64.感謝祭2 一つの区切り (第一部完結的な)
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小さくなっているマルキウは既にとぐろを巻いて、零司の頭に乗りぺしぺしと陽気に叩きながら抱いて貰う約束の履行要求を繰り返し、ジーナはお付きたちの奏でる曲に合わせて舞を披露して零司が見ているのを確かめながら嬉しそうにしている。
新酒が出来てから白亜の館では普通の光景だった。
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花火は一時間ほど続き、次第に同時に打ち上がる数を減らしてゆく。
そして更に三十分程経った頃に大玉が上がり、それが最後になった。
ファーリナの街は続く花火が無いのが判り、盛大な拍手と歓声が巻き起こる。
ただ、既に寝ていた一部の小さな子供たちが目を覚まして泣き出す場面も見られた様ではあるが、それも歓声の一部となり周りの大人たちが喜んであやしたりしている。
しかし外からやって来た客の多くは家族持ちで食事も酒も十分に堪能したので、旅の疲れもあり記念日の本番に備え寝床に向かう人も多い。
独身や地元の酒飲みたちは尽きない新酒の飲み比べをしながら神々の偉業を語り合っていたりするが、既にダウンしている者もチラホラ見掛ける様になってきた。
「下も静かになってきたし、こっちもそろそろ引き上げるか」
零司はグラスに残るワインの残りを飲み干した。
「そうね、明日の為に休んでおきましょうか」
楓は静かな寝息を立てるネコを優しい眼差しで撫でながら答える。
それを聞いた周りも帰り支度を始めた。
とは言っても、ジーナたちが道具を片付けて、ルールミルたちはテーブルの食器類をまとめる程度だが。
後片付けは零司の仕事である。
零司はその間に頭の上で眠るマルキウをそっと降ろして無限倉庫から取り出したタオルをベッド代わりに寝かせてラチェットへと渡す。
ベッタリとはり付いていたリリも零司のお腹に抱き着いて寝息を立てているのを起こさない様に仰向けにしてお姫様抱っこする。
楓が同じ様にネコを優しく抱えて立ち上がると、零司は周りを見て準備出来たのを確認してから持ち込んだ物全てを回収すると白亜の館のリビングへと皆纏めて転移した。
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楓は館に戻ると、館には誰も居なかったと知っていても日本の自宅に帰った時の様に『ただいま』と言った。
今の楓にとってはここが家であり、そして皆が家族なのだから、そんな言葉も自然に出てくる。
「おかえりなのにゃ……」
寝惚けたネコが楓に応え、皆が優しい笑顔で微笑みネコを見て『ただいま』と言うのだった。
零司は部屋ごと浄化を掛けてから、ルールミルとイーノ、ジーナたちは就寝の挨拶をしてリビングを去り、零司たちは楓たちの部屋へ向かう。
ラチェットはマルキウをベッドのヘッドボードにある棚に寝かせ、楓がネコをベッドに寝かせてもう一度零司に寄った。
「それじゃお休みなさい零司」
ジャンプする様に首に手を回して背伸びすると零司は腰を曲げ、リリを挟んで零司の頬にキスをした。
すると零司は膝を着いてお返しのキスをする。
この世界にやって来て一年が過ぎた事を実感しながら万感を込めてお互いに頬を着けて想い合う。
そうして零司と結んでいたい時間に区切りを付けた楓は両腕を離して零司と距離を置く。
「これからもよろしくね。お休みなさい」
本当は愛してると伝えたかったが、他にも人が居るので言えなかった。
いや、例え居なかったとしても多分言えなかっただろうと楓はまたネコやリリを羨ましく思う。
「ああ、おやすみ」
零司は笑顔で楓に返し、リリの部屋へ向かった。
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スラゴーの輝きだけが窓際を照らし、その反射光で部屋全体がぼんやりとした明かりに包まれるリリの部屋。
ベッドにリリを寝かせて布団を掛けようとした零司の手をリリの小さな手が掴んだ。
「抱いて」
いつの間にか起きていたリリがその目を潤ませ小さな声で零司に乞う。
零司はリリの真っ直ぐで寂しそうなその目を見詰めて少しだけ考える。
「この後用事がある。だからリリが眠るまでな」
一瞬目を見開き信じられないといった表情を見せるが、直ぐに上半身を起こして零司に抱き着いた。
◻二時間後
零司とリリが知る『マンガ』の話で盛り上がっている。
日本語が読めなかったリリが独自解釈していた部分などを説明して貰ったりしながら二人で楽む。
薄い本に話題を移そうとして軽くチョップを食らったりしながら、リリは零司との間に絆があると知って嬉しくなった。
そして今は校舎の屋上でそうだった様に、零司のお腹に抱き着いて小さな寝息を立てていた。
◻校庭
日を跨いだ頃、校庭の炎の周りで飲む男たちに酒を配っては樽の横で休んでいるサーラが居た。
日本なら未成年の少女をこんなに遅くまで酒の臭いがする場所で働かせたりはしない。
だがここは犯罪など無縁で街の人からも等しく可愛いがられ面倒を見て貰ったりもした。
そんな人たちに喜んで貰いたいと手伝いをしているだけなのだ。
「お疲れ様、大丈夫か?」
零司が声を掛ける。
「はい。いつもの勉強と比べたら何ともありません」
そう言って笑顔を見せる。
「そうか、なら良い。だが疲れたら帰って寝るか俺のところに来いよ?」
零司はサーラが自分で回復出来るのは知っているが、今でも朝まで勉強した後は零司が回復をしているのでいつもの調子でそう告げる。
「兄ちゃんも来たか、今回の酒も最高に美味いぜありがとうよ! さあ一緒に飲もうぜ」
すっかり出来上がっているバンは地である。
「ああ、飲もう。サーラ、俺にもくれ」
「はい!」
サーラは木製のコップにたっぷりと注いだ桃酒を零司に渡す。
炎を取り囲む男たちの中ですっかり地元民になっている零司を眺めてまた微笑んだ。
◻
校庭の真ん中で人々を照らした炎も消えて、スラゴーの天幕も東の空が青みを帯びて来る頃。
「皆さんすっかり眠ってしまいましたね」
肩を並べて楽しく騒いだ男たちも、今は折り重なる様にテーブルに突っ伏して居る。
「そうだな」
サーラと二人、消えた焚き火に向かって並んで座る零司は、サーラが足踏みしたリンゴ酒を一緒に飲みながら、白み蒼くなる空に残る星を見上げ木のコップをあおる。
それをまるで良妻の様にサーラは零司に寄り添い見上げては一緒に居られる幸せを感じて微笑み、少しずつ酒を口にしている。
少し飲み過ぎたと思えば回復を掛けているので酔いどころか疲れや眠気すら無く、純粋に飲み物として楽しんでいる。
そして二人だけで話をする機会が出来た零司は、自ら神格化したサーラに話を始める。
「サーラ、お前の今後だが、本来ならモールを任せてからと思っていたんだが」
サーラは空を見上げたまま酒を飲んでいる零司を見上げ、自分もまた一口とリンゴ酒を楽しみつつ零司の言葉に耳を傾けている。
「俺が倒れた時の件で順序は変わったが、お前を最初から、館に呼んだ時から眷族にしたいと思ってた」
この言葉にサーラは驚きを隠せない。
偶然とはいえ零司の眷族になったサーラは、眷族化については後悔などといった事は一切ないのだが、まさか最初からそれを望まれていたとは思いも寄らなかった。
「理由は幾つかあるが……サーラには優れた潜在能力が有った事と、モールの運営を任せるためだ。街を救うのにモールを創ったのは良いが、俺たちがいつ帰るか判らなかったからな」
この言葉は別れを連想させ、サーラを緊張させる。
「その時にはこの世界の人間に託そうと思ってサーラを選んだが、異世界転移門が成功した今ではそこまで分ける必要も無くなった。今後大口商取引部門を担当して全体の流れを学んで貰ったら、今まで俺が教えた事を情報や術を使って、モールの責任者として活躍して貰いたいと思っている。何せモールは神術が使えないと問題に対処出来ない部分があるからな、人だけでも出来なくはないが品質がぐっと下がってしまうだろう」
この言葉は零司に尽くしたいサーラにとっては望んだものではあるものの、そこに零司との触れ合いが無くなってしまいそうな不安に駆られ零司にすがり付きたくなる。
「ただしそれもサーラが望むならの話だ。それにサーラはもう俺たちの家族だからな、お前が望む道を選んでくれたらそれで良い。これからもよろしくな」
零司は振り返り笑顔を見せる。
これで以前零司が元の世界に帰れてもここに居ると言ってくれたのを思い出して息詰まる想いを解放する事が出来た。
「はい、モールも勉強も今までよりも一層頑張ります。これまで通りよろしくお願いします零司様」
喜びに満ちたその笑顔には目尻に涙が浮かんでいた。
◻午前八時 白亜の館 多目的ルーム
「レージ、アタシのあれは!?」
マルキウが叫ぶ。
「あれ?」
「そーよあれよ、あれ!」
「ネコはこれで良いかしら、皆はどう思う?」
「ネコは楓様のなら何でも嬉しいのにゃ!」
「魔王様、見て」
「リリ様! それは困ります!」
「ん?」
「駄「ぐわっ!」目よっ!!」
ラチェットレンチで殴られ飛ぶ零司を見て血の気が引くルールミルにイーノとジーナたち。
今は戦の女神リリの焔の魔神討伐記念日で用意した様に零司がまた新たなリムジンでファーリナへ向かう準備中である。
今回は真っ直ぐ中央広場に向かわずにそこそこ街を流す予定だ。
そうやって今まで行ってなかった場所も見て回りながら人々に接してその地域を直接目で確かめたりする。
マルキウはクラッカーを寄越せと言いたいのだが、名前を知らないので『あれ』と言って零司に要求した。
楓はネコに日本の女性風で言う『かわいいファッション』を着せてラチェットやルールミルやジーナたちに感想を求める。
そしてリリは以前、零司が喜ぶと楓が言っていた女冒険者の格好で零司に見て貰おうとしたがサーラに止められ、目を向けようとした零司が楓に凪ぎ払われる場面があった。
そんな事を繰り返しながら零司はサーラの回復を受けて復帰しつつ、やっと全員の服装が決まる。
零司は仮装大会を思わせる、見るからに魔王スタイルであった。
楓にちょっと引かれたが、黒と赤の衣装に金色のアクセントを配してあるが流石に角は無い。
楓とネコは仲良くお揃いの少し大人を気取ったドレス姿の背中が大きく開いている物で、楓は紅葉を連想する紅と山吹色のグラデーションを持ち、頭には零司が即席で創った紅葉の葉を花冠の様に仕立てた頭飾りと、ネコは浄化と回復をイメージした水色と若葉色のグラデーションだ。
そして零司と並んだ時に少しでも背を近く見せる為にハイヒールを履く。
リリは零司に喜んで貰う為にした事を楓に邪魔されたので、祭の衣装を見立てて貰いながらもブーブーと文句を言っていたが、本来の主賓がマイクロビキニにプロテクターを装備しただけの格好では困るのだ。
そして楓にされるがままに出来上がってみれば確かに女神と言える美しさがある衣装になって、ヒラヒラのドレスはパールの様なライトピンク、頭には古代ローマの神々の如く月桂冠と、少し小さくした大きさの違う薄ピンクのユリを左右に二つずつ挿していた。
そして今回、自ら零司の眷族として神の仲間入りを果たしたサーラを共に連れて行こうと零司はサーラに打診したが、今日は四人の感謝祭なので遠慮すると断られてしまった。
サーラを眷族にしたとは言っても家族なのだから強制権を発動する様な真似はしない。
サーラが眷族になってから一応はインフォメーションチップから状態を確認していたが、そこにはハッキリと零司の眷族と表示されていて、望めば強制的に従える事も可能であると書かれていた。
そしてサーラが望んだ通り、零司の死はサーラの死であるとも書いてある。
これについては補足事項としてサーラが詠唱した言葉が記されていたのでサーラがどんな想いで自分を助けようとしたかを零司は知っている。
ラチェットは天使の服装のままだが、これは誰が見ても天使だと判るからと衣装は変えていない。
マルキウは入学式と同じくタキシードの様なスーツ姿で、零司からクラッカーも受け取っていた。
「こんなところか」
零司が全員を見回して納得した。
「零司様、もう少し言葉を選んで頂いた方が」
サーラに問題のある発言を指摘される。
「ああ、済まなかった。改めて、みんな綺麗だ。街の奴らを驚かせてやろう」
「ふふっ、ありがとう零司、それにサーラさんもね」
「零司様に誉められて嬉しいのにゃ!」
勢いで零司に抱き着こうとしたが衣装が崩れるからと楓に止められた。
「魔王様、うれしい」
美少女のリリが零司に微笑む。
「それじゃ行くぞ」
「ええ」
「行くにゃ!」
「ん」
新調したオープンカーの薄ピンクのリムジンに乗り、零司たちを待つ人々が居るファーリナの街へ向け飛び立つのだった。
第一部完結とかそんな大袈裟な物ではないですが今回で一区切りでしょうか。
次回から少し設定回やちょっとした話を入れます。




