73.幸せな大惨事
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今回は丸々お風呂回です。
「ここは一体……」
「まあ」
「素晴らしい」
「すっごーい!」
四人の客はそれぞれに驚きと感動に満たされている。
だが、ここは風呂だ。
眺める場所では無いのである。
客の世話はジーナたちに任せて楓たちも各々で風呂を楽しむその一方で、ジーナたちに案内されて奥へと進む三人の客は一人に付き二人のお付きが世話をしている。
「ここは本当にお風呂なのでしょうか?」
三二五期担当たちは変わった形の滑らかな椅子に座らされて周囲を見回し、お付きたちが髪を洗う準備をしている。
「これが神の国の入浴。広過ぎてまるで外に居る様なのよ」
作法教育担当はあくまでも上品にお付きの案内に従い、ざっと周囲を見回した後、目の前の全く歪みが無い大きな鏡に写る自分の姿を見つめる。
「素晴らしい、素晴らしいの一言に尽きる」
スラゴーの天幕に見守られる開放的なその空間を見渡し、その感動で両手を胸にあて目を閉じるアーレ。
一方、マリーはリリに連れられて、髪を洗うのにポニーテイルを解いてストレートになった。
その自分の姿を鏡越しで見てみれば何処の美人さんだと思う自分に驚き、鏡を見つめ頭を回して側面を見たり髪を手櫛で鋤いたりしている。
その鏡に写る体は引き締まった筋肉質でありながら女性らしいアウトラインを持ち、若いその肌はきめ細かくピンと張り瑞々しい。
日焼けの肌にベルトの跡が白く残る、そんなある意味倒錯的なコントラストが目を引く。
そしてストレートロングのその髪は美しく、これで男が目を向けない訳が無い。
加えてこの世界の住人であり性格も良いのだから何処へ行っても男受けは良いのだが、マリーは今のところその気は無かった。
理由の多くはお花畑の頭のせいではあるのだがそれだけでも無い。
ほとんど望み薄だが希望はあるのだ。
それからはリリに促されるままにシャワーを浴びて確りと髪を濡らすと今度はリリがマリーを好きにする番だ。
リリは時間を掛けて髪を優しくもみ洗いする。
シャンプーを洗い流して小さなタオルで纏めたあと次々とマリーの身体中を丹念に洗う姿は息遣いも含めてちょっと危ない。
最後に足の指の間まで確りと洗われると全身の泡をシャワーで流した。
出来上がった鏡の中の自分を眺めるマリーは本当にこれが自分なのだろうかと思案するが後ろで嬉しそうにしているリリに気付いた。
「ありがと! 今度は私がしてあげる!」
立ち上がるマリーはリリを捕まえてさっきまで自分が居たイスに座らせ、見よう見まねでシャワーの蛇口を捻った。
(ボキッ、ドシャー)
「あばばばばばば」
顔を直撃するお湯のビームに後ろへひっくり返りそうになるリリを慌てて掴まえ、リリの両脇に手を差し込み持ち上げるマリー。
「ぶはっ!」
「ごめんなさい、あんな簡単に壊れるなんて」
リリはそのまま抱き抱えられ、ちょうど近くに居た楓がそこへやって来た。
「あなた力があるのね。それにリリさんは大丈夫?」
マリーの握力に呆れる楓だが破壊した事に対しては怒っていない。
「ん、大丈夫」
マリーに抱えられ、親猫にくわえられた子猫の様にぶら下がったまま楓に顔を向けている。
「ごめんなさい、壊れると思わなくて」
リリを抱えたまま謝罪するマリー。
「良いのよ、怪我が無くて良かったわ」
周りはいつの間にか人集りになっている。
そして楓は取れた蛇口を拾ってネコに預けた。
「直してちょうだい」
「わかったにゃ」
語尾の『にゃ』を言った時には元通りになっている。
「ありがとうネコ。さあもう良いわよ、今度は優しく使ってね?」
「ありがとうございます」
マリーはまだリリを抱えたままだ。
「楓、ありがと」
「どういたしまして」
この光景を見ていたアーレたちは真っ先に四神に無礼をはたらいたと言うリジカーネスを思い浮かべた。
不死の存在の筈だった神が、まるで炭の様であったと言うリジカーネスと同じ運命を辿るのかと思われたが、食堂で零司が宣言した様に家族や普通の人間同士と変わらない対応で逆の意味で驚いている。
だがこの一件、この館に住む五神が人間の行いに寛容であり温厚なだけで、他の神に対して同じ対応で良いと言う訳ではない。
事前に多方面から人間に対して思いやりすら見せると伝えられてはいたが、元人間の零司と楓は兎も角、人々が殺し合うと言われる戦争の『戦の女神リリ』でさえも温厚なのはやはり魔王零司の寛容さから来るのだろうかと考える。
それにある筋からの情報では、零司たちの世界の戦争では瞬きする間の一瞬で数万の命が失われる事もあるのだと伝えられる。
しかもそれは神の力では無く、人が産み出した道具なのだと言われ、他にもただの人間が空を飛び、地上を馬車の百倍近い速度で移動し、見えない程遠く離れた人と会話し、星の世界へと行く術すら持っているのだと言う。
その世界の神となる零司たちがどれ程の存在なのかは全く計り知れないのだ。
幸いな事に四神はこの世界に対して好意を持っているらしく、それ故に様々な異世界の情報や技術を提供してくれている。
戦で数万の命が失われる様な術では無く、人々の問題を解決したり、健康な生活を求めている。
その最たる証拠が学校であり、利益還元事業と聞いていた。
学校で教育を受けた住人たちが自らの力で様々な物を産み出していると聞くし、若者は識字率どころか高度な計算や生産能力の開発をしているらしい。
明日からはその学校を訪問し、教育の現場を見学する予定なのだ。
◻
体を洗い終えた者からまるで波打ち際か湖畔の様に巨大な浴槽に浸かる楓やアーレたち。
マリーやリリ、お付きたちはまだ流しで体を洗っている。
「ここはまるで別世界ですね」
「草木が生えぬ焼け爛れた禁足の地に在るとは思えぬ光景なのよ」
「私たちはもうスラゴーに居るのかも知れないね」
少しだけ湯気に霞む夜空を見上げ、アーレは感慨深げに老い先短い自分の未来を重ね口にする。
そして会食前のリビングでジーナたちを救ってくれた四神に感謝を伝えられた事を嬉しく思う。
『神待宮の全ての者を代表して、心より深く感謝しています』
言葉通り、暴虐神に支える可能性が消えた訳では無いが、少なくとも今はそれがこの世界から取り除かれ平和になっただけでなく、辛い思いをしていた第三二五期に温情を掛けて家族とまで言ってくれたのだ。
神待宮の若い世代を我が子の様に想うアーレの心は救われた。
だがその一方で最高責任者としての最後の仕事は後継者の任命だが、今の時点では神術を行使出来る者が育っておらず、その芽がある者すら存在していない。
これは由々しき事態である。
このまま後継者を確保出来ずにアーレがスラゴーへ召された時、神待宮は危険な状況になってしまう。
アーレが使える神術は忌紋定着のみだが、これが出来ないとなれば神は巫女以外のお付きたちまで手を出すだろう。
そうなると正常な運営が成り立たなくなり、数百年前にあったと記録される惨事が発生する可能性があるのだ。
それだけは何としても避けたいと願うが未だ解決策は見つかっていない。
ただし全く光が無い訳ではないがそれは最後の手段であり、現状でこちらから願い出るのは甘え過ぎである。
◻
リリとマリーが楽しそうに手を繋いで湯に足を入れ、深い方へと進んで行く。
マリーの膝上くらいの所で座るとリリはマリーの懐で向きを変えて寄り掛かった。
「マリー、今日は私の部屋でお泊まりする?」
「えっ! いいの?」
「マリーなら良いよ?」
「それじゃ泊まる!」
背中を預けるリリをぎゅっと抱き締めて頬をリリと重ね、きゃっきゃとちちくり合う二人。
「お風呂上がったらちょっとだけ出掛ける。一緒に来て」
「うん!」
裸で触れ合う二人は端から見ると肌の焼け具合は異なるが仲の良い姉妹の様である。
◻
風呂を上がった面々は脱衣場で一休みしていた。
殆どの者が浴衣を羽織り冷蔵庫の前に集まっているが、マリーとリリはバレエ教室にある様な大きな一枚鏡の前で自分たちの全身を写し見る。
日焼けの無い部分が服と言うかベルトを回している所であり、明らかに街の人たちの服装とは違うなーと、全身鏡を見て初めて気が付いた。
しかしマリーはただそれだけで特に問題があるとは気付かないのはやっぱりお花畑なのだろう。
実際に春から秋にかけてならこの姿の方が狩りはし易いのでマリーは衣装を変える気は無い。
普通の服を着ていると動き難いし、泥を擦り付けて臭い消ししたり、解体で血糊を洗い流したりするのに服に付くととても面倒なのだ。
その点、川に入ってしまえば簡単に洗い流せる今の姿の方が楽だと思っている。
たまに涼し過ぎる時もあるがその時は背負ったバッグからマントを出して被れば済む程度の事だった。
だが普通ならそんな格好で野山を行けば、全身傷だらけの筈である。
にも拘らずマリーの体には傷ひとつ無いのは天然の幸運キャラだからだろうか。
「ここは?」
浴衣を着たマリーとリリは既に空いていた冷蔵庫前に居る。
「飲み物。色々ある」
簡単にそれだけ言うと、リリは瓶入りコーヒー牛乳を二本取り出す。
蓋を専用ピックで取り除き、一本をマリーに渡した。
「ありがとう。あ、冷たいね。んふふ」
冷たさで笑顔になる不思議。
リリはマリーの手を引いて近くの空いているベンチ椅子に座った。
マリーは並んで座るが、瓶が冷たいのが不思議に思えた。
冷蔵庫を見たのは初めてだが、冷たい物なら山の中で沢に浸けておけば普通に冷やす事が出来るし、実際に夏場には山に自生する水瓜を冷やして食べるので冷たい物自体は然程珍しくはない。
しかしさっき見た冷蔵庫は水で満たされてはいないので不思議だったが考えてみればここは神々の家である。
普通ではないのが普通なのだろうと考えるのを止めた。
改めて手の中にある冷えたガラス瓶に入っているのは? と、見てみればまるで泥水の様な色をしている。
しかし隣でそれを飲むリリはとても幸せそうな笑顔をしていた。
マリーは警戒している訳ではないが少しだけ口にしてみる。
「甘いミルク?」
瓶の中をじっと見つめるマリー。
「コーヒー牛乳」
リリが答えた。
「こおひいぎゅうにゅう?」
「ん、牛と言う家畜のミルクに砂糖とコーヒー味を付けた飲み物と言ってた。嫌い?」
静かに訊ねる。
「そんな事無いよ。甘い物ってあんまり口にしないから驚いちゃった。てへへ」
瓶を持つ反対の手で頭に手を置いて照れている。
リリと二人並んで喜んでいる姿は微笑ましい。
「エイッ!」
(カシッ! パコッ! パシッ! ブンッ! カッココココ……)
「あーん!」
「ワン、ゼロにゃ」
飲み終った楓たちは卓球を始めていた。
ジーナたちが帰ってくる前に脱衣場を更に広げて設置した二台の卓球台の片方で楓とマルキウが対戦しているが、始めたばかりなので流石に楓が強い。
「今日こそ楓に勝ってやるんだからね!」
「良いわよ、掛かってらっしゃい」
「絶対勝って零司に抱いて貰うんだから!」
その言葉に敏感に反応する周囲の中でリリは特別強く反応した。
「その勝負待って。私も参加する」
一瞬でマルキウの隣へ移動して真剣な目で楓に宣言するリリ。
「誰もそんな約束して無いわよ!」
「「楓のケチ!」」
話が違ったので歩いて元の席に戻ったリリに、マリーが訊ねた。
「零司さんに抱いて貰うの?」
「そう、零司に抱かれると気持ちいい。マリーも抱いて貰う? マリーとなら一緒でもいい」
「どうなのかな?」
「ツー、ゼロにゃ」
「マリーも一度、ネコに回復して貰うといい。そうすれば解る」
「ネコさんってあの子だよね?」
「そう、手が空いたら頼んであげる」
「ありがとう」
飲み終った牛乳瓶を片手にリリを優しく抱き締めた。
リリが言う『零司に抱き締められると』とは、この抱き締めるとはどう違うのかと少しだけ興味が湧く。
お付きたちが卓球と言うよりもピンポンを始めた頃、楓とマルキウの勝負が着いた。
「だー、また負けた! ネコ、疲れたから回復してっ!」
僅か十五分くらいで疲れた筈も無いのだが、癒しが欲しくてネコに要請する。
「にゃっ」
最近は複数の癒し目的の回復にネコは文言を唱えなくなった。
ただ今回は淡い緑の光で包まれるのは一人ずつではなく脱衣所に居る全員だ。
「ひゃぅっ! あ、あああっ!! あふ……」
一瞬にしてネコを含む全員が腰砕けになり軽い痙攣を起こしている。
リリと約束していたマリーは突然訪れた未知の感覚に、目の前に居たリリに助けを求める様に抱き着いて身悶えし、リリもそれに応える様にギュッとマリーを抱き締めて倒れた。
その姿は零司には見せられないレベルであり、周囲のほぼ全てが同じく大惨事であった。
お風呂回と言えば『もののけと僕と注連縄さん』のお風呂回などを思い出す事が多いのですが、あれはやりすぎだった。(ノ∀`)
R18指定されてもおかしくないと思いつつ、それでも続けられていたらそのままだったのでしょうけど。




