68.四人の変な客
ブックマークありがとうございます! ヽ(´▽`)/
しかし今回も遅れましたすみませぬ。お詫びと言うか、僅かですがいつもより長目になっています。今回はこれが原因で遅れましたのでそれだけ楽しんで貰えたら嬉しいです。
◻祭り当日
零司たちのパレードは街の要所を回りながら現地の人々と対話するものだったので結構時間が掛かり、回り終えて中央広場に着いた時には日が暮れるにはまだ少し早いと言った時間だった。
それでも最初の時と同じ様にマルキウが飛び出してクラッカーを鳴らすと、広場に集まった皆の歓声で沸き上がる。
そこに零司とネコ、ラチェットと楓にリリが降りて歓声が更に高まり、前回の様に片膝を着いて下を向くと言うスタイルとは異なる形式で迎えられた。
去年と同じくラチェットの話の後にリリが簡単に話をして魔王零司を讃えて終えると、今年も魔王の名声が高まるのだった。
しかし魔王スタイルはあくまでも趣味の範囲ではあるのだが、ここまでされるとやはり人々の期待を裏切れない零司はそれをにこやかに手を振って応えるのであった。
◻夜
空はすっかりスラゴーの天幕に包まれている。
昨日の前夜祭とは打って変わり、街は賑やかではあるが静かなものだ。
と言うよりは、昨日の晩が巨大な花火の音でそれこそ街が揺れる大騒ぎになっていただけなのだが。
昨夜と違ってファーリナの街は学校の校庭だけでなく中央広場にも露店が出ていた。
校庭では今日も新酒が振る舞われ、ツマミなど酒に合う軽い物が出されて男たちが火を囲んで騒いだり踊ったりしている。
中央広場では学校の生徒やモールの従業員を中心として出店しており日本でも良く見られる数々のジャンクフードや、輪投げが妙に行列になっていたのは景品が白亜の館で日常的に使われている消耗品が並んでいたせいだろう。
香りの良い石鹸やシャンプー、タオルに筆記用具などである。
そんな中央広場は主に女性や子連れ客で、広場一杯に用意された席を埋め尽くして楽しんでいた。
その中に祭りに来たにしては周囲を静かに眺めてはポソポソと会話するだけの客たちがひとつのテーブルを占めている。
周りが楽しそうにしている人々の中で穴でも空いているかの様に見えるとしたら、それは遠目にその場を管理する様な者だけだろう。
賑やかに会話する人々から見れば、いや、人々の関心が向く事はかなかった。
その静かなテーブルの中央には大量に皿が積まれているが楽しんでいる様には見えず、ポツリと落ち着いた声が聞こえた。
「ファーリナには王都よりも人が居るのではないでしょうか」
ごく一般的なローブを被り頭だけ出した金髪でボブカットの知的さを感じる品の良い女性が桃酒を口にして味と香りを楽しんだ後、周囲を見回して静かに一言溢した。
「それは感謝祭のこの場所だからではなくて?」
ローブで金髪縦ロールを隠した小柄な少女が反論しながらも目線は右手に持つホットドッグに向いており、如何にして華麗に口にしようかと真剣に悩む。
「確かにこの街は人の密度が高く、建物の造りが変わってはいるが、それはある特定の地域に限定された物であろう」
こちらもローブを頭から被った細身の白髪ウェーブロングの老人が言う。
強い意思を持つのがその言葉からも容易に推し量れる口調で、焼き鳥の山からネギマを自前のナイフとフォークで器用に外しながら口に運んでいる。
「あっつ、ふーっ、ふー。でもでもー、ここはキラキラしててなんか楽しいですよねっ?」
皆の食べ物を買ってくる、いわゆる小間使いとして着いて来た少し丸みのある顔付きのポニテの少女もやはりローブを被り頭だけ出して、そんな事を言いながら最後に自分用に買ってきたお好み焼きを頬張ると花が咲いた様に良い笑顔になった。
「キラキラとは言うけれど、光と影の配分が極端だからそう見えるのではなくて?」
ホットドッグの食べ方で悩む少女は今までに串物の食事をした事が無く、未だに手を着けていない。
小間使いの少女には今まで食べた事の無い方法を用いる物があれば優先的に買ってくる様に頼んであった。
しかし小間使いの少女にしてみれば、そんな物は見たままかぶり付けば良いだけなのだが、美しい食べ方に拘る縦ロールの少女にしてみれば未知の食べ物は乗り越えるべき重要な課題なのである。
そしてその解は直ぐ隣でネギマを食べている老人を見れば判るのだが、視野が狭くなっている少女には全く目に入っていなかった。
「でもぉ昨日の夜空に現れたあの光だってそうですよ? 雷みたいでも怖くないしとても綺麗でした、んふ」
まるでハンバーグを食べるかの様にお好み焼きを食べると、また幸せそうに目を閉じてその味を堪能している。
妙に間のある会話だったが、それも広場の中央に設置された壇上で叫ぶ少女のアナウンスで途切れる。
「皆様にご案内です。露店で商品購入時に配布されましたカードが終了しましたので、これよりビンゴゲームを開始しまーす」
アナウンスが始まると周囲は一斉に静まり返り、ビンゴゲームとは何なのかとその少女の声に耳を傾ける。
「最初にゲームのルールを説明します。まず私があちらのルーレットに向かって矢を放ちます」
人々は壇上の少女の声に広場の端に置いてある人よりも少し高い何だか分からない道具を見つけ、丸く白い板の周囲に絵が幾つも書かれているのを確認した。
「その矢が当たった絵が皆様に配られたカードにあればその絵だけを押し込んで折り曲げて下さい」
そのカードには幾つもの小さな絵が描かれて、それが日常的に良く見る山や木にコップや馬などの絵があり、その絵ひとつひとつに絵を囲む様に逆Uの字の切り込みが入っていた。
「これを繰り返して出来た穴が真っ直ぐに五個並んだ方はそのカードを持ってこちらにお越し下されば楓様が用意して下さいました記念品を差し上げます」
最後の言葉に広場はざわめき一気に盛り上がる。
「ふふっ、楽しそうな事が始まったわね、私にもカードを下さらないかしら?」
ホットドッグの食べ方を考えるのは一時中断して小間使いの少女に目を向ける。
「それなら私もやってみよう」
金色短髪の女性が参加表明。
「アーレ様はどーしますかぁ?」
「折角だから私もやってみるとしようかね」
腰のベルトに着いているポーチに入っていた三十三枚のカードは全員に八枚ずつ配られ、最後の一枚は小間使いの褒美としてポニテの少女が貰った。
「皆さん準備は良いですかー? それでは始めましょう、お願いします!」
アナウンスしていた少女が弓と矢筒を装備して裏方さんに声を掛けると、会場の端にあるルーレットを掴んで勢い良く回した。
しかし勢いがあり過ぎて矢を弾く可能性を考慮し、ある程度まで回転が落ちるのを待っている。
そのあいだ人々の目は回るルーレットと射手を往復して矢が射出されるのを今か今かと急かす様にその時を待つ。
回転が下がり良い頃合いになったところで最初の一矢が放たれた。
確りとルーレットに刺さった矢はぐるぐると回り、人々の目を引き付け変な興奮を産み出し、何とも言えない声や溜め息が出る。
その演出を純粋に楽しんで居る小間使いの少女は周囲の人たちと同じくルーレットが止まるのを心待ちにしているのだが、縦ロールの少女はここでも優雅な演出をするなら~と考え込み、短髪の女性はやはり周囲を見回して静かに人々を観察している。
アーレと呼ばれた老人はゲーム会場となったこの場の人々の動静を見守り、ビンゴゲームが人々に何を及ぼすのかを観察しながらも楓が用意したと言う記念品とは何かについて考え、小間使いの少女ほどでは無いが少しだけ期待もしていた。
ルーレットの回転が落ちて係りの者がそれを手で止める。
人々の目は矢が刺さった場所に集中した。
「発表します! これはー、鍬です。皆さんが持っているカードの中に鍬の絵がありましたら、それを押し込んで穴にして下さい。もし絵が無くてもまだ外れとは言えませんので、このまま次の絵をお待ち下さい」
発表があると広場から様々な声が漏れる。
勿論それは先程の四人のテーブルでも同じであった。
「あったー、ありましたよ。しかも四枚も、にへへー」
「ふふっ、こちらは五枚よ」
「こちらは二枚ですね」
「・・・」
「アーレ様?」
アーレはカードを凝視したまま固まっている。
「どうしたんですか?」
小間使いの少女がアーレのカードを見るが鍬の絵が描かれたカードは無かった。
「あらあら」
「何と言う事でしょう」
徐に溜め息を吐き頭を抱えるアーレを隣で元気付ける小間使いの少女。
「大丈夫ですって、あの人もまだ外れじゃないって言ってましたよ?」
静かなテーブルの賑やかな一時もあっさりと崩壊した。
少女が説明している間に今回の当たりだった絵が描かれた少し大きめの板がルーレットの後ろに掲げられる。
ルーレット担当者は矢を引き抜いて、その絵の上から墨で×を書いた。
「一度当たった絵は次から当たっても無効となります。では次に行きましょう、お願いします」
回るルーレット。
息を飲む人々。
その時をじっと待ち、放たれる矢に声が漏れる。
ルーレットが止まるのを待つ人々は前回よりも興奮しているのがその声からも良く判る。
止まったルーレットに矢が刺さっていたのは荷車の絵だった。
「今回は荷車です。皆さんのカードにはありましたか?」
アーレのテーブルでも他と同じく喜びの声が聞かれるが、今回も固まったままのアーレだった。
「アーレ……」
「こ、こんな事があるのでしょうか?」
「だいじょーぶですよー、私の当たってるカードと半分交換すれば、ねっ? きっとまだ来ますよー」
「ふっ、そうだな。ありがとうマリー、感謝するぞ」
当たりのカードが二枚も来た事で絶望の淵から聖堂の光射す光景へと心境も変化したアーレは力強い言葉を取り戻す。
その後ルーレットが六度回り、次々とカードの絵が折られて行く。
アーレのテーブルでも毎回必ず絵が折られてそれなりに平和な時が過ぎていた。
しかし、
「あ、あれ? このカード、揃ってる?」
「あら」
「ふむ」
「・・・」
「きゃー! 当たりましたぁー!」
小間使いのマリーは当たりのカードを掲げて壇上の少女に叫ぶ。
「どうやら最初の当選者が出た様ですねー、こちらへどうぞー」
周囲からはどよめきが発生している。
人々に羨望の眼差しを向けられるマリーは意気揚々と大手を振って壇上の少女の前にやって来た。
「こちらが景品です。ちょっと重くて壊れ易いので気を付けて下さいね」
裏方から景品を受け取っていた壇上の少女から景品が入った手提げを渡されて『でへへぇ』と、ちょっとだらしない顔になった。
「皆さん拍手をお願いします」
羨望の眼差しと祝福の拍手を貰い、両手を挙げて答えるマリーはそのまま歩いて元の席へ帰って来た。
席に座るマリーの横で恨めしそうに景品を眺めるアーレ。
一瞬体が引きつるマリーはアーレに視線を向けるのが怖い。
何故なら、この景品は元々アーレが持っていたカードで当たったからだ。
「それでは景品はまだまだあるので、在庫がある限り続けたいと思います。ではルーレットさん、よろしくっ!」
次のルーレットが回るがマリーは座る事が出来ない。
そこへ助け船が入る。
「アーレともあろうお方が景品くらいでその様な」
縦ロールが嗜める。
「アーレ様、大人気ありませんよ」
金色短髪も加勢する。
「あ、あの、もし良ければこちらはアーレ様に「それは本当か!?」ひゃぁ!」
元々アーレから預かったお金で買って来た商品のオマケがビンゴカードで、しかも本来ならアーレが持っている筈だったカードで当たったのだからと申し出たのだが、当のアーレの食い付きが凄い。
「アーレ……」
「何と言う事でしょう」
まるで子供の様にそれを喜ぶアーレに小間使いのマリーもほっとする。
「マリーよ、心から感謝します」
しかし、アーレはマリーを捕まえて頬擦りしながら涙を流し応えたがそれはマリーにとっては少し大袈裟で恥ずかしい。
「アーレ様! 分かりましたから離して下さい!」
アーレは物心付いた頃からこういった事に運が無く、自分の事に関して良い思いをした事が無い。
しかし、食材などをアーレの元に卸していた狩人のマリーが出入りする様になってから、色々と状況が変わって来た。
それはマリーがアーレとは真逆の強運の持ち主であり、アーレにもそのお裾分けが渡りはじめ、それに気付いたアーレが自分の小間使いとして取り立て、今回の訪問も身の回りを世話する小間使いとして馭者などもこなしている。
人生の終盤で巡って来た幸運に、本気でマリーに感謝しているのだった。
◻モールのホテル スラゴーの部屋
「あー楽しかった」
マリーはフードを脱いで目一杯伸びをしてからベルトだけにしか見えない布地面積が極端に少ない服をさっさと脱ぎ捨てると、手拭い片手に見事に引き締まった筋肉と女性らしい曲線を描く体にベルトの跡が残った焼けた肌を誇る様に堂々と露天風呂へ向かう。
ビンゴゲームはアーレが景品を貰っただけで他は惨敗だったが、マリーにしてみたらアーレの笑顔が嬉しいので景品はどうでも良かったのだ。
そしてそのアーレは同室であり、風呂の前に景品が何なのかを確かめたいとフードを脱ぎフックに掛ける。
フードの下からは地味な薄灰色の浴衣の様な衣装が見えた。
しかし地味とは言っても質の良い仕立てで素材も絹の様に見える滑らかで艶のある美しい物だった。
アーレは細身の老婆ではあるが血色は良く、不健康と言う訳では無い。
そしてリビングのテーブルに景品が入った手提げを置いて自分もソファに座り、手提げからラッピングされた綺麗な箱を取り出した。
白い包みで包装されて紅色の花の様な飾りが付いたラッピングの帯はまるでマリーの衣装の様だとアーレは思うが、その帯を何処から外して良いのか判らず色々とひっくり返して見るが結局判らずに花の下にちょこんと出ている端っこを引いた。
すると花が解かれて十字に見えた帯も綺麗に解ける。
「ほう」
荷物から裁縫のまち針を一本取り出すと、ラッピングの帯を丸めて端をまち針で留めた。
それから白地に薄く、楓の葉型に赤い透かしが入った包装紙を剥がして丸めると糸で輪っかを作りポスターの様に保管した。
中から出て来たのは厚い紙で作られた箱で、普通なら木箱が使われるサイズなのだが、この箱はかなり丈夫らしくただの紙には見えない。
その箱の蓋を引き上げると、中身は重いのにまるで下の箱が吸い付く様に持ち上がりそうになって驚きを隠せない。
更に、大きな箱だとは思っていたが、蓋を取り除いたその中には薄く真っ白な数種の皿とカトラリーが四セット分入っていた。
「おお……」
それを見たアーレは感嘆の溜め息を吐いた。
カトラリーには楓の家のフォークやナイフと同じく楓の意匠が凝らされた物で、芸術的な価値も高い美しさを持っている。
皿は真っ白で周囲に様々な大きさと色の楓の葉をプリントしてあり、表面も非常に滑らかで尚且つ陶器である事を忘れさせる軽さだった。
つまり重いとは思っていたがそれでも単品で見れば普通の半分程度の重さであり、この箱の中には重量で見たら倍の数の皿が入っていたと言う訳だ。
部屋の照明と相まってキラキラと輝く食器類は自分の物を初めて持つ事が出来たのと、神からの贈り物を手に入れた喜びで、アーレの心を満たしている。
暫く箱に詰まったままの姿を眺めていたが実際に並んだ姿を見てみたくなり、ひとつずつそっと一人分だけ取り出すと目の前のテーブルに並べてみる。
キラキラと輝くその食器類を眺めてうっとりしていたところに後ろから声が掛かる。
「アーレ、お邪魔するわよ」
「失礼いたしますアーレ様」
すっかり魅入っているアーレは突然の言葉にも気付かない。
そんなアーレの目の前に座る二人。
二人ともローブを脱いでいるのでいつもの格好である。
金髪縦ロールは細身で小柄な少女ではあるが体のラインが透けて見えるシースルーの青を主体とした衣装を纏い、金色短髪はアーレと同じ形の衣装ではあるが紺色である。
「おや、アンタたちかい。丁度良い、いま開いたところだ」
「これが楓様の贈り物ですの?」
「シンプルかと思えば繊細な美しさを持っているのですね」
パッと見はシンプルだが良く見れば繊細な技法を凝らした芸術的な代物だと判る。
その言葉に他者にも解って貰えた感動でまた至福を得るアーレ。
「ところでマリーはどちらに?」
「あの娘なら風呂に入ってるよ」
「そう、でしたら私も入ってしまいましょうか」
「では私もご一緒しましょう。アーレ様は如何しますか?」
「そうだね、後は寝るだけだ。明日の謁見で失敗しない様に早めに入って寝るとしよう」
アーレも本調子に戻っていた。
明日は魔王零司との対面である。
あの暴虐神リジカーネスを凝らしめて追放し、愛しい我が子の様に思っている巫女たちを救い出してくれた上に、異界の情報を与えると約束してくれた神に、心してあたらなければならないと肝に命じて風呂に向かうアーレだった。
新キャラ出ました。しかし今後どう絡むのかは全くの未定です。
そしてまたフラグと言うか予定が増えて、楓の苦悩は続くΨ(`∀´)Ψケケケなどとやってる場合ではありませんでした。




