59.零司への想い
お盆で台風、場所により降雨量千二百ミリも降る可能性ありとか(*_*)
皆様のご無事をお祈りしつつ、一区切りに向けて話を進めて行きますのでこれからも宜しくお願い致します。
m(_ _)m
花に囲まれた小屋の中、スラゴーの優しい光が射し込むその明かりはレースのカーテンを通して更に部屋全体をぼんやりと照らし出す。
その光と影の中、時折小さな声を洩らしながらベッドの上で横たわる零司の上にゆっくりとしたリズムで揺れ動く小柄な人影がひとつ。
▼三時間前 白亜の館 リビング
「ネコ、どう?」
「わかんないにゃ」
「力を感じない」
「零司様……」
「レージ、起きなさいよ!(ペシペシ)」
館に戻るなり疲れ果てた様に眠ってしまった零司の様子がおかしいと心配した皆は零司が座るソファの周りを囲んでいる。
そして楓がネコに頼んだ回復でも零司は目を覚まさないのでネコは落ち込み、それだけで無くリリに由れば零司の力は全く回復していないと言う。
今まで遭遇した事の無い事態に楓は困惑しているのだが、それを表に出さずに冷静を装いながら、頼りない気はするものの少なくとも神として先人であるリリに訊ねた。
「リリさん、こんな時はどうしたらいいの?」
既に零司から離れていたリリにその目を向ける。
楓に頼られたリリだが、この世界で零司たちと出会うまでずっと独りでゴロゴロと地上の人々を見ていただけだったのでそんな事を知る筈も無い。
しかしリリはあるヒントを持っていた。
「詳しくは知らないが……」
▲現在 零司の部屋
「零司、どうしたのよ。私を一人にしないって言ったじゃない」
悲しく、寂しい気持ちを抑えながら、素肌で優しく零司を包み込み、自分の力を分け与えようと試みるが全く上手く行かない。
楓は今まで何かに力を籠めるなどした事が無く、その要領が解らない。
それでも何も出来ないよりはとリリが教えてくれた力の譲渡法を実践していた。
この情報の主な根拠はリリが貰った薄い本なのは楓の知るところではなく、恥ずかしさはあってもこんな事を他の誰にもやらせる訳には行かないので立候補したリリとネコ、サーラを退けた以上は自らしなければならないのだ。
そして一晩中掛けて零司を包み復活を望んだが、結果は何も変化を見せなかった。
「楓様、元気出すにゃ」
零司と楓の二人を思うとネコは悲しくなる。
「レージなら大丈夫よ!」
根拠は無いが楓を元気付けたいマルキウ。
「楓様、今日は学校をお休みになりますか?」
楓は辛そうではあるが、学校では沢山の生徒が待っている。
行くにしろ行かないにしろきちんとした判断は必要だ。
それをきちんと伝えなければいけないとサーラは訊ねた。
「そうね、私は零司だけを見ていられる立場じゃないのよね」
「そんな事はありません! 零司様の事を心配に思う気持ちは皆同じです!」
突然のサーラの強い声に目を見開き驚く楓。
「済みません、大声を出してしまいました。でも心配なのは皆同じなので誰か零司様に付いていて欲しいと思う筈です」
「ありがとうサーラさん。貴女のお陰で気持ちを切り替えられるわ」
驚きはしたが穏やかな笑顔でサーラに感謝する。
「それに大丈夫よ、零司にはネコを付けておくわ。良いわねネコ、私が帰るまであなたが零司の面倒を見て頂戴。私は学校へ行くわ」
「わかったにゃ、ネコは楓様が帰るまで零司様の回復を頑張るにゃ」
「本当にそれで良いのか?」
リリに訊ねられる。
「うん、私じゃ零司を助けられないもの。それに零司だって折角育ってる生徒を放置なんてしたくはないと思うでしょ?」
「分かった、ならば私も職場へ行こう」
楓は話が終わると零司を見詰めもう一度ベッドに上がると、タオルケットを巻いただけの姿で零司に優しくキスをしてベッドを離れた。
◻
「零司様、大好きにゃ。だから早く帰って来て欲しいのにゃ」
ネコは楓がそうであった様に、自分の全てを零司に捧げる。
意思を持ってから今までずっと心の何処かで零司を感じ続けていたのだが、それが今朝になってからは全くと言っていい程に感じられない。
それを恐怖に近い感覚で涙を流しながら一生懸命に元気な零司の帰還を願う。
もしも楓に『帰って来るまで面倒を見てね』と言われていなければ、例え自分が死んだとしてもその力の全てを使って回復を試みただろう。
ネコは愛し合う様に零司へと捧げ続けるのだった。
◻
「どう? 何か変化はあった?」
授業が終わり、語学教師のケインに後を頼んで直帰した楓は、零司に抱き着き涙を流しているネコを哀しい目で見る。
そんな分りきっている答えでもネコに訊ねるしかない。
「楓様ぁ! 零司様が! 朝より悪いのにゃ! どうしたらいいのにゃ」
涙と汗塗れの体で楓に抱き着くネコ。
楓はネコを抱き締め、本当にどうしたらいいのか分からずただネコを慰めるしか出来なかった。
寝間着を着せた零司に布団を掛けて、服を着たネコと並んでベッド脇に寄せた椅子に座る二人。
体を寄せて眠るネコを優しく抱いて、楓はただ零司を見詰めるしか出来なかった。
◻
「戻った」
モールの仕事を終えて帰って来たリリは、零司が眠るベッドの横で眠る二人を見つける。
リリの声に目を覚ました楓は泣き腫らした目を開けて声がした方を見る。
「お帰りなさい。もうそんな時間なのね」
力無い言葉で挨拶すると、零司に向き直って現実を思い出すのだ。
「ここからは私が引き継ごう。楓はあの子達に夕食を作ってやれば気も紛れるだろう」
今自分に出来る事が無い以上、他に必要とされる所でその役目を果たす方が良いと、リリに任せて部屋を後にする楓たち。
これから零司と肌を重ねられるのに、ずっと望んでいた事が出来るのに、リリの気持ちは晴れない。
零司の気持ちを確かめて心を重ねる事が出来ないのなら、それはリリが望んだモノとは違うのだ。
それでもリリは零司の為に薄い本で学んだ数々の行為を試して行く。
全く反応が無いので出来ない一部行為も積極的にこなした。
しかしその結果もまた楓たちと同じく何の成果も無く終わる。
◻
「リリ様」
午後十時を回ろうとした頃、零司の上にうつ伏せで抱き着いたまま頬を寄せて眠るリリに声が届く。
目を覚まし零司の横で上半身だけ起こすリリ。
声の主はサーラだった。
サーラは風呂上がりのリビングで楓に何が出来るか分からないが自分にも零司の回復の手伝いをさせて欲しいと願い出る。
答えはもちろん却下だった。
まだ十三になったばかりの、しかも他所の家から預かっている娘に楓たちがした様な事をさせる訳には行かない。
それにサーラは零司の妹の様な存在となっているのを知っている楓にしてみれば尚の事それを許可出来る筈も無かった。
しかし一時間に及ぶ零司に対する純粋な愛情の前に楓は屈して許可を出したのだ。
「少しだけで良いので私に時間を頂けませんか」
優しく真剣なその目と言葉にリリも承諾する。
部屋を浄化し服を着たリリは、裸で寝かされている零司の前にサーラを引っ張って来た。
裸の零司を見てもサーラは怖じ気づく事も無くベッドに乗り、浴衣の紐を解く。
サーラの心はただ零司を想う純粋な愛情で満たされ、その手を取り自分の胸元に両手で押し付けると眠る零司の顔を見ながら祈る様に優しく穏やかに言葉を紡ぐ。
「我は魔王零司の僕なり、我が力を魔王零司の為その全てを捧げる者なり、我は魔王零司を愛する者なり、その愛情の全てを魔王零司に捧げる者なり、我が心と肉体の全てを魔王零司に捧げる者なり、我は魔王零司と共に在り、共に滅する者なり、我が全てを魔王零司のものとせん」
サーラは今まで可愛がってくれた零司への気持ちが溢れる様に、穏やかな笑顔で涙を流しながら唱え続けた。
詠唱を完了すると、零司とサーラは淡い虹色に包まれる。
それを後ろで見ていたリリは何が起きているのかを理解した。
サーラは零司の力を籠めた鍵を肌身離さず持っていた。
常に零司の力の影響下にあり、零司の力に馴染むと同時に零司の力を日常的に使い続けていた。
これにより零司と同質の力を、先日の大規模神術の様に零司の力を大出力で放出させる事が出来た。
その力を零司に向けて使った事で零司自身が回復を使ったのとほぼ同じ効果があったのだ。
淡く光り続ける零司とサーラ。
そしてその光はサーラをより強く輝かせて一瞬だけ部屋を白色に染めあげた後に、後光でも射す様に輝くサーラは目を見開き自分が今どういう状態にあるのかを知る。
それは同時にリリも知った。
零司の回復は鍵に込められた力が零司の力の容量から見れば微々たるものであった事から、危機的と思われた状況を脱出する程度に零司を回復出来たが、まだ目を覚ますには至ってはいない。
しかしその一方でサーラの状況は劇的な変化を遂げていた。
『後光が射す』それは即ち、神であった。
サーラが詠唱したのは我が身を零司に捧げ、眷族になる為の文言が並んでいたのだ。
零司の力を使い零司の眷族に成れたのはサーラ固有の感応力が要因であり、他の者も出来る訳ではない。
「サーラよ、今自分がどうなっているか判るか?」
リリに訊かれて我に帰るサーラはハッキリと答えた。
「はい! これなら零司様を助けられます!」
リリに振り返るサーラは涙を流したその顔で、目一杯の笑顔を見せて零司の回復を続ける。
「我は魔王零司の眷族サーラなり! 我が名と力を以て我が主、魔王零司の復活を為す。リザレクション!」
零司を復活させる力が自分にあると知ったサーラは、力強く勢いのある詠唱で零司を復活させる。
「ん、んん」
眠りから覚醒した零司は目に掛かる眩しい光に手を翳す為に手を額へと動かす。
「きゃっ」
零司の手をしっかりと捕まえていたサーラは零司が手を引くままに零司へと倒れ込んだ。
サーラの、零司の手を肌に触れさせる為にはだけた胸がそのまま零司の顔に押し付けられている。
「これがラッキースケベか! 我も混ぜるのだ!」
リリはその光景に衝撃を受け、一瞬で服を消すと零司に飛び掛かった。
「!ンゴッ!?」
空中にあったリリに、サーラとは反対の手でチョップが飛び、一瞬で気を失い零司の腹部に落ちた。
◻白亜の館 リビング
「ふぁーあ、アタシはそろそろ寝るわ」
「そう、私はもう少しだけ待ってみるわ」
「お休み、楓、ネコ」
「お休みなさいマルキウさん」
「お休みなのにゃ」
マルキウがネコの頭からソファに降りた時、両扉が押し開かれた。
扉を開いたサーラは横に避けて、リリをお姫様抱っこした零司がリビングに入って来る。
「零司!」
「ご主人様ぁ!」
「やっと起きたのね」
「心配かけたみたいで済まなかったな」
零司に駆け寄る楓たちだが、リリが邪魔で抱き着けない。
そのリリを零司は優しくソファに寝かせると、改めて楓が抱き着く。
「お帰りなさい零司」
「ただいま、本当に済まなかった」
背が小さめの楓を抱き抱え、その温もりを失わずに済んだ事を感謝する零司と楓。
「それで、どうしてあんな事になったのか話してくれるんでしょ?」
落ち着きを取り戻した楓は零司に訊ねる。
「そーよ、皆どれだけ心配したと思ってんのよ」
「零司様が無事で良かったのにゃ!」
いつもの席に座る零司にネコが抱き着いて甘えている。
「ああ、原因は力を使い過ぎた事だろうな」
いつもと変わらない口調で答える。
「それでだ、楓」
「なに?」
次に一呼吸置いて話そうとした零司の雰囲気を読み取った楓。
「ちょっと待って!」
楓も深呼吸してから許可を出す。
「良いわ」
ニヤリと笑う零司に少し引いてしまった楓。
「今まで随分待たせたな。やっと帰る目処がついたぞ」
笑顔で言い切った。
ぽかんとしている楓。
何が? と言いたそうである。
しかしそれも束の間で直ぐに零司の笑顔の理由に思い当たる。
「家に、帰れるの?」
今ではすっかりこの生活に馴染み、こちらで零司と結ばれる未来も普通に考えていただけに、どう反応したら良いのか戸惑ってしまう。
「ああ、あの家に帰れるんだ。おじさん今ごろ何してるかな、ははは」
「ホントに……」
両手を口に宛て、まだ信じられないといった感じだ。
「そうだ、帰れるぞ!」
零司の言葉に意識せず流れ出す涙。
「お母さん、お父さん……」
目を閉じた楓を優しく抱き寄せる零司は、楓の願いを叶えられる前提が確保出来て十分な満足感を得られて幸せだった。
「おめでとうなのにゃ!」
「楓おめでとう。でもこれからどうするの?」
マルキウの話に敏感だったのはサーラだ。
「あ、あの、帰ってしまわれたらこちらには戻らないのでしょうか?」
零司に全てを捧げた少女にとって、一人になってしまう未来は考えられなかった。
「そんな訳無いだろ? それに今回俺を救ったのはサーラなんだしな」
「サーラが? リリじゃなくて?」
マルキウが不思議そうにサーラを見る。
「ああ、サーラの手柄だ、感謝してる。それに俺たちの世界とはモールみたいに行き来出来るからそれは心配しなくて良いぞ」
楓を抱きながらもサーラに優しい眼差しで説明する。
それで彼女の不安が払拭出来るなら何度でも言う。
「だから安心しろ。俺はここに居る」
サーラは突然涙を溢れさせて泣き出した。
それを零司はネコに頼んで連れて来て貰う。
「おいで」
ネコが居た場所にサーラが座り、片腕をサーラに回して抱き寄せ、二人の気持ちが落ち着くまで抱いてやるのだった。
前回と今回でルールミルたちの出番は殆ど無しですスミマセヌ。
出番を作れる程に深い関係にはなっていませんでしたので、作りながらも全く頭に無かったくらいにw




