62.姫鯖フライ
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「おはよ」
「おはようリリさん」
「おはようにゃ」
「おはよー」
「「「おはようございます」」」
「昨夜のは無し、再度要求する。いただきます(もぐもぐ)」
遅れてリビングにやって来たリリがいつもの席に座り、楓に出して貰った朝食を前にそんな事を言う。
「朝には居なかったって聞いたわよ。何処に行ってたの? あっ、ありがとう」
楓は食後のお茶をイーノに入れて貰いながらサーラから聞いた話を言ってみた。
零司は学校へ行く前に鍛冶屋で進めている新規事業の進展の具合を見に行ったのでリビングには居ない。
「目覚めたらベッドの外に落ちていた。だから無効」
サーラはリリが零司と二人だけの時間をくれたのだと思っているのでリリの意見に賛成だが、楓はどう思うだろうかと考える。
「それはリリさんの問題よ。だからダーメ」
「楓のケチ、私だって零司に愛されたい」
『やっぱりこうなった』と思う楓は半場諦めている。
先日の巫女たちに良い様にされてしまった事を思えば、自分がそうだった様にリリたちも自分が零司のものなのだと明確に確認したいのだろう。
だからこそリリの気持ちも解ってしまう。
ずっと一人だったと言うリリが零司に抱かれたいと日頃から要求しているが、その実は楓と同じで零司の温かさに触れていたいと言うのがそのが本音だろう。
そう言う意味ではネコはここにいる女全員から羨ましく思われているのは当然だった。
「リリは零司と寝たの?」
事情を知らないマルキウが割って入る。
「そうだ、零司に抱いて貰う約束をした。マルキウも知ってる」
「そー言えばそんな約束したわね……ねえ楓」
「何かしら。あんまり良い予感はしないんだけど」
「今度はアタシが一緒に寝ても良いわよね?」
「そう来ると思ったわ、でもそれはダメよ。零司が言ったのは抱き上げるとかそっちでしょ?」
「アタシだけ仲間外れにされてない? さっきの話だとサーラも零司と寝たんでしょ?」
この言葉にルールミルとイーノが驚いてサーラを見た。
二人から驚きの目を向けられたサーラは恥ずかしそうに微笑んで見せ、それが事実だと認める。
サーラが零司からとても可愛いがられて居るのは知っていたが、寝所へ共にする程とは思いもしなかった。
ルールミルは楓の『今はまだ』の言葉を思い出すと、いずれは自分も零司の寝所へと誘われるのだろうかと胸を高鳴らせる。
その時は多分イーノも一緒に、などとイーノをチラ見して頬を染めていたりする。
「それはそうだけど、それは話が別なのよ」
「ふーん、納得いかないけど今はまだ良いわ」
「マルキウ、私と魔王様に直訴すれば「だーめ」……」
「「楓のケチ」」
「はいはい、リリさんはちゃんと朝食食べてね」
「うむ、楓の食事は美味い。食べ残す道理はない(もぐもぐ)」
一応は丸く収まった様で楓はほっとする。
◻学校 昼休み
「楓、これからモールへ行くが午後の授業には戻る」
「行ってらっしゃい」
にこやかに送り出す楓。
学校にマルキウは居ないが今日も転移門を使ってミテールヌ山脈を巡回していた。
「サーラ、待たせたな」
「いえ、私も今来たところです」
ここは学校とモールを繋ぐ転移門前だ。
「それじゃモールへ行こう」
「はい!」
笑顔で応えるサーラ。
◻モール 従業員用の食堂
零司とサーラは日替わり定食の注文カードを取り、それをカウンターのポストに入れる。
その注文カードを元に厨房で用意するのだが出来上がるまでには少しだけ時間が掛かる。
零司や楓たちならコピーをパッパとだせばいいが、普通の人間の従業員たちではそうは行かないしそれが普通だ。
零司たちは前に並ぶ従業員たちの後ろに着いて順番待ちをしている。
少しして順番が来て受け取り窓口で待っていると、サーラよりも少し背が高く短髪でエプロンをした少女がトレーを両手に持ってカウンターへ運んで来る。
「お待たせしました零司様、サーラさん、日替わり定食です」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をするサーラ。
「どういたしまして、ごゆっくりどうぞ」
そう言うとまた厨房に引っ込んだ。
それぞれにトレイを持った零司とサーラは席探しに目を向けようとする前に声を掛けられる。
「零司様、こちらが空いてますのでどうぞ」
振り返るとそこにはローゼが居て、少し離れたテーブルにはダリルが座ってこちらを見て頭を下げていた。
「助かる。サーラも行くぞ」
「はい」
この光景は他の午後入りの従業員たちもここ最近良く見ているので、サーラが零司にとって特別な存在であると言うのはファーリナの住人にとっては常識となっていた。
そして近々始まると言われる大口商取引部門のチーフがサーラになるのも、学校で優秀な成績を修めている事から当然の事として受け止められていた。
「邪魔するぞ」
「邪魔だなんてとんでもない、来て頂けて光栄です」
「大袈裟だな」
「いいえ、私にとってはそれくらい嬉しい事ですので」
ニッコリと笑顔を見せるローゼ。
「そうか、それじゃ頂こう」
「「いただきます」」
四人でテーブルを囲み食事が始まる。
食事をしながら目の前に座るサーラに今後の話をしながらローゼたちにも聞かせておく。
「もう直ぐ果樹園の生産量が跳ね上がり大口商取引窓口が稼働出来る様になる。サーラは六月からそこでチーフをして貰うからそのつもりで居てくれ」
『ついに来た』と周囲の従業員たちも息を飲む。
何故なら新しい部門の開設は新しい人員を必要とし、恐らく事前に予測される十人程度のスタッフが移動する事になるだろうとの噂があったのだ。
この数字はモールで働く者たちならば普通に予見しただろう。
何故なら、今のモールでは各部門ごとに大体十人強だからだ。
しかし実際にはその半分以下の四人だった。
「サーラはまだ学校があるから午後だけの営業になるし、日中全て回せるだけの商品は確保出来ないからな。来年以降は判らないが今のところは午後だけになる」
これを聞いた周りの従業員たちは成る程と、言われてみれば確かにそうだと心の中で相槌を打つのだった。
「食べ終わったら窓口に行って細かな話をしよう」
「はい」
「暇ならダリルとローゼも行ってみるか?」
「良いのですか?」
ローゼが訊き返す。
「同じモール内だ気にするな。それに取り扱う商品を考えれば関係があるからな、チーフなら知っておいた方が良いだろう」
話は一区切りして零司は日替わり定食のフライを箸で切り分けて口へ運ぶ。
「美味いな」
それを見ていたローゼが即答する。
「姫鯖フライはうちの若い子が開発したレストランでも人気の品なんですよ」
嬉しそうに語るローゼ。
姫鯖は遠く離れた海の街ズィーダンからダリルの伝で入手している。
遠く離れた港街から内陸のファーリナまで運ぶのにダリルから零司に相談が来た事があり、その時に保冷庫を三つ渡した。
ひとつはレストランの倉庫に。
もうひとつは港街のズィーダンで獲ったら頭と内蔵の処理をしてから保管して貰っている。
最後のひとつが運送専用馬車に載っているのだ。
最初にズィーダンへ持って行ったのは二台の保冷馬車で、片方はファーリナの街で採れた野菜類の加工食品を満載にしてあった。
この加工食品は代金先払いと冷凍された加工食品の利便性を知って貰う為の物で、これに加工食品を使った料理のレシピを付けてあった。
もちろんそのレシピは保冷馬車の馭者が再現出来る物で、現地でその腕を奮って貰ったお陰でその後の取引もスムーズに進んでいる。
そして加工食品を積んだ一台を現地に置いて、もう一台の空荷の保冷馬車は加工された魚を積んで帰ってくる。
後は保冷馬車が二つの街を往復している間にお互いの街にある保冷庫に相手に送る加工食品と、相手から送られた食品が入っている事になる。
送られた食品が減る頃には、相手に送る加工食品が庫内に増えていくのだ。
そしてまた保冷馬車が到着すると中身を入れ換えて折り返すのである。
予定では今年の雪が降り出す前にもうひとつの保冷庫を贈り、野菜と魚の保冷庫を分けられる様にしようとなっていた。
この取引は今のところダリルの担当だが、来年にはその取引もサーラがチーフを担当する事になる大口商取引窓口部門へ委任される事になっている。
要はサーラが学校を卒業する来年にはモール外部との取引の全てが大口商取引窓口を通じて行われるのだ。
昼食を終えた零司たちはトレーを返却カウンターへ渡して大口商取引窓口へ向かった。
◻大口商取引窓口
ここは基本的に倉庫である。
多くの荷馬車が出入りするのを想定しているのでそれなりに広さがあり、商品が置かれるのはその内の二割ほどを予定している。
そして昨日夜も利用したが北極点オーロラ観測所兼ファーリナの住人用冷凍庫はこの部門に隣接し、これの管理も試験的にではあるがサーラに任せられる事になった。
大まかなアウトラインを決めて次は空っぽのここに事務所を創り、商品パッケージや取引書類の作成、人員採用などをしなくてはならないのだが、今回はここで時間が来てしまった。
「今日はここまでだな、続きはまた明日だ」
「解りました零司様」
「まだまだ大変ですね」
部門立ち上げに思った以上の手間が掛かるのを知ったローゼは感心している。
「期待していますよサーラさん」
優しい笑顔で応援するダリル。
「はい、ありがとうございますダリルさん。これからもよろしくお願いします」
サーラもダリルへと笑顔で返す。
そんなサーラにダリルは我が娘の様に思っているし、ローゼもまた妹の様に想っていた。
「それじゃ行くぞ」
零司の声でそれぞれが自分が行くべき場所へ向かうのだった。
◻学校 教員室
「おかえりなさい、どうだった?」
楓は戻った零司に訊ねる。
「ああ、思っていたよりもスムーズに進んでるな。来年春に配る風呂釜の製作も順調だしな」
風呂釜と聞いて思い出す。
「他の街で銭湯を建てるのは良いけどこの世界の人たちに作らせて失敗したりしない?」
楓にしてみたら銭湯といえば日本の様式しか思い浮かばず、そこから外れたものが出来てしまうのではないかと気になった。
「基本は安全な運営と徹底的な衛生管理だからな。それぞれのデザインに違いがあってオリジナルな要素があってもそれはそれで良いと思うぞ。但し、山の絵は絶対だがな。ふっ」
「そうね、ふふ」
楓は少しふざけて笑っている零司に釣られて笑ってしまった。
そんな微笑ましい二人の光景を見ながらラチェットとマルキウが居ないのを少しだけ寂しく思う語学教師のケインだった。
イーノがルールミルを誤魔化すのに使った姫鯖登場。
王都は港街ズィーダンに程近い街で海産物は生きたまま王に献上されたりします。




