので物音を立てないことなど造作も無いが、マリーは人間であるにも関わらず物音に敏感な獲物に気付かれない狩人の技術が役立ちリリ同様にまるで忍者の様だ。
「零司さんですよね?」
何故か鼓動が高鳴り体の中心が熱くなるのを感じるマリーは、少し上気してぼうっとしながらも零司から目が離せない。
「ん」
リリも零司から目が離せないのだがここからどうするかまでは考えていなかった。
あくまでも零司が湯船に浸かっている時に偶然を装って流し場へ、そして見つめ合う二人は求め合い、零司が迎えに来てむにゃむにゃとか考えていたのだ。
完全にリリの願望である。
零司と自然な接触と素肌で抱かれると言う目標を掲げているのだが良い案が思い付かない。
何故ならそれは戦の女神だから。
しかし楓の様に一方的に殴っているだけで惚れさせる術をリリは知らない。
ただ、場合によっては甘える事で素肌では無いが抱いてくれたりするので、着衣時であれば零司が手空きなら積極的に抱けと要求している。
そんなリリが突然閃いた。
それは隣に狩人のマリーが居たからかもしれない。
「マリー、これから言う事を良く聞いて……」
いつもの喋るのが面倒と言う雰囲気は全く無く真剣だ。
◻
零司は体を洗ってからシャンプーで髪を洗い、シャワーで一気に泡を洗い流すと手拭いをキツく絞り肩に引っ掻けて海岸の様な湯船に向かうと、沖の方に二つの何かが浮いているのが見えた。
二つの何かとは勿論リリとマリーである。
マリーは仰向けに大の字で浮いているが動かない。
リリはうつ伏せで手足と長い髪も水中に垂れ下がり、ちょっと見ではクラゲの様だがこちらも動いていない。
零司は転移で近くに移動すると、そこは足が着かない深さだった。
「ここで何してる?」
立ち泳ぎしながら訊ねるが返事は無い。
『ただの屍のようだ』と口にしそうになるがそれは辞めておく。
マリーの口に手を翳すと息はしているが『リリは絶望的だろうか』なんて思う訳も無い。
だがリリのどんな企みがあるにせよ、このままにしておく訳には行かないのはジーナたちと同じである。
リリを仰向けにして顔に掛かる髪を手で避けても全く反応しないがマリーと同じく息をしている。
リリはこの状態なら放って置いても問題ないだろうがマリーは逆上せてしまうだろう。
零司は大きく溜め息を吐いて諦めると片腕に一人ずつ水面下からお腹に手を回して抱え上げて宙に浮くと、そのまま例の石のベッドへ寝かせ、無限倉庫から取り出したタオルを掛けてから一応は回復を掛けておく。
リリは願望とは違った抱かれ方でもとりあえず素肌で触れると言う目標を達成した事に一応の満足をしているが、出来る事ならきちんと愛されたい。
その時。
「あ、あの」
仰向けで石のベッドに寝かされていたマリーは、その場から去ろうとして後ろを向いた零司の手を捕まえて声を掛けた。
「気付いたか。体は大丈夫か?」
特に気負った風も無く、いつも通りの普通の対応をする。
しかし何となく印象が違う気がするのだが、そんな些細な事は今はどうでも良い。
零司の手を掴んだままモジモジとしながらも上半身を起こして足を床に着け立ち上がると、タオルが落ちて素肌を曝すが今更である。
いや、元々水浴びなどでは普通に裸なので、この場で零司に見られる事に違和感が無かった。
「助けてくれてありがとう、ございます」
零司を見上げ目を見て感謝するマリーの目は、零司に癒されたいと訴え掛けている。
それは癒される感覚だけで実際にどうするのかまでは知らないものの、零司に抱き上げられた時に素肌で触れた背中から、痺れる様な感覚に歓喜し、打ち震える心と体の真ん中から零司に抱かれたいと思わせ我慢が出来ない。
お花畑で開けっ広げなマリーは、その迂闊な体で当たり前の様に零司に抱き着いた。
その時、身体中に電気が走る様な、脊髄を駆け上がる甘美な刺激に耐えきれずマリーはぎゅうっと更に強く力を込める。
「あっ、ああっ!」
それはまるで零司に愛撫されているかの様に、ネコに癒しを受けたその時をフラッシュバックしながらその女の体を脈打たせあっという間に果ててしまう。
体力に自信があるマリーでも脳からの信号が弱れば力など入らないのだ。
力の入らない足腰が崩れ、零司に抱き着いたまま床にお尻を着け息を荒くしている。
マリーの声を聞いたリリはバレたかと体を起こし、満足していた今回の作戦が甘かった事をその目で確認した。
零司の前で座り込み抱き着いて肩で息をしているマリーの後ろ姿を見てしまい、電撃的に薄い本を思い出してマリーに一本取られたと思い自分も参加しようと零司の横に転移する。
零司の体を目の前にした瞬間、待ち構えたトラップの様にリリの頭にチョップが入る。
「んごっ!」
気を失いそうになるが何とか耐えたリリはたたらを踏みつつも立っていた。
それを倒れるかと予測した零司が確りと抱き寄せる。
思いも寄らない事態にリリは困惑するが、抱いて貰えた事にさっきまでの邪念も無く素直な気持ちで、零司のお腹に手を回して抱き着き甘えた。
零司としてはこの状況から早めに脱したいのだが、部外者で人間のマリーにリリの様な扱いは出来ない。
「それで、何であそこに浮いてたんだ?」
黙っている二人。
と言うか、二人とも今のこの幸せに打ち震えて意識は空の彼方へと飛んでいる。
零司は仕方なくベッドに置き去りにされた二つのタオルを無限倉庫に回収してから二人を含めて脱衣所へ転移する。
周囲の状況が変わっても気付いた様子は無いが、零司は自分だけ直ぐ横へ転移した。
当然零司に寄りかかっていた二人はよろける。
「「あっ……」」
漏れる甘い声はとても残念そうだ。
まだ足りないと物欲しそうに眺める二人に、零司は浴衣を羽織って帯を締める。
そして二人の上に呼び出した浴衣が自然落下して、ふんわりとその体を包む。
「まあ理由は話さなくても良い。俺はあがるからな」
零司は二人を置いて館へと戻り、共用バルコニーの椅子に座って正面玄関の周りを彩る庭園を眺めながらワインを出してテーブルに置くと、今後の予定表を表示して思案する。
◻
暫くするとリリたちが自屋に向かう途中でバルコニーに居る零司を見つけ、開いていたガラスの扉からバルコニーへ出た。
集中していた零司はその足音には気付かなかったが、ふんわりと香る石鹸とシャンプーの香りには気が付いた。
「魔王様、さっきはありがと」
「ありがとうございました」
リリは頬を染めて零司に近寄り、そのまま零司の隣の椅子に座る。
マリーは着付けの緩い格好で深くお辞儀した。
零司は軽く溜め息を吐いて一旦手を休める。
「構わん。お前たちも飲むか?」
ワイングラスを手に取り一口楽しむ。
「ん」
「いただきます」
二人とも良い笑顔で静かに答える。
「マリーだったな、お前も座れ」
少し年下に見えるマリーは最初に見た時と印象が違うと思っていたが、よくよく見てみれば肌の色が明るくなっている。
だがそれを口にはせず、そういうものとして受け入れた。
零司はグラスを二つ取り出しテーブルに置く。
ワインの瓶を傾けて注ぐと二人の前に置いた。
「飲め」
その様は多少ぶっきらぼうな感じはしたが、正式な会食と言う訳でも無いし、家族や友と飲むのだからそんな事は関係無い。
それはマリーも同じで、その自然なやり取りは何となく心が落ち着く。
「いただきます」
マリーは両手でグラスを包み込み、口にグラスを近付ける。
ワインが口に入るよりも先に、鼻孔からのブドウの芳醇な香りがマリーを満たす。
自然とグラスは途中で止まり、ただ口にするだけのブドウとは違う濃厚なその感触に暫しの余韻を楽しんだ。
最初の一杯のこの時だけ、ワインの香りに麻痺していない敏感な嗅覚で感じ取れるその香りをしっかりと楽しんだマリーはもう一度グラスを傾ける。
その様子を見ていた零司はマリーに興味が湧いた。
即座に展開されるマリーのインフォメーションチップにひっそりと重要な項目があった。
『異界の女神の転生体』
普通なら考えられない酷い項目を見つけた。
何故なら神は不滅であり、自死を望まない限り死滅しないからで、実質死ぬ事は無いのだ。
それに死滅なら消滅する筈である。
しかし零司は一件だけ心当たりがあった。
それはリジカーネスだ。
リジカーネスに掛けた神罰で彼は神力を失った筈だ。
そのリジカーネスがその後どうなったのかは零司の知る所ではないが予定通りにただの人になっていたら、零司たちとは真逆で神から人になっていたとしたらそれは不滅の存在では無い筈。
彼が自分の世界で他の神に助けられたのならばその心配は無いだろうがその保証は無い。
つまりこの場で推測できるのは、マリーが何らかの理由でリリやリジカーネスの様に呪いを受けてこの世界に飛ばされた可能性がある。
そして更にもうひとつ死んだ事よりも重要なのは『転生体』の部分だ。
つまり生まれ変わりと言う事。
今まで沢山の人々の情報を事ある毎にデータベースに取り込んで来たがデータベースで検索しても転生者の項目を持つ者は居ない。
データベースにあるのはファーリナの住人一万に満たない人々の情報だが、この世界全ての人口自体が少ない中での一万弱である。
全体からの割合は少なくはない。
それでもそこには一人も転生体の項目を持つ者居なかったのだ。
ただ一人、今追加されたこのマリーを除いて。
最近文章作成中にちょくちょく思うのですが、どうも私の文章ってプログラミングの癖がそのまま乗ってるみたいです。
今回の作品は途中何度もこれが変わっているのですが、もう次の作品までスタイルを固められたら良いなくらいの感覚でこのまま行きますw




