63.感謝祭1 新酒造りと前夜祭
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楽しんで貰えたら幸せです。.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
しかし遅れた言い分けはしませぬる。申し訳ありません。m(_ _)m
「零司様、三二五期十名、全員無事戻りましたことを申し上げます」
神待宮から帰ったジーナは正式な形で報告しようとお付きを伝にサーラへ連絡を取ったが、零司から家族でそんな堅苦しい形式は要らないと夕食のリビングで話を聞いている。
「お帰りなさい。ずっと馬車に乗りっ放しで疲れたでしょう? 暫く休むと良いわ」
「そうだな、みんなゆっくり休養を取ってくれ。ただ数日後には祭があるからその時は手伝いを頼む」
「承知致しました。我らはみな心身共に零司様のもの、お望みのままにお使い下さい」
ソファに座りながらも深く頭を下げるジーナたち。
「零司」
妙な笑顔で零司を見る楓。
「あれはしちゃダメだからね?」
零司は楓との間に大きなラチェットレンチが現れたのを腿の感触で知り戦慄する。
だが手を出さなければ良いだけの話であり元からその気も無いので本来は被害については考える必要は無い筈である。
だが今までの経験上、こちらの世の中どう転がるか判らないので用心に越した事は無いと心に刻んだ。
◻
翌日は巫女全員が聞き慣れない『休暇』を貰うのだが、結局は零司を楽しませる為の技術と体を磨いて日が暮れた。
風呂の後の空き時間も多目的ルームで舞の練習をしたりなど、候補時代の習慣を思い出しながら楽しんでいた。
◻
翌々日は日曜日で学校が休みでありリリもモールの監視業務を休み、朝から館でゆっくりとゴロゴロしていた。
そして二日後の祭に出される新(神)酒の仕込みで館の住人全員が体操着着用で呼ばれサーラも仕事を休んだ。
館の女性総出で大量の果物を大きな盥状の石の器に入れて足で踏み潰す作業をした。
この作業は果物の種類ごとにグループ分けして行われ、今回もまた零司に飲ませる為に参加した女たちの協力で作られるのだが、零司にしてみれば祭り用に造っている所に認識のズレはあるものの、最初に口にするのは零司なのでそれはそれなのだろう。
足踏みした果実は樽に詰められ、無限倉庫内で今回の樽をひとつのグループに纏めて時間を進め、十分もしない内に出来上がる果実酒は機械的に作業出来る部分では無限倉庫内で行い、発酵、残渣除去、熟成させた。
種類によっては街で特注した無味の度数が高いラム酒相等を使い、梅酒の様に漬け込んでいる。
そうして出来上がった果実酒を一番に零司が試飲している。
それを見て妙な興奮をしているリリとは対称的に純粋に喜んでいるネコとサーラの間にそれ以外が収まる感じだろう。
ただ、ラチェットだけはただの参加者でしかないのだが。
「今回もまあまあだな」
人数分のグラスを用意して注いだ桃酒は芳醇な香りを高めながらも優しく品のある物に仕上がっていた。
「香りが良いわよね。熟成が倉庫内だからかしら?」
楓は零司に倉庫の使い方を教えて貰い、煮込み料理などに生かしたいと考える。
「おいしいのにゃーん。ご主人様ぁ、ご主人様ぁ」
ジュースの様にごくごくと一気飲みして既に出来上がってしまったネコは零司に体当たりで首に手を回し、体を押し付け甘えまくっている。
「ん、魔王様の中に私のが入って「おい」……んふふふ」
リリは零司を見つめ頬を染めながら身を捩らせ怪しく笑い舌舐めずりする。
桃はリリの担当だったのだが転んだ時に何か入れたのではないかと微妙に警戒した零司は桃酒のインフォメーションチップを表示して製法表示したが何も問題は無かった。
「ホント、良い香りだわ」
人間サイズのマルキウが頬を染めて上品に楽しんでいる。
楓の家で泥酔していた精霊とは思えない。
「とても美味しいです」
サーラも少しだけ分けて貰っている。
「これ程短時間でこんなに美味しいお酒が出来上がるなんて驚きました」
一口飲んだ後、グラスに両手を添えて目を閉じ香りを楽しんでいるルールミル。
「こんなに美味しいお酒ならお父様にも飲ませてあげたいですね」
父を想い、出来る事ならとルールミルにそんな事を言ってみるイーノはもう一口とグラスを傾け笑顔を見せる。
「本当に美味しい、神待宮でもこれ程のお酒は用意出来ません。さすが零司様です」
クーリスたち一同が頷く。
そんな様子を見ながらもう大丈夫かな。などと、魔王零司の被害者はあの記憶は夢なのだと思いたがっている。
◻五月六日 学校 午後の部
「既に知ってると思うが今夜から明日に掛けて感謝祭がある。祭の運営に参加する者は六時には体育館に集まっている様に。何か質問などあるか?」
零司が今日担当する二年工業の授業を始める前に連絡事項を伝えたが、この日を楽しみにしていた生徒たちにとっては今更であり特に質問は無い様だ。
「無いみたいだな、何かあれば休み時間に来る様に。それじゃ授業を始めるぞ」
いつもの様に授業が始まる。
◻午後五時
授業はとっくに終わり、モールの終業時間を知らせる静かな音楽がファーリナの街に鳴り響く。
体育館には祭の運営として参加する生徒だけでなく街の有志が次々と集まり、六時には一杯になって楽しそうに談笑などしている。
そこへ去年の体育祭兼収穫感謝祭で食事を担当し、新学年では新入生に校舎の案内をしていたアーリーが壇上に上がった。
「皆さん良く集まって下さいました。私は今回の四神感謝祭実行委員会会長、二年のアーリーです。よろしくお願いします」
「アーリーカッコいいわよ!」
同じクラスの女生徒から声援が上がり、軽く右手を挙げるアーリー。
「惚れた! 俺は今、婚約を申し「はいはい、そう言うのは良いから」……」
幼馴染みの男子生徒から公衆の面前で婚約の申し込みが行われるが、いつも通りに軽く流され笑いが起きる。
「今回の感謝祭は四神に感謝する祭なのでリリ様と先生方は主賓側での参加となります。二度目の感謝祭ではありますが、今ファーリナにやって来ているたくさんのお客様たちと楽しく過ごせる様に尽くしたいと思いますので皆さまどうぞよろしくお願いします」
盛大な拍手が起こり、アーリーも満更ではない様子。
「それでは予定と人員と配置ですが、こちらのプリントを配るので決められたグループに集まって下さい」
アーリーの指示で友人が藁半紙のプリントを配っていくと五分もしない内にそれぞれがプリントを見て指定された場所へ集まる。
「各グループには班長が行きますので、班長の説明を聞いて下さい。祭の期間中に何かあれば私か代理が居ますのでこちらまでお願いします」
各班で説明が始まり各々の役割に応じて機材を取りに行ったり、先に現地へ向かい場所の確保に向かったり、予定通りに進められる様に関係各所へと連絡に走ったりと忙しくなって来た。
街に出るとそこは街の人口を越える人で賑わっている。
いつもの倍近い観光客がモールに押し寄せ、厩舎に収まらない数の馬車がロータリーにも溢れて、ホテルに収容出来ない人たちはその馬車で寝泊まりするしかないので、代わりに高級グレードのスラゴー一室への立ち入り見学を許可すると長蛇の列が発生したりもした。
そして本日のモールは当然だが最高売上高を記録し、開店時以来初めて学校に居る零司に相談にやって来たローゼの要望で不足した商品と素材をコピーで補充する事態が発生している。
これにより全ての部門が常に忙しく動き回り、唯一管理部門のリリだけがいつも通りにゴロゴロとしている。
午前の部ではモールで働いていた従業員が午後に登校した際に疲労度が高いのを見逃さなかった零司は、女子の回復をネコに任せて男子は零司が回復した。
女子をネコに任せたのは館での経験上、女性はネコが回復するのが良いと知っていたからである。
しかし館でもそうだが、ネコの回復を受けた女子は全員が淡い光に包まれると身を捩りその場で小さな悲鳴を上げて崩れ、腰に力が入らなくなってしまい、中には軽く痙攣している者も居る。
その惨状に以前のネコによる回復の差し止めを思い出すが女性はネコの回復と『癒し』が良いと主張するのでそれも出来ない。
「大丈夫か?」
「ひゃぃ、らいじょうぶ、れふ、れいじ、さま」
女子の笑顔が男子の前で見せられない様な事になっている。
「ネコ、本当に大丈夫なのか?」
先生では無く、様呼びする女生徒に冷や汗が出そうになる。
「大丈夫にゃ。みんなネコの回復が大好きにゃ」
今までにも何度か回復を受けている女子たちは笑顔で言うネコに声無く同意して頷く。
そして零司を見る女子の目がちょっと危ないが、女子には女子の事情があるのだろうとそれ以上は何も言わない。
零司は過去にネコの回復を受けた事はあるが、回復するだけで彼女たちの様に崩れる事は無かったので性別によって違いがあるのだろうと判断した。
女性の内輪の話や秘密に口を挟んでも碌な事にならないのを零司は知っているから。
◻夜 感謝祭前夜祭開会 校庭
収穫感謝祭の様に校庭の真ん中で井形に組まれた木材を囲んで居る人々は体育館前のスポットライトが当たった壇上の領主シエルを見ている。
「今夜は一年前のこの日、戦の女神リリ様が焔の魔神を討伐して下さりこの世界に平和が戻った夜です。それと同時に翌日四神が降臨し、天使ラチェット様が正式な記念日として公布されました。戦の女神リリ様と魔王零司様、救済の女神楓様と慈愛の女神ネコ様を讃え、四神に感謝する記念日の前夜祭となる今夜から本番の明日に掛けて、ファーリナに居る皆さんで一緒に感謝して楽しみましょう!」
いつも通りに真っ青になりながら最後まで大きな声で言い切ったシエルは顔に罫線が入り倒れそうだが、そんな領主と知っている街の人たちは大きな喝采でそれを支持して領主に声援を送っている。
声援を貰ったシエルも何とか笑顔を作り、手を挙げて応えると生徒に支えられて壇上から降りた。
「ありがとうございます。領主のシエル様でした」
司会進行するアーリー。
「続きまして生徒代表のサーラさんに催しの説明をして頂きます」
椅子に座るシエルの横で控えていたサーラが立ち上がり壇上に上がる。
「二学年のサーラです。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をすると、外からやって来たと思われる人々から小さなざわめきが起きる。
魔王零司からの寵愛を受け、神々の館で異世界の高度な教育を受けていると言う話で有名な、その小さな少女の姿に驚いているのだ。
しかしそのざわめきも地元の住人が静かに聞いているのを目の当たりにして次第に静かになる。
「初年度の魔神討伐記念日では在り合わせの物しかありませんでしたが、今年は充分な準備が出来たと同時に沢山のお客様を迎え、盛大な催しが出来る事に喜びを感じています。そして四神の神々よりお越しのお客様方へ多くの贈り物が届いていますので、この式の後でそれら贈り物を楽しんで下さいとの事です」
街の人々は贈り物が何なのかは事前に知らされているが、それでもその贈り物が美味しい物ばかりで、ここでしか食べられないとザワつく。
地元の声を聞いた客たちもその内容に惹かれ、男性は新酒を、女性と子供は料理とお菓子に興味を示している。
サーラはその後少しだけ零司たちに対する感謝の気持ちを伝えて壇上から降りる。
その後ろ姿に会場から惜しみ無い拍手と声援が贈られた。
「それでは明日までの予定を発表します。内容は各所に設置された掲示板にも書かれていますのでそちらも御覧下さい」
サーラの後に壇上に上がるアーリーと、大きな板に貼られた派手な装飾を施した案内を掲げる二人の女子により説明された。
「では四神を讃え、献火を」
アーリーの指示でスポットライトは消え、真っ暗な校庭の中央に組まれた木材に火が着けられた。
パチパチと小さな炸裂音と共に大きくなる炎は周囲を照らし出す。
同時に校庭の四ヶ所に用意されていた酒や食事が振る舞われてゆく。
その光景を学校の屋上から見詰める零司たちは賑やかになった景気付けに館に設置した打ち上げ花火に点火する。
ファーリナの街から遠く離れたリリと零司が戦った場所で打ち上がる花火が大輪の花を咲かせる。
街の人が十分に見える高さで炸裂した花火の美しさは人々の目を引き、その後遅れてやってくる重低音に神の力を感じるのだった。
ファーリナよりも大分近いモールではかなり大きく見えるがシールドのお陰で音響を抑えられている。
それでも事前に従業員に通達していなければパニックになっていたかもしれない。
その輝きと音は二つ離れた街まで届き、輝きだけなら王城からでも見えたと言う。
そんな花火を学校の屋上に設えた会場で皆に振る舞った酒と料理、菓子などが並んだテーブルを囲んでいる中で楽しむ零司。
「ねえ零司、あれはやり過ぎじゃない?」
楓たちは呆れている。
ファーリナでは祭りになっているが、他の街までは考えていなかった様だ。
しかし楓に言われて周りを見回してみれば、ここに居る者たちにとっては概ね好評であった。
次回も感謝祭の続きになります。
それにしてもイベントが山積みで回収するのが大変だ…。




