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72.グッジョブ

大変遅くなりましたが楽しんで頂けたら嬉しいです。


 食堂へと移動した零司、楓、ネコ、ラチェット、マルキウ、リリ、それに神待宮のアーレ、三二五期担当(金色短髪)作法担当(金髪縦ロール)、マリー、ジーナ(巫女)クーリス(お付き長)、更に今回は特別に給仕として手伝ってくれる事になったサーラ、ルールミルとイーノの合わせて十六人が居る。


 食堂を見回すアーレたち、そして住人。

 そこはまるで優しい風が吹き抜ける日本庭園に居る様な、美しい絵画で壁面を埋め尽くした部屋だった。

 零司がこの日の為に準備した物で、天井も床も、全てが楓の木と葉の若葉色から山吹色を経た紅と、春の光が射し込む竹林の美しいコントラストで彩られている王族の住まいですら見る事の無い様式にアーレたちは言葉を失いそれを眺めた。


 一方、住人サイドでは賑やかな事になっている。

「何よここは、どーなってるの!」

 そんな事を言って壁沿いに飛び回るマルキウ。

 今までリビングルームだけで用を済ませて食堂を使っておらず、この部屋の存在すら忘れかけていた程なのでマルキウの反応も当然だった。

「ん、美しい」

 リリも進みながら感想を漏らす。

 色彩感覚が男性よりも敏感な女性の心を擽る。

 その中でも特にマリーは驚いたらしく、壁画に触れようとしては手を引き、離れて見てはまた寄るといった事を繰り返している。


 それに両壁際の花台には低めの花器に花が生けてある。

 それはリリを象徴する薄ピンクのユリの花、小さ目にしたリリライトピンクと紅葉した葉を付けた楓の枝を中心に、巫女たちの名前の元になった木陰に咲く小さな菫に似たジーナや日向に咲くタンポポに似たクーリス、それ以外にミーリにカーシャと言った花があった。

 ただ残念なのは花の香りが強過ぎて食事の場には合わないと言う事だろうか。

 それを透明な殻が見えるガラスの半分ほどの反射率を持つ半球状のシールドで囲み食事の妨げになる香りだけを排除している。

 この花を見て神待宮のジーナ(巫女)クーリス(お付き長)、アーレたち三人も巫女たちはこの館できちんと受け入れたと伝えている事に気付く。


 サーラに椅子を引いて貰い座る零司たちに習い、長いテーブルの反対側でルールミルとイーノに椅子を引かれて着席するアーレたち。

 椅子もテーブルもまるで濡れているかの様な光沢を持つ真っ黒な漆塗りの様で、幅広い一枚物のテーブルとその上には真っ赤なと言うよりは紅のフエルト生地がテーブルクロス代わりに敷かれている。


 リリを抱いていたマリーも食事の席ではリリを解放してきちんと椅子に座っているが、自然の中にある様な雰囲気の部屋で椅子に座りテーブルを囲むのに妙な違和感はあるものの、何なのかは分からないがこの館に親近感が湧き上がり気分が良い。


 そして席に座る前からテーブルに用意されていた料理たち。

 綺麗に盛り付けられた皿の数々がまるで日本の旅館で宴会場に用意された食事みたいにところ狭しと並ぶ。

 零司以外は女性だけなので目に嬉しい料理を一品辺り少な目に数多く用意したがサーラの無限倉庫にはこの時の為に楓が用意した料理が倍以上も用意されている。

 料理に目が行ったマルキウは美味しそうな料理に気付いて人サイズになると、その光もさる事ながら人の大きさになれるマルキウに神待宮の三人が驚く。

 当のマルキウはそんな事は全く気にせず、明らかに自分用と判る肉類が避けてある席へとさっさと座って皆が座るのを待っている。


 全員が席に着き、問題が無いのをイーノの合図で確認したサーラは零司の後ろから囁く。

「皆さま席にお着きになりました」

 それは隣に居る楓にも聞こえた。

「ありがとうサーラさん」


 対面の神待宮の三人はそれを聞いてこれから始まる会食に緊張している。

 既にそこそこ馴染んでいるジーナ(巫女)クーリス(お付き長)はいつも通りであり、マリーに至っては丁度対面に居るリリと目を合わせて嬉しそうにしている。


「それじゃ皆さん遠慮無く食べて下さいね、お代わりも次の料理もあるので好きなだけどうぞ。それじゃ頂きます」

 館の住人はいつもの様に両手を合わせて頂きますと言ってから箸に手を着ける。

 住人に習い『頂きます』と言って手を合わせて食べ始める神待宮の三人はどれから手を付けて良いのか悩む。

 小さな皿に分けられた数々の料理に食べる順番はあるのかと零司たちを見ても皆バラバラであり、特に規則的なものではないと判ると気になった物から口に運んだ。

 そんな緊張も一口食べるとその美味しさに自然と会話が始まり、食堂は直ぐに賑やかになってゆくのだった。



 活発に会話が進む中、零司はアーレに神待宮について訊ねた。

 今まで神がこんな事を訊ねたと言う記録は残されていないがアーレはそれに応える。


 そもそもの始まりは天使長からの要請だったと伝えられ、その対価として豊作や病気の治療などが約束されたのだと言う。

 そして客としてやって来た異界の神の話を元にこの世界には無かった文化や技術が齎されて僅かずつではあるが確かに発展を続けて来た。

 そして客神(きゃくじん)の好みに合わせて行く内に今の形態になったのだと。

 客神たちの多くは妻との関係に飽きてこの世界に来訪しているのでそれなりの年を重ねた神が多く、こちらで無垢な若い娘たちと楽しんだ中で誇る様に自分の世界を紹介したりするのだ。

 そして楽しみの時間が過ぎ、帰る時には気に入った巫女に最後の置き土産を残す事があるのだと言う。


 そうして歴代の巫女たちの中ではもっとも若い巫女であるジーナに、あの稀に見る暴虐神のリジカーネスが当たってしまったのだ。

 リジカーネスは巫女に対して暴虐を振るい苦しませるだけで、この世界の発展に寄与する情報のひとつも無く、しかも最後は四神の不興を買い、零司に叩き出されると言う過去に類を見ない酷い神であった。


 そしてこの世界は零司たちから見ればとても遅れた中世ヨーロッパ以前の文化や技術しか無いのだが、今までやって来た神々が金融や契約による乗っ取りなどの情報、所謂『悪魔の手口』を与えなかったのか、それとも自律的にそれらの情報を排除して来たのかまでは分からないが、この世界の住人はそういった他者に害を為す事を良しとしない風潮と言うか精神がある。

 そのお陰で零司たちも安心して彼らに救いを与える事が出来た。

 もし零司たちが育った世界と同じであったなら、零司は迷わずファンタジー冒険者スタイルで楓を護っていた筈である。

 迫る悪意にその力で一方的に捩じ伏せ、一流の冒険者としてその名を馳せながら愛する楓を抱き、戦闘センスが良く頼もしいネコを従える、そんな生活を送っていたに違いない。

 そして魔神リリとも違った結果になっていたかもしれないのだ。


 神待宮の話を聞いた零司はこの世界に来た切っ掛けと今までの経緯を簡単に説明すると、当然ジーナ(巫女)がそうであった様にアーレたち四人も驚く。

 成人前のただの一般人がこれ程の知識を備える世界など考えもつかないが人が神になる事の方がもっと信難い話として受け止められているのをインフォメーションチップのステータスチェックで確認した。

 そこで零司はついでとばかりにサーラを紹介する事にする。

 サーラが神格化したのを知っているのは四神だけであり、マルキウやルールミルも知らないので良い機会だと考えた。

 そして楓に目配せして確認を取ると、楓は優しい笑顔で首肯する。


「アーレさん、実はこの世界にも人から神に成った者が居る」

 この一言は恐らくこの世界をひっくり返すニュースになるのだろうと思うのだが、零司は話を続けある条件を出す。

「しかしこれから話すその者が望まない限り黙っていて欲しい。良いか?」

 神からの願い、しかも人類史上最も大きな恩がある相手に拒否など出来る筈も無い。

「御意」

 神待宮の五人は深く頭を下げた。


「ありがとう、だがあまり畏まらないでくれ。では改めて紹介しよう、サーラ、おいで」

 零司の言葉に、やはりと考える面々。

 対面に並んで立つルールミルとイーノはまさかと口に手を宛がい目を丸くしてサーラを見つめる。

「ここに」

 サーラは零司の近くに控えていたが、零司と楓の間、その直ぐ後ろに移動した。

 零司が立ち上がると楓も立ち、零司がサーラの肩に手を回して前に押し出す。

 一度だけ零司を見上げ、幸せそうに優しい笑顔を見せるサーラ。

 そんなサーラを楓は妹を見る姉の様に優しい目で見ている。


「サーラはこの世界で人から神になった俺の眷族であり、しかも自ら神格化して俺が危険だったところを助けてくれた優秀な神だ」

 この言葉はサーラを殊更勇気付ける。

 元々予定されていたとは言え、勝手に眷族になった事に引け目を感じていた。

 それが以前貰った感謝の言葉だけではなく優秀とまで言われたのだから。

 サーラはこれをスラゴーの天幕に居ると言う先祖たちに心の中で報告すると同時に、どうかこんな幸せな日がずっと続きます様にと願う。


「サーラは元々特殊な能力を持っていたのもあって、モールの責任者を継いで貰おうと(うち)で引き取って英才教育していたんだ。責任者を引き継ぐ時に眷族にする予定だったんだがな、俺を助ける為に先に自分の力で眷族になっていたと言う訳だ。まあ、神格化した条件はかなり特殊だったからな。他の人がやっても同じ結果は得られないだろう。それと英才教育だが内容は俺たちの国の言語が中心で、この世界と比べるとかなり複雑で難解の筈だが、さっき言ったサーラの固有能力とサーラ自身の努力で日々成長して日常会話や読み書き程度なら問題ないくらいにはなってる。因みに俺たちの国で使われる文字はこんな感じだ」


 指で習字でもする様に、空中に『風林火山』や『夜露死苦』とか『魑魅魍魎』、平仮名、片仮名、アルファベットにアラビア数字等を白く浮き上がらせ書いて並べると、垂直軸で百八十度回転してアーレに見せる。

「これはホンの一部だ。こう言う文字が日常的な範囲で二千文字以上、四千を越える読み方があり、ひとつの文字、例えば『日』だが、普通に使う範囲でも六種類以上の読み方がある。ヒ、ニチ、ジツ、ニッ、カ、ビ、それ以外にも他の文字と組み合わせて読み方が変わるのが日本語の特徴だろう。今まで普通に使って来たがこうして考えるとまるで暗号みたいだな、はは」

 それを見た現地人の血の気が引いているのが判る。

 この世界の文字は楔文字の様に簡単な物なので比べるべくもない片仮名レベルの表音文字だけなのだから当然である。


「サーラはとても良く出来た娘だ。この世界で生まれ育ったからこその逸材なんだろう。そういう意味ではこの世界の人々、先祖たちにも感謝している」

零司(ご主人)様……」

「そうね、私たちはサーラさんに出会えて運が良かったわ。勿論みんなそうだけど、ファーリナの街にモールを創って放置も出来ないし、後を引き継げる人を探していたけど、それ以上の逸材だった訳ね、ふふ」

「か、楓様まで……」

 二人に挟まれ誉めちぎられるサーラは顔を真っ赤にして恥じらっている。


「まあそれも、俺たちの世界へと繋がる転移門が出来た今、その責任をサーラに押し付けて消える、なんて事にならなくて済んだ訳で、サーラには自由に未来を選んで貰いたいと思ってる。なんせ俺たちの家族だからな、ははっ」

 笑って肩を優しく叩く零司に涙を流して喜ぶサーラは零司に抱き着いていた。


「レージ、アタシも家族よね?」

「ん? ああ、マルキウもな」

「魔王様……」

「ああ、リリもだ」

「ネコもにゃっ!」

「当然。それに、ルールミルもイーノも、ジーナ(巫女)たちもな」

「零司ったら、何か分からないけど涙が出てきちゃったわ、あははは」

「そんな訳で、このリリの館に住む者はみんな家族だから、アーレさんたちも気軽に接してくれ。ファーリナのみんなも同じなんだから」


 数々の驚きの後に見せた人間臭さに呆れたように見ていた神待宮の三人も息を吐いて力を抜くと今まで緊張していたのは何だったのだろうかと何だか心の底から笑いが込み上げてくる。

 しかしその笑顔は涙で溢れていた。



◻北のキッチン


 今回の会食である意味仲間外れにされた様に見えなくも無いお付きたち八人は、この人数では食堂に入り切らないと自ら会食の同席を辞退する。

 そのお付きたちに零司が何か必要な物はないかと訊ねると自分達で料理を作りたいと言って来たので食材を大量に提供したのだが、そこにあったのは見た事も無い食材が半分を占めていた。


「ミーリちゃん、これはどうしたら良いかしら?」

「うーん、とりあえず皮を剥いてしまいましょう」

 延々と皮を剥くミーリとカーシャよ、それは玉ねぎだ。


「フィ、フィーナ、これは一体、くしゅんっ!」

「待って、くしゅっ!」

 微細粉末化した胡椒の臭いを確認しようとしてくしゃみで吹き飛ばしているフィーナとユーイ。


 悪戦苦闘しながらも在来食材に新しい調味料を試すと言う形で落ち着いた料理も、彼女たちにとってはソコソコ良い出来だったらしい。

 因みに出来たのはミネストローネ風の野菜スープと楓が作っていたサラダのドレッシングが無いバージョン、それに素材として用意されていたコッペパンとミルク、各種カットフルーツである。

 神待宮で神の為に調理していた様な物では無く、教育課程でやっていた雰囲気の調理であり、楓が出してくれている料理を思い出して教材としていた。

 そして楓が良く作ってくれるリンゴのウサギもそこに並んでいる。


「いただきます」

 隣のリビングルームに移動して一糸乱れず全員一緒に手を合わせてから食事が始まる。


「美味しいです、本当に美味しいです」

「これは思った以上ね」

「やはりあのドレッシングが必要ですね」

「このパンは何故こんなにも柔らかく美味しいのでしょう」

「可愛いウサギさん」

「蜂蜜は幸せの味」

「……何処に蜂蜜があったのかしら?」

「私にも分けて下さい」

「回しますね?」

「「「「「「「グッジョブ」」」」」」」

 零司の真似をしてサムアップするお付きたちは揃って首肯するとキラリと目が光る。

 当然、零司たちの前で真似する事は無い。

新しいキャラがどう関わるのかを考えると言う突然発生したリアルイベントで今後の物語をシミュレートしている内に時間があっという間に流れてしまいました。やはり最初から単なる設定だけでも組み込まれていないと、こんな感じで苦しむのかと実感しました。


そしてこの物語が始まる前に設定だけはほぼ完成していた血塗れ世界の次回作もまだまだ甘いと考えさせられます。

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