69.スラゴーで朝食を
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アーレは神待宮の最高責任者である。
当然だが神待宮は巫女育成施設を内包しているので巫女に関する全ての責任者である。
そのアーレが今モールに居るのは、リジカーネス付きだった第三二五期に起きた事件に由来する。
予定よりも早く神待宮へ戻った巫女たちに暴虐神がまたゴネたのかと思ったがその暴虐神はおらず、巫女が直接話したいと天使を連れてアーレの執務室にやって来たのだ。
神待宮では天使の来訪は良くあるのでそれ自体は驚くに値しない。
しかしファーリナに降臨した四神に支えていると言う天使ラチェットが来たと言う事は何かあるのだろうと。
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【 契約書 】
一、魔王零司はこの契約書が本物である事を保証する。
二、魔王零司の要請により巫女ジーナを含む十名は、本日まで仕えたリジカーネスの担当を外れ、下に記載する本日の日付を以て巫女ジーナを含む十名を戦の女神リリの館で受け入れる。
三、今回受け入れる巫女ジーナに対し、今後一年間に限り、最低でも一月一回の異世界の有益な、その時点で公開されていない情報又は製品の製造方法又は製品その物を提供し、一年経過後も魔王零司が居る限り必要に応じてこれらを提供する事を約束する。
四、戦の女神リリ、救済の女神楓、慈愛の女神ネコ、魔王零司に対して無礼を働いたリジカーネスの扱いは魔王零司の権限で二度と戻れない様に追放とする。
以上
日付:
ル王朝二三五期二九年四月二一日
著名:
魔王零司
神待宮所属 第三二五期 巫女 ジーナ
神待宮所属 第三二五期 お付き長 クーリス
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契約書を見る限りではリジカーネスが四神を怒らせこの世界から追放されて、残った巫女たちを引き取った様に見える。
事前に危惧されていた事ではあるが温厚と言われる四神を怒らせるなどどんな事が起きていたと言うのだろうか。
いや、四神の内三人が女神なのだから察して知るべきか。
それに運の無いアーレはリジカーネスなどと言う暴虐神がやって来た理由は自分にあるのだと思っていたし、三二五期が四神の元に引き取られると書かれた契約書を見せられ、対価となる異界の情報と引き換えに生け贄の様な扱いを受けてしまうのではないかと心が痛む。
食料品を卸していた狩人のマリーを引き入れて、やっと運が向いて来たと思っていた矢先に起きた事件であり、アーレはやはり自分は運が無いと肩を落とす。
だが不運なアーレのその予想はラチェットにより覆される。
ラチェットの話を聞いたアーレは自分が予想した三二五期の未来とは真逆の人生が約束されたのを知る。
優しい笑顔で語るラチェットに、普通なら信じられない待遇で受け入れられた三二五期を想う。
そして自分の不運のせいで薄幸であった三二五期に幸せな未来を与えてくれた魔王零司とマリーに心から感謝した。
三二五期の未来に気を取られていたが、アーレは自分の地位を思い出し、ここは感謝の気持ちを伝えに自ら魔王零司の元へと向かう事を決意するとその場で宣言して巫女とラチェットを退室させた。
アーレは直ぐに三二五期の担当と作法教育担当を呼び寄せる。
◻
「アーレ様、三二五期担当参りました」
紺色の浴衣の様な衣装を着た金色短髪の女性が執務室の扉の外から伝える。
「作法教育担当、来たわ」
隣に居た青いシースルーの衣装を着た金髪縦ロールの少女も続く。
「入りなさい」
アーレが許可すると三二五期担当が扉を押し開け二人が入って来た。
三二五期担当が扉を閉めて二人は扉を背に立ち、アーレが話を始めるのを待っていた。
「呼び出して済まないね。だが早急に検討すべき課題ができた」
それを聞いた三二五期担当が答える。
「ファーリナの件ですね?」
「そうだ、まず二人とも座って欲しい」
「ファーリナ? その話に私は何の関係があるのかしら」
金髪縦ロールは疑問を呈して執務机の前にあるソファに座る。
◻
「……と言う訳だ」
契約書と報告書を見せ、ラチェットの話も付け加えられていた。
「そこでこちらから感謝の意を伝えにファーリナへ行こうと思う。ついては三二五期担当と作法に詳しい作法教育担当のお前たちにも同行して貰いたいと考えているんだがどうだい?」
「アーレ様、お誘い有難う御座います。私からもお礼を申し上げたいのでぜひ御一緒させて下さい。出来たらあの子達がこれから暮らす場所を見てみたいと言うのもありますので」
「アーレ、私は何をすれば良いのかしら?」
「アンタには三二五期の巫女から話を聞いて、四神の礼儀作法について研究して貰いたい。その上で同行して貰うよ」
「分かりました」
金髪縦ロールは軽く目を伏せて同意する。
「身の回りは外に詳しいマリーを予定している。彼女なら安心してファーリナまで行けるだろう」
「アーレ様は余程マリーが気に入った様ですね」
「今回の幸運もあの娘のお陰かもしれないからね」
「確かにマリーが来てからは病気になる者も減った様に感じます。食材の扱いが上手なのかもしれません」
落ち着いて表情も変えずに真剣に考える三二五期担当。
「そうね、私も最近は体調が良いのを感じていたわ」
ちょっと笑顔を見せる金髪縦ロール。
「三二五期担当はファーリナに向かう準備を頼んだよ」
「承知しました」
「私は三二五期に持たせる親書を書いたらマリーの所へ行って来る」
「あらあら」
「ごゆっくり行ってらっしゃいませ」
話は終わり、それぞれに行動を始めたのだった。
▼四神感謝祭の翌朝
すっかり夜も明け、モールは既に開店している。
朝七時から始まるモールは当然レストランも商店も開いて客も多い。
この時間帯の客は前日から泊まっていた客がファーリナを離れる前に腹ごしらえとお土産探しをするので、午前の果樹園スタッフは通常よりも一時間早めの暗いうちから出勤して収穫と箱詰め作業をしていた。
この日はロータリーまで溢れた馬車で寝泊まりしていた客も押し寄せているのでどこも混雑しているが、一ヶ所だけそんな混雑も全く関係の無い場所があった。
それはホテルのスラゴーの部屋だ。
高級部屋として設定されたこの部屋は、ここに居ながら銭湯以外取り寄せが出来るのだ。
食事も土産もリストを見て注文するだけで取り寄せが出来るので昨日の四人も朝食を取り寄せする事にした。
二部屋に分かれていた四人はアーレの部屋に集まり、メニューを眺めながらその味を想像してどれにしようかと悩む。
ここに来てから既に丸二日以上が過ぎているので、ここの食事がどれも美味しいのを知っている女性の集団は次はどれにしようかと本気で悩んでいるがジーナの実質家族と言う事でモールの施設利用と食事に関しては無料券が発行されて、零司からも遠慮無く好きな物を頼む様にと言われ価格など気にする事も無く四人でそれぞれ別のセットを注文した。
やって来たのはサーラである。
お付きの先触れたちにした様に、何も持たずにテーブルまでやって来ると伝票を取り出してセット名を読み上げ、何処に置くのかを訊ねて次々とテーブルに並べて行く。
それを眺めるアーレたちは滞在してから今まで何度も見ているが、人がこれ程の神術を使えるなどこれまで聞いた事が無く、この世界で唯一神術を使えたのはアーレが就いている神待宮最高責任者と言う肩書きを持つ者だけであり、それは巫女の候補から外された子供の頃から巫女候補よりも厳しい教育を受け、作法よりもある術を獲得する為の、それだけの為の時間を何十年と続けて巫女と同じく多くの候補の中から選出される、そんな存在だけだった。
しかも神が神待宮内に居て、貴重な神光石を集めたその部屋で僅かに石に宿る力を使う形で行われる『忌紋定着』のみである。
これは神でも消す事が出来ない筈だったし、今まで消されたと言う報告も無い。
だがその忌紋も魔王零司は消したのだ。
忌紋消失もこの少女の術もこの世界では考えられないものであり、魔王零司の力には少しばかりの恐怖は感じている。
そして金髪縦ロールはお付きたちから聞いた話にある『魔王零司の力を借り受けて』それを行使する力を持っているのを聞いている。
しかしそれだけではなく、浄化や回復、通常とは異なるサーラ固有の術も持ち合わせているなど、最早神術使いと言うよりも神なのではないかと思いたくなるが彼女は歴とした人の子であり、神待宮の記録でも彼女を引き取ろうとしたと残っていた。
もしもその時、神待宮に引き取られていたならばどんな人生を送る事になったのだろうかと思わずにはいられない。
そして自分も、親元で育てられて居たのならと。
注文の内容を繰り返して全て揃っているのを確認すると、深くお辞儀をして部屋を出るサーラに目を奪われたまま見送る三人は食事が目の前に並んでいるのをすっかり忘れている。
残りの一人はもちろん凄いとは思っているが、それはそれ、これはこれで早速感謝の言葉を捧げて食べ始めた。
「!んー、おーいしー!」
その声を聞いて三人とも我に返りマリーに目を向けると、何を口にしたのか目を閉じて笑顔で咀嚼している。
そして飲み下すと目を開けてまた口にする。
マリーが口にしたのは零司も誉めていた姫鯖フライである。
モールでは美味しい物しか出さないのでマリーの感想は当然だった。
レストランの調理部では毎月一回コンペティションが行われ、昼食で社員向けにメニューが追加される。
そこで得票率が高いメニューが楓の判断を受けて正式にレストランのメニューに組み込むかを決めるのだ。
姫鯖フライもそのコンペと楓の舌で合格を貰っていたのである。
そんなマリーの笑顔に目を奪われた三人だが、今度は自分達が楽しむ番だと言う様に目の前を見て手を遣る。
「これは美味い、名前通り柔らかくて本当に美味い。美味しい以外の言葉が思い付かない!」
柔らかハンバーグを口にしたアーレは口に広がる肉汁とホロホロと崩れる肉に濃厚なソースと僅かな酸味の素晴らしいハーモニーが心を花咲かせ、最初のたった一口で涙を流しそうなくらいに感動している。
「ああ、心がとろけそう」
フルーツパフェのてんこ盛りに手を出した三二五期担当は金色の短髪を揺らし、まるで天に感謝する心を曝け出す様なその姿は天から一条の光が射している様にすら見える。
「頼みはしたものの、これは難敵ですわね」
海鮮丼と助六寿司を前にガマの睨み合いでもしているかの様な作法教育担当の金髪縦ロール。
カトラリーが入った小さな籠とは別に、トレーには木の棒が二本添えられていた。
これが一体何なのかが解らない。
そしてライスの入った大きな器に直接生魚の肉や海草類が置かれた海鮮丼。
更に、塗られた様に黒い何かが表面に着いている助六寿司と同じ皿に載っている茶色くゴワゴワとしながら光沢のある樽状に見えるお稲荷が二つ。
これは難し過ぎただろうかと後悔する。
直ぐにベルを鳴らしてサーラを呼んだ金髪縦ロールは溜め込んだ息をやっと吐き、美味しそうに食べる同僚の笑顔に一瞬だけ忌々しさを感じた。
一分もしない内にやって来るサーラに食べ方を教えて欲しいと要請すると、サーラは笑顔で了承して同じメニューのトレーを出した。
それから箸を取って手に持つと、箸特有の持ち方を見せる。
使い方を解り易く教えると、金髪縦ロールは直ぐに覚えて箸を使える様になった。
次に食べ方だ。
丼の食べ方は自由であり、掻き込む様なスタイルでも問題は無いと前置きしてから左手でどんぶりを持ち、その持ち方を教え、上に載る具のひと切れを基準に下に隠れたご飯を箸で切る様にして掘り出し、握り寿司みたいな状態で口に運ぶ。
それとは別に具とご飯を別に食べても良く、食べる人が美味しいと感じるならそれで正解だと零司の受け売りをしてみる。
助六寿司は元々素手で食べていた物だが、箸で食べるのが普通になって来たと説明してから箸で一口で食べられるサイズに切り分けてから口に運ぶ。
更にこの二つの和食と呼ばれるメニューは手を添えて口に運ぶとより上品に見えると実演して見せる。
金髪縦ロールはこれの全てを真似しきって一度でマスターしたらしく、早速上品な方の食べ方をして見せるとサーラは驚きそれに笑顔で合格を出した。
礼を言い、サーラが戻った後は技に磨きを掛けるべく、より優雅な食べ方を研究するのだった。
金髪縦ロールが海鮮丼と助六寿司を味わえていたかは分からないが、少なくとも優雅に見える笑顔ではあった。
サブタイトルが全く思い付かなかったので名前だけは知っている映画のタイトルをもじってみました。




